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5雨宿りは恋の予感?
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王都近くの領地。秋の公務で、文官セリーヌと第三王子カインは街周りに出かけていた。
地方領民との面会や施設視察、必要な物資の確認――すべて王家の公務である。だが、カインにとってはセリーヌと同行する格好の「デートもどき」だった。
商店街には色とりどりの布や宝飾品が並び、香辛料や焼き菓子の香りが混ざる賑やかな通り。カインはその中で一つの深い色味の青のブローチに目を留める。セリーヌの文官の制服の襟元に飾るには、華やかさが出て良いのではないか。
「セリーヌ、あれはどうだろうか」
「殿下、それは任務には不向きですわ。耐久性や管理の面でも、王族用としては不安があります」
セリーヌは真剣そのもの。ブローチの輝きよりも実用性を優先する。
「いや、それは俺が使うのではなく…」
「なるほど。領地の特産としてですね!それでしたら、観光目的で来ている方にとっては職人の…」
カインは苦笑する。セリーヌは眉一つ動かさず、特産としての有用性について説明する。
カインは肩をすくめる。
――好みを探ろうとしているだけなのに、真面目さが邪魔をする。
街の視察は進む。カインは密かにメモを取るようにセリーヌを観察し、彼女の仕草や反応を頭に刻む。セリーヌは公務優先で、視察の間中、王族としての立場や安全性を考え続ける。
「殿下、あちらの倉庫は補修が必要ですね」
セリーヌは記録用の羊皮紙にメモを取りながら、手際よく周囲を観察する。
カインは後ろから、彼女の実直さを見つめていた。
だが空は次第に暗くなり、厚い雲が領地の村を覆った。遠くで雷鳴が低く響く。ぽつぽつと雨が落ち、あっという間に本降りになった。
「……まずいです、屋根のある場所まで急ぎましょう!」
セリーヌは近くの建物の軒先に目を向ける。民家の軒先だが、雨を避けるには十分だ。
だが問題は距離。二人とも急ぎ足だが、より強くなってくる雨に焦りが出てくる。
カインの肩が濡れ始めていることに気づき、セリーヌはおもむろに外套を脱ぎ始めた。
「セリーヌ何を…!」
「殿下、私の外套をどうぞ!風邪をひかれると王家の一大事です!」
カインは頬を染めながら目を背けるが、その様子には気づかないセリーヌ。
頭ひとつ分大きな殿下を覆うように腕を大きく伸ばし、外套を差し出した。カインは慌てて受け取るが、外套は小柄なセリーヌの大きさでカイン一人分も入れない。
「殿下、大丈夫ですわ! 私の代わりにその外套が雨からの盾になります!」
小さな声でそう告げながら、胸を張るセリーヌ。雨の中で立つ姿は真剣そのものだった。
セリーヌを横目に見ると水分を吸って重そうな服を引きずり、髪から滴る雫が妙に色気を醸し出していた。
「二人で入れば濡れないだろう」
その姿を誰にも見せたくない。カインは彼女を肩抱き寄せ、自分の体で雨を避けさせた。二人の距離は、さっきよりもずっと近くなった。
「……セリーヌ、俺は君のことを…」
カインは勇気を振り絞り、告白しようと口を開く。
「殿下、雨で足元が滑ります!ご注意ください!」
セリーヌは真剣な顔で手を伸ばす。
――告白の言葉は雨音にかき消された。
二人の周囲には護衛と側付きが複数人控えている。若手魔導師は手を口元に当てて小さく息をひそめ、二人の距離に目を輝かせる。衛士は背筋を伸ばして立ちつつも、内心で「これは……!」と小躍りしていた。
だが誰も口に出せない。公務中であり、王族と文官の行動を乱すわけにはいかないのだ。
ようやく軒下に到着し、雨から逃げることができた。セリーヌは満足そうに微笑む。
「私は盾になれましたか?」
「…(いや、二人ともずぶ濡れなんだが…)」
「ま、いいか。」カインは濡れた髪を手で押さえ、思わず小さく嘆息する。
――少しは距離を縮められたのだろうか。
雨宿りの数分間で、二人の体温は近づき、物理的距離も縮まった。だが伝えたかった言葉は、伝えられなかったが妙な充足感があった。
軒下から一歩も動けず、雨音にかき消される声。
セリーヌは全く気にせず、盾になれたことで任務完了の満足顔。カインは今日の日を胸にしまった。
◇
その夜、王城奥の広間にて、恒例の「王家ラブラブ作戦会議」が開かれた。
出席者は王太子アレクシス、第二王子レオルド、第四王子ユリウス、そして王妃。カインは不在である。国王陛下は別室で執務中だった。
「では、まず『第四回ラブラブ大作戦』雨宿り事件の報告から始めよう」
アレクシスは羊皮紙に「セリーヌ盾達成済」と大書きし、作戦の成果を確認する。
