83 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め
82 メサダ神の思惑
しおりを挟む『あの人間、赦すまじ』
少年神は地平線の床を裸足でウロウロと歩きまわりながら、それを延々と繰り返した。
『もっと前に死ぬ筈だった…砂の一粒のような存在だった筈だったのに。
ただの女預言者だと思っていたのに。ただの歴史の取り零しだと思っていたのに』
ギデオンを王座へ。
それは、メサダ神に更なる力を与えてくれる計画の一部だった。
(どの神々より我等は強く強大になる)
信仰する民が多ければ多いほど神としての力は増し、完全無欠な存在へと近づいていくのだ。
その為にニキアスは邪魔な人間だった。
神として直接的には人間に介入は出来ないと言われていたからこそ、メサダ神達はこの計画を立てたのだ。
当初ニキアスは前皇帝弟公の貴族の側妃の元で、強く賢く美しい完璧な男児として生まれつく筈であった。
彼は冷酷で自己中心的な義兄ガウディが原因で家から逃げ出したのち、自らが選んだ信仰神のもと、更なる飛躍をしながら成長をする。
やがてニキアスは、彼を愛する者達の助けを得て、残酷で無能な皇帝ガウディを倒し、民意を得て皇位を抱く。
そしてアウロニア帝国の基盤を更に強化し、帝国の更なる発展を遂げる歴代で最も名を遺す皇帝になる――そんな筋書きだ。
しかしそれはメサダ神にとって都合が悪かった。
信仰が集まれば集まるほど、祈りの力――ひとつの神を讃える力は強まり、直接その神のちからへと繋がる。
ニキアスが選ぶのがメサダであれば良かったのだが、どんなに介したとしても、彼が選ぶ神が決してメサダ神でないのがまた小癪でもあった。
*****
そう――必要なのは、星の様に輝く求心力を持つニキアスを堕とすだけ堕として利用する計画だ。
メサダは少ない確率であったギデオンを皇位に付ける為、『選択の帰路』までの道筋を巧妙に操作していく。
尚且つ、現皇帝の不当な弑逆を理由に、自分の信仰する神の力が得られなくなったところで――ギデオンを正当な皇位へと導くつもりだった。
今後五百年間はメサダ神等の信仰と繁栄をもたらす為に変えていく必要があった。
その為にニキアスの血筋から少しずつ変えていく。
流石に父が皇帝弟公の強い縛りは外せないが、母方の血筋は貴族ではなく平民へ、そして奴隷に近い所まで持っていく事ができた。
これでは流石に側妃にはできないだろうと思ったのに。
ガウディ皇帝も然り。
何故か完全に強すぎる覇王星であるため動かせない。
しかしその父である王弟公は弱かった。
その性質を利用し、酒と女に溺れさせた。
反対にギデオンへ振りかかる悲劇を少しでも回避させるために、ギデオンとその周辺らの人間に運が回る様にほんの少しずつ手を加えていった。
あからさまではいけない。
他の神に覚らせないように少しずつ何百年もかけて流れを変える。
そのために延々と続くドミノの牌を少しずつ立てる様に気の遠くなるような作業を積み上げてきたのだ。
その全てを
(あの預言者は灰塵に帰そうとする――)
許せるはずも無い。
(…このままにしては置かない)
メサダ神はあるはずのない指の爪を無意識に齧っていた。
*******
わたしは夜中に目が覚めた。
目の前に逞しい筋肉のついたニキアスの背中が見えた。
残り少ない蝋燭の火で、わたしがつけてしまった爪の痕が薄っすら浮かびあがっている。
身体が気怠く脚の間の違和感はあるが、痛みなどは無くなっていた。
ニキアスが「優しく出来ない」と言いつつも我慢して、あの後も十分わたしをいたわってゆっくりと挿れたからだろう。
(これで少なくとも、ニキアスが無理やり処女を奪ったと記載されるような事は無い筈だわ)
わたしはほっとして大きく息を吐いた。
「――眠れないか?マヤ」
ニキアスが首を起こし、少し後ろを向いてわたしに訊いた。
「ニキアス…起きていたの?」
「お前が何故こんな事を…急いてしたがったのかのを考えていた」
わたしは答えられなかった。
余りにも不確実な自分の勘と不明瞭な前世の記憶と、ごちゃまぜになった不安感を上手く説明する自信が無かったからだ。
背を向けたままのニキアスが少し笑ったような気がしたけれど
「…お前が望んでしたかった事なら、それでいい」
わたしはニキアスの背中に身体を寄せると、わたしが付けた爪の痕をそっと指でなぞった。
「信じて欲しいのは、わたしは貴方の味方ということ…何があっても」
「分かっている」
今度はわたしの方を向いてわたしに腕枕をしてくれた。
そしてわたしの額に唇を寄せて小さく呟いた。
「けれど覚えていてほしい。次にお前に拒まれたら…俺は壊れるかもしれないと言う事を」
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる