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合宿2日目と森の守り神マルコシアス

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【合宿2日目の朝・宿屋付近】

皆がまだ寝静まっている中、起きた大成は日課の朝練をしに外へ出ていた。

「う~ん…。新鮮で澄みきった良い空気だな。痛っててて…。まだ、足が痛いな」
大成は背筋を伸ばして深く深呼吸した時、両足に痛みを感じ擦った。


昨夜、浴場から出た大成は深夜遅くまで石抱の刑が実行された。

石抱とは拷問の1つで、容疑者(大成)を後ろ手に縛った上で三角形の木を並べたような台(そろばん板)に正座で乗せ、その上から重石を乗せることで台の尖った部分を食い込ませ苦痛を与える。



「おはよう、大和。昨夜は、お互い災難だったな…。はぁ、本当に…。絶対にジャンヌ様に嫌われたよな…。どんな顔して会えば良いんだよ…。あと、合宿が終わったらイシリアは父さん達に報告するよな…。はぁ~。」
マーケンスは片手を挙げて大成に近寄り、昨夜の出来事を思い出して暗い面持ちで深い溜息を吐いた。

「おはよう、マーケンス。仕方ないさ、僕らの自業自得だから。それより、マーケンスも朝練?」
大成は、マーケンスを宥める様に肩を軽く叩いて苦笑いを浮かべる。

「まぁな。毎朝、素振りをしているんだ。大和、お前に言っときたいことがある。次のランキング戦で、俺はお前とイシリアに必ず勝つからな!」
マーケンスは、拳を握り前に出した。

「ああ、楽しみにしているよ」
大成は笑顔で軽く拳を握り、マーケンスの拳に軽く当てた。



大成はマーケンスと別れ、ウォーミングアップしていた時に精神干渉魔法レゾナンスが発動した。

「大成、起きているんでしょう?皆が起きる前に、朝御飯の食料を取りに行くわよ。待ち合わせ場所は、一階のロビーで良いかしら?」
相手はジャンヌだった。

「わかったよ、今から行くよ」
返事をした大成は、ジャンヌ達と待ち合わせした場所に向かった。

「おはよう、皆」
「おはよう、大成」
「おはようございます、大成さん」
「おはよう、大成君」
支度をしていたジャンヌ達は、大成に挨拶をした。

「昨夜は、その…」
謝ろうとした大成。

「良いわよ、別に…。いえ、良くないけど…」
ジャンヌは次第に声が小さくなり、ジャンヌだけでなくウルミラ、イシリアも昨夜のことを思い出して顔が徐々に赤く染まっていった。

「ありがとう、助かるよ。それで、何を狩るのか予定ある?それとも、採取だけ?」
ホッとした大成は、苦笑いを浮かべて用件を尋ねる。

「私達が話し合った結果、朝練をしながらバービー・ラビットを狩る予定よ」

「わかったよ。確かに、バービー・ラビットは肉が柔らかいし美味しいよね。」
イシリアは首を左右に振って気を取り戻して説明をし、大成は笑顔で承諾した。

そして、大成達は準備をして森の中へと入った。



【ナドムの森】

練習の一環として大成はナイフ、ジャンヌは双剣、ウルミラは矛、イシリアはレイピアを使用し、魔法を使わず武器のみで連携を確認しながらラビットだけでなく、ゴブリンやウルフなどの魔物を倒していく。

