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第一章
義母の思惑
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ある日、レオナルト様との定例のお茶会が公爵家で開かれた。
季節ごとに趣向を変える庭園の東屋で、花々の香りに包まれながらのひととき。
それは私が「少しでも殿下と心を通わせたい」と願う、数少ない機会であった。
けれど、その席に義母と義妹の姿があった。
気づいた時には、用意された椅子はいつのまにか4脚となっており、茶器の用意もされた後だった。
「まあ、リシェルさん。驚かせてしまったかしら?」
にこやかに告げる義母の言葉に、胸の奥がざわめく。
「せっかくの場なのだから、わたくしの娘もご一緒させていただこうと思って。王太子殿下に、ぜひ紹介したくてね」
私もあなたの義娘です。と心の中で呟く。言っても仕方がないから言わないけど。
隣で義妹のエリナが、スカートの裾を揺らしながら深々と頭を下げる。
「殿下、エリナ・ベルトラムと申します。リシェル姉様がいつもお世話になっております」
その声音は、わざとらしいほど甘やかだった。
殿下は一瞬だけ眉を動かされたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべられる。
「君が義妹殿か。噂は聞いている。……どうぞ、気軽に」
本来なら二人きりで向き合えるはずの時間が、あっさりと奪われてしまった。
素知らぬふりをして、我が物顔でお茶会に参加する二人は、私の存在なんか気にしない。胸の奥に小さな棘が刺さったような痛みを覚えた。
「そうなんですの。お祖父様からは、新しく出てきた宝石を使って、私に装飾品を作ってくださって…」
「なるほどね。公爵夫人の実家との関わりが深いんだね。…その髪飾りはエリナ嬢の髪に映える。よく似合っているよ。」
会話は自然と、レオナルト様とエリナを中心に流れていく。
レオナルト様は、私と話すときのように義務的に接してはいるが、幾分年下に対して親しみ深い笑顔になっている。
エリナは人懐こい笑顔を惜しみなく振りまき、場を盛り上げる。義母も時折相槌を打ち、満足げに頷いていた。
私はといえば、ただ紅茶を口に運び、穏やかな笑顔を顔に貼りつけるしかできなかった。
(……この席は、わたしのためのものだったはずなのに)
レオナルト様の微笑みが自分に向けられていないのを感じるたび、胸が少しずつ冷えていく。
「レオナルト様…あの」
「あ、レオナルト様!お姉様と同じように私もそう呼んでよろしいですか?」
「ああ、いいよ。未来の義妹殿」
話しかけようとしても遮られ、またエリナのペースに戻る。
そんなことを繰り返しているうちに、あっという間にお開きの時間になり、この会の目的すら見失いそうになる。
「では、そろそろ失礼しようかな」
「では、玄関までお送りします」
「いや、結構。リシェル嬢は、このまま公爵夫人とエリナ嬢とお茶を楽しんでくれ」
もしかしたら以前相談した義理の家族との関係のことを覚えていて、この時間を残してくださったのかと考えたが、レオナルト様はいつもの微笑みで私たちに挨拶をしすると、側近から書類を受け取りながら早足で馬車へと向かっていった。
「リシェルさん、悪く思わないでね」
義母はさも当然のように言った。
「殿下にエリナを知っていただければ、殿方をご紹介いただき、いつか良いご縁に恵まれるでしょう?あなたのように、あの子にも幸せになってほしいのよ」
私は微笑みを崩さぬまま、小さく頭を下げた。
「……そうですわね」
私は家族も婚約者も良いご縁といえるのかしら。
心の中では、何かがぽたりと零れ落ちていくような感覚があった。声にならない寂しさが、胸の奥底で静かに広がっていった。
季節ごとに趣向を変える庭園の東屋で、花々の香りに包まれながらのひととき。
それは私が「少しでも殿下と心を通わせたい」と願う、数少ない機会であった。
けれど、その席に義母と義妹の姿があった。
気づいた時には、用意された椅子はいつのまにか4脚となっており、茶器の用意もされた後だった。
「まあ、リシェルさん。驚かせてしまったかしら?」
にこやかに告げる義母の言葉に、胸の奥がざわめく。
「せっかくの場なのだから、わたくしの娘もご一緒させていただこうと思って。王太子殿下に、ぜひ紹介したくてね」
私もあなたの義娘です。と心の中で呟く。言っても仕方がないから言わないけど。
隣で義妹のエリナが、スカートの裾を揺らしながら深々と頭を下げる。
「殿下、エリナ・ベルトラムと申します。リシェル姉様がいつもお世話になっております」
その声音は、わざとらしいほど甘やかだった。
殿下は一瞬だけ眉を動かされたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべられる。
「君が義妹殿か。噂は聞いている。……どうぞ、気軽に」
本来なら二人きりで向き合えるはずの時間が、あっさりと奪われてしまった。
素知らぬふりをして、我が物顔でお茶会に参加する二人は、私の存在なんか気にしない。胸の奥に小さな棘が刺さったような痛みを覚えた。
「そうなんですの。お祖父様からは、新しく出てきた宝石を使って、私に装飾品を作ってくださって…」
「なるほどね。公爵夫人の実家との関わりが深いんだね。…その髪飾りはエリナ嬢の髪に映える。よく似合っているよ。」
会話は自然と、レオナルト様とエリナを中心に流れていく。
レオナルト様は、私と話すときのように義務的に接してはいるが、幾分年下に対して親しみ深い笑顔になっている。
エリナは人懐こい笑顔を惜しみなく振りまき、場を盛り上げる。義母も時折相槌を打ち、満足げに頷いていた。
私はといえば、ただ紅茶を口に運び、穏やかな笑顔を顔に貼りつけるしかできなかった。
(……この席は、わたしのためのものだったはずなのに)
レオナルト様の微笑みが自分に向けられていないのを感じるたび、胸が少しずつ冷えていく。
「レオナルト様…あの」
「あ、レオナルト様!お姉様と同じように私もそう呼んでよろしいですか?」
「ああ、いいよ。未来の義妹殿」
話しかけようとしても遮られ、またエリナのペースに戻る。
そんなことを繰り返しているうちに、あっという間にお開きの時間になり、この会の目的すら見失いそうになる。
「では、そろそろ失礼しようかな」
「では、玄関までお送りします」
「いや、結構。リシェル嬢は、このまま公爵夫人とエリナ嬢とお茶を楽しんでくれ」
もしかしたら以前相談した義理の家族との関係のことを覚えていて、この時間を残してくださったのかと考えたが、レオナルト様はいつもの微笑みで私たちに挨拶をしすると、側近から書類を受け取りながら早足で馬車へと向かっていった。
「リシェルさん、悪く思わないでね」
義母はさも当然のように言った。
「殿下にエリナを知っていただければ、殿方をご紹介いただき、いつか良いご縁に恵まれるでしょう?あなたのように、あの子にも幸せになってほしいのよ」
私は微笑みを崩さぬまま、小さく頭を下げた。
「……そうですわね」
私は家族も婚約者も良いご縁といえるのかしら。
心の中では、何かがぽたりと零れ落ちていくような感覚があった。声にならない寂しさが、胸の奥底で静かに広がっていった。
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