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第二章
学舎にて②
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歴史の授業が終わると同時に、教室の空気は一気に和らいだ。重々しい話題から解放された生徒たちは机を寄せ合い、小声で感想を語り合い始める。
私も安堵の息を吐いてノートを閉じた。初めての授業は驚きの連続だったけれど、皆と同じように発言し、考えを分かち合うことができた。その事実が胸を熱くしていた。
「リシェル、やっぱお前すげーな!」
隣の席のアレク様が、ためらいもなく言葉を投げかけてくる。真っ直ぐすぎる視線に、頬が一瞬で熱くなる。
「おやめくださいませ、アレク様…!」
「やっぱ俺の目に狂いはなかった!」
その堂々たる口説き文句に、近くの女子生徒たちがくすくすと笑った。
「ほら、また始まった」
「殿下って、リシェルさん相手だとストレートすぎるんだもん」
赤くなる私を前に、アレク様は微動だにしない。むしろ勝ち誇ったように微笑んで――。
「な、なぜ皆さんまで笑って……?」
戸惑う私に、明るい声が返ってきた。
「だって嬉しいんです!」
声の主は、栗色の髪を編み込んだ少女だった。彼女は笑顔で机を叩き、続ける。
「正直、殿下は気さくだしぶっきらぼうに見えて優しいし、昔から女子の憧れでした。小さい頃は誰もが王子様に憧れるでしょ?でも……今はもしリシェル様に殿下が見限られたらどうしよう、って私たち不安で」
「不安……?」
「だって、王子妃なんて誰もなりたくないですから!」
彼女の言葉に、教室がどっと笑いに包まれた。アレク様ですら「ひでー!」と言いながらゲラゲラ笑っている。私は思わず目を瞬かせた。
「……なりたく、ない?」
隣の少年が頷きながら手を挙げる。
「王子妃って、行事に出ずっぱりでしょ?失敗すれば国中に広まるし。緊張で絶対無理だろ」
「そうそう!しかも礼儀作法も完璧じゃないといけないし、好き勝手に出歩くこともできないって聞くわ。自由なんてないじゃない」
「考えただけで吐きそう」
「悪口の応酬もありそうだし…」
女子生徒たちが口々に言葉を重ねる。
「それに殿下……熱心すぎるんです。あんなふうに毎日口説かれたら、心臓がもちません!」
「だからリシェルさんが受け止めてくれてるなら、本当に安心!」
「むしろ感謝したいくらい!」
クラス全員が和気あいあいと笑い合う。悪意など一片もなく、温かな冗談の応酬だ。
私はきょとんとしながら、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
「……皆さん……そんなふうに思ってくださっていたのですね」
思わずもれる私の言葉に、アレク様が得意げに腕を組む。
「聞いただろう、リシェル。外堀が埋まってくな。そろそろ次のステップに進むか。」
さらりと断言され、心臓が大きく跳ねる。
「アレク様、さらっと重いことをおっしゃらないでくださいませ!」
「重くなんてない。俺の本音だ!」
堂々とした口調に、教室は再び笑いの渦に包まれた。
そんな中、教室の後ろで壁に寄りかかっていたカイル様が、苦笑しながら口を開いた。
「……まったく。殿下は幸せ者ですね」
「カイル様……」
カイル様は、穏やかな表情をしながら、ゆっくりと話の中に入ってくる。
「リシェル様」
彼は敬語を崩さず、穏やかに微笑む。
「皆が言っていたことは事実です。殿下に憧れる者は多いですが、王子妃という立場は簡単に務まるものではない。だからこそ……リシェル様がこうして自然に皆と打ち解けてくださるのが、心からありがたいのです」
その真摯な言葉に、胸の奥が温かく満たされていく。
「……私なんて、まだ何もできていませんのに」
小さな声で呟くと、アレク様が即座に反論する。
「いや、もう十分だ。リシェルがここにいて、笑ってくれている。それだけで俺も、みんなも救われてる」
「そうですそうです!」
「殿下が毎日ご機嫌なの、見てればわかります!」
「リシェルさんのおかげですよ!」
クラスメイトたちの声援が重なり、頬が熱で染まる。
母国では「王太子の婚約者」としての役割しかなかった私が、今はただ「一人の学生」として受け入れられている。その事実が、こんなにも嬉しいなんて。
「……ありがとうございます。皆さんの言葉、とても心強いです」
深くお辞儀をすると、温かな拍手が返ってきた。
「ほらな。リシェル、君はもうこのクラスの一員だ。改めて、ようこそ、我が国へ。」
アレク様の囁きに、思わず目が潤む。
窓から差し込む光が教室を包み、笑い声が天井に響いた。
――この場所で、私は新しい自分になれる。
胸にそう誓いながら、制服の袖をぎゅっと握りしめた。
話題は流れていき、王都で開かれる、他国の外交官や親善大使を招いた交流会の話にクラスが浮き足立っていた。
「そういえば聞いた?学園からも代表が出るんだって!」
「やだやだ!そんな仰々しい会なんて、絶対場違いだよ!」
「俺は親父の跡を継ぐから行く予定」
「まじかよ!僕だったら緊張しすぎて倒れる自信あるな」
大げさな声に、思わず笑ってしまう。
次の瞬間、クラスメイトの視線が一斉にこちらへと向いた。
「……でも、リシェルさんなら余裕でしょ」
「うんうん。礼儀とか立ち居振る舞いとか、完璧だもん」
「学園長からも声かかってるんでしょ? 文化交流生だし」
私は少しだけ肩をすくめた。
「えっと……確かに学園長先生から、お話をいただきました」
そう答えると、案の定「やっぱり!」という声が上がる。
「いいなぁ……リシェルさんなら安心だよ」
「私たちじゃ絶対無理だもん」
頬が熱くなり、言葉に詰まる。どう返そうか悩んでいると、聞き慣れた声が横から飛んできた。
「――俺もそう思うな」
アレク様が軽く手をあげる。その気楽そうな仕草に、胸が跳ねる。
「実は学園長から俺もリシェルと出ろって言われてるんだ。」
「殿下がゴリ押ししたんじゃなくて?」
「まあ、それもある!」
わざとらしく肩をすくめながら、悪戯っぽく笑う。
「だから二人で出るのはもう決定事項。……なんだけど」
一拍置いて、わざと真面目ぶった顔をして、私に向き直る。
「改めて言わせてくれ。リシェル、俺に君をエスコートさせてくれないか」
教室の空気が止まった。
クラスメイトたちが「えっ!?」「ちょっと待って!?」と小声でざわめく。
私は頬に熱が集まって、声が出なかった。
そんな私を見て、アレク様は肩を竦めながらおどけて言う。
「いやー照れるもんだな。みんな証人になってくれたか?」
クラスのあちこちから笑い声がもれる。けれど、その場の誰もがわかっていた。
――アレク様の言葉は、冗談に見せかけた本音だということを。
「……私でよろしければ、務めさせていただきます」
顔を上げると、アレク様の瞳が柔らかに細められていた。
それだけで、胸の鼓動が苦しいほど早くなるのを感じた。
私も安堵の息を吐いてノートを閉じた。初めての授業は驚きの連続だったけれど、皆と同じように発言し、考えを分かち合うことができた。その事実が胸を熱くしていた。
「リシェル、やっぱお前すげーな!」
隣の席のアレク様が、ためらいもなく言葉を投げかけてくる。真っ直ぐすぎる視線に、頬が一瞬で熱くなる。
「おやめくださいませ、アレク様…!」
「やっぱ俺の目に狂いはなかった!」
その堂々たる口説き文句に、近くの女子生徒たちがくすくすと笑った。
「ほら、また始まった」
「殿下って、リシェルさん相手だとストレートすぎるんだもん」
赤くなる私を前に、アレク様は微動だにしない。むしろ勝ち誇ったように微笑んで――。
「な、なぜ皆さんまで笑って……?」
戸惑う私に、明るい声が返ってきた。
「だって嬉しいんです!」
声の主は、栗色の髪を編み込んだ少女だった。彼女は笑顔で机を叩き、続ける。
「正直、殿下は気さくだしぶっきらぼうに見えて優しいし、昔から女子の憧れでした。小さい頃は誰もが王子様に憧れるでしょ?でも……今はもしリシェル様に殿下が見限られたらどうしよう、って私たち不安で」
「不安……?」
「だって、王子妃なんて誰もなりたくないですから!」
彼女の言葉に、教室がどっと笑いに包まれた。アレク様ですら「ひでー!」と言いながらゲラゲラ笑っている。私は思わず目を瞬かせた。
「……なりたく、ない?」
隣の少年が頷きながら手を挙げる。
「王子妃って、行事に出ずっぱりでしょ?失敗すれば国中に広まるし。緊張で絶対無理だろ」
「そうそう!しかも礼儀作法も完璧じゃないといけないし、好き勝手に出歩くこともできないって聞くわ。自由なんてないじゃない」
「考えただけで吐きそう」
「悪口の応酬もありそうだし…」
女子生徒たちが口々に言葉を重ねる。
「それに殿下……熱心すぎるんです。あんなふうに毎日口説かれたら、心臓がもちません!」
「だからリシェルさんが受け止めてくれてるなら、本当に安心!」
「むしろ感謝したいくらい!」
クラス全員が和気あいあいと笑い合う。悪意など一片もなく、温かな冗談の応酬だ。
私はきょとんとしながら、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
「……皆さん……そんなふうに思ってくださっていたのですね」
思わずもれる私の言葉に、アレク様が得意げに腕を組む。
「聞いただろう、リシェル。外堀が埋まってくな。そろそろ次のステップに進むか。」
さらりと断言され、心臓が大きく跳ねる。
「アレク様、さらっと重いことをおっしゃらないでくださいませ!」
「重くなんてない。俺の本音だ!」
堂々とした口調に、教室は再び笑いの渦に包まれた。
そんな中、教室の後ろで壁に寄りかかっていたカイル様が、苦笑しながら口を開いた。
「……まったく。殿下は幸せ者ですね」
「カイル様……」
カイル様は、穏やかな表情をしながら、ゆっくりと話の中に入ってくる。
「リシェル様」
彼は敬語を崩さず、穏やかに微笑む。
「皆が言っていたことは事実です。殿下に憧れる者は多いですが、王子妃という立場は簡単に務まるものではない。だからこそ……リシェル様がこうして自然に皆と打ち解けてくださるのが、心からありがたいのです」
その真摯な言葉に、胸の奥が温かく満たされていく。
「……私なんて、まだ何もできていませんのに」
小さな声で呟くと、アレク様が即座に反論する。
「いや、もう十分だ。リシェルがここにいて、笑ってくれている。それだけで俺も、みんなも救われてる」
「そうですそうです!」
「殿下が毎日ご機嫌なの、見てればわかります!」
「リシェルさんのおかげですよ!」
クラスメイトたちの声援が重なり、頬が熱で染まる。
母国では「王太子の婚約者」としての役割しかなかった私が、今はただ「一人の学生」として受け入れられている。その事実が、こんなにも嬉しいなんて。
「……ありがとうございます。皆さんの言葉、とても心強いです」
深くお辞儀をすると、温かな拍手が返ってきた。
「ほらな。リシェル、君はもうこのクラスの一員だ。改めて、ようこそ、我が国へ。」
アレク様の囁きに、思わず目が潤む。
窓から差し込む光が教室を包み、笑い声が天井に響いた。
――この場所で、私は新しい自分になれる。
胸にそう誓いながら、制服の袖をぎゅっと握りしめた。
話題は流れていき、王都で開かれる、他国の外交官や親善大使を招いた交流会の話にクラスが浮き足立っていた。
「そういえば聞いた?学園からも代表が出るんだって!」
「やだやだ!そんな仰々しい会なんて、絶対場違いだよ!」
「俺は親父の跡を継ぐから行く予定」
「まじかよ!僕だったら緊張しすぎて倒れる自信あるな」
大げさな声に、思わず笑ってしまう。
次の瞬間、クラスメイトの視線が一斉にこちらへと向いた。
「……でも、リシェルさんなら余裕でしょ」
「うんうん。礼儀とか立ち居振る舞いとか、完璧だもん」
「学園長からも声かかってるんでしょ? 文化交流生だし」
私は少しだけ肩をすくめた。
「えっと……確かに学園長先生から、お話をいただきました」
そう答えると、案の定「やっぱり!」という声が上がる。
「いいなぁ……リシェルさんなら安心だよ」
「私たちじゃ絶対無理だもん」
頬が熱くなり、言葉に詰まる。どう返そうか悩んでいると、聞き慣れた声が横から飛んできた。
「――俺もそう思うな」
アレク様が軽く手をあげる。その気楽そうな仕草に、胸が跳ねる。
「実は学園長から俺もリシェルと出ろって言われてるんだ。」
「殿下がゴリ押ししたんじゃなくて?」
「まあ、それもある!」
わざとらしく肩をすくめながら、悪戯っぽく笑う。
「だから二人で出るのはもう決定事項。……なんだけど」
一拍置いて、わざと真面目ぶった顔をして、私に向き直る。
「改めて言わせてくれ。リシェル、俺に君をエスコートさせてくれないか」
教室の空気が止まった。
クラスメイトたちが「えっ!?」「ちょっと待って!?」と小声でざわめく。
私は頬に熱が集まって、声が出なかった。
そんな私を見て、アレク様は肩を竦めながらおどけて言う。
「いやー照れるもんだな。みんな証人になってくれたか?」
クラスのあちこちから笑い声がもれる。けれど、その場の誰もがわかっていた。
――アレク様の言葉は、冗談に見せかけた本音だということを。
「……私でよろしければ、務めさせていただきます」
顔を上げると、アレク様の瞳が柔らかに細められていた。
それだけで、胸の鼓動が苦しいほど早くなるのを感じた。
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