「これで、ゴブリンだけで12匹目だね。何かゴブリンがやたらと多い様な気がするけど?」

「「そうね…」」

「そうですね…」
大成の疑問に、ジャンヌ達も怪訝な表情をして違和感を感じていた。

大成達は、ゴブリン・ロードがいる可能性があるかもしれないと思った。

「念のため、先生達に報告した方が宜しいのではないでしょうか?」

「そうだね」

「「そうね」」
ウルミラの意見に大成達は賛同する。

「まぁ、目的のバービー・ラビットも手に入ったことだし1度宿屋に戻ろうか」
大成の意見に賛同し、大成達は宿屋に戻った。



【宿屋】

宿屋に戻った大成。

宿屋は起きたばかりの生徒達が集まっており、狩りの準備をしている者、眠たそうにしている者、狩りの意味を知り合宿を断念して帰宅の準備をする者がいた。

「そっちは、準備できたか?」

「ああ、問題ない」

「こっちも、大丈夫よ」

「よし、準備万全だな。ん?お前達は、学園に戻るか?」

「ああ、精神的にきつい。俺達の班は合宿を棄権する」

「そっか…。まぁ、ライセンスはいつでも取れるからな」

「ああ、そうだな…。お前達は、俺達の分まで頑張ってくれ」

「勿論だ」

「じゃあな、無理するなよ」
合宿を断念する生徒達は、クラスメイトや友人達に挨拶をし先生と一緒に学園に戻っていった。


そんな中、大成達はマミューラ先生達に先程のゴブリンの件を報告した。

「そうか…」
マミューラは深刻な表情で考えていたが、他の先生達はというと…。

「ハハハ…。それは、流石にないですよジャンヌ様」

「そうですね。こんな自然魔力が低い森にゴブリン・ロードが生まれることはないです。ご存知かと思いますが、ゴブリン・ロードが生まれるとしたら此処より自然魔力が豊富で強い魔物が生息する過酷な環境で強いゴブリンが生息する場所と決まってますから」
マミューラ以外の先生達は、完全にあり得ないと否定して少しも考えようともしなかった。


大成達は先生達の対応が気に入らなかったが、先生達の言い分も確かだったので何も言わずに退出して朝御飯の支度をしに宿屋のキッチンへと向かった。



向かう途中で大成達は、マーケンス達とランドニーが会話しているところを目撃した。

「ん?あれは、マーケンス達とランドニー先生か?」
その光景をみた大成は怪訝な表情をする。

「ランドニー先生はクラスマッチの時みたいに、またロクでもないことを企んでいるのかしら?念のため、大成は気を付けなさい」

「心配ないわ、ジャンヌ。流石にマーケンスも、そこまで馬鹿じゃないわ。それに、ルネルとユニもいるから大丈夫よ」

「そうですね」
ジャンヌ、イシリア、ウルミラの3人は、ランドニーの標的は大成だろうと思ったが、大成が負けることはないと確信しているので特に気にすることはなかった。


「グリモア・ブック、レゾナンス…」
大成はジャンヌ達に気付かれないように小さい声でグリモアを出し、精神干渉魔法レゾナンスを唱えて保険としてある人物に連絡をとることにした。

気付かれないように連絡をとった理由は、確証のない予感だったこととジャンヌ達に心配させないためだった。


合宿のキッチンに着いた大成達。

「クラスマッチの時、弁当を頂いたから今日は僕が作るよ。だから、皆はゆっくりして」

「「え!?」」
大成の言葉に、ジャンヌ達は驚いた。

「あの、大成さん。し、失礼ですが、料理できるのですか?」

「まぁ、そこそこだけどね」
大成は、ウルミラの質問に苦笑いで答えた。

「気になるわね」

「ええ、そうね」
イシリアにジャンヌは肯定する。

大成は料理にかかった。

まず、鮮やかにバービー・ラビットを捌く。

「しょ、職人みたいな包丁捌きに手際の良さだわ…。」

「はい…。」

「そうね…。」
大成の包丁捌きに、驚愕するジャンヌ達。

大成はジャンヌ達の反応を気にせずに、今度は野菜をリズムよく切っていく。

そして、料理が完成した。

大成が作った料理はカレーだった。

だが、この世界でカレーの味を再現したら水色のルーになっており不気味な見た目になっている。


「お待たせ!見かけはアレだけど、味には自身があるから」
大成は、ジャンヌ達の目の前にカレーライスを置いていった。

「見たことない料理ですね…。」

「でも、食欲を刺激する良い香りね」

「これ食べれるの?大成君」

「大丈夫。だけど、少し辛いかも」
たじろぐジャンヌ達を見て、大成は苦笑いした。


ジャンヌ達はカレーをスプーンで掬い、恐る恐る口元に運び息を吹き掛けて食べる。

「「お、美味しい!」」

「とても、美味しいです!」
ジャンヌ達は、大きく目を開くほど劇的だった。

「口に合って良かった。ん?」
大成はホッとすると同時に、肩を叩かれたので振り向くとマミューラがいた。

「おい、大和。私にも、それを食わせろ」
マミューラは、カレーを指差した。

「俺も」

「私も」

「先生も食べたいです」
気が付けばカレーの匂いで、いつの間にか生徒や先生達が集まっていた。

「えっと、わかりました。昼、皆のために大量に作りますが、その代わり、各自で材料は集めて下さいよ」
溜め息をした大成は条件を出した。

「「任せろ!」」

「「任せて!」」

「「任せなさい!」」
全員が即答し、大成は必要な材料を伝える。

皆は、食糧を求め森の中へ行く。

面倒なことが大嫌いなマミューラも、我先にと率先して森の中へ行く始末だった。

緊急事態に備えて屋敷に待機する先生達もカレーを食べたかっなので居なくなり、残ったのは大成達だけだった。

「皆さん、行きましたね…。」

「「ええ…。」」

「そうだね…。」
まるで、嵐が通り過ぎたようだった。

「ところで、なぜ大成さんはそんなに料理が上手なのですか?」

「前の世界で特殊部隊にいた時はサバイバルとかしていたし、施設の時は皆で料理をしていたからね」

「何でも、できるのね…。」

「ちょっと出来すぎて怖いわ、大成君」
ジャンヌ達にドン引きされ、大成は苦笑いするしかできなかった。


それから、大成達はまだ今日の合宿のノルマをクリアしていないので再び森の中へ向かった。



【ナドムの森】

森に入り暫く進むと正面にナドム・ウルフが3匹と遭遇し、ウルフ達は大成達を襲い掛かる。

大成の横の木の影から別のウルフが飛び出し、大成を襲った。

「よっと…。」
横からウルフが襲ってきたが、大成は慌てた様子もなく冷静にカウンターでウルフを左足で蹴り飛ばした。

大成は、蹴り飛ばしたウルフを正面にいる他のウルフに当てるつもだったが避けられて接近される。

だが…。

「ハッ!」

「ヤッ!」

「トリプル・スピア」
傍にいたジャンヌが双剣で斬り、ウルミラは矛を上から振り下ろし、イシリアは剣で三段突きのトリプル・スピアで迎撃して倒した。

「これで、ノルマは達成だね」
大成は、スロー・ダガーを蹴り飛ばしたウルフに向けて投擲する。

蹴り飛ばされたウルフが体勢を整えたと同時に大成が投擲したスロー・ダガーが額に突き刺さり倒れる。

大成達は部位と切り取り、それから森を探索していたら雨が降り出した。

大成達は、慌てて木の下に雨宿りする。

「参ったな、髪染めが取れてしまう」
大成は、困った表情で頭を掻く。

「「そうね」」

「そうですね」
ジャンヌ達も肯定した。

大成の髪を青色に染めているラナミは、水に溶ける性質なので雨に当たると大成の髪の色が黒色に戻ってしまうので雨が止むまで待つことにした。



【ナドムの森の奥・守り神の領域】

その頃、マーケンス達はランドニーと一緒に森の守り神を討伐しに禁断の地へ足を踏み入れていた。

「マーケンス君、止めようよ」

「そうだよ。他の先生も言っていたよ。森の守り神には近づくなって」
ルネルとユニは、マーケンス達が心配でついてきていた。

「大丈夫だ。恐いのなら、2人は宿屋に戻っても構わない」

「ルネルちゃん達は、心配し過ぎだぜ」
マーケンスとマルチスは、大成の訓練で自分達が強くなっているので倒せると信じていた。

なぜ、こうなったかというと時を遡る。



【過去・宿屋】

「ハッ、セイッ、オラッ!」
大成と別れたマーケンスは、大剣で素振りをしていた。

「おはよう、マーケンス君」

「おはようございます。ランドニー先生」
横から声を掛けられたマーケンスは、素振りを止め挨拶する。

「精が出ているね」
マーケンスの素振りを見て、満足気にランドニーは頷く。

「おはよう、マーケンス」

「「おはよう、マーケンス君」」

「おや、皆さん、おはよう」

「「おはようございます、ランドニー先生」」
マルチス、ルネル、ユニが、ぞくぞくと集まった。

「それで、俺に何か用事ですか?」
怪訝な表情でマーケンスは、ランドニーを見る。

「そう、身構えないでくれよ。ただ、クラスマッチで君達の活躍を見て確信したんだ。君達と私が手を組めば、森の守り神を倒せるだろう。森の守り神を倒して有名にならないか?」
ランドニーは、笑顔を浮かべてマーケンスに手を差し伸べる。

「森の守り神は、この森を守っているから守り神と言われているのですが」
クラスマッチのことで、ランドニーを信用していないルネルは警戒をしながら質問した。

「ルネル君、それは違うぞ。そう言わないと、狩ろうとする者が多くなり被害が出るからだ。それと、下手に刺激を与えて機嫌を損ねないようにしているだけさ。第一、常識的に考えてみたまえ、魔物が私達を守ることなんてすると思うかな?守って何か利益でもあるのかな?ないだろ?ここには、ローケンス様みたいに強くなったマーケンス君の大剣術、ルネル君の強力なオリジナル魔法のゴーレム、マルチス君とユニ君の剣術、そして、私の優秀な魔法があれば可能さ」
ランドニーは、両手を斜め前に出してマーケンス達を説得する。

「そうだな。倒せたら、ウルミラ様と同じヘルレウスになれるかも…。」

「そうだな。よし、俺はランドニー先生の話に乗ることにした」
マルチスの呟きを聞いたマーケンスは、憧れの父ローケンスと同じ幹部になれると思い賛同した。

「マーケンスが参加するなら、俺も!」

「「ちょっと…。」」
マルチスも賛同し、慌てて止めるルネルとユニだったが結局止められず心配でついて行くことになったのだった。

僅かだったが、ランドニーは不敵な笑みを浮かべた。



【ナドムの森・奥・守り神の領域】

ランドニーを先頭に森の奥に進むマーケンス達。

「ところで、ランドニー先生。守り神が何処にいるか知っているのですか?」
迷わず進むランドニーに、疑問を持ったマルチスが尋ねる。

「学園の情報によると、最近だが守り神に子供ができたみたいなんだ。だから、ほら見なさい」
マーケンス達はランドニーが指をさした方角を見るとロープの罠に掛かり、何かが木の枝に吊り上げられていた。

ロープの中には、見たことない子供の魔物が引っ掛かっていた。
 
魔物の姿は、狼に翼が生えており鳴き声を出しながら必死にロープから逃れようともがいている。


「これが、守り神の子供ですか?」

「そうだよ。名前はマルコシアス。昨日、私が罠を仕掛けていたんだ」
マーケンスの質問に、ランドニーは頷きながら肯定した。

「では、早速、戦闘準備をしなさい」

「「わかりました」」

「カーディアン・コア」
ランドニーから言われ各々は武器を取り、ルネルは土魔法ガーディアン・コアを唱えると地面が抉れていきガーディアンを召喚してマジック・ポーションを飲んだ。


「よし、アイス・ミサイル」
マーケンス達を見て、準備できたことを確認したランドニーは、氷魔法アイス・ミサイルを唱えて15本の氷の矢をマルコシアスの子供に向かって放った。

「「えっ!?」」
無防備なマルコシアスの子供に、攻撃するとは思っていなかったマーケンス達。

「キャン…。」
氷の矢はマルコシアスの子供に刺さり、マルコシアスの子供は鳴き声をあげて血塗れになった。

そして、静寂が訪れた。


「な、何をしているんですか!ランドニー先生」
ユニが口元を押さえ、大きな声でランドニーを責めた。

「君達こそ、私を止めようとしているんだ。相手は子供とはいえ、魔物だ。私を責める方が、おかしいと思うがね」
表情と態度を変えずに対応するランドニー。

「ですが…。」
ユニが言いかけた時、ルネルが召喚したガーディアンが何かに反応した。

「皆、その場から離れろ!早く!」
第六感でマーケンスも何かが急接近して来ていることに気付き、慌てて叫んでガーディアンから離れる。

理解できずにいたルネル達は、マーケンスの必死の声に反応して慌ててガーディアンから離れた。

全員が離れた直後、空から物凄い速さで何かが落ちてきた。

いや、降下してきた。

ガーディアンは両手を頭上でクロスした瞬間、正体不明とぶつかっり轟音と共に砂埃が盛大に舞った。


「うっ、ウィンド」
ルネルは左手で目元を守り右手を前に出して、風魔法ウィンドを唱えて砂埃を吹き飛ばす。

目の前には上半身が消滅したガーディアンと、消滅させたマルコシアスの親がいた。


「ガァァ!」
マルコシアスは血塗れで沈黙した我が子を見て怒り、大きく吠えると衝撃波が発生した。

威圧感、魔力、殺気を顕にして、マーケンス達を睨みつける。
 
「ヒッ、ヒィィィ…。」
今まで感じたことない圧倒的なプレッシャーに恐怖したランドニーは腰を抜かした。

「エ、エア・ブロウ」
そして、ランドニーは這いつくばりながら風魔法エア・ブロウを唱えて突風を地面に当ててその反動で逃げた。
 
「「ラ、ランドニー先生っ!そ、そんな…。」」
ランドニーが逃げたことで、マーケンス以外の皆は怖じ気づき今更だったが後悔する。
 
 
「おい!お前ら、死にたくなかったら、泣いている暇はないぞ」
身体を震わせ、冷や汗をかきながらマーケンスは大剣を構える。

「マーケンス…。」
「「マーケンス君…。」」
そんなマーケンスの姿を見て、折れかけた心を奮い立たせたルネル達は立ち上がり構えた。


「ルネル、ガーディアンを!」

「わかったよ、マーケンス君。ガーディアン!」
ガーディアンは自己修復し終わっており、ルネルの命令でガーディアンはマルコシアスに襲い掛かる。

「俺達もいくぞ!」
「おう!」
「「はい!」」
それと同時に、マーケンス達も動いた。

「アース・スピア」
ルネルは両手を前に出して残り僅かな魔力を振り絞り、土魔法アース・スピアを唱えて土の槍を9本召喚する。

「エア・カッター」
マルチスは、右手を前に突き出して左手は右肘に掴み、風魔法エア・カッターを唱えて、13本の風の刃を作り出した。

「アイス・ソード」
ユニは左手を上に挙げて、氷魔法アイス・ソードを唱えて、一刀だが自分の身長の半分ぐらいの70センチの氷の剣を召喚する。

各自、自分達の中で殺傷力の高い魔法を唱えたのだった。


マルコシアスに接近したガーディアンは右手で殴りに掛かったが、攻撃が届く前にマルコシアスの前足がブレたかの様に見えた瞬間、一瞬にして木っ端微塵に切り裂かれてコアを破壊されて土塊になり消滅した。

「糞っ、だが、今だ!」

「オラッ!」

「「いっけ~!」」
マーケンスの掛け声と共に、一斉に魔法を放ったルネル達。

ルネル達の魔法は、全てマルコシアスに直撃して砂埃が舞った。

「ここだっ!」
トドメにマーケンスがマルコシアスに飛び掛かり、全力で大剣を上から振り下ろす。

マーケンスの大剣とマルコシアスの額の衝突で、風圧が発生して砂埃が吹き飛んだ。


「う、嘘…。そんな…。」
ユニの言葉は、その場の状況を表していた。

ルネル達の魔法攻撃が全弾命中し、マーケンスの全力の一撃はマルコシアスの額に当たっていたがマルコシアスは平然としており何事もなかったように立っていた。

「ぐっ」
マルコシアスは首を振り、大剣だけでなくマーケンスごと払い除ける。

「わぁっ」

「「きゃぁ」」
マーケンスはマルコシアスのあまりの力に吹き飛ばされ、呆然と立ち尽くしていたルネル達にぶつかった。

マーケンス達が顔を上げた時には、目の前にマルコシアスが睨みを利かせながら立っていた。

「糞、ここまでか…。」
マルコシアスの圧倒的な威圧感と実力の差を思い知った恐怖で体が動かすことができないマーケンスは、歯を食い縛りながらマルコシアスを睨みつけることしか出来なかった。

「父さん、母さん…。」

「まだ、死にたくないよ…。」

「マミューラ先生、大和君助けて…。」
マルチス、ユニ、ルネルは、顔を強ばらせ絶望していた。

マルコシアスは少しの間、マーケンスを睨みつけ、血塗れになった我が子を見て殺気立ち、そして、前足を掲げた。


マーケンス達は、反射的に恐怖で目を閉じる。

「ガァァ!」
マルコシアスの雄叫びと共に、爆風と轟音、それとは別に木がへし折れる音が聞こえた。

マーケンス達は恐る恐る目を開くと、マルコシアスの姿はなく大成が右足を前に突き出した格好だった。

大成が伸ばした右足の先を見ると20mぐらい一直線に木々がへし折れており地面は抉れており、その先にマルコシアスが倒れていた。

「皆、大丈夫か?間に合って良かった」
笑顔で大成は、マーケンス達を見て尋ねた。
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