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風林火山とハプニング
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【合宿1日目の夜・一階中央・浴場】
マーケンス達は、浴場に辿り着いた。
「ついに、ここまで来たか…」
「「ああ…」」
マーケンスの声に呟きに男子達は緊張とわくわくが入り混じった面持ちで息を呑み頷く。
そして、浴場に入ろうとした時、廊下の角から人影が見えた。
「ま、まさか…」
「もう、女子が来たのか?」
「そんな馬鹿な!まだ、入浴時間になってないぞ」
「馬鹿野郎、声が大きい」
「す、すまん」
マーケンス達は動揺して息を呑み込み、人影を凝視する。
徐々に誰かが近づいて来ており人影は大きくなっていく。
そして、マーケンス達は壁の角に釘付けになり、ゆっくりと姿が顕になった。
人影の正体は、女子ではなく大成だった。
「本当、酷い目にあったな…」
大成は呟きながら、頭を掻きながら現れた。
「お、脅かすなよ、大和」
「はぁ、心臓に悪いですよ、師匠」
「マジでビビったぜ」
「俺も」
マーケンス、マルチスがホッとし、少し遅れて他の男子達も緊張が解けてヘナヘナと腰を落としたり呼吸を整える。
「ん?ああ、ごめん…」
大成は謝り、これから起こるであろう悲惨な結末を知っていたが、ジャンヌ達に口止めされているので表情を隠したまま心の中で合掌した。
「ヨシ!気を取り直していくぞ!お前ら!作戦決行だ!」
「「オオ!!」」
再び気合い入れて直したマーケンス達は男湯に入る。
大成は湯に浸かり、鼻唄を歌っていた。
マーケンス達は湯には浸からず、腰にタオルを巻いた状態で真剣な表情で女湯との境の壁に集まっていた。
「作戦通りに頼むぞ、マーケンス」
「「頼んだ。俺達の希望の剣よ!」」
「おう、任せろ!必ず、お前達を楽園に連れていってやる!」
マルチスと他の男子達に頼まれたマーケンスは力強く頷く。
大成から風林火山のことを聞いたマルチス達が相談して考えた作戦はこうだ。
1、速きこと風の如くは、風のようにすみやかに入浴時間前に行動する。
2、徐かなること林の如くは、女子達が来る前にマーケンスが壁に穴を開けて準備を整えて女子達が来るのを林のように静寂整然と待つ。
3、侵略すること火の如くは、いざ覗きをする時は火のように熾烈に。
4、動かざること山の如くは、作戦の参加を決心したら本番で怯えず、芋づるにならないように逃げ出さず、山のように落ち着くことで自身と自陣を堅守する。
「よし、いくぞ!エア・ドリル」
マーケンスは右手の人差し指を立て、風魔法エア・ドリルを唱える。
人差し指に風が巻きついていき、速度が徐々に上がり人差し指は風のドリルを纏った。
マーケンスは周りの男子達を見渡し、男子達は息を呑み無言で全員が頷いた。
できるだけ音を立てないように、人差し指を慎重にゆっくりと壁に近づけて行くマーケンス。
人差し指のドリルが壁に接触しようとした瞬間、開くことのないはずの男湯のドアが勢いよく開き、その音が浴場に響いた。
大成以外のマーケンス達はビクッとなり、何が起きたのか理解できず時が止まったかの様にフリーズした。
次第にマーケンス達の鼓動が速くなり、頭の中で何故見つかったのかではなく、なぜドアが開いたのかを考えてしまう。
入浴は、自分達が最後だ。
しかも、全員が浴室にいるからドアが開くことはまずない。
もし、開くとしたら…と思い、信じたくない現実が起きてしまったことを把握すると同時に動悸が激しくなっていく。
ゆっくりと、恐る恐るドアの方へと振り向く男子達。
案の定、制服姿のジャンヌを先頭に女子達が浴室に入ってきていた。
「な、なぜ、バレたんだ…?」
普段、自信満々なマーケンスの表情が、この時は怯えた表情になり声は小さく、そして、震えていた。
