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第8章 氷の精霊、星の妖精神と次期龍神
ユートピアの真の歴史 #1
しおりを挟む『じゃあ____これを、見てもらおうか』
「………………!」
男の声と共に星空の空間が一瞬で変わる。沢山の人々が、眼下で争っている。
_____戦争だ、と一目でわかった。剣や槍、銃や大砲、大きな兵器………………血で血を洗うような、凄惨な映像。私はすぐさまガロを抱き締めた。
けどおかしい、この世界で銃も大砲も見た覚えがない。辛うじて剣や槍を見たことがあるぐらいだ。
『____10万年前、人間達は争っていた。一番戦争が盛んだった時期だと言っていい』
「ちょっと待て、10万年前は龍神がこのユートピアを作った時代だろう。そこから破綻している」
『せっかちだなあ。___君の言う"ソレ"は"龍神"が作り出した偽の歴史だよ』
「な、……………!」
ラフェエルが目を見開く。男は静かに続けるよ、質問は後で聞く、といってから話し始めた。
『とにかく、10万年前は人間同士の戦いが各地で繰り広げられていた。沢山の人間が死に、沢山の生き物が死んだ。
生き物には"魂"がある。人間は勿論だけど、動物にも、草木にも、この世界にある全てのものが魂を持っているんだ。この魂は___"思い"とも"心"ともいえる。
死にたくない、生きたい、戦いたくない、強くなりたかった、………沢山の、沢山の"思い"が溢れかえったんだ。その思いは、本来このユートピアのエネルギーとして巡り、新たな生き物を生み出す力に使われる…………はずだった。無念な"思い"を抱えて死んでいった沢山の魂は、輪廻転生の輪を見出し___新たな生命を生み出した。
それが………………"初代龍神"だ』
「え……………………?」
龍神、という言葉に私が反応する。眼下には、私の龍の姿と同じ龍が人を潰して、口から炎を吐いていた。
ガーランドは"異世界"から私を呼んだ。なのに、龍神はこの世界で生まれたもの………………?
『初代龍神は降り立った、と言われているらしいが実際はこの世界が作り出した"亡霊達の思い"なんだ。
____とにかく、人間達はその初めて見る生き物を見て恐れ戦いた。龍神は暴れた。沢山の人が、生き物が殺されていく中___1人の"男"は立ち上がった。人間同士で争っている場合じゃない、と。
男は自分の持つ全ての権力を使って争っていた国々と和解し、妖精神、精霊に懇願した。"力を貸してくれ"と。妖精神も精霊も突然現れた龍神に恐れていた。"その男"に力を与え、妖精神、精霊自身も戦いに出た。それが"終末戦争"………………その話は、君も知っているだろう?
"サクリファイス大帝国の第1皇太子"』
「………………………………」
ラフェエルは難しい顔をしている。………何を考えているの?
ラフェエルの答えを聞かずに、話していた男とは違う飄々とした声が響いた。
『その沈黙は知ってる、でいいんだな。なら話ははええ。………ん?龍神は知らねえみてえだな…………ちっ、面倒くせえ…………
結果は龍神の圧倒的勝利だ。俺たちの力は全く通用しなかった。三日三晩戦ったのに、全く歯が立たなかったぜ………今思い出しても、ムカつくぜ』
『………………まあ、過ぎたことさ。
とにかく、私達は負けた。けれども___"男を慕っていた者達"は諦めなかった』
眼下の光景が、変わる。
沢山の人々が魔法陣の上で祈りを捧げている。1人、また1人と浮いて…………ひとつの大きな柱と一体化していた。
『 _____"男を慕っていた者達"は、自分達の命を代償に、龍神へ"呪い"をかけたんだ』
そう言った男の声は、とても悲しそうだった。
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