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村の奪還開始と潜入

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【ナイディカの森前・ナイディカ村側】

「村に行くメンバーは、俺とローケンスさんとマキネ以上だ」
大成は、エターヌの村を奪還しに行くメンバーを決め発表した。

大成はマキネは実戦経験が豊富なので心配はしていないが、ジャンヌ、ウルミラ、イシリアの3人は確かに強く戦力にはなるが、何か予想外な出来事に直面した場合に対処できるかが不安で正直に言うと連れて行きたくはなかった。

しかし、連れていかないと、もっと面倒になるのは火を見るより明らかだった。


「私やウルミラ、イシリアはメンバーに外されているのに、何故、魔力値4のマキネが選ばれているのよ?」
納得のいかないジャンヌは、顔を訝しげな表情で大成に訊ねた。

「マキネは情報収集だけでなく、複数戦にも役に立つようになっているはずだ。マキネ、大会の時に武器と練習方法を書いた本を渡したが、出来るようなったか?」
大成は、皆に説明をしながらマキネに尋ねる。

「もちろん、バッチリだよ!ダーリン。愛の力は不可能を可能にするってね!」
マキネは、大成に向けてウィンクをした。

「「へぇ~」」
大成を睨むジャンヌ、ウルミラ、イシリア。

大成はたじろぎながらローケンスに助けを求めて視線を送ったが、ローケンスは目だけではなく顔をごと逸らした。

「ア、アハハハ…」
仕方なく、大成は苦笑いをして誤魔化した。

そんなこんなで、結局、ジャンヌ達も連れて行くことになった。



【ナイディカ村付近】

「おっ、結構いるな」
大成は木を登り、木の上から村の様子を見ていた。
鎧を着た騎士団達が、東西南北のゲートに分かれて見張りをしていた。

「修羅様。これから、どうしますか?」
ローケンスは、大成を見上げながら指示を尋ねる。
ローケンスの周りにいるジャンヌ達も、真剣な面持ちで大成を見上げていた。

「ん?ああ、よっと…」
大成は音をたてず、木から飛び降りた。

「東口はローケンス、西口はジャンヌ、南口はウルミラ、北口はマキネとイシリアだ。各自、そこから攻めて取り押さえろ。勿論、困難だったら殺しても構わない」
腰を落とした大成は、木の枝を拾って地面に絵を書き説明をした。

「大成、あなたはどうするの?まさか…」
ジャンヌは、大成本人が説明に出てきてないので不審に思ったがすぐにわかった。

「ああ…俺は一人で潜入して先に暴れる。騒ぎの音がしたら作戦開始の合図だ。もちろん、殺しはしないから安心して良い。あと、俺一人でも大丈夫だ。心配は無用だ」
不適な笑みを浮かべながら大成は頷いた。

「別に大成、あなたの心配はしてないわ。心配するとしたら相手よ。あなたと戦うことになって、本当に不敏で仕方ないわ」
ジャンヌは溜め息をしながら話すと大成以外の皆は頷いた。

「なら、問題ないな。この作戦で行く。他に質問はないか?」
大成は話を強制的に終わらし、周りを見渡したが誰も何も言わなかった。

「よし!皆、頼むぞ。各自配置について作戦開始だ!」
「「了解!」」
ジャンヌ達は一斉に敬礼し、各自行動に移した。



【ナイディカ村】

大成は気配を消たまま助走をつけ、一瞬だけ身体強化をしてジャンプし高く聳(そび)え立つ城壁に跳び移った。

ラゴゥバルサ国の騎士団達は誰も気付いておらず、大成はナイディカ村に潜入に成功した。

村の中は、意外と静かだった。
大成は、罠や見張りがないか辺りを探ったが、特に罠の痕跡や人の気配はなかった。

そんな中、中央辺りから賑やかな声が聞こえ、大成は足音と気配を消して屋根から屋根と跳び移りながら向かった。



【ナイディカ村・中央】

「ダハハハ…。ここは最高だな!美味しい酒や食べ物があり、強固な防壁もある。ダハハハ…そう思わないか?お前ら、ダハハハ…」
ラゴゥバルサ国の騎士団の団長バルダーは任務中なのだが、簡単に任務を成功して上機嫌になり酒を飲んで酔っていた。

バルダーは、ラゴゥバルサ国の王様の次男坊で、兄と違い、頭脳は駄目だが代わりに屈強な体と武術に長けていた。

その強さはラゴゥバルサ国の中で1番強く、総隊長の地位に登り詰めている。


そんな、バルダーの周りには各隊長達が集まっており、これからの作戦を会議していた。

「バルダー総隊長…。まだ任務中ですので、お酒は控て下さい」
副総隊長タストは、各隊長達を代表して注意を促した。

「おい!タスト、貴様、俺に意見をするのか?」
一気に機嫌が悪くなったバルダーは殺気を放ちながらタトスを睨む。

「い、いえ…。大変、申し訳ありません。バルダー総隊長」
タストは、冷や汗をかきながら謝った。


「お前らは、何をそんなに脅えている?相手は地に堕ちたラーバスだぞ」
バルダーはタメ息をつき、殺気を消して隊長達に聞いた。

「ですが…。あの【魔王の片腕】と謂われているローケンスを倒し、新しい魔王が誕生したと情報が入っております」
タトスが理由を話し、周りの隊長達も無言で頷いた。

「お前らは馬鹿か?新しい魔王は人間の子供だぞ。普通に考えればわかるだろ。ローケンスが負けるわけがないとな。ただ、ローケンスは魔王になれなかったんだ。勇者に大敗した奴が魔王になっても、民は不安になるだろ。そこで、魔人よりも人間、しかも、子供がローケンスを倒したという偽情報を流し魔王にすることで、化け物の子供という設定となり、勇者と同じ人間の化け物だから、互角の強さを持っていると思わせ、民を安心させるために魔王にした。そして、ただ魔王と名乗るだけではなく、修羅をつけることで、更に強さをアピールしたと考えられるだろ」
バルダーは、自信に満ちた顔をして説明をした。


「「な、なるほど!」」
隊長達は、納得し頷いた。

「凄いです、流石です。バルダー総隊長」
「地に堕ちたラーバスが、やりそうな姑息な作戦ですな」
「その、考えは正しいと思います」
「だな」
など、隊長達は決めつけた。

「まぁ、兄貴の考えだけどな!ダハハハ…」
盛大に笑うバルダー。

「「流石、我らの王!」」
「この村の占拠したんだ。だから、乾杯するぞ!」
「「はい!」」
隊長達も笑いながら、乾杯するために酒に手を出そうとした時だった。

「へぇ~、なるほど。確かに、そんな考え方もできるな。だから、お前達は攻めて来たのか?」
隊長達の頭上から声が聞こえバルダー達は、一斉に声がした方に振り向いた。

声を発したのは大成だった。


バルダー含む隊長達は立ち上がり、自分達の武器に手を伸ばして屋根の上にいる大成に向けて殺気を放った。

大成は片足を前に出して立っている状態で、そのまま屋根から飛び降りた。

「「~っ!?」」
目の前で大成が屋根から飛び降りたのを見ていたはずなのに、着地した音が聞こえなかったことや目の前に居るのにもかからわずに気配が全く感じない。
まるで幽霊の様に感じた隊長達は、あまりの大成の不気味さに息を飲み込みながらたじろいだ。

「ん?どうした?」
大成は、首を傾げながら尋ねる。

「お前が、新しく魔王になった人間か?」
強さ=魔力と腕力で決まると思っているバルダーは、大成の不気味さを感じておらず平然と大成を人差し指でさして確認する。

「そうだが。魔王修羅と言えばわかるか?」

「ダハハハ…。見ろよ、お前ら!魔力どころか気配も全く感じられない。ただの子供だぞ!」
大成が肯定した瞬間、バルダーは笑い出した。

「その様ですね、ハハハ…」

「俺達が魔王修羅という名前だけで、ビビると思うなよ。ククク…」
隊長達も嘲笑っていたが、ただ一人、タストだけは全身に冷や汗をかきながら震えていた。

タストは大成を見た瞬間、1秒でも早く、この者から逃げろと本能が警告を最大限に鳴らし訴えていた。


「残念だったな。お前は馬鹿だ。俺達が情報だけでビビるとでも思っていたのか?しかも、一人で乗り込んでくるとはな。ダハハハ…馬鹿は、この場で死ね!」
バルダーは叫びながら身体強化をして背中に掛けていた斧を取り、両手で握って大成に突っ込んだ。

隊長達も身体強化をしバルダーに続いたが、タストだけはその場から逃げた。

「グリモア・ブック、レゾナンス」
大成はグリモアを召喚して、精神干渉魔法レゾナンスを唱えた。

(マキネ、イシリア、そっちに一人向かった。取り押さえろ)
(わかったよ、ダーリン)
(わかったわ、大成君。あと、少し聞きたいことがあるのだけど良いかしら?)
(ん?何だ?)
(大浴場で、マキネとエターヌちゃんを脱がして、裸を見たというのは本当なの?)
(~っ!い、今は話すことじゃないから…)
狼狽した大成は、レゾナンスを強制的に切った。


「ダハハハ…。今更、焦っても、もう遅い!」
バルダーは、大成が狼狽したのは魔王修羅と名乗っても自分達が逃げなかったことだと勘違いをしていた。

そして、バルダーは大成に接近し巨大な斧を横に凪ぎ払う。
大成はジャンプして回避し、バルダーと隊長達の後ろへ着地した。

巨大な斧は、勢い良く教会の横壁にぶち当たり大きな音が響いたが弾かれた。

教会の横壁には、小さな傷がついただけだった。

「くっ、何なんだ!?この建物は。どんな素材でできているんだ!」

大成は教会に隠し避難通路も設置する計画を立てた。

そのため、頑丈で強固な建物にするために大成が魔法で教会を造ったので、魔力が飛び抜けて高い者の禁術でもない限り破壊は不可能な建物になっていた。

「何だ、その程度か。だが、村を襲ったことは許さんぞ」

「フン、まだ俺はまだ本気を出していない。それに、許すも許さんもない。貴様は、ここで死ぬのだからな。お前ら殺れ!」

「「死ねぇ~!」」
隊長達は雄叫びあげながら大成に接近する。
大成は身体強化もせず、その場から動かなかった。


「ビビって動けないのか?」
「魔王修羅の首、俺が貰った~!」
動かない大成に隊長達は襲いかかる。


先頭走っていた1人の隊長が剣を振り下ろして斬りにかかったが、大成は左手で隊長の手首を掴み隊長の鳩尾に右の肘打ちをした。

隊長は、「く」の字になり剣を落とし両手で腹を抱えた。

「なるほど。やはり、的確に決めても身体強化されると気絶はしないか」
悶絶している隊長の姿を見て、大成は納得した。

そんな大成の横から槍使いの隊長が鋭い突きを放ったが、大成は悶絶している隊長を掴み、横に引っ張って盾にする。

「ぐぁっ」
盾にされた隊長は背中を刺され息絶えた。

「あっ、すまん」
つい、大成は謝ってしまった。

「よくも、仲間を盾にしてくれたな!」
槍使いの隊長は、仲間を盾にされことに激怒する。

大成は、刺された隊長の身体を足で蹴り飛ばし、槍を抜けにくくしたと同時に槍使いの隊長のバランスを崩した。

そして、その場で回転して遠心力をつけた回し蹴りで槍使いの隊長の顎を打ち抜いた。

「ぐぅっ…」
槍使いの隊長は少し仰け反り、ふらつきながら尻餅をついた。


大成は、追い討ちをしようとしたが殺気と気配を感じ取り、すぐさま右に移動する。

大成が移動した直後、背後から分銅が飛んできた。

分銅は尻餅をついた槍使いの隊長の額を打ち抜き、隊長は血を流しながら後ろに倒れた。


「ほう。あれを避けるとは警戒に値するぞ」
鎖鎌使いは、分銅を自分の手元に戻して振り回しながら大成を見てニヤつく。

「へぇ~、鎖鎌か。珍しい武器を使うんだな」
大成も笑みを浮かべながら、鎖鎌使いに接近する。

鎖鎌使いは、分銅を大成に向けて投げつける。
大成は走る方向を変えず、真正面に一直線に走りながら頭を傾けて避ける。

だが、鎖鎌使いは慌てる様子が全くなく、笑顔を浮かべたまま鎖を持っている手を動かした。
鎖は生き物の様に動き、大成の首に巻き付こうと軌道を変えた。

大成はしゃがみ回避したが、それを待っていたかの様に鎖鎌使いは大成の目の前まで接近していた。

「信用していたぜ!」
鎖鎌使いは、右手に持っている鎌を振り下ろす。
大成は、一歩前に出ながら鎌を持っている右手と胸ぐらを掴み、背負い投げをした。 

だが、大成は鎖鎌使いを地面に叩きつけるのではなく、最後の1人バルダーに投げつけた。

「な、なんだと!?」
鎖鎌使いは、投げられたことに驚いた。

「うぉっ」
「邪魔だな」
槍使いが飛んできたので、バルダーは斧を構える。

「お願いです!バルダー総隊長、攻撃しないで下さい!」
鎖鎌使いは命乞いをしたが、バルダーは容赦なく持っている巨大な斧を振り下ろした。

「やめてくれ~!ぎゃ~」
鎖鎌使いは、血を飛び散らかしながら無惨に死んだ。


「おい、躊躇いもなく仲間を殺すのかよ」
「弱い部下はいらん」
バルダーは巨大な斧を振るい、斧についた血を飛ばした。

「容赦なく部下を斬るお前とは気が合わないな」
大成は冷たい目でバルダーを睨んだ。
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