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お弁当と作戦
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【クラスマッチ・南会場】
会場は静まり返っていた。
殆どの人達は両手で耳を塞ぎ、しゃがみこんだ状態で恐る恐る頭を上げて周りを見渡していた。
「しゅ、修羅様が、俺達を助けてくれたぞ!」
1人の男の呟きが会場に響いた。
「「修羅様~!」」
「「修羅、修羅、修羅…」」
会場は修羅コールが鳴り響いた。
「皆さん、静かにして下さい!まだ、試合が終わってません。ご静粛に!」
先生達が呼び掛けるが、なかなか修羅コールは止まなかったが次第に会場は静まっていった。
「勝者、2組チームイーター」
ジャッジの先生はギシマムとラシカが気絶していることを確認して片手を上げ勝利宣言すると同時に、会場から拍手が鳴り響く。
そして…。
「俺、初めて見た!あんな巨大なゴーレムと炎の大剣を。アレって、2つとも禁術だろ?あの歳で、よく禁術とか使えるよな!しかも、続けてだぞ!流石、修羅様だ!」
男は片手を前に出し、興奮しながら魔王修羅のことを熱く語る。
「そうだな、それもあるがコレを見ろよ。ニラミス産の刀だぜ。修羅様は自分のことだけでなく、俺達の見えないところで動いてくれて分裂した他国との絆を修復して下さったり、今まで知らなかった他国との同盟を結んで下っているから今まで以上の品物が市場に出回ってきているんだ」
「へぇ~、他国との貿易も順調に進んでいるのか。何でも出来るな修羅様は」
「ああ、本当にそうだな。あの人が魔王になって本当に良かった」
男達は、会話が弾みながら会場を跡にした。
競技の内容よりも、途中で現れた魔王修羅の話題で盛り上がっていた。
大成は、苦笑いしながらルネルに話しかける。
「お疲れ様、ルネル」
「あっ、や、大和君…」
未だに呆然としていたルネルは、大成に声を掛けられ我に返った。
「ねぇ、夢じゃないよね!?ほ、本当に私達の間近に修羅様が現れて助けてくれたのよね!?」
「そ、そうだね…」
興奮しているルネルは大成を詰める様に間近まで近寄り、大成は対応に困った。
「嗚呼~、思い出したら鳥肌が立つわ。大成君も見たでしょう?何?あの巨大なゴーレム。今までみたことないわ。とても、凄かったよね!ねぇ、そう思わない?大和君!ねぇ!ねぇ!」
「う、うん、そ、そうだね…」
「まさか、修羅様が見に来ていたなんて思ってもみなかったわ!」
「そうだね…」
「でも、とても嬉しいよね。私達の闘っている勇姿を見て頂いただけただでも。ねぇ、そう思わない大和君!」
「う、うん」
(やはり、僕の正体が魔王とバレない様にしないと、今まで築き上げた関係が壊れそうだな…)
大成は心の中で思いながら、苦笑いしたまま相槌をついきながらルネルと一緒に会場を跡にした。
1組のギシマムとラシカは目を覚ましており、何が起きたのか全く理解できず、今も呆然としたまま地面にへたり込んでいた。
一方、ランドニーは魔王修羅が出てくるという想定外な出来事で計画が失敗に終わり顔が真っ赤になるほど苛立ち手に持っていた魔法アイテム・アイス・シールドを力強く握り締める。
「糞が!どうしてだ!なぜ、私の計画通りにことが進まないんだ!」
ランドニーは、握り締めていたマジックアイテム、アイス・シールドを地面に叩きつけアイス・シールドは、粉々に砕けた。
「ハァハァ…。まぁいい、午後のサバイバルであの人間の餓鬼を確実に仕留めてやる」
ランドニーは呼吸を整えると口元がニヤリと歪ませ、自分の生徒達を放置したまま会場を跡にする。
マキネは、偶然、ランドニーの近くの観客席で棒付きのアメ玉を加えて通っていた。
「主犯は、あの人みたいだね。早く、ダーリンに知らせなきゃ。フフフ…何だか面白くなりそうな予感♪」
マキネは、嬉しそうに大成の元へ向かった。
競技の射的の結果は、大成のクラスメイト達は32人中、1、2、4、5位だった。
去年は皆は順位が20後半だったので、それを比べれば比較的に良い成績だ。
理由は、大成は射的に出場するクラスメイト達に、クイックドローという技術を教えたからだ。
クイックドローとは早打ちだが、標的にほぼ同時に着弾する技術。
射的の競技は、1対1で対戦する。
渡された武器に魔力を込めると魔力の塊が発射されるという仕組みで、標的のボールを先に破裂させた人が勝利となる。
魔法カードバトルと同じで、膨大な魔力を込めても撃ち出される魔力弾の威力は変化しない。
その代わり、それだけなのでインターバルとかないので技術の差が出る競技だった。
競技のルールは、標的のボール以外に多くのダミーボールが飛んでいる。
クラスメイト達はクイックドローを使用して初弾で邪魔なダミーを貫通させ道を作り、タイムロスなしに、ほぼ同時に着弾する次弾で標的のボールを破裂させていったのだった。
【ラーバス学園・屋上】
午前中の競技が終わって昼休憩になり、誰もいない学園の屋上に大成、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアは集まっていた。
マキネは、ランドニーのことを皆に話した。
「ありがとうマキネ。良い情報だよ。標的は、やはり僕か…」
大成は、顎に手を当てながら考え込む。
ジャンヌ達は大成が気になり、ジャンヌが大成の顔を除き込んだ。
「どうしたの?大成」
「いや、僕はランドニー先生に関わったことないし、別に恨まれることは一切してないと思ったから何で恨まれているのかなって」
「おそらく、それはですね。ランドニー先生は、異種族や自分より強者を嫌っている傾向がありますので…」
ウルミラは、言いづらそうに答える。
「それは合ってるわね。ランドニー先生の態度を見れば、一目瞭然にわかるわ。ジャンヌやウルミラは、地位が姫様と【ヘルレウス】のメンバーだから、それほど嫌われていないけど。私やマーケンスは、微妙な立ち位置にいるから嫌われているわね。言いたくないけど、人間族は下等種族と思われているから私とマーケンスに勝った大成君は人間族で魔力値2なのに、周りからランドニー先生より強いと噂されているから、なお嫌われているかもね」
イシリアは、最後に馬鹿らしいと言いながら溜め息をする。
「そんなことで、殺すほどなのかな…」
大成は、呆れ果てた。
「ランドニー先生は、貴族の中で上層の貴族ですからプライドが高いと思われます」
ウルミラは事情を話した。
「確かに、あの人は特にプライドが高いのよ」
「否定できないわね」
「そうか、貴族なら納得できるね」
ウルミラに肯定するジャンヌ、イシリア、マキネ。
「そういうものなのかな…。まぁ、サバイバルで襲ってくるとわかっていれば楽だし」
「え~!まさか、ダーリンはサバイバルは棄権するつもりなの?」
マキネは、残念そうな面持ちで人差し指を立て口元に当てて首を傾げる。
「当たり前よ。大勢から襲われるって、わかっていて出場する人なんていないわ。ねぇ、大成君」
イシリアは肩を竦めた。
「いや、出場する予定だよイシリア。もし出場しなかったら、強硬手段を取って動かれると周りに多大な迷惑が掛かる可能性が高いし。それに、少しでも優勝できる可能性を上げたいからね。まぁ…。俺も、そろそろ堪忍袋が限界だしな」
話の途中で怒りが込み上げた大成は、威圧感が増大し言葉使いが変わる。
「「~っ!」」
ジャンヌ達は、大成の威圧感でビックっと体を震わせた。
以前に比べたら耐性はできたが、それでも、やはり慣れなかった。
「あ、ごめん。つい、感情的になってしまった」
大成は慌てて威圧感を消して謝罪する。
「はぁ~、わかったわ。その代わり、わかっているとは思うけど人前では殺害しちゃダメよ。大成」
ジャンヌは、仕方ないという感じで溜め息をして条件を出した。
「勿論、わかっているよ」
他の皆も、仕方ないという感じで納得した。
「ジャンヌ、それって見えないところでならやっちゃって良いって言っているもんだよ」
「当たり前でしょう、マキネ。相手は命を狙って来ているんだから」
「まぁ、ジャンヌの言う通りね。でも、何だか相手が可哀想ね。雇われたとはいえ、ターゲットがよりにもよって大成君だなんてね」
「ハハハ…同情しますね。そろそろ、ご飯にしませんか?」
愛想笑いしたウルミラは、胸元で両手を合わせて提案する。
「「そうね」」
「そうしようよ」
大成以外は、自分達の鞄から弁当を出した。
「じゃあ、僕は食べ物を買ってくるよ。ついでに、皆の分の飲み物でも買ってこようか?」
大成は立ち上がり、学園の売店か食堂、もしくは、今日はクラスマッチのイベントで屋台で済ませようと考えて、向かおうとした。
「「ま、待って…」」
ジャンヌ達は、声が揃った。
「ん?」
大成は、怪訝な顔をして振り返る。
「た、大成の分も作ったから、良かったら食べて欲しいのだけど…」
「わ、私も、た、大成さんの分を作ってきました」
「ダーリン、私もだよ」
「もし良かったら、わ、私の弁当もどうかしら?大成君」
ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアは頬を赤く染め、鞄から大成の分の弁当を出した。
ジャンヌ達は大成の弁当のことで皆で話し合い、それぞれミニ弁当を作ることにしたのだった。
「え?本当に食べて良いの?」
首を傾げる大成。
「「もちろん!」」
「もちろんです!」
「もちろんだよ!」
ジャンヌ達は返事をする。
「ありがとう、皆!」
大成は、それぞれから弁当を貰い開けてみた。
「わぁ~!とても美味しそうな弁当だね」
ジャンヌとウルミラの弁当は、2人で一緒にそれぞれ作り、肉、野菜がバランスよく、中身は同じ内容の弁当。
マキネの弁当は、肉が主なボリューム満点のステーキ弁当。
イシリアの弁当は、魚が主な和風の海鮮弁当だった。
しかし、この中に1つだけ危険だと本能が訴えている弁当があった。
それは、ジャンヌの弁当だった。
ウルミラ、マキネ、イシリアも、その異変に、いや異質さに気付いた。
ウルミラは自分と同じ料理のはずなのに、どこか違うことに気付いて疑問に思い、マキネとイシリアは本能が危険だと感じて身を引きながらジャンヌの弁当を凝視する。
(ジャンヌの弁当は、ウルミラと見かけは全く同じに見えるんだけど…。なぜか、うっすらと黒いオーラーが人の顔の様に見えて叫び声を上げているかの様に聞こえそうなんだけど…。えっと、確かこういのは何だったかな…。あ、そうだ。シミュラクラ現象とか言うんだったかな…)
大成は、恐る恐るジャンヌとウルミラに視線を向ける。
ウルミラは、何故こうなったかわからないという表情で顔を引き攣っており、一方、ジャンヌは何も気付いておらず首を傾げていた。
「どうしたの?大成」
「いや、そ、その…ん?あれ?ジャンヌの持っている弁当は?」
大成は、ジャンヌが自分で食べる弁当には危険な感じが全くしないことに気付いて尋ねる。
「あ、これはね。そ、その、大成。あなたの弁当を作ることに夢中になって自分の分の弁当を作るのを忘れていたの。そのことにウルミラが気付いて、私の分まで作ってくれたの。あとから聞いたら、集中している私を気遣ってくれたのよ。ウルミラは気が利いてて流石だわ。大成、その…初めて作った弁当だけど、自信はあるわ」
頬を赤く染めて答えるジャンヌ。
(なるほど。これは、もう覚悟を決めるしかない状況だな…)
一度瞳を閉じ、大成は覚悟を決める。
「そういえば、イシリアは僕達と一緒にここで食事とって良いの?ローケンスさん達が応援に来ていたけど」
「ちゃんと伝えてきたから大丈夫わよ。大成君」
心配した大成だったが、イシリアは笑顔で答えた。
「そうなんだ、良かった。こうして、皆揃って食事をとることができて。皆、弁当ありがとう!じゃあ、食べようか。頂きます!」
「「頂きます!」」
皆で合掌した。
大成は、まずイシリアの弁当から頂くことにした。
「どうかしら?大成君」
イシリアは、不安そうに見つめて尋ねる。
「うん、美味しいよイシリア。特に、この魚は酢が効いてて味がギュッと引き締まっていて美味しいよ。ありがとう。イシリア」
大成は、メインの新鮮な白身魚の刺身を絶賛した。
「口に合って良かったわ。私も好きな料理なの」
イシリアは、ホッとし笑顔になった。
次に大成は、マキネのステーキ弁当を頂くことにした。
「マキネのは、厚切りでボリュームあるステーキ弁当だね」
「そうだよ。しかも、この肉はね。今日、私が一人で狩ったバルトニクッスのヒレ肉の部分だよ」
「凄いね!マキネ。バルトニクッスは指定4の危険な魔物だよね。もう、一人で倒せるようになったんだ。凄いな」
「でしょう!もっと、褒めてダーリン」
胸を張るマキネ。
「おお!舌の上で、とろけるような柔らかくって奥深い味だね。それを、さらに美味しさを引き出してるのは、この酸味のあるソース。美味しいよ。ありがとう、マキネ」
「でしょう!このソースは、いくつもの試作品を作って、やっと完成した自慢のソースなんだよ」
マキネは、ウィンクした。
次の弁当はウルミラの弁当を選んだ、大成。
「うん、見た目だけでなく栄養バランスもよく整った弁当だね。おっ、この卵巻きはフワフワして中は半熟でとろけている。ん?これは、だし巻きだね。卵の旨味を邪魔しないように味とコク、そして、深みを引き出している」
「お口に合って、良かったです。そのだし巻きは、初めてお母様と一緒に作った料理なんです」
笑顔で胸元の前で両手を合わせて、ウルミラは喜んだ。
(そういえば、ウルミラの母・ウルシアさんとジャンヌの母・ミリーナさんに会ってないな。おそらく、勇者の事件で…)
大成は、ウルシアとミリーナを思い出した。
そんな大成の表情を見たジャンヌとウルミラは、すぐに理解したが表情には出さなかった。
「最後は、私の弁当ね。食べてみて、大成」
雰囲気を変える感じで、ジャンヌは自分の弁当を進める。
「じゃあ、頂くよ…」
恐る恐る大成は箸をとった。
ジャンヌと大成は、ドキドキしている。
しかし、2人のドキドキは違った。
ジャンヌは自分の弁当は大成の口に合うかで緊張し、大成は食べても大丈夫なのかと緊張したドキドキだった。
そして、だし巻きを箸で摘まみ上げた大成。
大成は、だし巻きを見詰めた。
見かけは、ウルミラと同じだった。
しかし…。
どうしても何故か、だし巻きから人の顔が見えて叫び声まで聞こえてきそうなのだ。
(き、気のせいだ。そうに違いない。大成、お前は今まで毒耐性を得るために、いろいろな毒を摂取してきたんだ。今回は、きっと今までの努力が生かせる。いや、今までの努力は、この日のためだったんだ…きっと…)
冷や汗をかきながら、大成は自分に言い聞かせる。
ウルミラ、マキネ、イシリアは心配そうに大成を見ていた。
そして、大成はゴクンっと空気を呑んで目を瞑ったまま、だし巻きを食べる。
「あれ?ウルミラと同じで、美味しい…」
口に入れた瞬間は、驚くことにウルミラと同じ味だったが…。
「ん?何これゴリゴリしているのと、魚の骨みたいなのが沢山入っている!?」
(しかも、何か凄く生臭いぞコレ!?)
大成は吐き気がしたが、必死に飲み込んだ。
「フフフ…。隠し味にシー・モンスターの肉を骨ごと微塵切りにして入れたのよ。漢方薬の本を見たらシー・モンスターの骨は、滋養効果があり、疲れやダルさを改善するって書いてあったの」
自信満々で説明するジャンヌ。
(いや、僕も読んだことあるけど。確か微塵切りではなく、乾燥させ粉末にしないと、生臭く、効果が薄いって記載されていたはず。しかも、隠し味って言っているけど、全く隠れてないよジャンヌ…)
「あ、ありがとう、ジャンヌ。体調を考えてくれて…」
大成は、必死に笑顔を浮かべてお礼を言った。
(皆の弁当を完食しているし、の、残したら不味いよな…)
他にもいろいろと工夫が施されており、やたらと酸っぱい物や辛い物、ドロドロしている物があった。
そんなこんなで、頑張ってどうにか完食した大成。
「お、おいCかっ…た…よ…」
大成は、すでにノックアウト寸前だった。
「フフフ…良かったわ。作ったかいがあったわ」
口元に手を当て喜んでいるジャンヌ。
ウルミラ、マキネ、イシリアの3人は、頬を引き攣って見守っていた。
「ひ、姫様」
「何?ウルミラ」
「こ、この前、売店で、是非一度は大成さんに飲んで貰いたい飲み物があると言っていませんでしたか?」
「あっ、そうだったわね。ありがとう、ウルミラ。せっかく、だから買ってくるわ」
ジャンヌは立ち上がり、売店へと向かった。
「大成さん、すみません。まさか、姫様の料理があれほど凄いとは思っていませんでした。大丈夫ですか?」
「ダーリン、生きている?」
「大成君、午後の競技に出られる?」
ウルミラ達は、大成を心配した。
大成は体を震わせて痙攣を起こしながら「何とか」、「かろうじて、生きているよ」、「わからない」っと答えた後、気を失い後ろに倒れた。
「大成さん!」
「ダーリン!」
「大成君!」
ウルミラ達は、慌てて大成の脈を診て保健室へと運んだ。
【ラーバス学園・保健室】
「ぅ~ん…」
大成は目を覚ますと、白い天井が見えた。
「あれ?ここは?」
「保健室だよ、ダーリン」
大成は保健室のベッドから起き上がり、傍に居たマキネが答えた。
「え!?しまった。競技のサバイバルは終わった?」
思い出した大成は慌てた。
「大丈夫だよ、ダーリン。今、ジャンヌ達の女子のバルーンが始まったところだよ。サバイバルは、その次だから安心して」
慌てる大成を見て、マキネはクスクスと笑う。
「看病ありがとう、マキネ」
「どういたしまして、ダーリン」
「ん!?」
マキネは、そっと大成の唇に自身の唇を合わせた。
「えへへ…。行こう、ダーリン」
「う、うん」
マキネは頬を赤く染めて呆然としている大成の手を引っ張り、ジャンヌ達の応援するためにバルーン競技をしている東会場へと向かった。
【東会場】
その頃、ジャンヌ達はバルーン競技の準備をしており、ルネルは大成の心配をしていた。
「あの、ジャンヌ様。大和君は大丈夫なのでしょうか?」
ルネルは会場に向かっていた時、ウルミラ達が意識のない大成を保健室に連れて行く姿を目撃していたのだ。
「大成は、大丈夫よ。ただの食べ過ぎで、倒れただけだから」
ジャンヌは、呆れた表情で話す。
「そ、そうですね…」
「そ、そうね…」
事情をしっているウルミラとイシリアは、苦笑いしながら肯定する。
ウルミラとイシリアの反応を見て、何か違うような気がしたルネル。
ジャンヌ達は作戦を確認し合っていた時、ルネルは大成を見つけた。
「あっ、あれ、大和君じゃない?」
「大成さん。本当に無事で良かったです」
「「そうね」」
大成の無事を知り、ジャンヌ達の表情が明るくなった。
ジャンヌ達は円陣を組み片手を前に出し重ねた。
「今年こそは、総合優勝するわよ」
「「はい!」」
「もちろんよ」
「ファイト~!」
「「オオ~!」」
ジャンヌの掛け声と共に、一斉に勢いよく手を上げた。
前回、去年のバルーン競技は開始直後、一斉に周りから狙われジャンヌ、ウルミラペアは耐えて優勝したが、イシリア、ルネルペアは魔力切れになり、途中で攻撃を貰い失格になってしまった。
そのことで、イシリアはリベンジに燃えていた。
今回は、大成が作戦と練習メニューを考えてくれた。
「今日は、去年の屈辱を返さないとね」
「そ、そうね」
「「そうですね」」
イシリアの背後に般若が見えた気がしたジャンヌ達。
バルーンが、それぞれのペアに行き渡った。
「「エア・バースト」」
それぞれ風魔法エア・バーストを唱え、バルーンを空中に浮かせる。
周りの皆はジャンヌ達を見ており、誰もがジャンヌ達を狙っていることを隠さないでいた。
「皆さん、準備は良いですか?では、バルーン競技開始!」
先生の開始の合図で、一斉に魔法を唱える。
「「ファイア・アロー」」
「「アイス・ミサイル」」
「「エア・カッター」」
「「アース・ショット」」
もちろん、前回と同じで標的はジャンヌ達だった。
「「エア・ブロー」」
ウルミラ、イシリアは風魔法、エア・ブローを唱えてバルーンの下から突風を巻き起こし、バルーンを急上昇させて周りの攻撃魔法を回避する。
大成の作戦は、ただ回避した訳ではなかった。
開始直後、バルーンを少し低めの位置に宙に浮かすことにより、攻撃魔法を回避した際に反対側の上に浮いている他のクラスのバルーンに魔法が当たるような位置取りをしていたのだ。
そのことにより…。
「「えっ!?」」
「「きゃっ!」」
「「エ、エア・アーマー」」
「「ア、アイス・ブロック」」
慌てるペアや何もできないペア、魔法の発動に失敗して防御失敗するペアが多く、あっという間に相討ちが発生して他のクラスのペアは減少した。
「アイス・ミサイル」
「ファイア・アロー」
「エア・スラッシュ」
「アース・スピア」
あとの残りの他のクラスのチームは動揺しており、その間にジャンヌ達が攻撃魔法で倒していった。
あっという間にジャンヌ、ウルミラペアとイシリア、ルネルペアだけになった。
「勝負よ!ジャンヌ、ウルミラ!」
「受けて立つわイシリア!、ルネル!」
最後はジャンヌ、ウルミラペアとイシリア、ルネルペアの妨害なしの真っ向勝負をし、ジャンヌ、ウルミラペアが勝った。
ジャンヌ、ウルミラペアは優勝。
イシリア、ルネルペアは2位となった。
他のペアは居ないので、他のクラスは獲得ポイント0になり、2組のチームイーターは2位の1組との差を更に広げた。
「今年は負けたけど。来年また勝負よ、ジャンヌ、ウルミラ!」
イシリアは、ジャンヌに指をさして宣言した。
「ええ、受けて立つわ」
ジャンヌとイシリアは、お互い握手をした。
こうして、バルーン競技は終わりを告げた。
会場は静まり返っていた。
殆どの人達は両手で耳を塞ぎ、しゃがみこんだ状態で恐る恐る頭を上げて周りを見渡していた。
「しゅ、修羅様が、俺達を助けてくれたぞ!」
1人の男の呟きが会場に響いた。
「「修羅様~!」」
「「修羅、修羅、修羅…」」
会場は修羅コールが鳴り響いた。
「皆さん、静かにして下さい!まだ、試合が終わってません。ご静粛に!」
先生達が呼び掛けるが、なかなか修羅コールは止まなかったが次第に会場は静まっていった。
「勝者、2組チームイーター」
ジャッジの先生はギシマムとラシカが気絶していることを確認して片手を上げ勝利宣言すると同時に、会場から拍手が鳴り響く。
そして…。
「俺、初めて見た!あんな巨大なゴーレムと炎の大剣を。アレって、2つとも禁術だろ?あの歳で、よく禁術とか使えるよな!しかも、続けてだぞ!流石、修羅様だ!」
男は片手を前に出し、興奮しながら魔王修羅のことを熱く語る。
「そうだな、それもあるがコレを見ろよ。ニラミス産の刀だぜ。修羅様は自分のことだけでなく、俺達の見えないところで動いてくれて分裂した他国との絆を修復して下さったり、今まで知らなかった他国との同盟を結んで下っているから今まで以上の品物が市場に出回ってきているんだ」
「へぇ~、他国との貿易も順調に進んでいるのか。何でも出来るな修羅様は」
「ああ、本当にそうだな。あの人が魔王になって本当に良かった」
男達は、会話が弾みながら会場を跡にした。
競技の内容よりも、途中で現れた魔王修羅の話題で盛り上がっていた。
大成は、苦笑いしながらルネルに話しかける。
「お疲れ様、ルネル」
「あっ、や、大和君…」
未だに呆然としていたルネルは、大成に声を掛けられ我に返った。
「ねぇ、夢じゃないよね!?ほ、本当に私達の間近に修羅様が現れて助けてくれたのよね!?」
「そ、そうだね…」
興奮しているルネルは大成を詰める様に間近まで近寄り、大成は対応に困った。
「嗚呼~、思い出したら鳥肌が立つわ。大成君も見たでしょう?何?あの巨大なゴーレム。今までみたことないわ。とても、凄かったよね!ねぇ、そう思わない?大和君!ねぇ!ねぇ!」
「う、うん、そ、そうだね…」
「まさか、修羅様が見に来ていたなんて思ってもみなかったわ!」
「そうだね…」
「でも、とても嬉しいよね。私達の闘っている勇姿を見て頂いただけただでも。ねぇ、そう思わない大和君!」
「う、うん」
(やはり、僕の正体が魔王とバレない様にしないと、今まで築き上げた関係が壊れそうだな…)
大成は心の中で思いながら、苦笑いしたまま相槌をついきながらルネルと一緒に会場を跡にした。
1組のギシマムとラシカは目を覚ましており、何が起きたのか全く理解できず、今も呆然としたまま地面にへたり込んでいた。
一方、ランドニーは魔王修羅が出てくるという想定外な出来事で計画が失敗に終わり顔が真っ赤になるほど苛立ち手に持っていた魔法アイテム・アイス・シールドを力強く握り締める。
「糞が!どうしてだ!なぜ、私の計画通りにことが進まないんだ!」
ランドニーは、握り締めていたマジックアイテム、アイス・シールドを地面に叩きつけアイス・シールドは、粉々に砕けた。
「ハァハァ…。まぁいい、午後のサバイバルであの人間の餓鬼を確実に仕留めてやる」
ランドニーは呼吸を整えると口元がニヤリと歪ませ、自分の生徒達を放置したまま会場を跡にする。
マキネは、偶然、ランドニーの近くの観客席で棒付きのアメ玉を加えて通っていた。
「主犯は、あの人みたいだね。早く、ダーリンに知らせなきゃ。フフフ…何だか面白くなりそうな予感♪」
マキネは、嬉しそうに大成の元へ向かった。
競技の射的の結果は、大成のクラスメイト達は32人中、1、2、4、5位だった。
去年は皆は順位が20後半だったので、それを比べれば比較的に良い成績だ。
理由は、大成は射的に出場するクラスメイト達に、クイックドローという技術を教えたからだ。
クイックドローとは早打ちだが、標的にほぼ同時に着弾する技術。
射的の競技は、1対1で対戦する。
渡された武器に魔力を込めると魔力の塊が発射されるという仕組みで、標的のボールを先に破裂させた人が勝利となる。
魔法カードバトルと同じで、膨大な魔力を込めても撃ち出される魔力弾の威力は変化しない。
その代わり、それだけなのでインターバルとかないので技術の差が出る競技だった。
競技のルールは、標的のボール以外に多くのダミーボールが飛んでいる。
クラスメイト達はクイックドローを使用して初弾で邪魔なダミーを貫通させ道を作り、タイムロスなしに、ほぼ同時に着弾する次弾で標的のボールを破裂させていったのだった。
【ラーバス学園・屋上】
午前中の競技が終わって昼休憩になり、誰もいない学園の屋上に大成、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアは集まっていた。
マキネは、ランドニーのことを皆に話した。
「ありがとうマキネ。良い情報だよ。標的は、やはり僕か…」
大成は、顎に手を当てながら考え込む。
ジャンヌ達は大成が気になり、ジャンヌが大成の顔を除き込んだ。
「どうしたの?大成」
「いや、僕はランドニー先生に関わったことないし、別に恨まれることは一切してないと思ったから何で恨まれているのかなって」
「おそらく、それはですね。ランドニー先生は、異種族や自分より強者を嫌っている傾向がありますので…」
ウルミラは、言いづらそうに答える。
「それは合ってるわね。ランドニー先生の態度を見れば、一目瞭然にわかるわ。ジャンヌやウルミラは、地位が姫様と【ヘルレウス】のメンバーだから、それほど嫌われていないけど。私やマーケンスは、微妙な立ち位置にいるから嫌われているわね。言いたくないけど、人間族は下等種族と思われているから私とマーケンスに勝った大成君は人間族で魔力値2なのに、周りからランドニー先生より強いと噂されているから、なお嫌われているかもね」
イシリアは、最後に馬鹿らしいと言いながら溜め息をする。
「そんなことで、殺すほどなのかな…」
大成は、呆れ果てた。
「ランドニー先生は、貴族の中で上層の貴族ですからプライドが高いと思われます」
ウルミラは事情を話した。
「確かに、あの人は特にプライドが高いのよ」
「否定できないわね」
「そうか、貴族なら納得できるね」
ウルミラに肯定するジャンヌ、イシリア、マキネ。
「そういうものなのかな…。まぁ、サバイバルで襲ってくるとわかっていれば楽だし」
「え~!まさか、ダーリンはサバイバルは棄権するつもりなの?」
マキネは、残念そうな面持ちで人差し指を立て口元に当てて首を傾げる。
「当たり前よ。大勢から襲われるって、わかっていて出場する人なんていないわ。ねぇ、大成君」
イシリアは肩を竦めた。
「いや、出場する予定だよイシリア。もし出場しなかったら、強硬手段を取って動かれると周りに多大な迷惑が掛かる可能性が高いし。それに、少しでも優勝できる可能性を上げたいからね。まぁ…。俺も、そろそろ堪忍袋が限界だしな」
話の途中で怒りが込み上げた大成は、威圧感が増大し言葉使いが変わる。
「「~っ!」」
ジャンヌ達は、大成の威圧感でビックっと体を震わせた。
以前に比べたら耐性はできたが、それでも、やはり慣れなかった。
「あ、ごめん。つい、感情的になってしまった」
大成は慌てて威圧感を消して謝罪する。
「はぁ~、わかったわ。その代わり、わかっているとは思うけど人前では殺害しちゃダメよ。大成」
ジャンヌは、仕方ないという感じで溜め息をして条件を出した。
「勿論、わかっているよ」
他の皆も、仕方ないという感じで納得した。
「ジャンヌ、それって見えないところでならやっちゃって良いって言っているもんだよ」
「当たり前でしょう、マキネ。相手は命を狙って来ているんだから」
「まぁ、ジャンヌの言う通りね。でも、何だか相手が可哀想ね。雇われたとはいえ、ターゲットがよりにもよって大成君だなんてね」
「ハハハ…同情しますね。そろそろ、ご飯にしませんか?」
愛想笑いしたウルミラは、胸元で両手を合わせて提案する。
「「そうね」」
「そうしようよ」
大成以外は、自分達の鞄から弁当を出した。
「じゃあ、僕は食べ物を買ってくるよ。ついでに、皆の分の飲み物でも買ってこようか?」
大成は立ち上がり、学園の売店か食堂、もしくは、今日はクラスマッチのイベントで屋台で済ませようと考えて、向かおうとした。
「「ま、待って…」」
ジャンヌ達は、声が揃った。
「ん?」
大成は、怪訝な顔をして振り返る。
「た、大成の分も作ったから、良かったら食べて欲しいのだけど…」
「わ、私も、た、大成さんの分を作ってきました」
「ダーリン、私もだよ」
「もし良かったら、わ、私の弁当もどうかしら?大成君」
ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアは頬を赤く染め、鞄から大成の分の弁当を出した。
ジャンヌ達は大成の弁当のことで皆で話し合い、それぞれミニ弁当を作ることにしたのだった。
「え?本当に食べて良いの?」
首を傾げる大成。
「「もちろん!」」
「もちろんです!」
「もちろんだよ!」
ジャンヌ達は返事をする。
「ありがとう、皆!」
大成は、それぞれから弁当を貰い開けてみた。
「わぁ~!とても美味しそうな弁当だね」
ジャンヌとウルミラの弁当は、2人で一緒にそれぞれ作り、肉、野菜がバランスよく、中身は同じ内容の弁当。
マキネの弁当は、肉が主なボリューム満点のステーキ弁当。
イシリアの弁当は、魚が主な和風の海鮮弁当だった。
しかし、この中に1つだけ危険だと本能が訴えている弁当があった。
それは、ジャンヌの弁当だった。
ウルミラ、マキネ、イシリアも、その異変に、いや異質さに気付いた。
ウルミラは自分と同じ料理のはずなのに、どこか違うことに気付いて疑問に思い、マキネとイシリアは本能が危険だと感じて身を引きながらジャンヌの弁当を凝視する。
(ジャンヌの弁当は、ウルミラと見かけは全く同じに見えるんだけど…。なぜか、うっすらと黒いオーラーが人の顔の様に見えて叫び声を上げているかの様に聞こえそうなんだけど…。えっと、確かこういのは何だったかな…。あ、そうだ。シミュラクラ現象とか言うんだったかな…)
大成は、恐る恐るジャンヌとウルミラに視線を向ける。
ウルミラは、何故こうなったかわからないという表情で顔を引き攣っており、一方、ジャンヌは何も気付いておらず首を傾げていた。
「どうしたの?大成」
「いや、そ、その…ん?あれ?ジャンヌの持っている弁当は?」
大成は、ジャンヌが自分で食べる弁当には危険な感じが全くしないことに気付いて尋ねる。
「あ、これはね。そ、その、大成。あなたの弁当を作ることに夢中になって自分の分の弁当を作るのを忘れていたの。そのことにウルミラが気付いて、私の分まで作ってくれたの。あとから聞いたら、集中している私を気遣ってくれたのよ。ウルミラは気が利いてて流石だわ。大成、その…初めて作った弁当だけど、自信はあるわ」
頬を赤く染めて答えるジャンヌ。
(なるほど。これは、もう覚悟を決めるしかない状況だな…)
一度瞳を閉じ、大成は覚悟を決める。
「そういえば、イシリアは僕達と一緒にここで食事とって良いの?ローケンスさん達が応援に来ていたけど」
「ちゃんと伝えてきたから大丈夫わよ。大成君」
心配した大成だったが、イシリアは笑顔で答えた。
「そうなんだ、良かった。こうして、皆揃って食事をとることができて。皆、弁当ありがとう!じゃあ、食べようか。頂きます!」
「「頂きます!」」
皆で合掌した。
大成は、まずイシリアの弁当から頂くことにした。
「どうかしら?大成君」
イシリアは、不安そうに見つめて尋ねる。
「うん、美味しいよイシリア。特に、この魚は酢が効いてて味がギュッと引き締まっていて美味しいよ。ありがとう。イシリア」
大成は、メインの新鮮な白身魚の刺身を絶賛した。
「口に合って良かったわ。私も好きな料理なの」
イシリアは、ホッとし笑顔になった。
次に大成は、マキネのステーキ弁当を頂くことにした。
「マキネのは、厚切りでボリュームあるステーキ弁当だね」
「そうだよ。しかも、この肉はね。今日、私が一人で狩ったバルトニクッスのヒレ肉の部分だよ」
「凄いね!マキネ。バルトニクッスは指定4の危険な魔物だよね。もう、一人で倒せるようになったんだ。凄いな」
「でしょう!もっと、褒めてダーリン」
胸を張るマキネ。
「おお!舌の上で、とろけるような柔らかくって奥深い味だね。それを、さらに美味しさを引き出してるのは、この酸味のあるソース。美味しいよ。ありがとう、マキネ」
「でしょう!このソースは、いくつもの試作品を作って、やっと完成した自慢のソースなんだよ」
マキネは、ウィンクした。
次の弁当はウルミラの弁当を選んだ、大成。
「うん、見た目だけでなく栄養バランスもよく整った弁当だね。おっ、この卵巻きはフワフワして中は半熟でとろけている。ん?これは、だし巻きだね。卵の旨味を邪魔しないように味とコク、そして、深みを引き出している」
「お口に合って、良かったです。そのだし巻きは、初めてお母様と一緒に作った料理なんです」
笑顔で胸元の前で両手を合わせて、ウルミラは喜んだ。
(そういえば、ウルミラの母・ウルシアさんとジャンヌの母・ミリーナさんに会ってないな。おそらく、勇者の事件で…)
大成は、ウルシアとミリーナを思い出した。
そんな大成の表情を見たジャンヌとウルミラは、すぐに理解したが表情には出さなかった。
「最後は、私の弁当ね。食べてみて、大成」
雰囲気を変える感じで、ジャンヌは自分の弁当を進める。
「じゃあ、頂くよ…」
恐る恐る大成は箸をとった。
ジャンヌと大成は、ドキドキしている。
しかし、2人のドキドキは違った。
ジャンヌは自分の弁当は大成の口に合うかで緊張し、大成は食べても大丈夫なのかと緊張したドキドキだった。
そして、だし巻きを箸で摘まみ上げた大成。
大成は、だし巻きを見詰めた。
見かけは、ウルミラと同じだった。
しかし…。
どうしても何故か、だし巻きから人の顔が見えて叫び声まで聞こえてきそうなのだ。
(き、気のせいだ。そうに違いない。大成、お前は今まで毒耐性を得るために、いろいろな毒を摂取してきたんだ。今回は、きっと今までの努力が生かせる。いや、今までの努力は、この日のためだったんだ…きっと…)
冷や汗をかきながら、大成は自分に言い聞かせる。
ウルミラ、マキネ、イシリアは心配そうに大成を見ていた。
そして、大成はゴクンっと空気を呑んで目を瞑ったまま、だし巻きを食べる。
「あれ?ウルミラと同じで、美味しい…」
口に入れた瞬間は、驚くことにウルミラと同じ味だったが…。
「ん?何これゴリゴリしているのと、魚の骨みたいなのが沢山入っている!?」
(しかも、何か凄く生臭いぞコレ!?)
大成は吐き気がしたが、必死に飲み込んだ。
「フフフ…。隠し味にシー・モンスターの肉を骨ごと微塵切りにして入れたのよ。漢方薬の本を見たらシー・モンスターの骨は、滋養効果があり、疲れやダルさを改善するって書いてあったの」
自信満々で説明するジャンヌ。
(いや、僕も読んだことあるけど。確か微塵切りではなく、乾燥させ粉末にしないと、生臭く、効果が薄いって記載されていたはず。しかも、隠し味って言っているけど、全く隠れてないよジャンヌ…)
「あ、ありがとう、ジャンヌ。体調を考えてくれて…」
大成は、必死に笑顔を浮かべてお礼を言った。
(皆の弁当を完食しているし、の、残したら不味いよな…)
他にもいろいろと工夫が施されており、やたらと酸っぱい物や辛い物、ドロドロしている物があった。
そんなこんなで、頑張ってどうにか完食した大成。
「お、おいCかっ…た…よ…」
大成は、すでにノックアウト寸前だった。
「フフフ…良かったわ。作ったかいがあったわ」
口元に手を当て喜んでいるジャンヌ。
ウルミラ、マキネ、イシリアの3人は、頬を引き攣って見守っていた。
「ひ、姫様」
「何?ウルミラ」
「こ、この前、売店で、是非一度は大成さんに飲んで貰いたい飲み物があると言っていませんでしたか?」
「あっ、そうだったわね。ありがとう、ウルミラ。せっかく、だから買ってくるわ」
ジャンヌは立ち上がり、売店へと向かった。
「大成さん、すみません。まさか、姫様の料理があれほど凄いとは思っていませんでした。大丈夫ですか?」
「ダーリン、生きている?」
「大成君、午後の競技に出られる?」
ウルミラ達は、大成を心配した。
大成は体を震わせて痙攣を起こしながら「何とか」、「かろうじて、生きているよ」、「わからない」っと答えた後、気を失い後ろに倒れた。
「大成さん!」
「ダーリン!」
「大成君!」
ウルミラ達は、慌てて大成の脈を診て保健室へと運んだ。
【ラーバス学園・保健室】
「ぅ~ん…」
大成は目を覚ますと、白い天井が見えた。
「あれ?ここは?」
「保健室だよ、ダーリン」
大成は保健室のベッドから起き上がり、傍に居たマキネが答えた。
「え!?しまった。競技のサバイバルは終わった?」
思い出した大成は慌てた。
「大丈夫だよ、ダーリン。今、ジャンヌ達の女子のバルーンが始まったところだよ。サバイバルは、その次だから安心して」
慌てる大成を見て、マキネはクスクスと笑う。
「看病ありがとう、マキネ」
「どういたしまして、ダーリン」
「ん!?」
マキネは、そっと大成の唇に自身の唇を合わせた。
「えへへ…。行こう、ダーリン」
「う、うん」
マキネは頬を赤く染めて呆然としている大成の手を引っ張り、ジャンヌ達の応援するためにバルーン競技をしている東会場へと向かった。
【東会場】
その頃、ジャンヌ達はバルーン競技の準備をしており、ルネルは大成の心配をしていた。
「あの、ジャンヌ様。大和君は大丈夫なのでしょうか?」
ルネルは会場に向かっていた時、ウルミラ達が意識のない大成を保健室に連れて行く姿を目撃していたのだ。
「大成は、大丈夫よ。ただの食べ過ぎで、倒れただけだから」
ジャンヌは、呆れた表情で話す。
「そ、そうですね…」
「そ、そうね…」
事情をしっているウルミラとイシリアは、苦笑いしながら肯定する。
ウルミラとイシリアの反応を見て、何か違うような気がしたルネル。
ジャンヌ達は作戦を確認し合っていた時、ルネルは大成を見つけた。
「あっ、あれ、大和君じゃない?」
「大成さん。本当に無事で良かったです」
「「そうね」」
大成の無事を知り、ジャンヌ達の表情が明るくなった。
ジャンヌ達は円陣を組み片手を前に出し重ねた。
「今年こそは、総合優勝するわよ」
「「はい!」」
「もちろんよ」
「ファイト~!」
「「オオ~!」」
ジャンヌの掛け声と共に、一斉に勢いよく手を上げた。
前回、去年のバルーン競技は開始直後、一斉に周りから狙われジャンヌ、ウルミラペアは耐えて優勝したが、イシリア、ルネルペアは魔力切れになり、途中で攻撃を貰い失格になってしまった。
そのことで、イシリアはリベンジに燃えていた。
今回は、大成が作戦と練習メニューを考えてくれた。
「今日は、去年の屈辱を返さないとね」
「そ、そうね」
「「そうですね」」
イシリアの背後に般若が見えた気がしたジャンヌ達。
バルーンが、それぞれのペアに行き渡った。
「「エア・バースト」」
それぞれ風魔法エア・バーストを唱え、バルーンを空中に浮かせる。
周りの皆はジャンヌ達を見ており、誰もがジャンヌ達を狙っていることを隠さないでいた。
「皆さん、準備は良いですか?では、バルーン競技開始!」
先生の開始の合図で、一斉に魔法を唱える。
「「ファイア・アロー」」
「「アイス・ミサイル」」
「「エア・カッター」」
「「アース・ショット」」
もちろん、前回と同じで標的はジャンヌ達だった。
「「エア・ブロー」」
ウルミラ、イシリアは風魔法、エア・ブローを唱えてバルーンの下から突風を巻き起こし、バルーンを急上昇させて周りの攻撃魔法を回避する。
大成の作戦は、ただ回避した訳ではなかった。
開始直後、バルーンを少し低めの位置に宙に浮かすことにより、攻撃魔法を回避した際に反対側の上に浮いている他のクラスのバルーンに魔法が当たるような位置取りをしていたのだ。
そのことにより…。
「「えっ!?」」
「「きゃっ!」」
「「エ、エア・アーマー」」
「「ア、アイス・ブロック」」
慌てるペアや何もできないペア、魔法の発動に失敗して防御失敗するペアが多く、あっという間に相討ちが発生して他のクラスのペアは減少した。
「アイス・ミサイル」
「ファイア・アロー」
「エア・スラッシュ」
「アース・スピア」
あとの残りの他のクラスのチームは動揺しており、その間にジャンヌ達が攻撃魔法で倒していった。
あっという間にジャンヌ、ウルミラペアとイシリア、ルネルペアだけになった。
「勝負よ!ジャンヌ、ウルミラ!」
「受けて立つわイシリア!、ルネル!」
最後はジャンヌ、ウルミラペアとイシリア、ルネルペアの妨害なしの真っ向勝負をし、ジャンヌ、ウルミラペアが勝った。
ジャンヌ、ウルミラペアは優勝。
イシリア、ルネルペアは2位となった。
他のペアは居ないので、他のクラスは獲得ポイント0になり、2組のチームイーターは2位の1組との差を更に広げた。
「今年は負けたけど。来年また勝負よ、ジャンヌ、ウルミラ!」
イシリアは、ジャンヌに指をさして宣言した。
「ええ、受けて立つわ」
ジャンヌとイシリアは、お互い握手をした。
こうして、バルーン競技は終わりを告げた。
応援ありがとうございます!
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