羊の夢で恋をする

うたた寝

文字の大きさ
4 / 15
モテる指輪

しおりを挟む
 翌日。付けたらモテる、と言われた指輪の力を信じているわけではないのだが不思議なもので、この手の物には効かないだろうな、とは思いつつ、一回くらいは試してみたくなる魔力がある。家を出た後、羊はこっそりと指輪を付けて登校する(家で付けなかったのは家族にその指輪どうした? とか聞かれると面倒そうだったからである)。
 しかしまぁモテる、とは言っても、具体的にどんな風にモテるのだろうか? 学校に付いたら下駄箱にラブレターびっしりとか? いや、ラブレターの準備には時間が掛かるからそれは難しいか。見知らぬ女子に校舎裏に呼び出されて、とかだろうか? 何かそれはそれで美月とかの告白とブッキングしそうな気がしないでもないが。
 こういうのはあれこれ想像しているうちが楽しいものだ。現実には起きないことを起きたらどうしよう? と想像している時間が楽しいとも言えよう。例えばパンを口に咥えて『遅刻遅刻~』と走ってくる女子や空から不思議な力で浮きながら落ちてくる女子、など居たらいいなぁ~、という想像こそするが実際に起きたら前者は引くだろうし、後者はビビるだろう。フィクションだからいい、というのは間違いなくあるのである。
 何事も起きないとしてもだ。何か起きるかも。そんな期待を今日一日はできるわけだから、これはこれで楽しいかもな。そんな風に考えながら羊が学校へと向かう電車へと乗った。
 電車内は空いている。というのも、羊が乗る電車の時間帯というのは他の生徒よりも大分早い。ピーク時に乗ったとしても人がギューギュー詰めになっている、という状況は大幅な遅延でもしない限りまず無く、たまに座れることがあるくらいの混雑度でしかない。
 そんな電車で時間を外せば乗っている人を数えられる程度の過疎化となる。椅子に横になっても問題無いくらいの混雑度である。まぁ、モラル的に問題があるので寝っ転がりはしないが、これだけ空いていると端より真ん中の方が特等席だと思っている羊は真ん中に座る。両隣に遮るものがない。これが公共の乗り物の中というのだから、何とも贅沢な空間と時間である。
 しかし、そんな至福の時間はすぐに終わった。次の駅に着き、人が入って来ると、女子生徒が一人、彼の横に腰を下ろしたからだ。
 ん? っと、羊は相手に気付かれない程度にチラリと横の生徒を見る。至福の時間を邪魔され迷惑がって睨んでやった、というわけではない。違和感、とまではいかないが、不思議に思ったのである。
 さっきも言ったが、この時間帯、空いている席などいくらでもある。もちろん、どこに座ろうが席が空いている以上は本人の自由ではあるが、端も真ん中もボロボロ空いているこの車内で、わざわざ人が隣に居る席に座るだろうか?
 変なの、とは思いつつ、まぁそういう人も居るか、と大して気には留めなかった。
 が、流石に無視できなくなってきたのは、そこからさらに数駅ほど止まった頃である。
 おかしい。明らかにおかしい。羊の両隣はあっという間に埋まり、その隣、その隣、と彼側の席は既に満席。向かいの席も満席で、彼の周りには立ち見の女性たちで溢れ返っており、そこだけちょっとした満員電車のようになっている。
 満員電車のようになっている、だけであれば、羊だって別に気には留めない。時間的に珍しいこととは思うが、満員電車になること自体はある。問題は、だ。こんなに混雑しているの、彼の周りだけである、ということだ。この車両に乗って来る女性、乗って来る女性が次々とまるで何かの引力に吸い寄せられるかのように、彼の周りへと集まって来る。
 ちょっと首を伸ばして周りを見ていると、チラホラ空いている席がある。と、言うかだ。むしろガラ空きである。察するに、普段なら分散されているであろう乗客が彼の周りに密になっているせいで、むしろ周りは過疎化しているのだろう。寝ている乗客は別としても、何人かの男性陣が、あの一帯は何だ? と奇異な視線を向けている。
 車両内の女性を独り占め、周りを女性たちに囲まれてまるでハーレム、マンモスうれぴー、なんてことにはならない。ハッキリ言って普通に怖い。満員電車で人に囲まれているならいざ知らず、彼の周りだけ面識のない女性たちに囲まれているこの状況。とてつもなく居心地が悪い。それにチラホラこちらを見られているような感覚がある。右を向けば右の女性陣が、左を向けば左の女性陣が一斉に目線を逸らす。さっきまで見てました、と言わんばかりの光景だ。
 今のところまだ、誰かが具体的なアクションを起こすことはない。近くに居るだけだ。しかしこれは恐らく、お互いがお互いの様子を伺ってそれがけん制となっているかのような、どことなく均衡状態のような気がする。これ、誰か一人でも羊に話し掛けてきたら、それを口火に決壊しかねない危うさを感じる。
 ぴりつく、とまでは言わないが、台風の目の中に居るような、これから台風に突っ込むような危機感を理屈ではなく、生物の本能として感知した羊はまだ降りる駅ではないのだが、『ちょっとごめんなさいね』と言って席を立ち、ドアの前へと移動する。すると、周りに居た取り巻きどもが一斉に立ち上がり、彼の後ろを付いてくる。ウソを吐け。その制服が降りる駅はここではないと知っているぞ。
 降りる駅でもないのに降りようとする。理由は一つ。自惚れでも何でもなく羊が降りるから降りるのだろう。多分これ、降りた後も付いてくる気だろう。一人が付いてくるだけでも交番に駆け込みたくなる恐怖なのに、この人数に付いてこられたら交番も居留守を使う恐怖に違いない。
 ではどうするのか? 答えは簡単。
 駅に着き、ドアがほんの少し空いた隙間に滑り込むようにして降車。背後の女性陣も慌てて降りようとするが、大勢で一斉に降りようとしたため、扉に当たって降車が遅れている。この一瞬できたリードを失わぬよう、羊は背後を振り返りもせず猛ダッシュをする。背後から無数のダダダダダァァァァァッッッッッ!! という地響きのような足音が聞こえてくるが、こちらは全力で意識の外に持っていく。怖いから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...