23 / 30
23 本当のヴィランは ②
しおりを挟む
「『彼の魔女は自分の顔をいたく愛し候』か。その話…どっかで聞いた事があるぞ」
ミハエル神父はパチンと指を鳴らした。
「――そうか、100年前に滅びた小国ルミナスの話しだ」
「ルミナス?…ルミナス国の事か」
「小国ルミナス…ですか?」
わたしはダニエル様と声を合わせて尋ねた。
マダム・オランジェは深く頷いた。
「そうですわね…『ルミナス国メレディス家事変』と云えば、ダニエル様も聞いた事があるのではないでしょうか?」
ダニエル様も思い出したという様にマダムを見た。
「…その話は聞いた事はある。名家メレディスにいた娘の余りの美しさに、当時の国王が何とかして王宮に上げて侍女として働させようとしたところ、何故か父親であるメレディス卿がカンカンに怒って、しかも国王に手までかけたという話ですよね。けれどそれは…100年も前の事ではないのですか?」
「…ダニエル様。魔女の寿命の長さをご存じでしょう?」
マダム・オランジェの言葉に、ダニエル様はハッとした様にマダムの顔を見つめた。
「実はその娘はメレディスの実の娘ではありませんでした。
あまりにも美しいので何処ぞから連れて来て養子縁組をしたのです。
元々妻に先立たれたメレディスは、後妻も取らずに過ごしてきたごく真面目な男でした。けれどある日、正体不明の娘を連れてきていきなりそのまま養子にして義理の娘としたのです。
最後まで彼女が一体どこから来たのか、素性を知らされる事はありませんでした。
…王を殺そうとした罪でメレディス家長は直ぐに処刑されましたが、最後までメレディスは王に『自分の妻を盗るな。地獄へ落ちろ』と正気を失った様に罵り続けたそうです。そして、国王に牙を剝いたメレディス家は直ぐにとり潰されました」
(まあ…なんとも生々しい話だわ)
「まあ、そんな事が…」
わたしが聞いた事の無かった昔話『ルミナス国メレディス家事変』に頷いていると、マダムはまだ話を続けた。
「そしてメレディスから受けた傷の癒えた王は、行き場の無くなったメレディス家の娘を嬉々として王宮の侍女として向かい入れ、愛人として豪華な金品やドレスをたくさん与えて囲ってのです」
「そして…実はそれでお話が終わった訳ではありません」
マダム・オランジェは真っ直ぐにわたしを見つめた。
「王は――メレディス家の娘が王宮に入って三年後のある夜…何か巨大な物――大蛇が巻き付いて絞めたかのように全身の骨が小さく砕かれ、亡くなってしまったのです」
「え?それは…」
(――え?どう言う事?『大蛇』?)
わたしはさっき空で大きくうねっていたモノを思い出し、ハッとしてしまった。
「まさか…さっき見た、あれのことですか?…」
「ま、察しは悪くない様だな」
ミハエル神父は皮肉っぽく一言余計な事を言うと
「豪華な寝室にひとり裸で全身雑巾絞りの刑に処された王の死がきっかけで、その後王宮内で説明できない不審死が続き『メレディスに呪われている』と世間ではこっそりと囁かれた。
そしてなぜか、元凶になった娘の存在は煙に巻かれた様に王宮からその姿を消してしまった。
それに伴って運悪く王には子供もいなかった為、王家の血筋は途絶え、それで国内の各地で権力争いが起こり、小国ルミナスはあっけなく滅んだ」
「そんな…」
話しの顛末を聞いた後、わたしは呆然としてしまった。
「…で、さっきも言ったが、その魔女はご自分の顔が大好きらしくてな。変えた方が良いにも関わらず顔を変えずに活動を続けている様だ。何でも金髪で華奢な身体をした細面のドえらい美人らしいがな」
――まさか。
(まさか...レティシアが?)
ミハエル神父の話しを聞けば聞く程、その『まさか』だと思っていた件の魔女が自分の義妹である可能性が膨らんで行く。
そんな話を聞いているだけで胸騒ぎが止まらなくなる。
(…どうしよう。今、お父様はご無事なのかしら?)
