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一章 飛空島
33 アールベルの恋
しおりを挟む(アールベル視点)
私は生涯独身を貫くつもりであった。
婚約を推してくる貴族たちは野心家ばかりで、そこに愛や信頼はない。
ただ第二王子という立場を利用し、国政で伸し上がるためだけの踏み台。
そう教えられて育った令嬢らは皆、私を見下し軽視する。
特に目立たぬよう、能力も無い凡人を装いとして生きてきたのだから、それは、まぁ仕方ないが。
しかし、貴族学校で一体何を学んできたのだ?と疑問に思うほど、相手を貶めることや、自分の見た目や着飾ることだけを気にしている馬鹿な令嬢や令息ばかりでうんざりしていた。
適当な公務をこなし、目立たぬよう最低限の王族の役目を果たす毎日。
初めの頃はよく突っかかっていた兄上も、最近は「能無し」王子だと侮ってくれているため、殆ど会話もない。
そして、王宮で働く貴族らの蔑む視線も慣れてきた頃、陛下から呼び出された。
「お前にはもう、期待はせん。フォレクタを立太子させる。お前は飛空島の管理でもやっておけ。推薦状はこれだ。」
渡されたのは、小さな粗末な封筒一枚だった。
飛空島。
どの国にも属さない、世界中を回遊する浮島。
その管理機関は各国の要人が代々務めるが、特にやることはない。
体のいい厄介払い、王族の最終左遷先。
私は、感情を見せることなく了承し、陛下の執務室を後にした。
自室に戻り、一人笑みを浮かべる。
やった…………!!
ようやく、このクソつまらない人生から脱せる。
そして、運良く私の行く先は、一足先にあいつが向かった場所だ。
「ヴォルカー……待っていろ。私だって好きに生きてやろうじゃないか。」
◆◇
飛空島には、魔法の研究機関と、飛空島そのものを管理する機関の2つを兼ね揃えたツインタワーが存在する。
そのツインタワーの責任者が、私だ。
仕事?
特にない。
だから最終左遷先。
毎日、魔法研究に明け暮れる変人たちの相手をし、隣りにある学園の運営に口を出す程度。
しかも、ここは地上から遠く離れた場所にあるため、王家は影などを忍ばせることもできない。暗殺などの心配がないのだ。
それに、どこの国にも属さない故、各国に何の報告もしなくていい。
ここで万が一にもうっかり間違えて、偉業を成してしまったとて、何処にも報告は必要ない。
そして、地上ではないため、魔獣の出現もないから平和だ。
つまるところ。
「ここは楽園だな。」
ツインタワーの最上階には、私の執務室。隣の私室と繋がっている。
私は飛空島の景色を眺めながら、生まれてはじめて自由に呼吸をした気分になった。
ヴォルカーとたまに会い、互いの生活がいかに楽しいか、自慢し合うほどだ。
次の左遷王族にこの座を明け渡す時までは、この穏やかな時間を…思う存分堪能したい。
そう、思っていた。
◆◇
飛空島に来て一年が過ぎた頃。
「いよいよ新しい学生らが転移装置からやってくる。年に二度とない大仕事だ。貴様らたまには研究員としての力を発揮しろよ。」
研究機関の変人どもを焚き付けて、新入生らを迎え入れるため、転移装置だけでは足りない魔力を補助するのが、研究員らの仕事でもある。
つまり、この飛空島に居る魔法使いは全員、転移魔法を使いこなす超人ばかり。
「承知しました、アールベル様!」
新入生の迎え入れは滞りなく行われ、教員らが新入生を寮へと案内していく。
その可愛らしい生徒らの姿を眺めながら、私もまた新しい季節に期待していた。
(………おや?あの子は………。)
寮に移動する集団の中に、ひときわ目立つ髪色の少女を見た。
ピンクブロンドの髪に、美しいアメジストの瞳。
薔薇色の頬は化粧ではなく、おそらく彼女本来の血色からだろう。
そして、桃のような華やかな色の唇。
(貴族の子かな?……あのような美しい子は初めて見る。)
その時は、あまり深く考えずにただぼんやりと眺めていた。
だが、今思えばあの時、私は彼女に一目惚れしていたのだろう。
◆◇
入学式前日。
珍しくヴォルカーが、私の執務室に慌てた様子でやってきた。
話を聞けば、自分の他に未来を予知した生徒がいた、そしてその未来は自分の予知したものと一致し、更に詳しく未来を示しているという。
信じがたい話だったが、ヴォルカーの予知夢はかなり正確で、必ず起きるのだ。
これまで何度も、その最悪な未来を予知し、神託の悪夢に憔悴する彼を見てきている。
それが、また起こったというのか。
しかも、被害を受けるはずの生徒はかつて我々が憧れたクライン血族の新入生だと言う。
ヴォルカーは、フロェン国のレガーノ様の暴挙を私より間近で見てきている。
憧れは薄れ、まさかまた近寄りたいと思ったのは意外なことではあったが…彼のために未来を変えたいと願われたそうだ。
そして、私は腐っても王族。クライン血族の危機は全力で阻止せねばならない。
ヴォルカーに案内され、彼の執務室…寮の保健室に向かう途中、私は別の場所に集まる不穏な気配を感じた。
(遅かった……?いや、まだ集まっているだけか。)
私はヴォルカーに、先に寮の部屋へ向かうへきと進言し、そちらの騒ぎを治めることを優先させた。
案の定、レガーノ様の信者らが暴走し、「クライン血族を貶める者は死ね」とまで吐いていた。
(……虫酸が走る。何故あのような自由と傲慢を履き違えた者に付き従い盲信するのか……理解し難い。…しかし、レガーノ様もクライン血族。もし、この場におられるなら……安全な場所に案内する、と誤魔化してここから遠ざけるべきか……。)
辺りを見回したが、レガーノ様のお姿は無い。
ヴォルカーが上手く気を引いて、丸く収めようとしていたが、思った以上に彼らの感情は暴走していたようで、迷うことなく魔法を発動させた。
その威力は凄まじく、明らかに彼らの実力ではない。
魔道具によるものだ。
(……これは……レガーノ様が関与していると見て間違いなさそうだな。飛空島は攻撃性のある魔道具の使用を一切禁じている。)
徹底して、持ち込ませない。可能性としては、飛空島にいるクライン血族が、この飛空島で作ったということ。
(クライン血族の魔道具製作の自由は我々には制限できない。レガーノ様が作り、彼等に渡したと、考えるのが自然だ。)
影で様子を伺っていたが、ヴォルカーの様子がいつもと違う。
かなり動揺し、珍しく怒りを顕にしている。
ティルエリー様を、殺すつもりで魔法を放ったことが、相当頭にきたらしい。
(……お前のクライン血族への思いが復活したのか……?ティルエリー様は…それ程のお方だったのか?)
まぁ、そのせいでいつもは完璧な神聖力の結界を乱し亀裂を走らせたのは、いただけないが。
結界を超えて魔法攻撃の被害に遭った生徒らを保健室へ行くよう指示し、私はこの度の過ぎた私刑ごっこを治める。
学園での問題はそこに通わせる貴族の問題にも繫がる。
(早速、報告案件か……嫌だな…。だがクライン血族に手を出すとは、こいつらの人生終わったな……。)
私はため息を吐くしかなかった。寮長にここの後片付けを任せ、ヴォルカーの後を追う。
保健室の手前まで来ると、話し声が聞こえる。
神の聖杯。
確かに、少女の声で、そう聞こえた。
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