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二章 宝探し
65 疑念
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(ヴォルカー視点)
毒矢を受けて以降、ずっと重苦しい呪いにかけられていたような感覚が、一気に晴れた。
だが、数年間抑えつけられていた魔力と身体の能力とが突然戻ってきた反動で、意識を保つことができなかった。
私が次に気がついたときには、別荘の自室だった。
ふと視線を動かすと、私の脇に規則正しく上下する、ふわりとしたミルクティー色の髪の毛が見える……。
「エリィ………。」
まさか、気を失っている間、ずっと側に居てくれたのか…?しかも同じベッドで!?
「……なんてことだ……」
熟睡しているようで、髪に触れてもちっとも起きる気配がない。
(…可愛い……。)
私のベッドの横で丸くなって寝息を立てるエリィは、まるで仔猫のようだ。
カチャ、と小さな音とともにマーティアスが入って来る。
「若……っ」
「シィ…、エリィが起きてしまう。」
音を立てないよう起き上がり、マーティアスに視線を送る。
「目覚められて良かったです。ティルエリー様も、ずっとお側から離れずに…。ですが…眠ってしまわれたようですね。」
マーティアスに聞くと、私はあれから丸一日目を覚まさなかったそうだ。一晩中起きていたエリィも、ついに眠気に勝てず、といったところか。
「……マーティ、すまないがすぐにでも大神殿へ行ってくる必要がある。転移魔法で行くが…その間にエリィが目を覚ますかもしれない。側に居てやってほしい。」
「大神殿…あぁ、そういうことですね。」
マーティは私が何をやろうとしているか理解したようだ。
「私の聖装を頼む。」
「畏まりました。」
聖装は、特別な神殿騎士に与えられる正装。
大司教様に謁見する際に身に着ける白亜の服だ。こればかりは、いくら騎士職を辞したとしても、手放せなかった。
フォード大司教様から直接頂いた、初めての聖装であった。これを纏うのは、私のけじめだ。
「若様、戻られましたら、ささやかですがお祝いしましょう。ティルエリー様とゆっくり過ごされてください。」
「あぁ、そうしよう。」
◇◆
聖エルナリア王国。
その王宮の近くに大神殿はある。
「……正門は神殿の者以外の人が多いからな…。…裏門から入ろう。」
万が一にでも、王宮勤めの人間にでも見つかれば、王家の耳に届くかもしれない。そうなればあの王女や彼女を溺愛している王がどう出るか。
だから、大神殿の裏手にある、神殿職員や食材運搬、重病人、大怪我人などの治療のため運び入れるために使われる通用口付近に転移した。
通用口にも門番がいて、その門番も神殿騎士である。
そして、私もかつてこの場所を守っていた。
「え………ええっ!?ノクティス神官っ!?……飛空島では…あ、そうか、今は夏休み期間でしたね!お帰りなさい!」
「あぁ、君は…ブラウン、でしたね。裏門番とは出世しましたね。」
「はいっ!ノクティス様も裏門番は経験済みですもんね!」
裏門の番人は、表の門番よりその《観察眼》を試される場所。
神殿に出入りする業者は勿論、神官の制服を着た者、騎士…すべてを把握していなければ務まらない。
一般の拝礼者や寄附者では立ち入ることのできない神殿の裏側で、その門が最も重要なのだ。
神殿には神聖力による強靭な結界で守られているため、間諜や不正に利益を得ようとする者も、ここを通るしかない。
その見分けをするのが、この持ち場を任される者たち。
「ここに来るのは二年ぶりか…。変わりはありませんでしたか?」
「えぇ…まぁ……エルナリア王国は、もう終わりです。ノクティス様もご存知でしょう。我が国のクライン当主様の弟君に対する王家の暴挙……王家への信用はどん底ですよ。ですが幸い、我ら神殿の力は健在です。あ、でも…あの方の王位継承権を復活させる動きがあります。」
「………当の本人は全くそのつもりは無いのでしょう?」
「当たり前ですよ、だって大司教様ですよ?」
フォード大司教は先代国王の弟君であったが、幼い頃に神聖力を授かり、そのまま神殿に身を寄せた。
今はもう七十才を過ぎている。
そんな高齢の大司教を王位に就かせようなど、正気の沙汰ではない。
「大司教様にお会いしたい。頼めますか?」
「はっ。すぐに手配します!」
ブラウンは神聖力を込めた白い光を空に放った。
「大司教様に届けましたよ。」
「ありがとう。」
中へ進むと、2年前と何ら変わらない風景に少し安堵する。
エルナリア王国自体の治安が悪化しているとはいえ、ここはまだ安全らしい。
流石はフォード大司教様だ。
「あれ?ノクティス様だ!!飛空島から戻られたんですね!」
廊下をすれ違う神官に声をかけられる。
「えぇ。学園が夏休み期間で。」
「あ、ではしばらくこちらに滞在されるんですか?」
「…あ…いえ。実は大司教様にお会いしたらすぐにでも戻らねばならないのです。」
そう。すぐにでも、あの方の元へ帰りたい。
「大司教様なら、ちょうど午後の祈祷を終えて自室で休まれておられますよ。僕が先程お部屋へお連れしたので。」
そろそろブラウンの言霊もフォード大司教様に届いているだろう。
「…分かりました。ありがとう。」
自室なら、誰にも聞かれずに話ができる。
私はフォード様の部屋に向かった。
大司教、という素晴らしい地位であるのに関わらず、フォード様は質素な小さな部屋を好んで使われている。
木製のドアの前に立つと、ノックをするより先に声をかけられた。
「ヴォルカー、おかえり。入りなさい。」
「失礼します…。」
「二年ぶりだね、元気そうで何よりだ。いや、元気になった、かな?」
変わらぬ優しい笑顔に、私の緊張も解けていくようだった。
「フォード様、私は……」
封印毒を解いたことにも、気付いた様子だった。
「君は…飛空島で出会ったその方に、その身の全てを捧げるつもりかい?」
フォード様の問いに、私は頷いた。
もう、私の主は神ではない。
神職を捨てなければならない。
それを伝えに来たのだ。
「私は…もう神に忠誠を誓えません。預けていた武器を受け取り、すぐにでもここを出ます。」
神殿の後ろ盾を失うことになっても、私はあの方を。
「そう、か。君の槍と剣は騎士団の武器庫にそのまま置いてあるよ。…だけど、聖騎士を辞めることはない。籍はここに置いておくから。」
「なっ…。それでは規律に反します。神殿に身を置く者全ては神のもの…。私には既に心を決めた方が………!」
「おや?誰か規律違反をしたのかね…?…君は神聖力を、失ったのかい?」
そう問われ、私は頭が真っ白になった。
私の神聖力は、健在だ。
いや、寧ろ封印が解けたことでより研ぎ澄まされている。
「いくら神聖力に目覚めた者でも、神が見放した時、その力を失う。失えば、破門は免れないけどね。私はそんな人間を何人も見てきたよ。…例えば、神を酷く冒涜するような行為を繰り返した者や……純粋に、誰かを愛してしまった者、とかね。だが…君はどうだい?」
「いえ……その、ようなことは……。」
「はははっ。神聖力が失われていない君は、正真正銘、神の愛子なのだから破門も何もない。それに、除籍してしまっては学園の神官医として滞在できなくなるよ?そのまま神官として、その子の側に居てやりなさい。」
「…は、い………。」
ここへ来て、職を辞する覚悟でフォード様に会いに来た。…のに、私には新たな不安が生まれてしまった。
私は、エリィを愛していない…のかもしれない。
この思いは、偽物なのではないのか……と。
毒矢を受けて以降、ずっと重苦しい呪いにかけられていたような感覚が、一気に晴れた。
だが、数年間抑えつけられていた魔力と身体の能力とが突然戻ってきた反動で、意識を保つことができなかった。
私が次に気がついたときには、別荘の自室だった。
ふと視線を動かすと、私の脇に規則正しく上下する、ふわりとしたミルクティー色の髪の毛が見える……。
「エリィ………。」
まさか、気を失っている間、ずっと側に居てくれたのか…?しかも同じベッドで!?
「……なんてことだ……」
熟睡しているようで、髪に触れてもちっとも起きる気配がない。
(…可愛い……。)
私のベッドの横で丸くなって寝息を立てるエリィは、まるで仔猫のようだ。
カチャ、と小さな音とともにマーティアスが入って来る。
「若……っ」
「シィ…、エリィが起きてしまう。」
音を立てないよう起き上がり、マーティアスに視線を送る。
「目覚められて良かったです。ティルエリー様も、ずっとお側から離れずに…。ですが…眠ってしまわれたようですね。」
マーティアスに聞くと、私はあれから丸一日目を覚まさなかったそうだ。一晩中起きていたエリィも、ついに眠気に勝てず、といったところか。
「……マーティ、すまないがすぐにでも大神殿へ行ってくる必要がある。転移魔法で行くが…その間にエリィが目を覚ますかもしれない。側に居てやってほしい。」
「大神殿…あぁ、そういうことですね。」
マーティは私が何をやろうとしているか理解したようだ。
「私の聖装を頼む。」
「畏まりました。」
聖装は、特別な神殿騎士に与えられる正装。
大司教様に謁見する際に身に着ける白亜の服だ。こればかりは、いくら騎士職を辞したとしても、手放せなかった。
フォード大司教様から直接頂いた、初めての聖装であった。これを纏うのは、私のけじめだ。
「若様、戻られましたら、ささやかですがお祝いしましょう。ティルエリー様とゆっくり過ごされてください。」
「あぁ、そうしよう。」
◇◆
聖エルナリア王国。
その王宮の近くに大神殿はある。
「……正門は神殿の者以外の人が多いからな…。…裏門から入ろう。」
万が一にでも、王宮勤めの人間にでも見つかれば、王家の耳に届くかもしれない。そうなればあの王女や彼女を溺愛している王がどう出るか。
だから、大神殿の裏手にある、神殿職員や食材運搬、重病人、大怪我人などの治療のため運び入れるために使われる通用口付近に転移した。
通用口にも門番がいて、その門番も神殿騎士である。
そして、私もかつてこの場所を守っていた。
「え………ええっ!?ノクティス神官っ!?……飛空島では…あ、そうか、今は夏休み期間でしたね!お帰りなさい!」
「あぁ、君は…ブラウン、でしたね。裏門番とは出世しましたね。」
「はいっ!ノクティス様も裏門番は経験済みですもんね!」
裏門の番人は、表の門番よりその《観察眼》を試される場所。
神殿に出入りする業者は勿論、神官の制服を着た者、騎士…すべてを把握していなければ務まらない。
一般の拝礼者や寄附者では立ち入ることのできない神殿の裏側で、その門が最も重要なのだ。
神殿には神聖力による強靭な結界で守られているため、間諜や不正に利益を得ようとする者も、ここを通るしかない。
その見分けをするのが、この持ち場を任される者たち。
「ここに来るのは二年ぶりか…。変わりはありませんでしたか?」
「えぇ…まぁ……エルナリア王国は、もう終わりです。ノクティス様もご存知でしょう。我が国のクライン当主様の弟君に対する王家の暴挙……王家への信用はどん底ですよ。ですが幸い、我ら神殿の力は健在です。あ、でも…あの方の王位継承権を復活させる動きがあります。」
「………当の本人は全くそのつもりは無いのでしょう?」
「当たり前ですよ、だって大司教様ですよ?」
フォード大司教は先代国王の弟君であったが、幼い頃に神聖力を授かり、そのまま神殿に身を寄せた。
今はもう七十才を過ぎている。
そんな高齢の大司教を王位に就かせようなど、正気の沙汰ではない。
「大司教様にお会いしたい。頼めますか?」
「はっ。すぐに手配します!」
ブラウンは神聖力を込めた白い光を空に放った。
「大司教様に届けましたよ。」
「ありがとう。」
中へ進むと、2年前と何ら変わらない風景に少し安堵する。
エルナリア王国自体の治安が悪化しているとはいえ、ここはまだ安全らしい。
流石はフォード大司教様だ。
「あれ?ノクティス様だ!!飛空島から戻られたんですね!」
廊下をすれ違う神官に声をかけられる。
「えぇ。学園が夏休み期間で。」
「あ、ではしばらくこちらに滞在されるんですか?」
「…あ…いえ。実は大司教様にお会いしたらすぐにでも戻らねばならないのです。」
そう。すぐにでも、あの方の元へ帰りたい。
「大司教様なら、ちょうど午後の祈祷を終えて自室で休まれておられますよ。僕が先程お部屋へお連れしたので。」
そろそろブラウンの言霊もフォード大司教様に届いているだろう。
「…分かりました。ありがとう。」
自室なら、誰にも聞かれずに話ができる。
私はフォード様の部屋に向かった。
大司教、という素晴らしい地位であるのに関わらず、フォード様は質素な小さな部屋を好んで使われている。
木製のドアの前に立つと、ノックをするより先に声をかけられた。
「ヴォルカー、おかえり。入りなさい。」
「失礼します…。」
「二年ぶりだね、元気そうで何よりだ。いや、元気になった、かな?」
変わらぬ優しい笑顔に、私の緊張も解けていくようだった。
「フォード様、私は……」
封印毒を解いたことにも、気付いた様子だった。
「君は…飛空島で出会ったその方に、その身の全てを捧げるつもりかい?」
フォード様の問いに、私は頷いた。
もう、私の主は神ではない。
神職を捨てなければならない。
それを伝えに来たのだ。
「私は…もう神に忠誠を誓えません。預けていた武器を受け取り、すぐにでもここを出ます。」
神殿の後ろ盾を失うことになっても、私はあの方を。
「そう、か。君の槍と剣は騎士団の武器庫にそのまま置いてあるよ。…だけど、聖騎士を辞めることはない。籍はここに置いておくから。」
「なっ…。それでは規律に反します。神殿に身を置く者全ては神のもの…。私には既に心を決めた方が………!」
「おや?誰か規律違反をしたのかね…?…君は神聖力を、失ったのかい?」
そう問われ、私は頭が真っ白になった。
私の神聖力は、健在だ。
いや、寧ろ封印が解けたことでより研ぎ澄まされている。
「いくら神聖力に目覚めた者でも、神が見放した時、その力を失う。失えば、破門は免れないけどね。私はそんな人間を何人も見てきたよ。…例えば、神を酷く冒涜するような行為を繰り返した者や……純粋に、誰かを愛してしまった者、とかね。だが…君はどうだい?」
「いえ……その、ようなことは……。」
「はははっ。神聖力が失われていない君は、正真正銘、神の愛子なのだから破門も何もない。それに、除籍してしまっては学園の神官医として滞在できなくなるよ?そのまま神官として、その子の側に居てやりなさい。」
「…は、い………。」
ここへ来て、職を辞する覚悟でフォード様に会いに来た。…のに、私には新たな不安が生まれてしまった。
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この思いは、偽物なのではないのか……と。
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