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翠の使命
しおりを挟む『さぁ、国王の護衛騎士さん。アナタはどうするのかしら?そのまま、主の死を待つ?それとも…生き還りを望み、使徒となる道を選択させる?』
そう問われたが、ガイルは迷うことはなかった。
「いえ。…私の方から、お願い申し上げます。どうか、国王を…エディオルを…!!」
膝を付き、懇願する。ジョージの魂を見て確信したのだろう。
そして何より、あんなボロボロになってまで魂を取りに別世界まで渡ってくれたヒースヴェルトを見て、何も感じないわけはない。
『トリア、聖杯の水は足りているかしら?ヒースヴェルト様が水牢を構築できなければ、国王の身体は神界に長く浸った魂に馴染まず、結局消失してしまうわ。』
『残念ですが、先程の界渡りとジョージ殿の為の水牢の展開で、聖杯の水は神力を失い、ただの水に成り果てました。…ヒースヴェルト様に、もう一度大神殿から送っていただく他ありません。』
聖杯の中の水は金色の光を失い、普通の水に変わってしまっていた。
それに、ヒースヴェルトの《お菓子箱》は、彼の意思がなければ発動しない。中に送られてくるお菓子などの中身はヒースヴェルト専用の特別製。間違って発動した場合、それを口にした者が死に至るからで。
『彼がお目覚めになるまで何もできないってわけね。ガイル、その間に国王をここへ運びましょう。』
「承知しました!」
ガイルの目には、もう迷いはなかった。ダスティロス国の王に仕える、最強の騎士の姿がそこにある。
そして、ヒースヴェルトの治癒にかなりの時間を要したものの、彼の顔色が良くなってきたのを確認すると、ロシュリハインはアシュトの側に寄り、尋ねた。
『ヒースヴェルト様の様子はどうかしら。』
『……内臓の損傷は、ほぼ治癒できました…。今は、体力の回復を試してます。あ…やべ!!割れそう!!!』
砡の欠片の摩耗が激しく、純度の高いものを使っていたにも関わらず、既にひび割れ、手持ちの物は全て砕ける寸前だった。
『トリア!予備があったはずよ。アイテムボックスからありったけ出しなさい!』
『御意!』
トリアが預かっている亜空間収納の機械導具には、大神殿の収納庫に納められた砡欠片の中でも上質な物だけ、詰め込まれている。
その中でも治癒の効果を発揮する翠砡欠片を選び出し、アシュトが途切れることなく展開できるよう準備をする。
そして、絶えず翠砡欠片を消費し続けて、3個目の翠砡欠片が割れてしまったとき。
『ぅ~……、ママ…。がんばって、、、』
ぱちり。
気絶して変装が解けてしまったため、本来の紫色の瞳がアシュトをとらえた。
「あ、ぁ?…あぇ?」
身体の痛みや辛さがなく、ヒースヴェルトはきょとんとしていた。
「~~ッ!!良かった!ヒー様!何処か痛いとこ、無いッスか?気分は?」
「らいじょ、ぶ……です。」
そうして、アシュトと自分の周囲に散らばる、割れて屑石になってしまった翠砡欠片の残骸を見て、ようやくアシュトが治癒してくれたことに気付き、ほっとする。
「ありがと、アシュト。うわぁ…、凄く練習したんでしょう?機械導具じゃない、砡そのものから展開できてる。…ママから教わった技だね。ヴィータが組まれたぼくの身体は、普通の人間とは違うから…。」
「ええ、存じています。だからこそ、創造神様はオレにお教えくださったッスよ。ははっ。良かった!!あ~ッ…マジでよかったーーー…!!」
アシュトは目に涙を溜めて大きく息を吐いて安堵した。
ディーテ神が初めて砡の欠片の本来の使い方を見せたのは、ディランの天使化のとき。
精神に大きなダメージを受けたヒースヴェルトを癒やすために、神力ではなく砡を使い、治してみせたのだ。
そして翠の加護を受けたお前がその役目を担うのだ、とも。
自分にはディランのような剣の能力もない。エルシオンのような技術もない。フォレンのような頭脳もない。ジャンニのように神饌を提供できる腕もない。
そして、ヒースヴェルトが一番心を開いている、リーナの代わりにもなれない。
できることは、空を翔けることと、風を読むことだけ。
それはアルクス内では諜報部隊の《風》を纏める頭として役目は果たしているが、それとは別にヒースヴェルト自身を守る力が欲しかった。
だから、あの日ディーテ神に翠砡の扱いを覚えろと言われたことが、どれ程嬉しかったか。
時間があればディーテ神に呼び掛け、指導を仰いだ。
厚かましいほどの前向きさに、ディーテ神は面白がって付き合っていたが、その成果はあった。有事の際に、主の御身を治癒できる存在にならねば。
その一心だった。
そして、顔色の良くなったヒースヴェルトを起こしてやり、乱れた衣服を整えてやると、ヒースヴェルトもアシュトに課されていた修練が結果を出せたということが嬉しくて少しだけ貰い泣きして。
「へへっ。…アシュト、神体を治癒することは本当に大変なの。だから…凄く頑張ったんだね!アシュトはまだ人間なのに…本当に凄いや。」
「へへっ。当然っしょ!」
「…ぁ、ところで、ジョージさんとガイルさんは…?」
尋ねるヒースヴェルトに、アシュトは入り口付近に視線を投げて説明した。
「今、二人一緒に国王さんを連れてきています。ガイル殿、ジョージ殿の回復を見て、完全に心を決められたみたいッスよ。」
「…そっか。うん。良かった…。えへへっ。」
「ヒースヴェルト様、戻られたばかりなのに…申し上げにくいのですが。今一度、聖杯に神水を。」
トリアが、そっと膝を付き、ヒースヴェルトにお願いする。
「ぁい!」
指輪を掲げ、展開すると、大神殿から送られた真新しい神水が、指輪から生み出された。
その時、ちょうどガイルとジョージが国王を抱え、戻ってきたところで。
「なんと、神々しい……」
ヒースヴェルトの指先から生み出されるかのように聖杯に注がれる金色の粒子を纏った聖なる水に、二人は感動を覚えた。
『あっ!ガイルさん!!ただいま!ジョージさんも!…うん、無事に魂が戻れてる。おうさまの魂は、ここにあるよ。すぐに目覚めさせてあげるね。』
ヒースヴェルトのふにゃりとした笑顔に、ガイルもつい肩の力が抜けた。
「お願い申し上げます、聖神子様。我が主をお救いください!!」
国王を横たえらせ、ガイルは跪いて懇願した。
ヒースヴェルトはトリアとロシュリハインを順番に見て、二人共が頷いたのを確認すると小さく深呼吸をして聖杯の神水に力を注いだ。
「…大丈夫。創造神は彼の魂を、それは大切に預かっておいででした。彼は…目覚めた時より創造神の使徒となり、きっとこの世界を安寧へと導くでしょう。」
ヒースヴェルトはそう言うと、虹の力が満ちた聖杯の水を、ゆっくりと水牢へと構築してゆく。
さぁ、目覚めの時だ。
その日、国王が目覚めたことをレジスタンスの皆は知らされる。
そして、神の使いとして生還したことで、レジスタンスの士気は爆発的に上昇したのだった。
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