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【11時間目】魔王様、三人目の少女のお時間です‼︎
しおりを挟む───さて、どうしたものだろうか。
僕と聖良がここ、私立黒瀬川学園に入学してからはや一週間が経とうとしていた。
たった7日弱で2人も能力持ちの少女に出逢えた事は僥倖か。はたまた必定であるのかは魔王である僕とて知る由もない。
とりあえず目先の問題点としてはこっからどうやって恋仲に持っていくか……なのである。
「ん~~~、それにしても僕、6話目で聖良に煽られたようにまともな女性経験ないんだよなぁ……。メイベルにいた時はむしろ僕の方が引くて数多だった分、余計難しく思えるよ」
なんて独り言を呟きながら僕は今クラスルームの階下にあるここ、数機の自動販売機が立ち並ぶ昇降口前に来ていた。
無論、お目当てはあの自販飲み物界の王◯治と言っても過言では無い──────KI◯INから発売されている午◯の紅茶"MILK TEA"だ。
(ただでさえ名門進学校なのでくそミソに難しい)授業で過労働をしたマイブレインを癒すにはとっておきの神の飲み物である。
ん~~~と、あったこれこれ。やっぱこいつがなきゃ始まらんよね。
僕はお目当てのブツを購入しようと制服のポケットを弄り、中から財布を出すと手早く500円を出した。
ちゃりん。
さすがに性急すぎたのか高鳴る僕の心とは裏腹に呑気に金ピカの硬貨が僕の手から滑り落ちていく。
「おっとっと、いけない、いけない。カームダウン僕。急がなくたってマイスウィートティーは逃げな……ん?」
ふと500円が転がっていった先、つまりは僕の真隣の自販に人が居たことに今更気づく。
その人───気怠そうな少女は自分の足元に硬貨がぶつかった事にちらりと目配りもせず、ただずっと、目の前の自販を見つめていた。
僕はさっさと落とした500円を拾うと例のアレを購入すると足早にその場を去っていった───のではなく、そのアンニュイな表情をする、その少女に話しかけてしまった。
「あ、あの~~、さっきからずっとぼ~~っとしてるけど大丈夫ですか?どこか具合悪かったりします……?」
僕が恐る恐《おそ》る訊ねるとその少女は一拍おいてぼくのほうに顔を向けるとこれまた一拍おいて口を開いた。
「あ……あ~~ごめん。ちょっとボケっとしてただけ。特に体調が悪いとか、そういうのはないから。大丈夫。ありがとね」
そう少女は言うと再び自販に向かい合い睨めっこを始めた。
僕は「恐らく僕と違って何を買おうか迷ってるんだろうな」と勝手な推測し納得すると今度こそクラスに戻ろうと踵を返した────と、その先にこれまた少女がいる事に気づいた。
「あ、水原さん。水原さんも何か飲み物を買いに?」
水原さんは「えぇそうよ」と歯切りよく言うと分かりやすく頭を抱えながら自販のコイン投入口に手をかけた。
……多分、さっき受けた授業(もう分かってるとは思うけどイングリッシュだったよ!)が余程水原さんにとって難しかったのだろう。
僕は「ご愁傷様」と心の中で労うと本当に今度こそクラスに帰ろうと足を向けた────途端、水原さんの怒声が背後から聞こえてきた。
「は、はぁ!?あんた財布忘れたからってこんなとこでずぅーっとぼぉーっとしてたの!?」
ん、ん?財布を忘れた……?
あれ、何買おうかと品定めしてた訳じゃないの?
僕の足が止まった。
あ、これはまずい。まずい兆候だ。このままだと十中八九、トラブルに巻き込まれる。
「え?教室に忘れたわけでなく家に!?あんたどうやって学校に来たのよ!!」
「……あ、あの。お金貸しましょうか?」
ダメだった。
どうやら僕の足と意思は相互協力関係になってないらしい。
……あ~~もうこれ絶対トラブルになるよこれ。ToL◯VEるだよ。その天才的な発明品で助けてラ◯ちゃん!!
「ちょっと、いいわよ。私が出すわ。そもそも私がここで立ち止まってる理由を聞いたのが原因な訳だし」
水原さんは僕の手を制止すると使い込まれたのか、少し汚れが目立つかわいい長財布を取り出すと中から100円硬貨を出した。
その機敏な動きに反し、水原さんの前の少女は微動だにしない。
ロボットかなにか?
「はい、これであんたの好きなやつ買いなさいよ」
そう言うと水原さんは動かないその少女の手を取って無理に渡すとため息をついた。
僕は水原さんに「その人とは知り合いなの?」と、かねてからの疑問をぶつけると水原さんは「えぇ」と軽く頷くと再びため息をはいた。
「この子は奈賀井 風花。私たちのクラスの図書委員よ」
なるほど。合点がいった。
委員会同士の横の繋がりで出会った、という訳か。
「あの、水原さん。それでその、奈賀井さんっていうのは………普段もこういう人なの?」
『好奇心は猫を殺す』と言うが、僕はその好奇心(ツッコミ精神)を抑えられそうにもない。
思わずその誘惑に負けて聞いてしまった僕に水原さんは顔色ひとつ変えずに答えた。
「えぇ、この子はそういう子なの。ちょっと気が抜けてるって言うか……ぼぅーっとして何考えてるのか分からないのよね。まあ本人は何も考えてないかもしれないけど」
「は、はぁ。不思議な人なんだね」
思った以上に特にツッコむところがない理由だった。
まあそのおかげか僕の好奇心は満たされ、助かったというのは事実。さっさとクラスに帰って次の授業の準備でもしよう。
僕はこっそり水原さんのポケットにバレないよう100円玉を仕込み、水原さんにじゃあ僕は「クラスに戻るね」と一言を残すとそのまま行き場を失っていた足に待ち遠しかったはずの帰還命令を出した。
「さて、次の授業はなんだっけか」なんて呑気に思いながら僕がやっとその場を離れようとした時、今度は奈賀井さんの声が小さく聞こえた。
「ん、ん~~~、ごめんねさくら子ちゃん。100円じゃ足りないわ。ふふっ」
「いや厚かましすぎるやろがいっっっっ!!!!!!!!!」
どうやら僕のこの休み時間は目の前の自由奔放少女、奈賀井 風花に費やされそうだ────────
☆三人目の少女、満を辞して登場!!────────
───────────────────────
【登場人物紹介】
●躑躅森 逢魔
魔王の息子で主人公。
2人の能力持ち少女に出会い、今回はインターバル回だと思い「平和なほのぼの回なんだろうなぁ~~」と期待していたがそんなことはなかった。
一難去ってまた一難。頑張れ魔王。
●水原 さくら子
2人目の能力持ち少女。
ツンデレ貧相少女。ホオズキ組のクラス委員を務める傍ら、同じく図書委員である奈賀井 風花と出会う。
だがまだ顔見知り程度なのでその本性は未だ知らない。
●奈賀井 風花
3人目の能力持ち少女。
まだ登場して間もないがだいたいその性格は分かってきたはず。
これからどんな事をやらかしてくれるのだろうか(期待大)。
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