まさに実家イーデン伯爵家のお父様と義妹レティシアは全く同じ立場になっているではないか。
実家を追い出された立場とはいえ、不安が募っていく。
お父様は――大丈夫なのだろうか?
+++++
「心配か…まあ、そうだね。けれど、ご実家の義妹君がその魔女と決まった訳ではないから、君の実家に様子を伺う様に使者を向かわせよう」
マダムとミハエル神父がお帰りになったあと、ダニエル様はわたしのベッドサイドに腰を掛けてわたしを落ち着かせる様に手を握りながら、約束してくれた。
「すみません。ダニエル様…、やはり父の事が心配で…」
「いいんだ。キャロルは優しいね。あんな風にイーデン家で扱われながら、お父上の事を心配するなんて」
「ダニエル様、何故…」
「そんな顔をしないでくれ、キャロル。君の身なりやここに着いてからの態度を見れば、ご実家で君があまり大事にして貰えていなかった事や、ここへ君が望んで嫁いできていない事位…鈍い僕でも分かるんだよ」
(ダニエル様にはもう色々な事がお見通しだったのね…)
「ダニエル様…」
わたしはダニエル様の顔をじっと見つめた。
(今更取り繕っていても仕方が無いけれど)
けれど、今はダニエル様のやさしさに触れて『餌になる為に嫁がされた』などとは微塵も思っていない。
『単純』と言われればそうなのだが、元々深く落ち込んだりする性質でもない。
それに...様々な意味で、実際このモルゴール領に来てからの方が、自分がとても楽に呼吸して生活が出来るようになったのには間違いない。
「わたくし、なるべく早くこちらの土地になじめるように頑張りますわ」
ダニエル様の美しいお顔を見上げ、はっきりとそうお伝えすると、ダニエル様は嬉しそうに微笑んでくれた。
「そうだね。無理しない程度で良いが頑張っておくれ。君は僕の妻になるのだから」
ミハエル神父はパチンと指を鳴らした。
「――そうか、100年前に滅びた小国ルミナスの話しだ」
「ルミナス?…ルミナス国の事か」
「小国ルミナス…ですか?」
わたしはダニエル様と声を合わせて尋ねた。
マダム・オランジェは深く頷いた。
「そうですわね…『ルミナス国メレディス家事変』と云えば、ダニエル様も聞いた事があるのではないでしょうか?」
ダニエル様も思い出したという様にマダムを見た。
「…その話は聞いた事はある。名家メレディスにいた娘の余りの美しさに、当時の国王が何とかして王宮に上げて侍女として働させようとしたところ、何故か父親であるメレディス卿がカンカンに怒って、しかも国王に手までかけたという話ですよね。けれどそれは…100年も前の事ではないのですか?」
「…ダニエル様。魔女の寿命の長さをご存じでしょう?」
マダム・オランジェの言葉に、ダニエル様はハッとした様にマダムの顔を見つめた。
「実はその娘はメレディスの実の娘ではありませんでした。
あまりにも美しいので何処ぞから連れて来て養子縁組をしたのです。
元々妻に先立たれたメレディスは、後妻も取らずに過ごしてきたごく真面目な男でした。けれどある日、正体不明の娘を連れてきていきなりそのまま養子にして義理の娘としたのです。
最後まで彼女が一体どこから来たのか、素性を知らされる事はありませんでした。
…王を殺そうとした罪でメレディス家長は直ぐに処刑されましたが、最後までメレディスは王に『自分の妻を盗るな。地獄へ落ちろ』と正気を失った様に罵り続けたそうです。そして、国王に牙を剝いたメレディス家は直ぐにとり潰されました」
(まあ…なんとも生々しい話だわ)
「まあ、そんな事が…」
わたしが聞いた事の無かった昔話『ルミナス国メレディス家事変』に頷いていると、マダムはまだ話を続けた。
「そしてメレディスから受けた傷の癒えた王は、行き場の無くなったメレディス家の娘を嬉々として王宮の侍女として向かい入れ、愛人として豪華な金品やドレスをたくさん与えて囲ってのです」
「そして…実はそれでお話が終わった訳ではありません」
マダム・オランジェは真っ直ぐにわたしを見つめた。
「王は――メレディス家の娘が王宮に入って三年後のある夜…何か巨大な物――大蛇が巻き付いて絞めたかのように全身の骨が小さく砕かれ、亡くなってしまったのです」
「え?それは…」
(――え?どう言う事?『大蛇』?)
