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満月の夜 ~sideセレイナ~
しおりを挟む満月の夜、聖堂へ。
緋色の美しい青年がそう告げて去り、気がつけばもうその満月の夜。
私は聖堂へ出掛けた。もう十年間通い詰めた、教会の聖堂へ。
しかし、その日は夜中だと言うのに教徒の皆様や神官の方、そして普段は教会の奥で祈りを捧げておられるという神子の方まで、聖堂に集まっていたので、この異様な雰囲気に戸惑っていると、バサ、と大きな鳥が羽ばたくような音と共にあの日の青年が、一人の子供を大事そうに抱えて降り立った。
そう、降り立ったのだ。あり得ないことに、その青年の背中には白い…いや、白金の翼が生えていた。
まるで天上の世界をみているような、心臓がドキドキして年甲斐もなく興奮した。
そして、青年が掴んでいるのは、確かこの教会の最高司祭であられる、ギネル様。エルフ族の族長をなされていた、美貌の司祭と覚えていたが、その表情はとても醜く歪んで見えた。
(どうして、司祭様を…?それに、あの翼は、本物…?なのかしら。アルクスという組織には、生活道具以外の不思議な導具を作る方々がいると聞くし…。)
とはいえ、その翼は微かに虹色の粉を纏っているように、淡く輝いて美しかった。
そして、その腕に乗っていた小さな少年が、そっと降りてその顔を上げた。
その時、私の心臓は大きくとび跳ねた。
だって、その瞳の色は見覚えがある。
私の祖母と同じ、ダスティロスの現王族の直系の血筋に現れることがあるのよ、あの紫の瞳は。
『次の満月が昇る夜、聖堂に行きなさい。そこであの方がお待ちだ。』
あの夜出会った、目の前の赤髪の青年は、神語で確かにそう私に告げた。
「ヒラムなの…?」
だとしたら、何故貴方はそんなところにいるの?
ギネル様を忌避するような眼で見ている、あの青年の側にいるの?
目の前で一体何が行われているのか分からず、言葉が出なかった。
すると、しばらくして少年は小さくなにかを呟いた瞬間、信じられないことにディーテ神様の高貴な金色の粒子をその身に纏い、ギネル様を視線だけで見た。
「久しいのぉ、ギネルよ。世界樹の消失以来かぇ?」
少年の容姿からは似つかわしくない、落ち着いた大人の声に驚いた。
そして何より、先程まで紫色の瞳だった彼の瞳の色が、ディーテ神様の金色に染まったのだ。
(憑依…?あの子、神をその身体に乗り移らせているの!?)
そのような事ができる神子など、この世界に存在しない。
(なんなの、あの子…あの子は…誰なの。)
それからは、ただあの少年とギネル様の対話を黙って聞き入っていた。ここにいる皆が、そうだった。
教会を裁くという神の御言葉は、本当だった。
《教会で起こることを、信者らは特にその眼で確かめるように。》
金の小鳥がそう申し添えたものだから、今夜教会に赴ける者は皆が集っていたから。
そして、しばらくディーテ神様の美しい声に魅入っていると、聖堂に居た一人が悲鳴を上げる。
「きゃあああー!!?ば、化け物が!!!」
叫び声の先に居た人の視線の先。真っ黒い獣が、こちらを見下ろしていた…。
「聖神子様っ!此方へ!!!」
「パメラちゃん、少しの間、ぼくを守ってね?」
いつの間にか、聖堂は蒼いヴェールに包まれて、よく見たらこの蒼い光の中へは、黒い獣は入ってこれないみたいだった。
それより、先程のディーテ神様をその御身に宿していた少年が、一人の少女の側へ駆け寄って行っていた。あの子が、近くに…。
だけど、あの女の子が彼を守るように間に立っていて、近づけない。
確かめたい。
その瞳は、祖母の色よ。私が、産んだ子なの?
ヒラムなの?
「……ぁ…あなたは…、ヒラム……っ」
手を伸ばし、言いかけたとき、横から制止され驚いた。
そちらを見ると、金髪の貴族のような男性が厳しい表情で私を見て言った。
「あの御方は、その名を嫌っておられる。良い関係を築きたいなら、口にしない方が良いですよ。」
「っ!!?なっ…なんですの!?」
無礼な、と思ったものの、その立ち姿は一目で高貴な人だとわかる。
「失礼。私はアルクス所属のフォレン=ルートニアスと申します。ディーテ神の御子であらせられる聖神子様を守護する者です。」
ダスティロスの礼式とは少し違ったけれど、美しい所作で挨拶をしていただいた。
きっと他国の身分の高い貴族の方なのだろう。
(え…?何ですって?ディーテ神様の御子…?あの子が…?)
理解し難いその言葉に混乱しながらも、慌ててカテーシーで応えると、それ以上何も言うこと無く、少年の隣に立つ少女に声をかけた。
「…パメラ、連続展開はどれ程保つ?」
「師匠!!これくらいの範囲なら、2日はイケますよ!」
「流石は私の弟子だね。そのまま人々の守護にあたれ。ヒー様…聖神子様はこちらへ。…お疲れ様でしたね、ディーテ様を降ろされるのはかなりご負担だったのでは?」
(この男の子は聖神子、と呼ばれているのね。ディーテ神様を憑依させることのできる程の、神力を纏った人…ということかしら…。)
と、私が考察していると、聖神子の少年がフォレンという方に走りより、親しげにお話されていた。
「フォレン、うん。大丈夫。以前と違っていくらか平気になったよ。」
白金の長い髪がふわりと揺れた。
(違う…。あの子はラーシュ様と同じダークブラウンの髪色だった。でも、何処か似ている。そんな気がする)
「…ぁ、ぁの…。」
思いきって、声をかけてみた。
すると、紫色の瞳がこちらを向く。
初めて、目があった瞬間、私は息をするのを忘れてしまった。
彼は、感情の読み取れない表情で、私を見て言った。
「こんばんは、…お母さん。」
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