「予想以上ね。セリーヌがカインを雨から守ろうと…」
王妃は手を叩き、嬉々として笑う。
「有言実行で盾になった!彼女!素晴らしい!」
「……カイン、ずぶ濡れでしたね」
レオルドは眉をひそめ、現場の衛士や側付きの証言を整理する。
「しかし心理的距離は確実に縮まった模様です」
「ですが、カインの告白は伝わらず……」
アレクシスはため息をつき、作戦の限界を分析する。
王妃は笑みを浮かべ、次の提案に移る。
「では、次の作戦を考えましょう。危機回避訓練の予定でしたが、雨宿りで盾作戦が勝手に完了してしまったので、別の舞台が必要です」
「なるほど……では、どうする?」
アレクシスが羊皮紙にメモを取りつつ確認する。
「城内書庫、魔導書整理です!」
王妃は両手を合わせ、嬉々として提案する。
「書庫で書物が落ちる、魔法陣が小規模に暴走する──カインがセリーヌを庇うシーンを自然に作れます」
「危険は少しありますね」
レオルドは冷静に分析する。
「しかし任務に真面目なセリーヌ嬢なら、自然にカインの近くに行きます」
「作戦名は『第五回ラブラブ大作戦:城内書庫編』」
アレクシスが大きく頷く。
「目的は距離接近と心理的距離の縮小。告白チャンスの最大化です」
「そして、セリーヌ嬢には任務遂行中の偶然感を演出する」
王妃が微笑む。
「任務優先の真面目さが、カインの好意を逆に引き立てます」
「母上、任務中に魔法トラブルを作るわけですね」
ユリウスは冷ややかにツッコミ。
「無理に近づけさせると逆効果になる場合もありますが」
「大丈夫ですわ。失敗も作戦の一部です」
王妃は笑みを浮かべる。
「カインは必死ですし、セリーヌも真面目です。結果は面白くなるはずです。なんてったって、危機は恋を育むもの」
会議室には次回作戦への期待が漂う。
全員が思い思いにシナリオを想像し、内心で笑みを浮かべる。
「では、これで作戦変更を正式決定とする」
アレクシスが羊皮紙を押さえる。
「第5回ラブラブ大作戦、城内書庫編、開始!」
もちろん、カイン本人は何も知らない。
国王陛下は執務室で書類に目を落としながら、「家族がまた秘密裏に動いている……わしの誕生日はまだ先なのだが」と頭を抱えていた。
王城奥の秘密会議の存在など、誰も気づいていないのだった。
◇
続いていた雨がやみ、空に薄い虹が架かる頃、カインは風邪の兆候を感じていた。
震える体を押さえ、彼は心の中で呟く。
「……俺はいつ、セリーヌに伝えられるんだろう……」
地方領民との面会や施設視察、必要な物資の確認――すべて王家の公務である。だが、カインにとってはセリーヌと同行する格好の「デートもどき」だった。
商店街には色とりどりの布や宝飾品が並び、香辛料や焼き菓子の香りが混ざる賑やかな通り。カインはその中で一つの深い色味の青のブローチに目を留める。セリーヌの文官の制服の襟元に飾るには、華やかさが出て良いのではないか。
「セリーヌ、あれはどうだろうか」
「殿下、それは任務には不向きですわ。耐久性や管理の面でも、王族用としては不安があります」
セリーヌは真剣そのもの。ブローチの輝きよりも実用性を優先する。
「いや、それは俺が使うのではなく…」
「なるほど。領地の特産としてですね!それでしたら、観光目的で来ている方にとっては職人の…」
カインは苦笑する。セリーヌは眉一つ動かさず、特産としての有用性について説明する。
カインは肩をすくめる。
――好みを探ろうとしているだけなのに、真面目さが邪魔をする。
街の視察は進む。カインは密かにメモを取るようにセリーヌを観察し、彼女の仕草や反応を頭に刻む。セリーヌは公務優先で、視察の間中、王族としての立場や安全性を考え続ける。
「殿下、あちらの倉庫は補修が必要ですね」
セリーヌは記録用の羊皮紙にメモを取りながら、手際よく周囲を観察する。
カインは後ろから、彼女の実直さを見つめていた。
だが空は次第に暗くなり、厚い雲が領地の村を覆った。遠くで雷鳴が低く響く。ぽつぽつと雨が落ち、あっという間に本降りになった。
「……まずいです、屋根のある場所まで急ぎましょう!」
セリーヌは近くの建物の軒先に目を向ける。民家の軒先だが、雨を避けるには十分だ。
だが問題は距離。二人とも急ぎ足だが、より強くなってくる雨に焦りが出てくる。
カインの肩が濡れ始めていることに気づき、セリーヌはおもむろに外套を脱ぎ始めた。
「セリーヌ何を…!」
「殿下、私の外套をどうぞ!風邪をひかれると王家の一大事です!」
カインは頬を染めながら目を背けるが、その様子には気づかないセリーヌ。
頭ひとつ分大きな殿下を覆うように腕を大きく伸ばし、外套を差し出した。カインは慌てて受け取るが、外套は小柄なセリーヌの大きさでカイン一人分も入れない。
「殿下、大丈夫ですわ! 私の代わりにその外套が雨からの盾になります!」
小さな声でそう告げながら、胸を張るセリーヌ。雨の中で立つ姿は真剣そのものだった。
セリーヌを横目に見ると水分を吸って重そうな服を引きずり、髪から滴る雫が妙に色気を醸し出していた。
「二人で入れば濡れないだろう」
その姿を誰にも見せたくない。カインは彼女を肩抱き寄せ、自分の体で雨を避けさせた。二人の距離は、さっきよりもずっと近くなった。
「……セリーヌ、俺は君のことを…」
カインは勇気を振り絞り、告白しようと口を開く。
「殿下、雨で足元が滑ります!ご注意ください!」
セリーヌは真剣な顔で手を伸ばす。
――告白の言葉は雨音にかき消された。
二人の周囲には護衛と側付きが複数人控えている。若手魔導師は手を口元に当てて小さく息をひそめ、二人の距離に目を輝かせる。衛士は背筋を伸ばして立ちつつも、内心で「これは……!」と小躍りしていた。
だが誰も口に出せない。公務中であり、王族と文官の行動を乱すわけにはいかないのだ。
ようやく軒下に到着し、雨から逃げることができた。セリーヌは満足そうに微笑む。
「私は盾になれましたか?」
「…(いや、二人ともずぶ濡れなんだが…)」
「ま、いいか。」カインは濡れた髪を手で押さえ、思わず小さく嘆息する。
――少しは距離を縮められたのだろうか。
雨宿りの数分間で、二人の体温は近づき、物理的距離も縮まった。だが伝えたかった言葉は、伝えられなかったが妙な充足感があった。
軒下から一歩も動けず、雨音にかき消される声。
セリーヌは全く気にせず、盾になれたことで任務完了の満足顔。カインは今日の日を胸にしまった。
◇
その夜、王城奥の広間にて、恒例の「王家ラブラブ作戦会議」が開かれた。
出席者は王太子アレクシス、第二王子レオルド、第四王子ユリウス、そして王妃。カインは不在である。国王陛下は別室で執務中だった。
「では、まず『第四回ラブラブ大作戦』雨宿り事件の報告から始めよう」
アレクシスは羊皮紙に「セリーヌ盾達成済」と大書きし、作戦の成果を確認する。
「予想以上ね。セリーヌがカインを雨から守ろうと…」
王妃は手を叩き、嬉々として笑う。
「有言実行で盾になった!彼女!素晴らしい!」
「……カイン、ずぶ濡れでしたね」
レオルドは眉をひそめ、現場の衛士や側付きの証言を整理する。
「しかし心理的距離は確実に縮まった模様です」
「ですが、カインの告白は伝わらず……」
アレクシスはため息をつき、作戦の限界を分析する。
王妃は笑みを浮かべ、次の提案に移る。
「では、次の作戦を考えましょう。危機回避訓練の予定でしたが、雨宿りで盾作戦が勝手に完了してしまったので、別の舞台が必要です」
「なるほど……では、どうする?」
アレクシスが羊皮紙にメモを取りつつ確認する。
「城内書庫、魔導書整理です!」
王妃は両手を合わせ、嬉々として提案する。
「書庫で書物が落ちる、魔法陣が小規模に暴走する──カインがセリーヌを庇うシーンを自然に作れます」
「危険は少しありますね」
レオルドは冷静に分析する。
「しかし任務に真面目なセリーヌ嬢なら、自然にカインの近くに行きます」
「作戦名は『第五回ラブラブ大作戦:城内書庫編』」
アレクシスが大きく頷く。
「目的は距離接近と心理的距離の縮小。告白チャンスの最大化です」
「そして、セリーヌ嬢には任務遂行中の偶然感を演出する」
王妃が微笑む。
「任務優先の真面目さが、カインの好意を逆に引き立てます」
「母上、任務中に魔法トラブルを作るわけですね」
ユリウスは冷ややかにツッコミ。
「無理に近づけさせると逆効果になる場合もありますが」
「大丈夫ですわ。失敗も作戦の一部です」
王妃は笑みを浮かべる。
「カインは必死ですし、セリーヌも真面目です。結果は面白くなるはずです。なんてったって、危機は恋を育むもの」
会議室には次回作戦への期待が漂う。
全員が思い思いにシナリオを想像し、内心で笑みを浮かべる。
「では、これで作戦変更を正式決定とする」
アレクシスが羊皮紙を押さえる。
「第5回ラブラブ大作戦、城内書庫編、開始!」
もちろん、カイン本人は何も知らない。
国王陛下は執務室で書類に目を落としながら、「家族がまた秘密裏に動いている……わしの誕生日はまだ先なのだが」と頭を抱えていた。
王城奥の秘密会議の存在など、誰も気づいていないのだった。
◇
続いていた雨がやみ、空に薄い虹が架かる頃、カインは風邪の兆候を感じていた。
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