わたしはさっき空で大きくうねっていたモノを思い出し、ハッとしてしまった。
「まさか…さっき見た、あれのことですか?…」
「ま、察しは悪くない様だな」
ミハエル神父は皮肉っぽく一言余計な事を言うと
「豪華な寝室にひとり裸で全身雑巾絞りの刑に処された王の死がきっかけで、その後王宮内で説明できない不審死が続き『メレディスに呪われている』と世間ではこっそりと囁かれた。
そしてなぜか、元凶になった娘の存在は煙に巻かれた様に王宮からその姿を消してしまった。
それに伴って運悪く王には子供もいなかった為、王家の血筋は途絶え、それで国内の各地で権力争いが起こり、小国ルミナスはあっけなく滅んだ」
「そんな…」
話しの顛末を聞いた後、わたしは呆然としてしまった。
「…で、さっきも言ったが、その魔女はご自分の顔が大好きらしくてな。変えた方が良いにも関わらず顔を変えずに活動を続けている様だ。何でも金髪で華奢な身体をした細面のドえらい美人らしいがな」
――まさか。
(まさか...レティシアが?)
ミハエル神父の話しを聞けば聞く程、その『まさか』だと思っていた件の魔女が自分の義妹である可能性が膨らんで行く。
そんな話を聞いているだけで胸騒ぎが止まらなくなる。
(…どうしよう。今、お父様はご無事なのかしら?)
まさに実家イーデン伯爵家のお父様と義妹レティシアは全く同じ立場になっているではないか。
実家を追い出された立場とはいえ、不安が募っていく。
お父様は――大丈夫なのだろうか?
+++++
「心配か…まあ、そうだね。けれど、ご実家の義妹君がその魔女と決まった訳ではないから、君の実家に様子を伺う様に使者を向かわせよう」
マダムとミハエル神父がお帰りになったあと、ダニエル様はわたしのベッドサイドに腰を掛けてわたしを落ち着かせる様に手を握りながら、約束してくれた。
「すみません。ダニエル様…、やはり父の事が心配で…」
「いいんだ。キャロルは優しいね。あんな風にイーデン家で扱われながら、お父上の事を心配するなんて」
「ダニエル様、何故…」
「そんな顔をしないでくれ、キャロル。君の身なりやここに着いてからの態度を見れば、ご実家で君があまり大事にして貰えていなかった事や、ここへ君が望んで嫁いできていない事位…鈍い僕でも分かるんだよ」
(ダニエル様にはもう色々な事がお見通しだったのね…)
「ダニエル様…」
わたしはダニエル様の顔をじっと見つめた。
(今更取り繕っていても仕方が無いけれど)
けれど、今はダニエル様のやさしさに触れて『餌になる為に嫁がされた』などとは微塵も思っていない。
『単純』と言われればそうなのだが、元々深く落ち込んだりする性質でもない。
それに...様々な意味で、実際このモルゴール領に来てからの方が、自分がとても楽に呼吸して生活が出来るようになったのには間違いない。
「わたくし、なるべく早くこちらの土地になじめるように頑張りますわ」
ダニエル様の美しいお顔を見上げ、はっきりとそうお伝えすると、ダニエル様は嬉しそうに微笑んでくれた。
「そうだね。無理しない程度で良いが頑張っておくれ。君は僕の妻になるのだから」
12
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
トリップした私対腹黒王子
蝋梅
恋愛
ある日、異世界に喚ばれた上野春子は、混乱のなか少しずつ落ち着きを取り戻した。だが、当初から耳にしていた王子に婚約宣言をされた。この王子はなんなんだ? いい根性してんじゃないの。彼女は気性が荒かった。
*別のお話で感想を頂いた際に腹黒王子のリクエストをもらったのでトライです。
…腹黒は難しかった。
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる