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魔王候補達と勇者達

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【屋敷地下一階・夜】

外で式典が始まっていた頃、魔王候補のグランベルク、ルーニング、ガディザムの3人は、アンチ魔法の結界が施されている牢獄にいた。

アンチ魔法の結界とは、結界内では魔法が一切使用できない。

魔力を使おうとすると、魔力は結界によって吸収され牢獄の檻が強化されるシステムになっている。

「何だ?やたらと、外が騒がしいな」
グランベルクは、立ち上がった。

「そうじゃのぅ」
「ソウダナ」
ルーニングは髭を触り、ガディザムは長い舌を出して答えた。

「ああ、今、式典が始まったみたいだ。糞、俺も参加したかったぜ」
「お前らも問題を起こさなかったら、式典に出られたし、魔王になれなくても騎士団の部隊長や暗部、もしかしたら、【ヘルレウス】のメンバーになれたのにな」
看守達は、愚痴りながら溜め息をついた。 

「俺様は、魔王以外には興味がない」
「そうじゃのぅ。主役がワシじゃないからのぅ」
「ダナ」
魔王候補達は、全く興味がなかった。


「ふん、つまらん奴等だな。そんなことより、魔王に着任したのは人間の子供だってよ。聞いたか?」
「ああ。交代する前に聞いたぜ。何たって、あのローケンス様に真っ向から挑み勝利を納めたって有名になっているからな」
「でも、実際、この目で見てないから、未だに信じられねぇよな?」
「ああ。だが見た奴は、素晴らしい闘いだったみたいで感動したらしい。俺も観戦したかったぜ」
看守達は、大成とローケンスの闘いの話をした。


「おい、この国の魔王が人間になるが、お前達は納得しているのか?嫌じゃないのか?」
突然、牢獄のグランベルクに話し掛けられた看守達は振り向いた。

「気安く話し掛けるな囚人」
看守の一人がグランベルクに注意をしたが、グランベルクに睨まれ看守達はたじろぐ。


「た、確かに、そ、そりゃ、嫌に決まっている。尊敬していた先代の魔王様を倒したのは人間だからな」
「だ、だよな。でも、仕方ないだろ決まったものは決まったことだし…」
看守達は、素直に心に思ったことを話した。

「だろうな。だが、1つ、いい提案があるぞ。俺様達をここから出してくれたら、あの魔王になった人間を始末して大会を無効にしてやろう。そうしたら、やり直しになるだろ。どうだ?良い提案だと思わないか?」
「ホホホ…。それは、良い提案じゃのぅ」
「ナルホド、イイナソレハ」
笑いながらルーニングとガディザムは頷き賛同する。


「で、どうだ?お前達。良い提案だと思うが?少し、考えてみろ。魔人の国の魔王が人間になったら、他の国から確実にバカにされるぞ」
グランベルクは、看守達に提案する。

「だ、誰が、お前達みたいな囚人と取引などするものか!」
「そ、そうだぜ!」
看守達は、怯えながらも拒否した。


「ハァ~。そうか、それは残念だ。仕方ないな。平和的に解決してやろうと思ったが仕方あるまい。ガディザム頼むぞ」
頭を掻きながらグランベルクは、ため息を吐く。

「ワカッタゾ、マカセロ」
ガディザムは両手で檻を掴んで思いっきり左右に引っ張り、格子は大きく曲がって2人分の肩幅ぐらいの空間ができた。

牢獄の中は、確かにアンチ魔法の結界で魔法と魔力は封じられているが、ガディザムの素の純粋な腕力の前では無意味だった。



「フン、死にな雑魚ども」
「う、嘘だ…ろ…」
「早く、連絡…を…ぐぁ…」
グランベルクは素早く牢獄から出て、悲鳴をあげる看守達に接近して看守達が腰にかけている剣を抜きとり、そして、その剣で心臓を突き刺し殺した。


「ホホホ…。助かったわい。これから、どうするかのぅ?」
「ルーニング、あとで力を貸せ。ここから、出してやったんだ。文句は無いよな?」
「ホホホ…。怖いのぅ。まぁ、良かろう」
「フッ」
小さく笑ったグランベルク。

「コレカラ、ドウスルノダ?」

「そうだな…」
グランベルクは壁に掛けられた自分の魔剣を取り、これからのことを話す。

「まず、俺様達は一度態勢を整える必要がある。もちろん、その場所も既に決めてある。この前、町に行った時に話が聞こえてな。この国より少し南に離れた場所にパルキという国があるらしい。そこには立派な城があるそうだ。だが、その国は勇者に滅ぼされ人間が住みついているかと思われたみたいだが、周囲の魔物が強く住めなかったらしい。しかも、近くにこの国以外にも国があり、魔人の国内で城の所有で揉めた挙げ句。結局、解決しないまま誰もいないということだ。そこで、その城を俺様達が頂く予定なのだがどうだ?」

「ホホホ…。それは、良い案じゃのぅ」
「ガハハハ…。サンドウシヨウ」
「あの、俺達も連れていって下さい」
「ん?何だ?お前らは、誰だ?」
グランベルクは、声がした方に振り向いた。


「盗賊で名を挙げたブルー・スコーピオンのメンバーです。いや、メンバーでした。お頭が人間の小僧に殺られ、この通りに捕まってしまいました。おそらくですが、今回、魔王なった小僧だと思います」
魔王候補達が居た牢獄の隣には、エターヌの村を襲って、大成達に囚われたブルー・スコーピオンのメンバー達がいた。



「なるほど。別に構わないが、俺様達の下につくことになるぞ」
「「構いません!問題ないです!」」
「という訳だが、どうする?」
「ホホホ…。問題なかろう」
「ガハハハ…。ソウダナ。ブカハ、オオイホウガイイ」
魔王候補達は、ブルー・スコーピオン達を牢獄から出してやり一緒に脱獄を開始した。



脱獄は、予想以上にスムーズに進んでいった。
なぜなら、この時、大成がファイア・フラワーを唱えており夜空に鮮やかな花火を打ち上げていたからだ。

看守達は珍しい花火に釘付けとなり、ある程度の騒音は花火の音でかき消されていたのだった。
そのため、不意討ちが簡単になり、次々と看守達は何もできずに倒されていった。
そして、魔王候補達は無事に脱獄してパルキへ向かったのだった。


次の日、大成達は看守達に魔王候補達が脱獄したとの知らせが入り、慌てて捜査を始めたが、もう、この時には既に魔王候補達はラーバスには居なかった。

大成は、ヘルレウス・メンバーに相談して可能性が高いと思われるパルキに騎士団を派遣することにした。



【人間の国・バルビスタ国・バルビスタ城】

その頃、人間の国で5つある首都の内1つバルビスタ国のバルビスタ城では大騒ぎになっていた。

1人の大臣が廊下を走っていた。
「お、国王様~!た、大変ですっ!」
大広間の扉を慌てて開いた大臣は、大きな声を出して城中に声が響く。

「ノックぐらいせんか、馬鹿者!それに、騒がしいぞ大臣。何事か?お前のせいで、また負けてしまったじゃないか」
妃とチェスをしていた国王が、不機嫌に大臣を睨んだ。


「えっ?!も、申し訳ありません」
大臣は訳がわからなかったが、とりあえず謝罪した。

「まぁまぁ、あなた少し落ち着きましょう」
「そうだな。流石、ワシの妻よ愛しているぞ~!」
妃は王様を宥め、国王は妃に抱きついた。

「大臣がいる前ですよ、あなた」
妃は、そっと腕を伸ばして国王と距離をとる。


「おっと、すまん。で、慌てて、どうしたのだ?大臣よ」
「は、はい。こ、この前、月が変色した日に我らバルビスタ以外に魔人の国のラーバス国が異世界召喚をしていることが判明しました。人数は4人で、3人は膨大な魔力反応があり、1人は魔力が全くないみたいです。予測ですが新たな魔王を決めるために召喚したかと思われます」
国王の変わりように大臣はついていけなかったが、それでも、大臣は戸惑いながら説明をした。


「そんな、大切なことは早く言わんか大馬鹿者。とりあえず、速急に【聖剣】マールイ達と【時の勇者】達をここに呼べ。良いな大臣」
「ハッ!畏まりました」
大臣は、頭を下げて立ち去った。



【バルビスタ城・大広間】

大臣の呼び出しで、大広間に全員が揃った。
集まったメンバーは、国王、妃、メルサ姫。
バルビスタ騎士団の団長マールイと副団長ケルン。
3年前に、異世界召喚で召喚された男3人。
そして、今回、異世界召喚された少女2人だった。


「急に呼び出してすまない。だが、一大事が起きたのだ。魔人の国のラーバス国で異世界召喚をした反応があり判明した。予想になるが、新しい魔王を誕生されるためだと思われる。そこで、新しい魔王の討伐を頼みたい。勿論、十分な報酬も用意しよう」
真剣な表情で国王は、全員を見渡しながら説明をした。

「是非、そのお役目。私達にお任せ下さい」
第一声を発したのは、バルビスタ騎士団の団長マールイだった。

「「いや、俺達、鷹虎兄弟に任せてくれ!」」
次に、3年前に召喚された兄の鈴木鷹博と弟の鈴木虎将の双子の兄弟が強く志願する。
他は名乗りを挙げなかった。


「ねぇ、なぜ名乗らないの?1人で魔王を、いえ、魔王とヘルレウス・メンバー達を倒し、魔人の国を半壊させたことで【時の勇者】と呼ばれている貴方なら簡単でしょう?」
フードを被っている勇者に、メルサは抱きついて勇者の頬にキスをする。

マールイは、その光景を見て歯を食い縛りながら勇者を睨んだ。


「さぁ、それはどうかな。それに、今はやる気が出ないな」
「そうなのね、とても残念だわ。でも、私はあなたの活躍が見たかったわ」
「そうだったのか…」
勇者は顎に手を当て、暫く考え込んだ。


そして、勇者も手を挙げた。
「国王様、私に提案があります」
「ほう?言ってみろ。勇者よ」
「ありがとうございます。では、くじで討伐に行く2組を決めて見ませんか?残りの1組は防衛のため待機すること。あと、俺が当選した場合、最近召喚されたこの2人を同行させて経験を積ませようかと思いますが宜しいでしょうか?」
勇者は、少女2人を指名し提案した。

「「えっ!?」」
最近、召喚されたばかりの少女2人は驚きの声をあげ、そのあと戸惑った。


「ふむ、ワシは良い提案だと思う。皆も宜しいか?」
国王は、周りを見渡した。

「問題ありません」
「「了解だぜ!」」
「うむ、では、決まりだな。早速、くじで決めて貰おうか」
棒のくじで決めることになった。

ルールは簡単で、引いた棒に赤色が付いたいたら当りで討伐に行ける。
引いた棒に色が付いてなかった者は城で待機。


くじの結果、騎士団の団長達と勇者達に決まった。
「「糞っ!」」
くじに外れた鷹虎兄弟は扉を乱暴に蹴り、勝手に部屋から出ていった。

「流石ね。運も持ち合わせているのね」
「確率は3分の2だからな。自慢にならん」
「ウフフ…。そうね」
「……。」
先からラブラブな勇者とメルサ。
そして、強制的に討伐に行くことに決まった最近召喚された少女2人は呆然とした。

「フン」
マールイは、勇者を睨みつけて副隊長のケルンに振り向き、これからのことを打合せする。


「私も、ついて行くわ。良いでしょう?お父様」
「よさんか、メルサ。流石に危険だ」
「大丈夫よ、勇者がいるわ。お父様も、私と勇者との婚約を正式にお認めして下さったではありませんか。なので、夫の勇姿をこの目に焼き付けたいと思います」
メルサは、真剣な表情で王様と妃の目を交互に見つめた。


「しかし…」
「メルサ、あなたの気持ちは十分に伝わったわ。行っても良いわよ。でも、決して無理はしないこと。良いわね?あなたも、そろそろ子離れの時期よ」
「お前が、そこまで言うなら仕方あるまい…。メルサを宜しく頼むぞ。【時の勇者】よ」
言い淀む王様だったが、妃の言われて渋々と承諾した。

「娘を、よろしく頼むわね」
「お任せ下さい」
国王と妃に頼まれた勇者は、右手を胸に当て敬礼した。

「ありがとう!あなたを、信じているわ」
メルサは勇者に抱き、笑顔で再びキスをした。


そして、朝になり騎士団の団長マールイと副団長ケルンは騎士団達500人と勇者一行は、ここから一番近い魔人の国パルキへと向かうのであった。
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