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神の使徒
しおりを挟む『ママ!!!!』
勢いに任せて扉を開くと、そこは城の大きさに合わない程広い空間で、ギネルの黒い穢れと、ディーテ神の金色の神力が凄まじい攻防を繰り返していた。
滅しているのではなく、澱みそのものを包み込み、それを浄化させてゆく。何百、何千とも言える攻撃に対して、全て受け止め、包んでいるのだ。
たまに方向を失った黒い斬撃がヒースヴェルトに飛んでくるが、瞬時に虹色の神気で作った保護膜を展開させ、相殺する。
制限なく暴れまわるこの空間は危険だった。
そして、ディーテ神はしばらくヒースヴェルトの来訪に気づかず、黒い攻撃に集中していた。いつも余裕たっぷりのディーテ神とはかけ離れた姿に、息を呑む。
『ヒースヴェルト…‥?来たのか!』
視線だけヒースヴェルトに向けて、一瞬油断してしまったのか、ディーテの頬を黒い斬撃が掠る。
『くっ…!!』
増えた傷に舌打ちする。こんなにも人間らしい態度をとるディーテ神に、本当に余裕がないのが分かり、ヒースヴェルトも焦る。
『ママ…っ!あぁっ…何てこと…ッ!こんなにも傷ついて…』
ディーテの姿は酷いものだった。
創造神がダメージを負うなど、本来ならあり得ないこと。
『問題ない。ようやく半分程の浄化が終わったところだ。少しの間…封印する。』
そう言うと、黒い澱みの魂を透明な砡に閉じ込めた。
『これが、ギネルの魂…。怖い…こんな色、初めて見たよ。』
透明の球体に封じられた、どこまでも黒く悍ましい存在。まだ未熟なヒースヴェルトでは、浄化は勿論のこと、消滅すらも難しい代物だ。
長くこの城に籠もって、延々と戦い続けていたディーテ神でさえも、ようやく半分ほど浄化できたのだとか。
『…少し、休もう。…お前が来てくれて嬉しいよ。こちらにおいで。』
そっと手を差し伸べ、ヒースヴェルトを歓迎する。とてて、と走り寄り、ぎゅーっと抱きしめた。
『ママに癒やしを。』
そして、虹色の光を振りまいて傷を癒やした。
『あぁ。ありがとう、ヒースヴェルト。私を癒せるのはお前だけだよ。それで、あの者らには会えたのかい?』
黒く荒れていた空間は透明の玉に封じられ、そこはただの、何もない部屋になっていた。
『ふふっ。分かってるくせに。うん、お父さんのお師匠さんって人に会えたよ。昔は凄く強かったんだって!』
『あぁ。そうだね。彼は若い頃から余を慕ってくれていた。とても気持ちの良い人間だ。』
柔らかい髪を撫でて、目を細める。ヒースヴェルトの身体の状態が、思わしくないようで。
ヒースヴェルトが内側に取り込んでいる澱みに、狭間の世界に満ちた神力が容赦なく攻撃してくる。
実際、ヒースヴェルトの身体はかなり疲弊してきていた。それでも、ディーテ神に会えた嬉しさから、本人はそんな素振りは少しも見せようとしなかった。
『さぁ、お前の身体も限界に近い。…辛いだろう?…二人の魂を託そう。虹の砡はあるか?』
『ぁい!!ここに。』
ころん、と2つの虹色の砡欠片を手のひらに転がすと、ディーテ神はそれかに手を翳した。
ディーテ神が繋ぎ止めた魂を、その砡に込める。
『わ、ぁ…。』
美しく白く光る魂は、強い意志の現れ。国王の魂は、半分だけのジョージの魂よりも、数倍輝いている。
『一度、余に触れ、再び地上に還された魂は…使徒となる。』
『し、と?』
『人間の神子よりも、余の声をより良く聞き、ほんの少しだが神力を扱えるようになるのだ。だから、この聖戦は余の聖戦とも言える。…できるだけ早く終わらせよう。無事に終われば、褒美が必要だな。』
『ごほうび!!』
ヒースヴェルトは、ぱあぁ、と笑顔を綻ばせて喜んだ。
『ふふっ。あぁ、それともう一つ…。』
ディーテ神は、ヒースヴェルトの頭を撫でながら、あることを教えてくれた。
ダスティロスの城牢に閉じ込められた、国王の意思を継ぐ、王孫の存在を。
◆◇◆◇◆◇◆◇
旧神殿の神聖陣の輝きが一瞬揺らいだのを、ロシュリハインは見逃さなかった。
『アシュト、翠砡は準備しているかしら?』
『え?は、はい!いつでも展開できます!』
『トリア。ヒースヴェルト様から二人の魂を受け取る準備を。ジョージ、もう少しで解放されるわ。あとちょっと、耐えなさいな。』
「は、はい!!私は、聖神子様を信じています!!」
水牢の中で大人しくしているしかないジョージも、その神水が決して悪しき物ではなく、寧ろ彼を守ってくれているような温かい力に包まれている感覚を味わっていた。
(…聖神子様。どうか、ご無事で…!)
ガイルも、愛弟子の息子の無事の帰還を祈る。
そして。
ドシャ。
重力に逆らわず、子供の体が宙に現れ、天井付近から叩き落された。
ただ、間一髪アシュトがヒースヴェルトと床の間に滑り込み、衝撃を吸収させたので、大した怪我などはしなかったようだが。
『ヒー様っ!』
「………ぅ…。」
ごそ、と服の下に忍ばせておいた虹色の砡を2つ取り出すと、
「コレ、こっち、がジョージさん、の。…トリアさん、おねがい。」
『かしこまりました!お任せください。』
淡い光を蓄えた砡を渡すと、ヒースヴェルトはそのまま、気を失った。
魂を込めた砡の欠片は、美しく輝いていた。そして、待っていた。
「ジョージ殿の元へ、帰りたがっている…。」
「早く、砡の欠片を握りしめてください。そして誓いなさい。《神の為に魂を使う》と。」
「《神の為に私の魂を使うことを誓います》!!」
創造神が一度触れた魂は、使徒となる。
それはどの世界でも共通の事実。
使徒となり新たなチートな能力を得る人間もいるし、能力こそないものの、より正確に多くの神託を授かり、神官の道をゆく者も。
その世界によって千差万別なのだ。
そして、ヒースヴェルトが治めるこの星は。
『……うっ…。』
魂の半分がその身体に戻り、一瞬気を失いかけたジョージだが、聖杯の水に助けられ、意識を保っていた。
『創造神の使徒よ。我々はそなたを歓迎する。星の安寧のために尽力することを願う。』
本来、その言葉はこの星の翼が授けるものたが、今この場にヒースヴェルトの翼はいない。
ロシュリハインが代行して言霊を授けた。
「ぁ…私が、創造神様の、使徒…。」
『だけど、勘違いをしてはならない。そなたは、この星の民であるということを。そしてこの星を統べる御方が、誰なのかということを。』
『…は、はい!!』
創造神から授かった力は、この星の管理者のもの。つまり、力はヒースヴェルトの意思に従うということだった。
力の根源の意思がヒースヴェルトのものであるゆえ、ヒースヴェルトに忠誠を誓う。
『あの方が目覚めたら、言葉を授かるでしょう。その時、能力は目覚めます。』
ちら、アシュトの治療を受けている気絶したまま動かないヒースヴェルトに視線を投げると、ロシュリハインは溜息を吐いた。
(何とか、なった。…正直なところ、界渡りは賭けだった。)
澱みの多い状態で狭間の世界に飛び込むなど、ヒースヴェルトの人間の肉体が滅びてしまってもおかしくなかった。
『よくやったわ、本当に…。』
そして、トリアが持っているもう一つの魂を見て、ガイルに問うた。
『さぁ、国王の護衛騎士さん。アナタはどうするのかしら?そのまま、主の死を待つ?それとも…生き還りを望み、使徒となる道を選択させる?』
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