卒業まで、あと少し。

第五話

『さーや！さーやってば！』

全力で追いかけるも、意外と早いさーやに中々追い付けない。

屋上まで行くと、漸く追い付けた。

『はー、はー、』

『は、早いよさーや…』


息も切れ切れに呻く杏菜。

さーやは、何も言わなかった。


『さーや…？』

返事が無いのを不思議に思い、顔を上げるとさーやは静かに泣いていた。

『ごめん、杏菜…』

『別に、栄治くんが悪い訳じゃ無いの…。
でも、春からは私はそこにいないのに、栄治くんは普通に杏菜の傍にいられると思うと、辛くなって…！』


『さーや！』


さーやの本音を聞いた瞬間、杏菜は力いっぱいに抱き締めていた。

(ー…杏菜、モテるし)


冗談めかして言った言葉も、精一杯の強がり。

ホントは、離れたくなんかない。

引っ越しの話も、ホントは一番に杏菜に話さなきゃいけなかった。
そんな事は分かりきっていた。



でも、でも。


もし、杏菜に言ったらホントに離ればなれになってしまうんじゃ無いかと怖かった。
離れたら、ダメになっちゃいそうで。

『杏菜ぁ…』


ヒグッヒグッと、不細工な嗚咽。
それでもさーやは、誰よりも可愛い。


『杏菜、高校行ってもテニスは続けるの？』


『え？うーん、どうだろ。

多分、続けるんじゃ無いかな？』


『じゃ、お願い！絶対レギュラーになって！そしたら、大会に応援に行く！
杏菜の活躍を間近でみたいもん！』


『わかった。オッケー！さーやの為だけに、頑張るよ』

『でも、そしたら益々杏菜モテちゃう…。
杏菜、女子からも人気あるの知ってた？』

『そうなの？』

『そうなの！下手な男子よりも人気あるんだよ！？』

『まあ余り興味無いし。どうでも良いかな？
私は、さーやがいてくれたら、それで良いよ』

『ま、また、そーいう…』

『でも、さーやだって可愛いって聞くよ？ハルトも言ってたし』

『栄治くんが！？
え、でも栄治くん、杏菜の事が…？？』


突然の言葉に、戸惑うも、ハッキリと聞いた訳では無いが明らかに栄治は杏菜の事が好きだと思っていたので混乱してしまう。