無の王

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生きる知恵

弱みの無い人間はいない

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部費交渉は意外とあっさり終わった。

いや、零がわざとあっさり終わる様にもっていったのだ。


あのまま、生徒がいる中で大人の事情を話すわけにはいかないと普通は考えるはず。


それに汚い大人の事情が生徒にバレるくらいなら学校から支給される部費を金額を減らした方がまだマシなのだ。


だから話を早く切り上げると分かっていた。


部費交渉が終わり、飛鳥と屋上に来た零は煙草に火をつける。


「ちょ…こんなとこで煙草吸っちゃダメだよ。」


飛鳥は零の煙草を取り上げる。

「何すんだ…。一服しないと落ち着かねぇんだ」


零は取り上げられた煙草は放っておいて、新たに煙草に火を付けた。


「え?ちょっと…これどうすれば良いの?」

煙草を持った飛鳥は動揺し、周りをキョロキョロと見る。


「落ち着けって」


零は飛鳥から煙草を取り上げ、煙草を2つ口にくわえる。


「煙草の処理に困るくらいなら俺から取り上げるなよ。」


「いや、だって高校生で煙草って駄目じゃん。それに先生にバレたら謹慎処分だよ?」

心配そうに零を見つめる飛鳥だが、零はそれでも何食わぬ顔で煙草を吸う。


「別に煙草を吸うことは悪いことじゃないだろ?犯罪じゃないし。むしろ煙草業界に貢献しているから立派さ。」

と言うが零は自分で意味が分からない事を言って恥ずかしく感じた。



「ま、まあアレだ。近年煙草を吸う若者がいなくて煙草業界は不況に喘いでいる。だが俺達高校生が煙草を買うことで煙草業界を少しでも潤そうとしているのさ。」


「それって屁理屈な感じがするんですが…。」

呆れた顔で飛鳥は言う。だが、零の言う通り高校生が煙草を買うことによって煙草業界が潤うという事は現実的だと思う。

不景気の日本の経済バランスも多少良くなるんではないだろうか?と思った。




「そ、それよりさっきの交渉凄かったよ。どこであんな情報仕入れたの?」

食い入るように聞いてくる飛鳥だが、零は「情報屋から買った」と冗談ぽく言うだけであった。



「人間ってな、弱味の無い人なんていないんだよ。」

零は鼻から煙草の煙を出す。

煙草を吸ったことがない人には分からないと思うが肺に煙を入れたら鼻から煙が出る。


この瞬間が気持ちいい零である。


「みんな弱味を持っているものなの?」

「ああ、そうさ。飛鳥さんだって弱味の1つや2つあるだろ?」


飛鳥は「そういえばっ…!」という顔をした。


塾に行くのめんどくさくて親に内緒でサボった事を思い出した。

これがバレたら間違いなく親に大説教である。



「まぁ、その弱味を利用して揺さぶれば人は交渉しやすいんだ。あまり気は進まないがな…。でも、これで俺も茶道部の一員だな。」


確かに人の弱味を利用して揺さぶるのは良いことではない。

もしかして零くんは頼まれたから仕方無くやったのかな?


でもそれは少し聞きにくい。


何はともあれ、零くんは無事に茶道部の一員なったし、これからは部室で二人だけの空間で会える。



この時の飛鳥は幸せを感じていた。


しかし、零は冷めた目で現実を見る。


学校の部活動ごときで莫大な金が動いていることに。


そしてその金は何一つ俺達に還元されていない現実に。



部活動でこれなら社会に出るとどれだけ金・欲望が渦巻いているのか。



この時、零は胸に大いなる野望を抱いていた。

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