異世界に跳べない俺は今日も近所の居酒屋でアルバイトをする。

哀川 羽純

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9章 条約名は忘れた

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9章

なんだかんだと、向こうとこっちで、あーだこーだ言ってもどうにもならない。

TVやネットNEWSでも取り上げられている。

首相が飛ばされたとか、防衛省の誰がどうとか、日本の国内情勢は最悪。

だが、それは、海外も同様らしく、残ってる中でいっちゃん偉い人達が急遽リモート会議? をしたらしく。

『取り敢えず、事態が収束するまで、お互いの国に手出しはしない、攻撃しない、何もしない。何か分かったら情報共有する!』

って、条約を結んだらしい。全世界強制加盟。すげえ。
某国もこれはさすがにと、加盟したらしい。

条約名は忘れた。

まぁ、そーだよな。
何も結ばなきゃ、やりたい放題よなぁ。

と、客が完全に帰り、のれんもさげ、看板やメニュー表もさげる。《営業中》をひっくり返し《本日の営業は終了しました。またお越しください!》にする。

中に戻ると、愛さんや店長、ヒカルさん達がビール片手に談笑してる。
そう、俺は下っ端。
だから、後片付けも俺。

愛さんは着替えてる。
今日はバイクだったのか? って、飲酒運転やん。アカン!
レザーのつなