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神眼
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ルシオとアルフィンとがラボを大急ぎで片付け、華護りの工房にある器具などを一通り揃え、翌日は朝から利用できるように準備が整った。
その日の夜のこと。
「ヒー様、少し…よろしいですか?」
ヒースヴェルトは、いつも屋敷の主人の部屋で寛いで、その後神殿奥の《砡の間》でディーテ神と過ごすことが決まっている。
今は一番、天使や候補たちがヒースヴェルトに会いやすい時間。
「どうぞ~?」
ヒースヴェルトが招き入れる。
「こんな時間に、どうしたの?…二人とも。」
扉の前に立っていたのは、ディランと、フォレンだった。
「こんな時間にすみません。……ダスティロスの本山へ…先に一度、潜入してきます。許可を…。」
口を開いたのは、ディランだった。
「っ!そ…そっか。そう、だよね。先に建物の構造とか、人数とかの把握が必要だよね。…大丈夫なの?安全?」
「えぇ。《神翼》の精鋭に、ダスティロス出身の者がいます。信用の置ける奴です。そいつを連れて行きたいのです。」
ディランの言葉に偽りはない。きっと、本当に信頼できる人なのだろう。
「ダスティロスの、人…。」
ただ、ヒースヴェルトは気になることが。
「…エンブルグに亡命して五年。母国での内紛に耐えきれず、アルクスに助けを求めました。亡命に成功した家族を養うため、ハンターから始めたそうですが…蒼砡の展開率が高く、元々フォレンに師事を受けていた術士です。」
「フォレンが?」
ちら、とフォレンを見ると、笑顔で頷いてくれた。
「人々を守る盾としては、彼女の能力に申し分ありません。」
「俺は攻撃特化型。敵は凪払えるが、人々の守護は出来ないので…万が一の場合を想定しての判断です。いい、ですか?」
ディランは自分の弱点をよく理解している。自分の身を守れても、周囲の者を危険にさらすことを、主が望むはずがないことも。
「本番も、その人を連れて行くの?」
「えぇ、そのつもりです。」
ヒースヴェルトは少し考えて。
「ぼく、その人に聖神子として会える?神眼で覗く。」
「!…誠ですか。これまで、避けてこられたのに…。」
フォレンは目を見開く。ヒースヴェルトが神化した時に、得た能力の一つが、神眼。その眼で覗き込まれれば、人は自分の記憶の全てを見られてしまうのだ。ディーテ神も持っている能力。ディランも以前ディーテ神に心を覗かれた。人に、拒否権はないのだ。故に、ヒースヴェルトはあまり使いたがらなかったのだが。
「…ぼくね、ぼくの本当のお母さんとね、ちゃんと向き合おうって決めたの。…教会本山に行くとき、そこでぼくは出会うらしい。ママの…創造神の予言だ。」
「っ!それは…。」
「だからね、少しでもお母さんがどんな国で生きてきたのか、知っておきたいの。」
ダスティロスは、あまりにもこのエンブルグ皇国とはかけ離れた国政であると聞き、ヒースヴェルトは想像がつかないでいた。
耐えきれず亡命したなら、その悲惨さを覚えているのでは、と。
「…パメラと言います。十七歳の…少女です。話を通しておきます。謁見室でお会いになられますか?」
「うん、ブランシュさんの作業を見せて貰った後なら、大丈夫。フォレン、お願いね?」
「分かりました。では午後の二時頃にしておきましょう。ディラン、パメラに伝えて貰えるかい?」
「あぁ。」
明日の予定に組み入れて、ヒースヴェルトは二人と別れ《砡の間》に入った。
『人の心を覗くのは初めてだね、ヒースヴェルト。』
『ママ。ふふっ。ママはその瞳でこの世界…ううん、創造した総ての星々の命という命を常に見つめてるんだよね。…凄いや…。ぼくは、まだ…一人の過去も…見つめる力がない。』
『力は備わっているよ。…ただ、勇気が足りない。突然、総ての命を見ることは難しいだろう。焦らずとも良い。今は二人…奴隷の子の心に寄り添えただけでも、成長だよ。』
『ありがとう、ママ。』
励ましの言葉にヒースヴェルトはふわりと笑う。
『さぁ、緋色の浄化を終らせるがよい。』
そう言うと、ディーテは浄化の砡の欠片を十数個並べた。
ヒースヴェルトの懐中鏡を開くと、数値はかなり高い。かつての自分の澱みよりも多い。
『そうだね。…先に終らせなければ、ルシオさんの天使化もできないものね。』
澱みを肩代わりし、浄化をする。
その繰り返しが神の業務の一つ。
ただ、神となった身で浄化をするのは、人であった頃よりも数十倍の浄化力があるため、一つの欠片でかなり浄化できる。
『候補たちには知られていない?』
『うん。大丈夫。懐中鏡は神化した次の日からこのお部屋に隠しているし、ママの側でしか開かないよ。』
『お前の翼は過保護だからね。…まぁ私もそうか。ふふっ。お前の澱みがこれほど溜まっていると知れば動揺するだろう。…今は何も語らずただ、候補らを総て翼に変えよ。よいな?』
『分かったよ、ママ。』
並んだ欠片を全て取り込み、淡い光を纏う。
懐中鏡の数値が、五分の一程度減ったところで、ヒースヴェルトは気を失う。
『…浄化の負担は変わらぬか…神気を使い果たしたな。』
浄化が終らねば、ヒースヴェルトの体では天上界に行くことが叶わない。
万が一神気を使い果たした場合の、神気の回復ができないのだ。そのため、身体の防衛手段として使い果たす前に、精神を遮断する。
『しばらくは…ここに留まるようにしたかったが…。あの愚か者は急ぎ消さねばならぬからな。』
ディーテはベッドにヒースヴェルトを運ぶと、金色の小鳥と虹色の砡の欠片を数個傍らに置き、天上界に帰っていった。
目が覚めたらそれで神気の回復をしなさい、と。
金色の小鳥…言霊鳥は、愛おしそうにヒースヴェルトに寄り添うのだった。
その日の夜のこと。
「ヒー様、少し…よろしいですか?」
ヒースヴェルトは、いつも屋敷の主人の部屋で寛いで、その後神殿奥の《砡の間》でディーテ神と過ごすことが決まっている。
今は一番、天使や候補たちがヒースヴェルトに会いやすい時間。
「どうぞ~?」
ヒースヴェルトが招き入れる。
「こんな時間に、どうしたの?…二人とも。」
扉の前に立っていたのは、ディランと、フォレンだった。
「こんな時間にすみません。……ダスティロスの本山へ…先に一度、潜入してきます。許可を…。」
口を開いたのは、ディランだった。
「っ!そ…そっか。そう、だよね。先に建物の構造とか、人数とかの把握が必要だよね。…大丈夫なの?安全?」
「えぇ。《神翼》の精鋭に、ダスティロス出身の者がいます。信用の置ける奴です。そいつを連れて行きたいのです。」
ディランの言葉に偽りはない。きっと、本当に信頼できる人なのだろう。
「ダスティロスの、人…。」
ただ、ヒースヴェルトは気になることが。
「…エンブルグに亡命して五年。母国での内紛に耐えきれず、アルクスに助けを求めました。亡命に成功した家族を養うため、ハンターから始めたそうですが…蒼砡の展開率が高く、元々フォレンに師事を受けていた術士です。」
「フォレンが?」
ちら、とフォレンを見ると、笑顔で頷いてくれた。
「人々を守る盾としては、彼女の能力に申し分ありません。」
「俺は攻撃特化型。敵は凪払えるが、人々の守護は出来ないので…万が一の場合を想定しての判断です。いい、ですか?」
ディランは自分の弱点をよく理解している。自分の身を守れても、周囲の者を危険にさらすことを、主が望むはずがないことも。
「本番も、その人を連れて行くの?」
「えぇ、そのつもりです。」
ヒースヴェルトは少し考えて。
「ぼく、その人に聖神子として会える?神眼で覗く。」
「!…誠ですか。これまで、避けてこられたのに…。」
フォレンは目を見開く。ヒースヴェルトが神化した時に、得た能力の一つが、神眼。その眼で覗き込まれれば、人は自分の記憶の全てを見られてしまうのだ。ディーテ神も持っている能力。ディランも以前ディーテ神に心を覗かれた。人に、拒否権はないのだ。故に、ヒースヴェルトはあまり使いたがらなかったのだが。
「…ぼくね、ぼくの本当のお母さんとね、ちゃんと向き合おうって決めたの。…教会本山に行くとき、そこでぼくは出会うらしい。ママの…創造神の予言だ。」
「っ!それは…。」
「だからね、少しでもお母さんがどんな国で生きてきたのか、知っておきたいの。」
ダスティロスは、あまりにもこのエンブルグ皇国とはかけ離れた国政であると聞き、ヒースヴェルトは想像がつかないでいた。
耐えきれず亡命したなら、その悲惨さを覚えているのでは、と。
「…パメラと言います。十七歳の…少女です。話を通しておきます。謁見室でお会いになられますか?」
「うん、ブランシュさんの作業を見せて貰った後なら、大丈夫。フォレン、お願いね?」
「分かりました。では午後の二時頃にしておきましょう。ディラン、パメラに伝えて貰えるかい?」
「あぁ。」
明日の予定に組み入れて、ヒースヴェルトは二人と別れ《砡の間》に入った。
『人の心を覗くのは初めてだね、ヒースヴェルト。』
『ママ。ふふっ。ママはその瞳でこの世界…ううん、創造した総ての星々の命という命を常に見つめてるんだよね。…凄いや…。ぼくは、まだ…一人の過去も…見つめる力がない。』
『力は備わっているよ。…ただ、勇気が足りない。突然、総ての命を見ることは難しいだろう。焦らずとも良い。今は二人…奴隷の子の心に寄り添えただけでも、成長だよ。』
『ありがとう、ママ。』
励ましの言葉にヒースヴェルトはふわりと笑う。
『さぁ、緋色の浄化を終らせるがよい。』
そう言うと、ディーテは浄化の砡の欠片を十数個並べた。
ヒースヴェルトの懐中鏡を開くと、数値はかなり高い。かつての自分の澱みよりも多い。
『そうだね。…先に終らせなければ、ルシオさんの天使化もできないものね。』
澱みを肩代わりし、浄化をする。
その繰り返しが神の業務の一つ。
ただ、神となった身で浄化をするのは、人であった頃よりも数十倍の浄化力があるため、一つの欠片でかなり浄化できる。
『候補たちには知られていない?』
『うん。大丈夫。懐中鏡は神化した次の日からこのお部屋に隠しているし、ママの側でしか開かないよ。』
『お前の翼は過保護だからね。…まぁ私もそうか。ふふっ。お前の澱みがこれほど溜まっていると知れば動揺するだろう。…今は何も語らずただ、候補らを総て翼に変えよ。よいな?』
『分かったよ、ママ。』
並んだ欠片を全て取り込み、淡い光を纏う。
懐中鏡の数値が、五分の一程度減ったところで、ヒースヴェルトは気を失う。
『…浄化の負担は変わらぬか…神気を使い果たしたな。』
浄化が終らねば、ヒースヴェルトの体では天上界に行くことが叶わない。
万が一神気を使い果たした場合の、神気の回復ができないのだ。そのため、身体の防衛手段として使い果たす前に、精神を遮断する。
『しばらくは…ここに留まるようにしたかったが…。あの愚か者は急ぎ消さねばならぬからな。』
ディーテはベッドにヒースヴェルトを運ぶと、金色の小鳥と虹色の砡の欠片を数個傍らに置き、天上界に帰っていった。
目が覚めたらそれで神気の回復をしなさい、と。
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