言葉にしてハッとし、心当たりがあった男子全員は一斉に大成に振り向く。
大成は大きく首と手を左右に振り、無関係とアピールした。
「大成じゃないわよ。あなた達の馬鹿な話し合いや掛け声をしている時、傍に私達が偶々いたのよ」
ジャンヌは笑顔で説明し、男子達の顔が青くなっていく。
「本当に、こんなことをするとは思いませんでした…。」
続いてウルミラが残念そうな表情をした。
「マーケンス、姉として恥ずかしいわ。そして、覚悟はできているわよね。あなた達」
イシリアと女子全員は笑顔だったが、威圧感と魔力が高まっていく。
「まだ、俺達は覗いてないから、許してくれ~!」
「ごめんなさい!」
「もう、馬鹿なことはしませんから!」
男子達は泣き言を言い、逃げようと試みるが足がすくんで動けなかった。
「「問答無用!」」
女子達は声が揃った。
そして、すぐに…。
「「エア・ショット」」
「「ウォーター・ショット」」
「「アイス・ボール」」
「「ファイア・ボール」」
女子達は魔法を唱え、周囲に魔法が具現化する。
男子達は被弾し倒れていき男子達の屍の山ができていく中、マーケンスは倒れていく同包を抱き抱えて介補したが、女子達は容赦なく攻撃を続け被弾する。
「次は、容赦しないから」
ジャンヌは冷たい眼差しで睨めつけながら言った後、女子達と一緒に出ていった。
(殺意が凄かったな。それにしても、まるで風林火山だった)
1、速きこと風の如くは、風のようにすみやかに相手の作戦を知り、先回りする。
2、徐かなること林の如くは、現行犯逮捕つけた後に取り押さえる。
4、動かざること山の如くは、意味は違うけど死体の山を作る。
そんなことを思ってしまった大成は、マーケンス達には悪いと思いながらフッとつい笑ってしまった。
そして、少しして意識を取り戻したマーケンス達は起き上がり深い溜息を溢した。
「何なんだ。まだ、覗いてすらいないのに。この仕打ちは、やり過ぎだろ…」
「そうだよな。どちらかというと、俺達の方が覗かれたような気がするだが」
「それより、マルチスの声が大きかったのが失敗の原因だな」
「いや、あの最後の掛け声が必要なかったんだ」
「おい、止めろ。そもそも、俺達が覗きを考えた時点で間違っていたんだ」
醜い言い争いが始まったが、マーケンスの言葉で静まり返った。
それからはというと会話もせず無言で身体を洗い、すぐに風呂からあがったマーケンス達は浴場から出ていった。
浴室には誰も居なくなり、大成1人になった。
「この後片付けは、どうするんだ?」
大成は石鹸やシャンプー、桶、風呂椅子などが、あちらこちらに散らかっている浴室を見て溜め息をした。
その時、女湯からドアが開く音が聞こえた。
「ジャンヌ様、体のラインが理想的で美しいです。まるで、お人形さんみたいです」
「ウルミラちゃん、胸が大きくって羨ましいな」
「イシリアも綺麗ね」
女子達の声が聞こえる。
「ウルミラ、そ、その、ちょっとだけだから少しだけ胸を触っても良いかしら?」
「えっ、えっ、あっん、イ、イシリアさん。ちょっと、や、止めてください」
ウルミラの喘ぎ声が聞こえてくる。
「やはり、大きいわね…」
落ち込んでいるようなイシリアの声がする。
普通は強固な壁で聞こえないのだが、今、男湯は大成以外誰もいないのと大成は聴覚も鍛えており聞こえてしまう。
(だ、駄目だ、何だか聞いたらいけない気がする。もう片付けはせずに、さっさと頭とか洗って僕も早くあがろう)
大成は、ジャンヌ、ウルミラ、エターヌ、マキネの裸を思いだしそうになり、慌てて頭を左右に振って煩悩を払い除けながら浴槽から出る。
しかし、足元に石鹸が転がっていた。
普段の大成なら回避できるのだが、今回はどうようしており判断が遅れる。
「くっ」
右足で石鹸を踏みそうになった大成は、無理やり右足の着地点をずらして石鹸を回避した。
(ふー、危なかった)
大成は少しバランスを崩しただけなので、問題ないと判断し一安心したのだが右足の着地した場所にはシャンプーが溢れていた。
「なっ!」
無理矢理にバランスを崩していたこともあり、踏ん張りが効かず足が滑り盛大に転んだ。
大成は仰向けのまま滑り、女風呂との境を隔てている壁に激突した。
激突する瞬間、大成は反射的に頭を身体強化してダメージの軽減には成功したが魔力の調整に失敗し魔力8ぐらいの強化をしてしまった。
その結果、屋敷が少し揺れ、轟音を立て壁に穴が開き、大成の上半身が女子達が入浴している女湯に突っ込んだ。
その後、大成が開けた壁穴を中心に、周りの仕切りの壁がミシミシと音を立てヒビが入り一拍遅れて一斉に崩壊した。
壁が一斉に崩壊したことにより、風圧で女湯の湯煙が吹き飛んだ。
女子達は、まるで時が止まったかのように呆然と崩壊した壁と壁を破壊した張本人の大成を見つめていた。
「痛ったた…。」
大成は、頭を擦りながら仰向けのまま周りを見渡し息を呑んだ。
なぜなら、右側の真横ではジャンヌが風呂椅子に座っており、上半身をこっちらに向けて両手で頭を洗っている状態のままで固まっていた。
反対側の左側の真横ではウルミラが風呂椅子に座っていて後ろからイシリアから胸を揉まれている体勢だったが、ウルミラはイシリアの手を握りズレており、豊富な胸が見えていた。
しかも、必死にイシリアに抵抗したのか、体全体が大成の真正面を向いていて、いろいろと見えては不味いところ見えてしまっている。
そのウルミラの後ろにいるイシリアは、何事かと大成の方を覗き込むように前屈みになっており慎ましい胸が見えていた。
そして、周りには湯煙が吹き飛んだことで、はっきりとクラスの女子達が何も纏わない状態で固まっている姿が見えた。
(こ、今回は、流石に殺されるかも…)
「あ、あの…。」
「「きゃ~っ!」」
大成は話しかけようとした瞬間、女子達が叫んだ。
1人だけ、大成の正面に立った女子がいた。
その女子はジャンヌだった。
ジャンヌは恥ずかしさなのか、怒っているからなのか、それとも両方がなのかわからないが、顔を真っ赤に染めて片手でタオルを持ち胸から太股付近まで隠していた。
ジャンヌの瞳を見て何となく、これから死刑宣告が下されることを悟った大成は恐怖し体が震える。
そして、その時が刻々と近づいてくる。
「ねぇ、大成。これは、どういうことかしら?勿論、説明してくれるわよね」
ニッコリと笑顔を浮かべたジャンヌは首を傾げて尋ねる。
「あ、あのですね。ジャンヌ、いえ、ジャンヌ様と皆様。これは、不幸な事故だったのです」
慌てて正座をした大成は、今までの経緯を必死に説明した。
「なるほどね、わかったわ」
「ふぅ…助かった」
ジャンヌの言葉に、大成は胸元に手を置いてホッと一息ついた。
だが、まだ続きがあった…。
「でもね、大成。経路はどうあれ、結果は覗きになるのよ」
「えっ!?」
「そうでしょう?」
「それは、そうなのですが…。あの御慈悲を…。」
「ええ、わかったわ。私は慈悲深いわ。ねぇ、大成。最後に言い残すことはある?」
ジャンヌは笑顔で大成に尋ねた。
(いやいや、それはもう死刑決定だよ。慈悲深いなら…)
大成は、そう思いながら助けを求め、周りを見渡したが女子達の表情を見て、もうダメだと悟った。
自分を救えるのは自分しかいないと思った大成は、何か打開策はないか必死に考える。
(そういえば、図書館で女性の口説き方(入門編)を読んだな)
本の内容を思い出して覚悟を決めた大成は、真面目な顔をした。
そして、大成の最後の言葉は…。
「皆、ナイス・バディ!」
大成は、人生で一番の笑顔を浮かべて右手の親指を立て、グッド・サインした。
静寂が訪れ、少し間を置いて一瞬にして女子達の魔力と威圧感、それに殺気が強まった。
(あれ?)
失敗したことに気付いた大成はたじろぐ。
そして、判決の時が来た。
無論…。
「「死になさい!」」
ウルミラを除く、女子達は意気投合して処刑が実行された。
少し前のマーケンス達と状況は似ているが、殺気立っており火力も上がっていた。それに加え、今回のターゲットは大成一人なので、集中砲火となり、比べ物にならないほどダメージが大きかった。
大成は、女子達の放った攻撃魔法が次々と被弾して、後ろへと吹っ飛びながら本を書いた作者を呪った。
本には、困った時、相手が女性の場合は、取り敢えず褒め倒せば良いと書かれていたのだ。
そして、大成は男湯のシャワーに衝突して、水道管が破裂した。
「いっ、痛たたた…」
頭を擦りながら、前を向いた大成。
ジャンヌ、ウルミラ、イシリアと女子数名が驚いた表情をしていた。
なぜなら、破裂した水道管の水が勢いよく大成に掛かり、染色した髪の青色が流れ落ちていき、もとの黒色に戻っていくのをジャンヌ達が気付いたのだ。
「ア、アイス・ロック」
「ア、アース・ウォール」
これ以上染色が落ちないように、慌ててウルミラは氷魔法アイス・ロックを唱えて大成を氷付けにして水が掛からないようにし、イシリアは皆に見えないように土魔法アース・ウォールを唱えて大成が壊した壁を塞いだ。
「あれ?今、大和君の髪の色が黒く見えなかった?」
ルネルが首を傾げ、皆に尋ねる。
「私も黒く見えました」
「私も…」
ユニが肯定し、数名も肯定する。
「お、おそらく…か、影で黒く見えたと思うわ」
「わ、私も姫様と同意件です」
「そ、そうよ」
慌ててジャンヌが否定し、ウルミラ、イシリアが賛同した。
「そう、言われるとそうかも…」
「そうね…」
皆は納得し、どうにか誤魔化しに成功したジャンヌ達3人はホッと胸を下ろした。
壁ができた瞬間、大成は魔力を上げて全身を覆っている氷を破壊した。
「うっ、体が冷えたな…。もう一度湯に浸かろう。はぁ~」
大成は、全身を震わせながら再び湯に浸かり溜め息をする。
「大成さん。すぐに染色して下さい。髪の毛の色が落ちてますよ」
ウルミラは精神干渉魔法レゾナンスを使用し、大成に教えた。
「だからか、数名が驚いた表情をしていた理由がわかったよ。教えてくれてありがとう、ウルミラ」
「それより、大成。早く出てきなさい。まだ、終わってないわよ」
突如、ジャンヌがレゾナンスに参加した。
「えっ!?僕は、まだ許されていないのでしょうか?」
大成は、恐る恐る尋ねた。
「当たり前よ、大成君」
今度はイシリアの言葉が聞こえ、大成は絶望し絶句した。
マーケンス達は、浴場に辿り着いた。
「ついに、ここまで来たか…」
「「ああ…」」
マーケンスの声に呟きに男子達は緊張とわくわくが入り混じった面持ちで息を呑み頷く。
そして、浴場に入ろうとした時、廊下の角から人影が見えた。
「ま、まさか…」
「もう、女子が来たのか?」
「そんな馬鹿な!まだ、入浴時間になってないぞ」
「馬鹿野郎、声が大きい」
「す、すまん」
マーケンス達は動揺して息を呑み込み、人影を凝視する。
徐々に誰かが近づいて来ており人影は大きくなっていく。
そして、マーケンス達は壁の角に釘付けになり、ゆっくりと姿が顕になった。
人影の正体は、女子ではなく大成だった。
「本当、酷い目にあったな…」
大成は呟きながら、頭を掻きながら現れた。
「お、脅かすなよ、大和」
「はぁ、心臓に悪いですよ、師匠」
「マジでビビったぜ」
「俺も」
マーケンス、マルチスがホッとし、少し遅れて他の男子達も緊張が解けてヘナヘナと腰を落としたり呼吸を整える。
「ん?ああ、ごめん…」
大成は謝り、これから起こるであろう悲惨な結末を知っていたが、ジャンヌ達に口止めされているので表情を隠したまま心の中で合掌した。
「ヨシ!気を取り直していくぞ!お前ら!作戦決行だ!」
「「オオ!!」」
再び気合い入れて直したマーケンス達は男湯に入る。
大成は湯に浸かり、鼻唄を歌っていた。
マーケンス達は湯には浸からず、腰にタオルを巻いた状態で真剣な表情で女湯との境の壁に集まっていた。
「作戦通りに頼むぞ、マーケンス」
「「頼んだ。俺達の希望の剣よ!」」
「おう、任せろ!必ず、お前達を楽園に連れていってやる!」
マルチスと他の男子達に頼まれたマーケンスは力強く頷く。
大成から風林火山のことを聞いたマルチス達が相談して考えた作戦はこうだ。
1、速きこと風の如くは、風のようにすみやかに入浴時間前に行動する。
2、徐かなること林の如くは、女子達が来る前にマーケンスが壁に穴を開けて準備を整えて女子達が来るのを林のように静寂整然と待つ。
3、侵略すること火の如くは、いざ覗きをする時は火のように熾烈に。
4、動かざること山の如くは、作戦の参加を決心したら本番で怯えず、芋づるにならないように逃げ出さず、山のように落ち着くことで自身と自陣を堅守する。
「よし、いくぞ!エア・ドリル」
マーケンスは右手の人差し指を立て、風魔法エア・ドリルを唱える。
人差し指に風が巻きついていき、速度が徐々に上がり人差し指は風のドリルを纏った。
マーケンスは周りの男子達を見渡し、男子達は息を呑み無言で全員が頷いた。
できるだけ音を立てないように、人差し指を慎重にゆっくりと壁に近づけて行くマーケンス。
人差し指のドリルが壁に接触しようとした瞬間、開くことのないはずの男湯のドアが勢いよく開き、その音が浴場に響いた。
大成以外のマーケンス達はビクッとなり、何が起きたのか理解できず時が止まったかの様にフリーズした。
次第にマーケンス達の鼓動が速くなり、頭の中で何故見つかったのかではなく、なぜドアが開いたのかを考えてしまう。
入浴は、自分達が最後だ。
しかも、全員が浴室にいるからドアが開くことはまずない。
もし、開くとしたら…と思い、信じたくない現実が起きてしまったことを把握すると同時に動悸が激しくなっていく。
ゆっくりと、恐る恐るドアの方へと振り向く男子達。
案の定、制服姿のジャンヌを先頭に女子達が浴室に入ってきていた。
「な、なぜ、バレたんだ…?」
普段、自信満々なマーケンスの表情が、この時は怯えた表情になり声は小さく、そして、震えていた。
言葉にしてハッとし、心当たりがあった男子全員は一斉に大成に振り向く。
大成は大きく首と手を左右に振り、無関係とアピールした。
「大成じゃないわよ。あなた達の馬鹿な話し合いや掛け声をしている時、傍に私達が偶々いたのよ」
ジャンヌは笑顔で説明し、男子達の顔が青くなっていく。
「本当に、こんなことをするとは思いませんでした…。」
続いてウルミラが残念そうな表情をした。
「マーケンス、姉として恥ずかしいわ。そして、覚悟はできているわよね。あなた達」
イシリアと女子全員は笑顔だったが、威圧感と魔力が高まっていく。
「まだ、俺達は覗いてないから、許してくれ~!」
「ごめんなさい!」
「もう、馬鹿なことはしませんから!」
男子達は泣き言を言い、逃げようと試みるが足がすくんで動けなかった。
「「問答無用!」」
女子達は声が揃った。
そして、すぐに…。
「「エア・ショット」」
「「ウォーター・ショット」」
「「アイス・ボール」」
「「ファイア・ボール」」
女子達は魔法を唱え、周囲に魔法が具現化する。
男子達は被弾し倒れていき男子達の屍の山ができていく中、マーケンスは倒れていく同包を抱き抱えて介補したが、女子達は容赦なく攻撃を続け被弾する。
「次は、容赦しないから」
ジャンヌは冷たい眼差しで睨めつけながら言った後、女子達と一緒に出ていった。
(殺意が凄かったな。それにしても、まるで風林火山だった)
1、速きこと風の如くは、風のようにすみやかに相手の作戦を知り、先回りする。
2、徐かなること林の如くは、現行犯逮捕つけた後に取り押さえる。
4、動かざること山の如くは、意味は違うけど死体の山を作る。
そんなことを思ってしまった大成は、マーケンス達には悪いと思いながらフッとつい笑ってしまった。
そして、少しして意識を取り戻したマーケンス達は起き上がり深い溜息を溢した。
「何なんだ。まだ、覗いてすらいないのに。この仕打ちは、やり過ぎだろ…」
「そうだよな。どちらかというと、俺達の方が覗かれたような気がするだが」
「それより、マルチスの声が大きかったのが失敗の原因だな」
「いや、あの最後の掛け声が必要なかったんだ」
「おい、止めろ。そもそも、俺達が覗きを考えた時点で間違っていたんだ」
醜い言い争いが始まったが、マーケンスの言葉で静まり返った。
それからはというと会話もせず無言で身体を洗い、すぐに風呂からあがったマーケンス達は浴場から出ていった。
浴室には誰も居なくなり、大成1人になった。
「この後片付けは、どうするんだ?」
大成は石鹸やシャンプー、桶、風呂椅子などが、あちらこちらに散らかっている浴室を見て溜め息をした。
その時、女湯からドアが開く音が聞こえた。
「ジャンヌ様、体のラインが理想的で美しいです。まるで、お人形さんみたいです」
「ウルミラちゃん、胸が大きくって羨ましいな」
「イシリアも綺麗ね」
女子達の声が聞こえる。
「ウルミラ、そ、その、ちょっとだけだから少しだけ胸を触っても良いかしら?」
「えっ、えっ、あっん、イ、イシリアさん。ちょっと、や、止めてください」
ウルミラの喘ぎ声が聞こえてくる。
「やはり、大きいわね…」
落ち込んでいるようなイシリアの声がする。
普通は強固な壁で聞こえないのだが、今、男湯は大成以外誰もいないのと大成は聴覚も鍛えており聞こえてしまう。
(だ、駄目だ、何だか聞いたらいけない気がする。もう片付けはせずに、さっさと頭とか洗って僕も早くあがろう)
大成は、ジャンヌ、ウルミラ、エターヌ、マキネの裸を思いだしそうになり、慌てて頭を左右に振って煩悩を払い除けながら浴槽から出る。
しかし、足元に石鹸が転がっていた。
普段の大成なら回避できるのだが、今回はどうようしており判断が遅れる。
「くっ」
右足で石鹸を踏みそうになった大成は、無理やり右足の着地点をずらして石鹸を回避した。
(ふー、危なかった)
大成は少しバランスを崩しただけなので、問題ないと判断し一安心したのだが右足の着地した場所にはシャンプーが溢れていた。
「なっ!」
無理矢理にバランスを崩していたこともあり、踏ん張りが効かず足が滑り盛大に転んだ。
大成は仰向けのまま滑り、女風呂との境を隔てている壁に激突した。
激突する瞬間、大成は反射的に頭を身体強化してダメージの軽減には成功したが魔力の調整に失敗し魔力8ぐらいの強化をしてしまった。
その結果、屋敷が少し揺れ、轟音を立て壁に穴が開き、大成の上半身が女子達が入浴している女湯に突っ込んだ。
その後、大成が開けた壁穴を中心に、周りの仕切りの壁がミシミシと音を立てヒビが入り一拍遅れて一斉に崩壊した。
壁が一斉に崩壊したことにより、風圧で女湯の湯煙が吹き飛んだ。
女子達は、まるで時が止まったかのように呆然と崩壊した壁と壁を破壊した張本人の大成を見つめていた。
「痛ったた…。」
大成は、頭を擦りながら仰向けのまま周りを見渡し息を呑んだ。
なぜなら、右側の真横ではジャンヌが風呂椅子に座っており、上半身をこっちらに向けて両手で頭を洗っている状態のままで固まっていた。
反対側の左側の真横ではウルミラが風呂椅子に座っていて後ろからイシリアから胸を揉まれている体勢だったが、ウルミラはイシリアの手を握りズレており、豊富な胸が見えていた。
しかも、必死にイシリアに抵抗したのか、体全体が大成の真正面を向いていて、いろいろと見えては不味いところ見えてしまっている。
そのウルミラの後ろにいるイシリアは、何事かと大成の方を覗き込むように前屈みになっており慎ましい胸が見えていた。
そして、周りには湯煙が吹き飛んだことで、はっきりとクラスの女子達が何も纏わない状態で固まっている姿が見えた。
(こ、今回は、流石に殺されるかも…)
「あ、あの…。」
「「きゃ~っ!」」
大成は話しかけようとした瞬間、女子達が叫んだ。
1人だけ、大成の正面に立った女子がいた。
その女子はジャンヌだった。
ジャンヌは恥ずかしさなのか、怒っているからなのか、それとも両方がなのかわからないが、顔を真っ赤に染めて片手でタオルを持ち胸から太股付近まで隠していた。
ジャンヌの瞳を見て何となく、これから死刑宣告が下されることを悟った大成は恐怖し体が震える。
そして、その時が刻々と近づいてくる。
「ねぇ、大成。これは、どういうことかしら?勿論、説明してくれるわよね」
ニッコリと笑顔を浮かべたジャンヌは首を傾げて尋ねる。
「あ、あのですね。ジャンヌ、いえ、ジャンヌ様と皆様。これは、不幸な事故だったのです」
慌てて正座をした大成は、今までの経緯を必死に説明した。
「なるほどね、わかったわ」
「ふぅ…助かった」
ジャンヌの言葉に、大成は胸元に手を置いてホッと一息ついた。
だが、まだ続きがあった…。
「でもね、大成。経路はどうあれ、結果は覗きになるのよ」
「えっ!?」
「そうでしょう?」
「それは、そうなのですが…。あの御慈悲を…。」
「ええ、わかったわ。私は慈悲深いわ。ねぇ、大成。最後に言い残すことはある?」
ジャンヌは笑顔で大成に尋ねた。
(いやいや、それはもう死刑決定だよ。慈悲深いなら…)
大成は、そう思いながら助けを求め、周りを見渡したが女子達の表情を見て、もうダメだと悟った。
自分を救えるのは自分しかいないと思った大成は、何か打開策はないか必死に考える。
(そういえば、図書館で女性の口説き方(入門編)を読んだな)
本の内容を思い出して覚悟を決めた大成は、真面目な顔をした。
そして、大成の最後の言葉は…。
「皆、ナイス・バディ!」
大成は、人生で一番の笑顔を浮かべて右手の親指を立て、グッド・サインした。
静寂が訪れ、少し間を置いて一瞬にして女子達の魔力と威圧感、それに殺気が強まった。
(あれ?)
失敗したことに気付いた大成はたじろぐ。
そして、判決の時が来た。
無論…。
「「死になさい!」」
ウルミラを除く、女子達は意気投合して処刑が実行された。
少し前のマーケンス達と状況は似ているが、殺気立っており火力も上がっていた。それに加え、今回のターゲットは大成一人なので、集中砲火となり、比べ物にならないほどダメージが大きかった。
大成は、女子達の放った攻撃魔法が次々と被弾して、後ろへと吹っ飛びながら本を書いた作者を呪った。
本には、困った時、相手が女性の場合は、取り敢えず褒め倒せば良いと書かれていたのだ。
そして、大成は男湯のシャワーに衝突して、水道管が破裂した。
「いっ、痛たたた…」
頭を擦りながら、前を向いた大成。
ジャンヌ、ウルミラ、イシリアと女子数名が驚いた表情をしていた。
なぜなら、破裂した水道管の水が勢いよく大成に掛かり、染色した髪の青色が流れ落ちていき、もとの黒色に戻っていくのをジャンヌ達が気付いたのだ。
「ア、アイス・ロック」
「ア、アース・ウォール」
これ以上染色が落ちないように、慌ててウルミラは氷魔法アイス・ロックを唱えて大成を氷付けにして水が掛からないようにし、イシリアは皆に見えないように土魔法アース・ウォールを唱えて大成が壊した壁を塞いだ。
「あれ?今、大和君の髪の色が黒く見えなかった?」
ルネルが首を傾げ、皆に尋ねる。
「私も黒く見えました」
「私も…」
ユニが肯定し、数名も肯定する。
「お、おそらく…か、影で黒く見えたと思うわ」
「わ、私も姫様と同意件です」
「そ、そうよ」
慌ててジャンヌが否定し、ウルミラ、イシリアが賛同した。
「そう、言われるとそうかも…」
「そうね…」
皆は納得し、どうにか誤魔化しに成功したジャンヌ達3人はホッと胸を下ろした。
壁ができた瞬間、大成は魔力を上げて全身を覆っている氷を破壊した。
「うっ、体が冷えたな…。もう一度湯に浸かろう。はぁ~」
大成は、全身を震わせながら再び湯に浸かり溜め息をする。
「大成さん。すぐに染色して下さい。髪の毛の色が落ちてますよ」
ウルミラは精神干渉魔法レゾナンスを使用し、大成に教えた。
「だからか、数名が驚いた表情をしていた理由がわかったよ。教えてくれてありがとう、ウルミラ」
「それより、大成。早く出てきなさい。まだ、終わってないわよ」
突如、ジャンヌがレゾナンスに参加した。
「えっ!?僕は、まだ許されていないのでしょうか?」
大成は、恐る恐る尋ねた。
「当たり前よ、大成君」
今度はイシリアの言葉が聞こえ、大成は絶望し絶句した。
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