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第二章
心を守る
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ユリウス様の腕に支えられ、しばらくその温もりに包まれていた。
(アレク様の心からの笑顔……もう、あの人の隣にいられないのだとしたら……)
胸の奥が締めつけられ、息を整えることさえ難しい。
ユリウス様の腕の中で感じる温かさは、心の隙間を埋めてくれる危うい温もりだった。
心の隅には消えないアレク様の影がある。アレク様が私に向けた真剣な想いと、義務によって笑顔を貼り付ける私を見つめていた瞳。
自分でも何を考えればよいのかわからず、思考の沼にはまってしまいそうだった。
どのくらい時間が経ったのだろう。
胸の奥の痛みと、抑えきれない涙がゆっくりと静まるのを感じる。
やがて、ユリウス様がそっと腕を離した。距離は保たれたまま、優しい微笑みだけが残る。
「リシェル嬢、落ち着かれましたか」
彼の瞳に映るのは、私の弱さそのもの。否定も、叱責もせず、ただ静かに受け止めてくれるその姿に、心が揺れる。
「…申し訳ありません、もう大丈夫です。」
「いえ、役得でしたので、どうぞお気になさらず。私はこの書類を文官室まで届けねばなりませんので、ここで失礼しますね。」
ユリウス様は、私に向かって無邪気にウインクをして、腕を離した。
悠然と歩く姿は、大人の余裕を感じられる。私はただただユリウス様の背が見えなくなるまで見送ってから、部屋に戻った。
部屋の扉を閉め、ゆっくりと背を預けた。全身の力が抜け、涙の跡だけが頬に残る。
ユリウス様の温かさに包まれた直後の余韻は、まるで現実と夢の境界に立っているようで、私の心はまだ揺れていた。
その温もりは、冷たく締めつけられた胸の奥の痛みを一時的に溶かしてくれたようだった。
でも頭が警鈴を鳴らす。
アレク様への想いはその程度のものなのか。
傷つくことが怖くて逃げようとしているだけではないのか。
あの日のアレク様の顔が、瞼の裏に浮かぶ。
掠れた声で「好きだ」と告げられた瞬間。
義務に縛られた私を見つめた、あの切ない瞳。
あの笑顔を、もう取り戻すことはできないのだろうか――。
涙を拭い、私は窓辺に歩み寄った。
外の庭園は、夕暮れの光に柔らかく染まっている。花々は穏やかに揺れ、鳥の鳴き声がかすかに聞こえる。
なのに、私の心は嵐の中にいるようにざわついていた。
(……アレク様の温かさを、私から手放したのに…)
その想いを振り切ろうと深呼吸をする。だが、どうしても胸の奥の空虚は埋まらない。
――ああ、どうして私は……。
思わず膝を抱え、静かに肩を震わせる。
この気持ちは、誰にも言えない。アレク様への恋情、そして自分の心の弱さ。
胸の奥で絡まり合う感情をほどくことはできず、再び涙が頬を伝った。
そのとき、扉の外から静かな足音が聞こえた。
「リシェル嬢」
そこには、まさかの人物――ユリウス様の声だった。
「ユリウス様…」
声が掠れる。
「……リシェル嬢、まだお辛そうですね」
彼は低く穏やかな声で告げる。
急いで戻ってきてくれたのだろう。言葉の合間に、荒い息遣いが聞こえる。
無理に扉を開くことなく、扉越しに話しかけてくる。
「……先ほどはお見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」
声は震え、言葉に力はない。
「リシェル嬢、もしよろしければ扉を開けてもらえませんか。このままでは、あなたを慰めることも、涙を拭うこともできない。」
真剣な声が届く。それでも無理に開けず、辛抱強く待っていてくださる。
そっと扉を開けると、眉を下げたユリウス様が立っていた。
「ほら、涙の跡…」
ユリウス様の指がそっと頬をなぞる。
「無理に笑う必要も、強がる必要もない」
言葉が胸に染みる。
この人は、ただ私の心を守ろうとしてくれるのだ。傷つけることも、利用することもなく、ただ支えてくれる存在。
私は視線を落とし、しばらく沈黙する。
ユリウス様は動かず、ただその場で、私の呼吸に合わせるように立っていた。
その時間の中で、涙が少しずつ収まり、胸の奥の痛みが静かに波打つのを感じる。
(……アレク様)
心の中で何度も繰り返す。
あの日、私に告げられた真実の想い。
義務に押しつぶされながらも、私を守ろうとしたその誠実さ。
その記憶は、ユリウス様の優しさでは代替できないのだと知る。
胸の奥のざわめきに耐えながら、私はそっと顔を上げた。
ユリウス様の瞳は優しく、だがどこか切なげに私を見つめている。
その視線に、私の胸はまた、ぎゅっと締めつけられた。
「……申し訳ありません」
かすかな声を漏らす。
返ってきたのは、変わらぬ微笑みと、穏やかに差し伸べられた手。
「…今だけは、僕に助けを求めてくれませんか。」
私は迷いながらも、その手に触れ、わずかに寄りかかる。
その瞬間、力強く全身を包む温かさに、心の奥の隙間が一瞬だけ埋まる感覚があった。
部屋の中は静かで、窓から差し込む夕陽が、私の影を長く伸ばす。
私はずるいのかもしれない。
アレク様への想い。
ユリウス様への甘え。
どちらも、私にとって逃げ場のない重みであり、同時に守られる喜びでもあった。
どうすれば、この心の迷路を抜けられるのだろう。
問いは空へ放たれ、答えはまだ、誰にも与えられない。
ただ一つ分かるのは、私の心が、どちらか一方を選ぶにはあまりにも揺れ続けているということだった。
(アレク様の心からの笑顔……もう、あの人の隣にいられないのだとしたら……)
胸の奥が締めつけられ、息を整えることさえ難しい。
ユリウス様の腕の中で感じる温かさは、心の隙間を埋めてくれる危うい温もりだった。
心の隅には消えないアレク様の影がある。アレク様が私に向けた真剣な想いと、義務によって笑顔を貼り付ける私を見つめていた瞳。
自分でも何を考えればよいのかわからず、思考の沼にはまってしまいそうだった。
どのくらい時間が経ったのだろう。
胸の奥の痛みと、抑えきれない涙がゆっくりと静まるのを感じる。
やがて、ユリウス様がそっと腕を離した。距離は保たれたまま、優しい微笑みだけが残る。
「リシェル嬢、落ち着かれましたか」
彼の瞳に映るのは、私の弱さそのもの。否定も、叱責もせず、ただ静かに受け止めてくれるその姿に、心が揺れる。
「…申し訳ありません、もう大丈夫です。」
「いえ、役得でしたので、どうぞお気になさらず。私はこの書類を文官室まで届けねばなりませんので、ここで失礼しますね。」
ユリウス様は、私に向かって無邪気にウインクをして、腕を離した。
悠然と歩く姿は、大人の余裕を感じられる。私はただただユリウス様の背が見えなくなるまで見送ってから、部屋に戻った。
部屋の扉を閉め、ゆっくりと背を預けた。全身の力が抜け、涙の跡だけが頬に残る。
ユリウス様の温かさに包まれた直後の余韻は、まるで現実と夢の境界に立っているようで、私の心はまだ揺れていた。
その温もりは、冷たく締めつけられた胸の奥の痛みを一時的に溶かしてくれたようだった。
でも頭が警鈴を鳴らす。
アレク様への想いはその程度のものなのか。
傷つくことが怖くて逃げようとしているだけではないのか。
あの日のアレク様の顔が、瞼の裏に浮かぶ。
掠れた声で「好きだ」と告げられた瞬間。
義務に縛られた私を見つめた、あの切ない瞳。
あの笑顔を、もう取り戻すことはできないのだろうか――。
涙を拭い、私は窓辺に歩み寄った。
外の庭園は、夕暮れの光に柔らかく染まっている。花々は穏やかに揺れ、鳥の鳴き声がかすかに聞こえる。
なのに、私の心は嵐の中にいるようにざわついていた。
(……アレク様の温かさを、私から手放したのに…)
その想いを振り切ろうと深呼吸をする。だが、どうしても胸の奥の空虚は埋まらない。
――ああ、どうして私は……。
思わず膝を抱え、静かに肩を震わせる。
この気持ちは、誰にも言えない。アレク様への恋情、そして自分の心の弱さ。
胸の奥で絡まり合う感情をほどくことはできず、再び涙が頬を伝った。
そのとき、扉の外から静かな足音が聞こえた。
「リシェル嬢」
そこには、まさかの人物――ユリウス様の声だった。
「ユリウス様…」
声が掠れる。
「……リシェル嬢、まだお辛そうですね」
彼は低く穏やかな声で告げる。
急いで戻ってきてくれたのだろう。言葉の合間に、荒い息遣いが聞こえる。
無理に扉を開くことなく、扉越しに話しかけてくる。
「……先ほどはお見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」
声は震え、言葉に力はない。
「リシェル嬢、もしよろしければ扉を開けてもらえませんか。このままでは、あなたを慰めることも、涙を拭うこともできない。」
真剣な声が届く。それでも無理に開けず、辛抱強く待っていてくださる。
そっと扉を開けると、眉を下げたユリウス様が立っていた。
「ほら、涙の跡…」
ユリウス様の指がそっと頬をなぞる。
「無理に笑う必要も、強がる必要もない」
言葉が胸に染みる。
この人は、ただ私の心を守ろうとしてくれるのだ。傷つけることも、利用することもなく、ただ支えてくれる存在。
私は視線を落とし、しばらく沈黙する。
ユリウス様は動かず、ただその場で、私の呼吸に合わせるように立っていた。
その時間の中で、涙が少しずつ収まり、胸の奥の痛みが静かに波打つのを感じる。
(……アレク様)
心の中で何度も繰り返す。
あの日、私に告げられた真実の想い。
義務に押しつぶされながらも、私を守ろうとしたその誠実さ。
その記憶は、ユリウス様の優しさでは代替できないのだと知る。
胸の奥のざわめきに耐えながら、私はそっと顔を上げた。
ユリウス様の瞳は優しく、だがどこか切なげに私を見つめている。
その視線に、私の胸はまた、ぎゅっと締めつけられた。
「……申し訳ありません」
かすかな声を漏らす。
返ってきたのは、変わらぬ微笑みと、穏やかに差し伸べられた手。
「…今だけは、僕に助けを求めてくれませんか。」
私は迷いながらも、その手に触れ、わずかに寄りかかる。
その瞬間、力強く全身を包む温かさに、心の奥の隙間が一瞬だけ埋まる感覚があった。
部屋の中は静かで、窓から差し込む夕陽が、私の影を長く伸ばす。
私はずるいのかもしれない。
アレク様への想い。
ユリウス様への甘え。
どちらも、私にとって逃げ場のない重みであり、同時に守られる喜びでもあった。
どうすれば、この心の迷路を抜けられるのだろう。
問いは空へ放たれ、答えはまだ、誰にも与えられない。
ただ一つ分かるのは、私の心が、どちらか一方を選ぶにはあまりにも揺れ続けているということだった。
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