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救えない魂
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その昔、世界樹には《梯子》が架かっていた。
しかし、世界樹は、消えた。
世界樹の消失は、聖砡が盗まれたことが影響し起こった。
世界のバランスが整う前に崩された影響で、徐々に神力を失い、回復できずに枯れ絶えたのだ。
世界樹と共に生きて、その森で一生を終えるエルフにとって、それは受け入れがたい現実。
世界樹の麓で生まれ生活していたエルフたちは、枯れ始めた世界樹の森を捨て、方々に散った。
ディーテ神はエルフたちを憐れに思い、《種族》に対して加護を与えた。
今後生まれてくる子孫のエルフ達は、砡の加護を高く受けるように。
それは、世界樹と共生した場合に得られていた恩恵そのもの。
そして、エルシオンは、その加護を受け生まれた、初めての子だった。そして、世界樹が枯れ果てる時の、最後の子。
エルフ達は喜んだ。世界樹の側に居るとき以上に恩恵を受けることになったのだから。
しかし、ギネルはそうは思わなかった。
世界樹の消失により多くの仲間を失った責任、他のエルフからの族長であったギネルに対する誹謗中傷。彼の精神は壊れ始めていた。
それなのに、あの神の与えた加護一つで片付けられてしまった。
《この者達は…故郷が滅びようと、そこに住まう命が消えようと、自分さえ恩恵を受けられればどうでもよいのだ。私がどのような暴言を吐かれ傷ついたとしても、なんとも思っていない。》
同族から、酷く責め立てられた。
まるで世界樹の消失は私の過ちであるかのように。
他の者は加護を得てディーテ神を信仰し、それまでの気持ちを精算したのだろうが、私は違う。
《お前らが私に一体何をしてくれた?》
その思いとは裏腹に、彼らは族長であったギネルを教会の中枢にと担ぎ出そうとした。
自分達がこれまでどんな酷い言葉を投げつけてきたか、まるで忘れたように。
いいだろう。
私がお前らを利用してやる。
これまで好き勝手に私を悪者にしてきた連中を、今度は私が…。
ギネルの魂は既に澱みで満ちていた。深く傷つき、癒されることもなく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(可哀想な人…。ぼくも疎まれていたけれど、お父さんが側に居てくれたから…。)
ディーテ神がヒースヴェルトの言葉を借りることで、ヒースヴェルトの意識ははっきりとしていた。そして、ディーテ神の彼にかかわる記憶が流れ込んでくる。
(救えるなら、救いたかったな…。)
ヒースヴェルトは心の中でしゅんとする。
「そなたが苦しみの中、人々にそこまで恨みを募らせたことは残念でならぬ。…それでも人々に寄り添い、より良い方向へ導けるならば…そなたも天上人となる資格は十分にあったのだ。」
「………何…?」
「そなたが余の跡を継ぐ未来もあった。…だが、それは…断たれた。もはやその魂に余の力は届かぬ。」
ディーテ神は、世界を創造し、見守るだけの存在であった。
ヒースヴェルトを梯子の袂で気まぐれに拾い、親となった後は、人々の心の有り様が分かるようになった。
そして、ギネルを救済できなかった後悔を、ディーテはそっとその表情に浮かべた。
『すまなかった。せめて、私の元で浄化をさせてほしい…。』
ディーテ神自ら、彼の苦しみを背負うと決めた。
そして、ぴた、とヒースヴェルトの口が動かなくなった。
ふわりと金の光がヒースヴェルトから離れると、瞳の色はいつもの紫色に戻ると。
『ディラン、準備はいい?』
ヒースヴェルトが静かに呟く。
『何時でも。』
ディランはスッと立ち上がると、剣を抜く。
そして、満月が降り注ぐ窓辺に、その姿が確認できると一人の教徒が悲鳴を上げる。
「きゃあああー!!?ば、化け物が!!!」
その声に反応するように、魔獣は窓を割り襲いかかった。
「《蒼砡結界》!!」
聖堂に集まっていた人々の中から、透き通るような、張りのある声がした。
キィン!
