無の王

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生きる知恵

甘い夢の果て

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零は次の日の昼休みに茶道部に顔を出しに行った。

いや、顔を出したというより藤宮桜花に話をしに行ったと言うべきか。


零が茶道部に行ったとき、ちょうど桜花一人だけであった。


「今はあんた一人だけの様だな。」

「何かしら零くん。」


桜花はお茶をコップに入れる。


「アンタが出来なかった部費の交渉を成功させたんだよ。でも部費交渉がいくらなんでも簡単にいき過ぎだ。アンタ、俺を試しただろ?」


「…そうよ。校内1のウルトラ馬鹿のアナタがどんな者か見てみたくてね。ウチの学校は進学校で本来はアナタみたいな人間は入れない筈なのになぜか入学できた。この事実が気になっていたの。でも何となく分かっちゃったわ」



桜花は笑いながら零を見つめる。



「桜花さん…アンタ夢はあるか?」

桜花は唐突に聞かれた為、驚くが落ち着いて考えた。


「夢…。そうね、将来一国を買えるほどの大金を得る事かしら。」

冗談の様な事を桜花は平然と言った。


「私は将来家を継いでこの国の金の女王と言われたい…。私は昔から、そうなる為に勉強を親からさせられたわ。」


「そうか…。俺は将来『時代の渦』になりたい。」

零が言った『時代の渦』とは要するに自分がこの国の中心となって国を動かしていくと言うわけだ。


「もちろん政治家になると言うわけでは無いさ。政治家は頭が良い大学に行かなきゃなれないからな。俺がなりたいのは日本を裏から動かすということだ。」



桜花は「クスッ」と笑う。

「確かに頭の悪いアンタがこの国を動かしていくにはそれしか方法がないわね」

桜花は零の言ったことを冗談だと思っている。


それを察した零は言う。


「信用していないみたいだが今実際にこの国を裏から動かしている人いるぜ。この学校の卒業生だ。」


この学校の卒業生に日本を裏で動かしている人物がいる。

その人物はまだ若いが恐ろしく頭が良く、人の扱いが巧く、打算的な人である。


いつの時代でも国を裏から動かす人間がいる。


ではどのようにして裏で国を動かすのか?


それは国の重要人物いわゆる大物政治家と裏でやり取りをしたり、時には弱味を握って揺すったりして国の法律を少し変えたりすることだ。


そう考えると国を裏で動かす事は政治家と仲良くして、なおかつ金が有れば簡単そうである。



「それ、漫画の読みすぎじゃないかしら?」


桜花は笑う。零の考えがとある漫画に書いてあった事と酷似している。


それにそんなことで国が動いたら、今頃日本は崩壊している。


「それと貧乏人の癖に『時代の渦になる』なんてよく言えるわね。なんかスゴく痛いわよ。」

酷い言われようである。

零は誰にも言ったことがない密かな夢を馬鹿にされたのだ。


だが、零は全くショックを受けなかった。


むしろ馬鹿にされるのが普通。



「まぁ、俺は痛い奴さ。だから昔から人と距離を置いている。アンタも…だろ?」


零には分かっていた。

初めて桜花に会った時から気付いていた。

この人は俺と同類。普通の人生じゃあ物足りない人間だと。


そして今回の部費交渉は零の能力を知るために試していたものであったと。








「桜花さん、アンタ将来は金の女王と言われたいんだろ?だったら土地は必要以上に持っていたら良い。」


昔は土地は安かったが最近は土地の値上がりが激しい。


いかに土地が人間の間で重要とされているか分かる。


この土地が極限までに値上がりして、売り払うとどれだけの金が得られるだろうか?


100億?いや、そんな安くないだろう。

1兆、10兆はいくのではないだろうか?


どちらにせよ、貧乏人の零には夢のまた夢の様な金額である。



桜花には零の言っていることが良く分かる。

桜花も零と同じことを考えていたからである。


「土地は今でも高いけど、これからもっと高くなるわ。まさに土地は王様ね。」



そう言い、桜花は茶道部の部室の畳を取る。


畳の下は空洞となっており何かを隠したりするにはもってこいの場所であった。


零は驚いた。茶道部にこんな仕掛けがあったことに。


「じゃあ零くん。あなたが卒業するまでに畳の下が万札で溢れるほどの財産を作ってきなさい!」


何を言い出すんだこの人は…と思う零。


「そんなの当たり前でしょ。それでもこの国を盗るには足らないかもしれない。」





二人の甘い夢

その果てには

鬼がいるのか

仏がいるのか


今はまだ分からない
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