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24 本当のヴィランは ③
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「心配だとは思うが、僕の方で君のお父上の方の様子を調査をする様に手を回しておくから、君はこのモルゴール領でその連絡を待っていてくれ。今イーデン家に戻るのは危険かもしれないからね」
ダニエル様はそう言うと、わたしに優しく微笑んで『イーデン家にいる魔女は必ず捕まえるから』とも約束してくれた。
それから数日が経ち、わたしは今モルゴール邸で心穏やかな日々を送っている。
イーデン家に居た時の様な居心地の悪さと義妹レティシアからのストレスが無い分、素敵な寝心地の良いベッドで快眠し、美味しくバランスの良い食事を頂いていると、何故か食欲が自然に落ち着いて来るのを感じた。
不思議な事なのだけれど、心が穏やかになるのと同時に自然にコルセットとドレスの圧迫感が無くなってくるのを感じたのだった。
「この数日間で、大分すっきりとお痩せになられましたわ」
メルとメロはわたしのドレスの着替えを手伝いながら、言葉をそろえる様に言った。
「わたくし達がコルセットの紐を閉めるのも、そんなにおつらそうには見えませんわ」
「そうかしら?特に何もしてないのだけれど」
わたしは鏡の中の自分の身体を見つめた。
確かにこの数日のことなのにむくみが引いたのか、大分スッキリして見える。
「魔女の呪いのへの自己防衛反応が無くなったので、お身体が変化してきたのかもしれませんわ」
「そうね…、そうかもしれないわ」
「とは言っても、本日はマダム・オランジェの所で今回こそドレスを新調致しますから、楽しみでございますわね」
「そうね。前回は呪いのせいで、マダムお得意の計測方法が出来なかったから」
実はあの後、マダム・オランジェから『呪いが解けたから、出来ればもう一度計測をさせて欲しい』
とお願いをされたのだった。
どうやら前回の手で測ってお仕立てする方法にマダムが納得がいかない様子なのである。
それであのキラキラ光る砂の敷き詰められた採寸部屋で、もう一度計測をする予定なのだ。
ダニエル様曰く『マダム・オランジェの仕立て屋は、一度お願いしたら他店では満足できなくなる知る人ぞ知る名店中の名店』らしいのだ。
(王族の何人かの方もこっそりあのお店を訪れる事があるらしい)
実はあの砂で形成された人形は動かないマネキンの様な代物ではなく、マダムの魔法で多少は動かせるらしい。
そしてマダムのこだわりは、仕立てたドレスや燕尾服を砂人形に着せて動かした時の着易さは勿論のこと、動いた時の皺の入り方や、シルエットの美しさまで追求しているらしいのだ。
「確かにそんなにこだわっていてしかも丁寧なお仕立て屋さんなら、ダニエル様はじめ王宮の方々の御用達になる訳よね」
「そうですわ。まさに真のオーダーメイドなのですわ。わたくし達にとっては憧れのお店の一つです」
野菜いっぱいの美味しい朝食を食べ終えた後、わたしはメルとメロと共に他愛のない会話をしながら、マダム・オランジェのお店に行く準備を始めた。
+++++
「そうかい。気を付けて行っておいで」
お城の執務室でお仕事中だったダニエル様はにっこりと笑いながら、わたし達の外出を送り出してくれた。
「そろそろ君のご実家の様子を確認させている僕の手の者が戻ってくる頃だし、気分転換にマダムの所に行くのはいいんじゃないかな」
「はい。商店街も回ってマダムに採寸をお願いして参りますわ」
「可愛いドレスを作っておいで。僕も楽しみだから」
「ふぁっ…!」
ダニエル様の甘々な台詞と態度に思わず声が出てしまった。
何と云うスパダリぶりなのだろう。
余りの眩しい笑顔にわたしの目がくらんで、ダニエル様が『棺桶城』の城主『吸血侯爵』の名前を頂いていることを忘れてしまいそうな位である。
少年になった時のツンデレ『ラインハルト』の様な雰囲気は全く身を潜め、青年に戻ったダニエル様は、ただただわたしを甘やかしてくれる美しく優しい旦那様になってしまった。
するとダニエル様はわたしの手をさり気無く持ち上げ、その指に小さくキスを落とすと私を見上げながら少し悪戯っぽく笑った。
「でもキャロルが居ないと寂しいから、夕食に間に合う様には帰ってきておくれ。出来れば一緒に食べたいからね」
「…ふぁっ…は、はぁい、い…」
わたしは真っ赤になりながら少し上擦る声で、やっとダニエル様に返事を返した。
これは…やっぱりわたしが今まで経験の無い『激甘・溺愛人生』方面に舵をきったことになるのだろうか。
それは全く未知の領域部分に突入するということなのだけれど、少し怖くもあり、楽しみでわくわくドキドキもしてしまうのだ。
+++++
侯爵家の豪華な馬車に侍女のメル・メロと共に乗り、マダムオランジェのお店のある商店街に着いた。
昼間の商店街はやはり活気に満ち溢れており、人間(に一見見える)と魔獣混じりの人が入り混じって歩いている。
「…あら?」
その時、商店街の一角にある古い屋敷を取り壊している作業員達の中に、あの夜見た大柄な男――作業服を着た狼男とワニ男が太い柱を担いで働いているのが見えた。
あの時はとても怖かったけれど、明るい陽の中で見るとそんなに怖くない。
わたしの視線の先に狼男とワニ男を発見した侍女達は、金色の瞳を猫の様に細めてわたしの方を向いた。
「まあ…あいつらですわね」
「酔っぱらっていたとは言え無礼極まりなかっですわ。もう一度懲らしめてまいりましょうか」
「い、いいわ、何もしなくて大丈夫。ほら、今は真面目にお仕事をしているみたいだし。行きましょう」
わたしは慌ててメルとメロに先に行こうと促した。
商店街の中を歩く途中わたしは誘惑に負け、いかにも人気で美味しそうなお菓子屋さんで寄り道をしてしまった。
そこでマダムとダニエル様のお土産にと大きなクッキーの入った箱を買ってから、マダム・オランジェの仕立て屋に到着した。
そしてその呼び鈴を鳴らし、白い陶器の札の掛かる扉を軽くノックしたのだった。
ダニエル様はそう言うと、わたしに優しく微笑んで『イーデン家にいる魔女は必ず捕まえるから』とも約束してくれた。
それから数日が経ち、わたしは今モルゴール邸で心穏やかな日々を送っている。
イーデン家に居た時の様な居心地の悪さと義妹レティシアからのストレスが無い分、素敵な寝心地の良いベッドで快眠し、美味しくバランスの良い食事を頂いていると、何故か食欲が自然に落ち着いて来るのを感じた。
不思議な事なのだけれど、心が穏やかになるのと同時に自然にコルセットとドレスの圧迫感が無くなってくるのを感じたのだった。
「この数日間で、大分すっきりとお痩せになられましたわ」
メルとメロはわたしのドレスの着替えを手伝いながら、言葉をそろえる様に言った。
「わたくし達がコルセットの紐を閉めるのも、そんなにおつらそうには見えませんわ」
「そうかしら?特に何もしてないのだけれど」
わたしは鏡の中の自分の身体を見つめた。
確かにこの数日のことなのにむくみが引いたのか、大分スッキリして見える。
「魔女の呪いのへの自己防衛反応が無くなったので、お身体が変化してきたのかもしれませんわ」
「そうね…、そうかもしれないわ」
「とは言っても、本日はマダム・オランジェの所で今回こそドレスを新調致しますから、楽しみでございますわね」
「そうね。前回は呪いのせいで、マダムお得意の計測方法が出来なかったから」
実はあの後、マダム・オランジェから『呪いが解けたから、出来ればもう一度計測をさせて欲しい』
とお願いをされたのだった。
どうやら前回の手で測ってお仕立てする方法にマダムが納得がいかない様子なのである。
それであのキラキラ光る砂の敷き詰められた採寸部屋で、もう一度計測をする予定なのだ。
ダニエル様曰く『マダム・オランジェの仕立て屋は、一度お願いしたら他店では満足できなくなる知る人ぞ知る名店中の名店』らしいのだ。
(王族の何人かの方もこっそりあのお店を訪れる事があるらしい)
実はあの砂で形成された人形は動かないマネキンの様な代物ではなく、マダムの魔法で多少は動かせるらしい。
そしてマダムのこだわりは、仕立てたドレスや燕尾服を砂人形に着せて動かした時の着易さは勿論のこと、動いた時の皺の入り方や、シルエットの美しさまで追求しているらしいのだ。
「確かにそんなにこだわっていてしかも丁寧なお仕立て屋さんなら、ダニエル様はじめ王宮の方々の御用達になる訳よね」
「そうですわ。まさに真のオーダーメイドなのですわ。わたくし達にとっては憧れのお店の一つです」
野菜いっぱいの美味しい朝食を食べ終えた後、わたしはメルとメロと共に他愛のない会話をしながら、マダム・オランジェのお店に行く準備を始めた。
+++++
「そうかい。気を付けて行っておいで」
お城の執務室でお仕事中だったダニエル様はにっこりと笑いながら、わたし達の外出を送り出してくれた。
「そろそろ君のご実家の様子を確認させている僕の手の者が戻ってくる頃だし、気分転換にマダムの所に行くのはいいんじゃないかな」
「はい。商店街も回ってマダムに採寸をお願いして参りますわ」
「可愛いドレスを作っておいで。僕も楽しみだから」
「ふぁっ…!」
ダニエル様の甘々な台詞と態度に思わず声が出てしまった。
何と云うスパダリぶりなのだろう。
余りの眩しい笑顔にわたしの目がくらんで、ダニエル様が『棺桶城』の城主『吸血侯爵』の名前を頂いていることを忘れてしまいそうな位である。
少年になった時のツンデレ『ラインハルト』の様な雰囲気は全く身を潜め、青年に戻ったダニエル様は、ただただわたしを甘やかしてくれる美しく優しい旦那様になってしまった。
するとダニエル様はわたしの手をさり気無く持ち上げ、その指に小さくキスを落とすと私を見上げながら少し悪戯っぽく笑った。
「でもキャロルが居ないと寂しいから、夕食に間に合う様には帰ってきておくれ。出来れば一緒に食べたいからね」
「…ふぁっ…は、はぁい、い…」
わたしは真っ赤になりながら少し上擦る声で、やっとダニエル様に返事を返した。
これは…やっぱりわたしが今まで経験の無い『激甘・溺愛人生』方面に舵をきったことになるのだろうか。
それは全く未知の領域部分に突入するということなのだけれど、少し怖くもあり、楽しみでわくわくドキドキもしてしまうのだ。
+++++
侯爵家の豪華な馬車に侍女のメル・メロと共に乗り、マダムオランジェのお店のある商店街に着いた。
昼間の商店街はやはり活気に満ち溢れており、人間(に一見見える)と魔獣混じりの人が入り混じって歩いている。
「…あら?」
その時、商店街の一角にある古い屋敷を取り壊している作業員達の中に、あの夜見た大柄な男――作業服を着た狼男とワニ男が太い柱を担いで働いているのが見えた。
あの時はとても怖かったけれど、明るい陽の中で見るとそんなに怖くない。
わたしの視線の先に狼男とワニ男を発見した侍女達は、金色の瞳を猫の様に細めてわたしの方を向いた。
「まあ…あいつらですわね」
「酔っぱらっていたとは言え無礼極まりなかっですわ。もう一度懲らしめてまいりましょうか」
「い、いいわ、何もしなくて大丈夫。ほら、今は真面目にお仕事をしているみたいだし。行きましょう」
わたしは慌ててメルとメロに先に行こうと促した。
商店街の中を歩く途中わたしは誘惑に負け、いかにも人気で美味しそうなお菓子屋さんで寄り道をしてしまった。
そこでマダムとダニエル様のお土産にと大きなクッキーの入った箱を買ってから、マダム・オランジェの仕立て屋に到着した。
そしてその呼び鈴を鳴らし、白い陶器の札の掛かる扉を軽くノックしたのだった。
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