と、周囲が清涼な空気に包まれた。
聖堂に紛れ込んでいた、《神翼》たちの中でも、蒼砡の扱いに長けた存在。
「パメラ!連続展開しとけよ、教会じゅうの人たちをそこへ避難させる!」
「はい!」
「くそっ、何が《闇》だ…!!ディーテ神は悪だ!!!私を救ったことなど、一度もなかったではないか!」
魔獣の姿を確認したギメルは真っ先に逃げようと走り出したが、ディランが首もとに剣を突き付けて阻止する。
「逃がすかよ。お前の断罪だ。ディーテ神は既に決定された。…魂を返還せよと仰せだ。」
「くっ…!」
もはや試練は無い。
せめて救えぬ魂を余にに還せ。自ら、その痛みを癒すから、と。
「ヒー様、結界の中へ。ディーテ様に、この者の魂をお返しいたします。」
「わかった。ディラン、ママ…お願いします!!」
ギメルを抑えているため動けないディランからそっと離れ、ヒースヴェルトは結界の中へと走っていった。
しかし、世界樹は、消えた。
世界樹の消失は、聖砡が盗まれたことが影響し起こった。
世界のバランスが整う前に崩された影響で、徐々に神力を失い、回復できずに枯れ絶えたのだ。
世界樹と共に生きて、その森で一生を終えるエルフにとって、それは受け入れがたい現実。
世界樹の麓で生まれ生活していたエルフたちは、枯れ始めた世界樹の森を捨て、方々に散った。
ディーテ神はエルフたちを憐れに思い、《種族》に対して加護を与えた。
今後生まれてくる子孫のエルフ達は、砡の加護を高く受けるように。
それは、世界樹と共生した場合に得られていた恩恵そのもの。
そして、エルシオンは、その加護を受け生まれた、初めての子だった。そして、世界樹が枯れ果てる時の、最後の子。
エルフ達は喜んだ。世界樹の側に居るとき以上に恩恵を受けることになったのだから。
しかし、ギネルはそうは思わなかった。
世界樹の消失により多くの仲間を失った責任、他のエルフからの族長であったギネルに対する誹謗中傷。彼の精神は壊れ始めていた。
それなのに、あの神の与えた加護一つで片付けられてしまった。
《この者達は…故郷が滅びようと、そこに住まう命が消えようと、自分さえ恩恵を受けられればどうでもよいのだ。私がどのような暴言を吐かれ傷ついたとしても、なんとも思っていない。》
同族から、酷く責め立てられた。
まるで世界樹の消失は私の過ちであるかのように。
他の者は加護を得てディーテ神を信仰し、それまでの気持ちを精算したのだろうが、私は違う。
《お前らが私に一体何をしてくれた?》
その思いとは裏腹に、彼らは族長であったギネルを教会の中枢にと担ぎ出そうとした。
自分達がこれまでどんな酷い言葉を投げつけてきたか、まるで忘れたように。
いいだろう。
私がお前らを利用してやる。
これまで好き勝手に私を悪者にしてきた連中を、今度は私が…。
ギネルの魂は既に澱みで満ちていた。深く傷つき、癒されることもなく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(可哀想な人…。ぼくも疎まれていたけれど、お父さんが側に居てくれたから…。)
ディーテ神がヒースヴェルトの言葉を借りることで、ヒースヴェルトの意識ははっきりとしていた。そして、ディーテ神の彼にかかわる記憶が流れ込んでくる。
(救えるなら、救いたかったな…。)
ヒースヴェルトは心の中でしゅんとする。
「そなたが苦しみの中、人々にそこまで恨みを募らせたことは残念でならぬ。…それでも人々に寄り添い、より良い方向へ導けるならば…そなたも天上人となる資格は十分にあったのだ。」
「………何…?」
「そなたが余の跡を継ぐ未来もあった。…だが、それは…断たれた。もはやその魂に余の力は届かぬ。」
ディーテ神は、世界を創造し、見守るだけの存在であった。
ヒースヴェルトを梯子の袂で気まぐれに拾い、親となった後は、人々の心の有り様が分かるようになった。
そして、ギネルを救済できなかった後悔を、ディーテはそっとその表情に浮かべた。
『すまなかった。せめて、私の元で浄化をさせてほしい…。』
ディーテ神自ら、彼の苦しみを背負うと決めた。
そして、ぴた、とヒースヴェルトの口が動かなくなった。
ふわりと金の光がヒースヴェルトから離れると、瞳の色はいつもの紫色に戻ると。
『ディラン、準備はいい?』
ヒースヴェルトが静かに呟く。
『何時でも。』
ディランはスッと立ち上がると、剣を抜く。
そして、満月が降り注ぐ窓辺に、その姿が確認できると一人の教徒が悲鳴を上げる。
「きゃあああー!!?ば、化け物が!!!」
その声に反応するように、魔獣は窓を割り襲いかかった。
「《蒼砡結界》!!」
聖堂に集まっていた人々の中から、透き通るような、張りのある声がした。
キィン!
と、周囲が清涼な空気に包まれた。
聖堂に紛れ込んでいた、《神翼》たちの中でも、蒼砡の扱いに長けた存在。
「パメラ!連続展開しとけよ、教会じゅうの人たちをそこへ避難させる!」
「はい!」
「くそっ、何が《闇》だ…!!ディーテ神は悪だ!!!私を救ったことなど、一度もなかったではないか!」
魔獣の姿を確認したギメルは真っ先に逃げようと走り出したが、ディランが首もとに剣を突き付けて阻止する。
「逃がすかよ。お前の断罪だ。ディーテ神は既に決定された。…魂を返還せよと仰せだ。」
「くっ…!」
もはや試練は無い。
せめて救えぬ魂を余にに還せ。自ら、その痛みを癒すから、と。
「ヒー様、結界の中へ。ディーテ様に、この者の魂をお返しいたします。」
「わかった。ディラン、ママ…お願いします!!」
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