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盗賊討伐と大成の実力

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【魔人の国・サンガ山・麓】

大成、ジャンヌ、ウルミラの3人は、盗賊が住みついているサンガ山の麓(ふもと)の周りを歩いている。



少し前に、大成達は山の麓に到着していた。
すぐに山に入り、盗賊を探すかと思ったジャンヌとウルミラだったが…。

「山に入る前に麓の周りを歩く」
いつもの大成の声音ではなく、低く冷たく感じる声音だった。

大成の変わりように、ジャンヌとウルミラは戸惑っていた。
大成の雰囲気は、村を出た時より威圧感はなくなったが、表情と口調はそのままだったからだ。


「あった…」
山の方を見て、大成は立ち止まる。

「「あっ!」」
大成の後ろを、ついて歩いていたジャンヌとウルミラも立ち止まり、大成の視線の先を見て気付いた。

そこにあったのは、大成達が薬草を採取しに通った立派な道と違い、一人分の幅しかない獣道みたいな道だった。



「いくぞ…」
軽く大成は深呼吸し、先立った(さきだ)気持ちを落ち着かせて気配を消す。

「「えっ!?」」
ジャンヌとウルミラの2人は驚愕した。
なぜなら、突然、目の前にいる大成の気配が完全に消えたのだ。
そこにいることを意識して見ないと、わかりにくくなるほど周りに溶け込んだ感じだった。

そして、大成が山に踏み込もうとする。
「ま、待って!大成っ。もし…その…あなたが死にそうになったら手を出すわ。これだけは、絶対に譲れないわ」

「わ、私も助太刀しますから」

「……。勝手にしろ」
大成は無言で2人に向き、すぐに前を向く。

しかし、前に振り向く一瞬だったが、大成の口元が笑っていたことに2人は気付き、お互い顔を見合わせて笑みを浮かべる。

「それより、2人は気配を消すことができるか?」
「大成、あなたみたいに完璧には無理だけど。使える程度ぐらいなら」
「私もです」
そして、ジャンヌとウルミラの気配が希薄(きはく)になった。

「問題ないな。行くぞ」
大成の掛け声にジャンヌとウルミラの2人は頷き、大成達は山に入る。



【魔人の国・サンガ山】

サンガ山は、急斜面は少ないが所々に大小の谷があり、大成達は辺りを警戒しながら深い谷の真横を通り抜け、更に奥に進むと道が拓(ひら)けて広くなっていた。

突然、大成は立ち止まり右手を横に出してジャンヌとウルミラを止める。
「見張りがいるな。2人はここで待っていてくれ」
「「えっ?」」
大成に言われるまで、ジャンヌとウルミラは見張りに気付かなかった。
2人は、魔力を目に集中させて視力を向上させる。
大成の目線の先に辛うじて、小さく人が見えて驚いた。


大成は足音を消したまま、一人で走って行く。
ジャンヌとウルミラは、落ち葉が沢山落ちている場所では歩く時なら足音を消せるが、足音を消したまま走るのは無理だった。
大成の技術に、2人は目を見張る。



見張りをしている盗賊は4人おり、ある程度の間隔をとって辺りを見回っていた。
まず、大成は自分達に近い一番左端の盗賊に狙いを定めて慎重に近づく。

(今だ!)
「~っ!?」
近くにいる別の盗賊から見えるので、木で死角になった瞬間、狙い定めた盗賊の背後から左手で口を塞ぎ、右手に持っていたナイフで盗賊の首を切って倒した。

大成は死体を茂みに隠し、大成は近くの木に登って身を潜(ひそ)める。


近くの盗賊の1人が異変に気付いて他の見張りをしていた仲間を呼び、3人で大成の方に向かう。

盗賊3人は、固まって周辺を探し始め、大成がいる木の真下に来た瞬間、大成は両手でナイフを逆手で持ち変えて木から飛び下りた。
大成は勢いがついたまま、ナイフで盗賊一人の頭を突き刺して着地した。

「がはっ」
突き刺された盗賊は倒れる。

「そこかっ!ぐっ」
盗賊の仲間が大成に気付き、一人が右手に持っていた剣を振るったが、大成は一歩前に踏み出し左手で相手の右手を止めてナイフで盗賊の心臓を貫く。

「ひいっ」
最後に生き残った盗賊は、大成が仲間を倒している間に逃走する。
大成は、逃走した盗賊にナイフを投擲した。

「ぐぁ」
逃走した盗賊は、逃げながら笛を吹こうとしたが、大成が投擲したナイフが後頭部に刺さり倒れた。

大成は、他に仲間が居ないか周りを警戒したが、ジャンヌとウルミラ以外は誰も居なかった。

「「~っ!」」
大成の鮮やかな戦いを見て、ジャンヌとウルミラは驚いていた。


「大成」
「大成さん」
ジャンヌとウルミラは、大成の傍に駆けつける。

そして、倒れている盗賊を見てウルミラは驚いた声をあげる。
「姫様、見て下さい。この刺青…」
ウルミラは、盗賊の右頬に青いサソリの刺青に見覚えがあった。

「ええ、最近有名になってる盗賊団【ブルー・スコーピオン】だわ」
深刻な表情でジャンヌは、顎に手を当てた。

「知っているのか?」
「はい。団員は少ないのですが、盗賊の頭主のシュゲールは強者で有名です。魔人の国で最強といわれた盗賊団【デビル・ソレイユ】の幹部だった人です。確か、同胞殺しで強制脱退させられたとか噂があります。だからですね…。あの…その…失礼ですが、魔力が使えない大成さんには、正直キツイかと…」

「そうね、ウルミラ。あなたの言う通りだわ。大成、あなたの卓越(たくえつ)した技術は確かに目を見張るものがあるわ。だけど、魔力で身体強化できなければ、さっきみたいな不意討ちじゃないと倒せないわよ。この世界では、それほど天と地の差がでるの」
大成の質問に申し訳なさそうに答えたウルミラと、ウルミラに肯定するジャンヌ。


「……。先に進むぞ…」
「もう、人がせっかく忠告しているのに聞きなさいよ、大成!もう!」
大成は、この期に魔力や魔法を使用する相手と戦ってみたくなっていた。

大成の態度にジャンヌは怒り、ウルミラは心配な表情で大成を後を追う。



そして、大成達は【ブルー・スコーピオン】のアジトを見つけた。

周囲に20人がおり、そして、中央に大きなテントがあり、その下にある立派なソファーに一人だけ足を組んで寛(くつろ)いでいる男がいた。

その男は、明らかに周りと段違いな雰囲気を醸し出している。

「あいつが、シュゲールか?」
「そうよ」
「そうです、間違いありません」
「大成どうするの?私達が手伝ってあげましょうか?1人では厳しいわよ」
大成の左右にジャンヌとウルミラがおり、ジャンヌは腰にクロスに掛けている双剣に手を掛ける。

「ですね。シュゲールさんは、大成さんに任せます。他は姫様と私が相手をします。良いですか?」
ミニスカートの下、太股にかけていた伸縮自在の矛を出すウルミラ。
2人は、やる気満々の表情だった。

「2人とも頼む…」
小さな声で大成は、渋々と頼んだ。

「任せなさい」
「任せて下さい」
2人は喜んで承諾した。

その時だった。
シュゲールが、胸につけているナイフ2本をとり、大成達がいる茂みに投擲する。

「お、お頭?」
戸惑うシュゲールの部下達は、シュゲールの方に振り向く。

「ネズミが2匹いるぞ」
足を組んだまま座っているシュゲールは部下達に知らせ、部下達は茂みの傍に集まる。


ナイフは、ジャンヌとウルミラを目掛け飛んで来た。

ジャンヌとウルミラはナイフを弾こうと思ったが、斜め前にいる大成が両手を伸ばして、飛んでくる2本のナイフを人差し指と中指で挟んで止めた。

「大成、ごめんなさい」
「大成さん、すみません」
気付かれたのは自分達の責任だと感じたジャンヌとウルミラ。

「別に構わない。どうせ真っ向から挑むつもりだったからな」
2人に気にすることはないと、大成は遠回しに言った。

「やはり、集まって来たか…。2人とも周りの片付けを頼む」
大成が頼むと、ジャンヌとウルミラは無言で笑顔で頷く。

ジャンヌとウルミラから威圧感と魔力が増し、2人は手を前に出した。

「ファイヤー・アロー」
「アイス・ミサイル」
ジャンヌは火の矢、ウルミラは氷の矢を、周りに20本近く召喚して放つ。

「凄いな。これが魔法か…」
初めて見る魔法に、大成は目を輝かせながら魔法に興味が湧いた。

「ぐぁっ」
「ひっ」
ジャンヌとウルミラが放った炎と氷の矢は、20人のうち14人に命中し倒した。

「おいおい、お前ら殺られ過ぎだ。しかし、驚いたな。まさか、この国のお姫様とヘルレウスのウルミラ様がお見栄になるとは、流石の俺様も思わなかったぜ。ん?お前は誰だ?新しいヘルレウスメンバーか?いや、魔力を全く感じないな。村の生き残りか?」
部下達の不甲斐なさに呆れたシュゲールは、ソファーから立ち上がる。

「すんません。お頭」
シュゲールの前に部下6人が集まり身構える。

「逃げないのか?」
大成は、シュゲールに尋ねた。

「逃げる?俺様が?ワハハハ…。なぜ逃げないといけないんだ?ガキを相手に俺様が負けるわけ無いだろう。俺様のことを知らないのか?」
シュゲールは、腹を抱えて盛大に笑う。

大成は気にしていないが、ジャンヌとウルミラは不機嫌になった。

「知っている。だから、俺と決闘しないか?」

「決闘だと?ワハハハ…マジで笑える。せっかく、3人いるのに1対1(サシ)で俺様と戦うだと、ククク…」

「俺は、村の人の敵討ちがしたいだけだ。受けてくれるよな猿山の大将」

「あぁっ!言葉使いがなってないな糞ガキ!調子に乗りやがって…。フン、まぁ良いだろう。だが楽に死ねるとは思うなよ!」
大成の決闘申し込みを、シュゲールは激怒しながら承諾した。

「お前ら、手を出すなよ!」
「わ、わかりやした。お頭!ウオォォ!」

「ということになった。手を出さないでくれ2人とも」
「た、大成!」
「た、大成さん!」
シュゲール側は信用して盛大に盛り上がり、反対にジャンヌとウルミラは大成を心配した。

「おい、糞ガキ!もちろん勝敗は、どちらかが死ぬまでで良いよな?」
「ああ、構わない」
「もちろん、勝ったら何かあるんだろうな?」
「男と男との勝負だ。何も要らないだろう?負けたら死ぬ。相手の命だけで十分だろう?開始の合図はコインを上げて地面に落ちてから開始だ。文句はないな?」
「ククク…。ああ、それで構わない。良いね…良いぞ。俺様に勝てると思っている馬鹿な奴は好きだぜ。気に入った。俺様も魔力を使わないで相手してやる。どうせ、俺様が勝つのは決まっているからな」
左右の手にシュゲールが投擲ナイフを持った大成とソファーに立て掛けていた剣を持ったシュゲールは、お互いに前に出た。
他の皆は、端に移動し2人を見守る。

「ウルミラ、すまないが合図を頼むよ」
大成はポケットからコインを取り出し、親指で弾いてウルミラにコインを渡した。

「でわ、コインを上げます」
ウルミラが親指でコインを弾く、大成とシュゲールはコインを見ずにお互いを見ている。

そして、コインが地面に落ち、チャリンと音が響いた瞬間、大成とシュゲールは同時にダッシュして距離を詰める。

大成は左右のナイフを投擲し、後ろ腰に掛けている子供から借りたナイフを抜く。

大成が投擲したナイフは一直線状に重なり、シュゲールからは1本のナイフにしか見えない。

シュゲールは剣で1本のナイフを弾いたが、弾いたナイフのすぐ後方にもう1本のナイフが顔面に迫る。

シュゲールは、慌てて顔を反らして避けたがナイフは頬を掠り頬から血が流れる。

「チッ、死にな糞ガキ!」
自分の間合いに入ったシュゲールは、剣を振り下ろした。
大成は右前に出て斬撃を避け、ナイフでシュゲールの首を狙う。
大成のナイフ捌きは、一切の無駄がなく鋭かった。

「「お頭っ!」」
心配したシュゲールの部下達は声を荒げる。

「ふっ、惜しかったな。少しは楽しめそうだ」
誰もが決まったかと思ったが、シュゲールは胸につけていたナイフを取って、そのナイフで大成の攻撃を防いだ。
そして、シュゲールは左右に持っている剣とナイフで攻撃に転じる。

「ワッハハハ、どうした糞ガキ。先までの勢いが無いぞ!」
シュゲールは、笑いながら剣とナイフで連続で攻撃をする。
だが、大成は無言で避けたり、ナイフで攻撃を受け流したりして防ぐ。


そして、シュゲールが攻撃した際に、小さな隙ができたので大成は攻撃を避けて再びシュゲールの首を狙った。

「くっ、このガキが!」
今度こそ、大成の攻撃が決まったかと思ったが、シュゲールは魔力で身体強化を使用して大成の攻撃を躱して距離をとる。

「ちょっと、あなた魔力を使わないって言ったわよね」
ジャンヌは、納得できずに口を挟む。

「ああ~!うるせぇな!もともと、命を懸けた決闘なんだ。関係ないだろうが!そもそも、使えない奴が悪いだろ!」
激怒し怒鳴ったシュゲールは、剣先を大成に向ける。

「あなたねぇ!」
「いや、奴の言う通りだ。使えない俺が悪い」
「なっ、大成!」
「大成さん!」
大成はシュゲールに肯定し、ジャンヌとウルミラは納得できずに声を荒げる。

大成は、肯定した理由が2つあった。
1つは、シュゲールの言った通りだと思ったこと。
もう1つは、魔力と魔法を使う相手と戦ってみたかったこと。
そうした理由で肯定したのだった。
ジャンヌとウルミラは、何で?という疑問の表情になった。


「そういうことだ、お姫様。だが良かったのか?せっかく、お姫様が助け船を出したのになぁ。まぁ、どうせ続きをするつもりだったけどよ!アース・ショット!」
ニヤリと笑み浮かべながらナイフを舐め、土魔法アース・ショットを唱えた。

土の弾丸12発を召喚して放ったと同時に、シュゲールは剣を構えながら大成に向かって突進する。

大成は横に走りアース・ショット全て回避したが、シュゲールに一気に距離を詰められ、気付いた時には目の前にシュゲールがおり剣を振り下ろそうとしていた。

「終わりだ!ガキ。死ねぇ!」
「~っ!?」
シュゲールのあまりの速さに大成は目を見開いて驚いたが、辛うじてナイフで防ぐことに成功した。

「ぐっ」
だがしかし、先ほどよりシュゲールの斬撃が段違いに重く、力強くなっていたため、大成は弾き飛ばされた。

「「さ、流石、お頭!」」
「た、大成!」
「た、大成さん!」
盗賊達は喜び、ジャンヌとウルミラは心配する。

「ほう、あれを防いだか。見直したぜ。だが、何処まで耐えるかが見ものだな。ワッハハハ…」
シュゲールは、魔法も組合せながら攻撃をする。
大成はシュゲールの魔法攻撃や鋭く力強くなった斬撃、素早さについていけず、上手く回避できなくなり、力負けをして弾かれたり、攻撃が掠めて掠り傷が徐々に増えていく。

「そこだ!」
「危ないところだった。だが」
大成はタイミングを見計ってカウンターでナイフで攻撃するが、シュゲールがもう片方に持っているナイフで防ぎ弾いた。

「くっ」
大成は、力負けをして吹っ飛ばされる。


「なぜ、村を襲った?なぜ、村の人を殺した?」
大成は、シュゲールの猛攻を耐えながら尋ねる。

「好き勝手して何が悪いんだぁ?弱い奴が悪いだろ!」
シュゲールは笑いながら攻撃を繰り出し、当たり前かのように答えた。

「そうか…。なら、お前を倒す」
大成は、低く冷たい声音で言う。

「ワッハハハ…。反撃もできない奴が、何を言っているんだ?」
再び、シュゲールはアース・ショットを放ったが、少しずつだが慣れてきた大成は走ったり、身体を傾けたりして全て回避する。

「チッ、すばしっこいガキだ!」
(た、偶々だ。こうなったら、魔力の消耗が激しいが仕方ない)
舌打ちしながらシュゲールは、猛攻を仕掛ける。

しかし、大成はシュゲールの魔法攻撃や剣とナイフでの攻撃を徐々に避けたり、受け流したりして弾き飛ばされる回数が減っていく。

それに気付き始めたシュゲールは、少し不安が押し寄せていく。

「アース・ニードル!」
今まで、アース・ショットしか唱えていなかったシュゲールは、地面に手を付き土魔法アース・ニードルを唱える。

大成の足元の地面から土の針3本が突き出る。

「っ!?」
大成は驚きはしたが、ジャンプして回避した。

「それを待っていた!空中ではこの攻撃は避けれまい!アース・スピア。」
シュゲールは手を前に出して、大成に狙いを定めて土魔法アース・スピアを唱える。

シュゲールの周囲に15本の土の槍が召喚され、一斉に大成に向かって放たれた。


「大成!」
「大成さん!」
ジャンヌとウルミラの悲鳴に似た声が響く。


「くっ」
ジャンプして空中にいる大成は、体を捻りながらナイフで襲い掛かってくる土の槍を全て弾いて地面に着地した。

弾かれた土の槍は、着地した大成の周りの落ちて地面に突き刺さった。

「一体、何なんだ?お前は…」
攻撃が決まるかと思ったシュゲールは、戸惑いを隠せないでいた。


「無事で良かった…」
「はい…」
ジャンヌとウルミラは、腰が抜けてその場にへたり込んでいた。


着地した大成は握っているナイフを後ろ腰のホルダーにしまい、左右の手で周りの地面に突き刺さっている土の槍を掴み、シュゲールに向かって次々に投擲する。

「うぉっ」
戸惑っていたシュゲールは、反応が遅れて防戦一方になり、衣服や右頬に掠り傷を負い、一旦、バックステップをして距離を取った。

(お、落ち着け、まずは落ち着くんだ。俺は何と戦っているんだ!?)
自分に言い聞かすシュゲールは、右頬から血が出ており右手の甲で拭う。



それから、大成とシュゲールが戦いを始めて、もう1時間近く戦い続けているのだが、未だに倒れない大成。

しかし、大成の体は、あちらこちらに掠り傷を負い血塗れになっていた。

「ハァハァ…。もう、いい加減に死ねよ!糞ガキ!」
焦りと大成の不気味な強さに対する不安がストレスとなり、シュゲールはイライラしていた。

流石のシュゲールも、魔力が底を尽きそうになっていた。

「ハァハァ…。そろそろ慣れてきたな」
シュゲールは剣を振るったが、大成は簡単に攻撃を受け流す。

「糞ガキが!」
ごり押しに出たシュゲールだが、大成に避けられたり受け流されていく。

「糞っ!」
シュゲールは、逆に徐々に魔力が弱まっていき、身体強化も弱まり、傷を負っていった。

そして、とうと身体強化が解けて立場が逆転した。

「終わりだ、シュゲール」
大成は、後ろ腰に掛けているナイフを取り出す。

「く、糞が~!」
シュゲールは、剣を振り下ろす。

大成はシュゲールの攻撃を避け、ナイフでシュゲールの心臓を突き刺した。

だが、ナイフで心臓を突き刺されたシュゲールは、執念で剣で大成に攻撃しようとする。

「ぐぁ」
しかし、大成に蹴り飛ばされ、バランスを崩したところをナイフで喉を切られて倒れた。

一向に立ち上がらないシュゲール。

「「……。」」
周りは静寂になった。

「「お、お頭~」」
膝をついたり、頭を抱えたりして部下達は嘆く。

「ウ、ウルミラ…。勝ったのよね?」
「は、はい…。か、勝ちました…」
一方、ジャンヌとウルミラは未だ実感できないでいた。


「ふぅ~」
大成は、瞳を閉じて大きく深呼吸した。

ジャンヌとウルミラは、走って大成の傍へ行き抱きついた。
「わっ!?」
突然のことで大成は驚く。

「た、大成~!」
「た、大成さん~!」
「ほ、本当に勝つなんて、信じられないわ」
「そうですよ。本当に凄すぎです」
2人は、大成の胸に顔を埋(うず)める。

「本当に死ぬかと思ったよ」
口調が戻り、大成は溜め息を吐いた。

「「えっ!」」
ジャンヌとウルミラは、大成が元の口調に戻ったことに気付き、驚いてお互いの顔を見合わせる。

「ほ、本当に心配したんだからね」
「わ、私も心配しました」
ジャンヌとウルミラは、泣きながら抱き締める力が増す。

「ごめん、心配かけたみたいだね」
大成は、優しく2人を抱き締めた。
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