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一章 飛空島
38 やめておけ。
しおりを挟む(エディオ視点)
居住フロアは、ティルエリーの工房があるフロアより下。
下層に向かうエレベータの前で、あの神官も同じく下層へ向かうのか待っていた。
「……………。」
…ティルエリーのコイビト様、か。
あの子はまだ子供だ。
しかも、クライン血族の中でも、美人で有名な。
あんっな可愛い少年を誑かした野郎……。
しかも神官だと!?神官はエルナリアで沢山見てきたが、こんな色気たっぷりな男娼のような者はいなかったぞ!!!
神聖力は多いが、それ以外は……大したことない。生粋の神殿付きなんだろう。
「………なぁ。」
あ。やべ。
つい、こいつに対する嫌悪が声に出ちまった。
「何でしょう?」
だが、ここはティルエリーの兄貴分としてしっかり伝えとかなきゃな。
「……やめておけ。」
「…………は?」
神官の声に、明らかに怒気が含まれた。
…こいつ、本気でティルエリーを愛してるのか……?
あの子を弄んでるわけじゃないのか……?
「ティルエリー…本人は、知らないのかもしれない。だからこそ、保健室の先生なんか好きになっちまったんだろうけど……。」
次期当主だろ……、ティルエリー。
恋だの何だの、言ってる立場かよ……。
「何を仰りたいのですか。」
くそっ。
恋愛ごっこなら良かったのに…この男、多分本気だろうな。
「………あ~もう!知らねぇ!!!オレは階段で行く!!」
頭をガシガシ掻いて、オレは階段を駆け下りた。
◇◆
(ヴォルカー視点)
何なんだ、あの失礼な男は!!!
何故、私達の関係に口を出す必要があるのか。
憤りを抑えられず、拳に力が入る。
「……神殿騎士団の…神槍使いヴォルカー=ノクティス様…ですよね。学園の神官医をなさっておられるなんて、驚きました。」
護衛の…フェリクス、といったか…。あの失礼な男について行ったのではないのか?
だが、よく見ると、見覚えがある。
「………あぁ、そういえば前に会ったことがありましたね。王女が慰問と言う名の男漁りに来られた際、近衛として控えておられた。」
嫌な思い出だ。あの女の、品定めをするような、舐め回すような視線。不気味な笑い。どれをとっても不快極まりなかった。
「覚えておいででしたか……。あの日、鍛錬場で貴方の姿を目にして、王女は貴方を選ばれたんでしたね。」
「即刻、司祭様に申し出て、力を捨て騎士を辞した。あんな女の玩具になるなど…死んでも嫌でしたから。」
自身も似たような経験があったのだろう。苦笑いの中に同情の念が含まれているのが分かる。
「それで?護衛が主人のそばを離れて、何の用です?」
何か言いたいことでもあるのだろうか。
「貴方の、ティルエリー様を見る目は……よく分かる。本当に、愛しておいでですよね。…だからこそ、エディオ様はご忠告なさったのでしょう。」
「…忠告?私にはただの失言にしか聞こえませんでしたがね。」
「私には、詳しいことは分かりません。ですが……弱い者は、高貴な方の側にいる資格はない。」
フェリクスの目は、強く私を射抜いてきた。
「私が、エルナリア王の庇護を離れたエディオ様と出会い、そして側に仕えるようになって、まだ3ヶ月程です。
他国でエディオ様が、何度貴族に攫われそうになったか……。
破落戸を雇い、助けたように見せかけ囲う、というような、浅はかな企みをする奴さえ居ましたよ。
いまだにクライン血族は、醜い人間共に狙われている。神槍使いであった頃の貴方ならまだしも、力を捨てたあなたに、何が守れますか?」
「………っ。」
「ティルエリー様は3年後、ご卒業と同時に地上に戻られる。
王宮に入り、国の庇護を受けるのが最良でしょう。そうなれば、第一王子の勢力が大きいエンダタールでは…野心の塊と悪名高いノクティス公爵家の嫡男である貴方は、邪魔でしかない。……エディオ様はそういうことを仰っしゃりたかったのでしょう。」
フェリクスに言われたことが、理解できないはずがなかった。
当主となり国の庇護を受けるなら、私は邪魔者でしかないではないか。
側に居たところで、私に対する王宮の連中の扱いなど知れている。
第一王子は、アールベルと共にノクティス家を嫌っているからな。
(くそっ………。今の私では、あの方を守れない。……側に、居ることさえも……?)
このままだと、エリィが、卒業後…王宮に奪われる?
王宮は既に、第一王子の勢力下。アールベルや私の居場所は無い。
そんな未来を、想像するだけで私は震えが止まらなかった。
「……貴方が、昔のように戦うことが出来るなら…。国内を旅をしながら、ティルエリー様をお守りすることはできます。…私としては、是非もう一度、神槍使いの貴方を見てみたいですが。」
フェリクスは優しげに微笑み、踵を返し階段を降りて行った。
「………っ!」
王位争いなどくだらない、とアールベルと共に逃げてきた、これが代償?
……力が欲しいなどと、今更……。
だが、あの方の側に居るためには。
あの方のためだけに、もう一度。
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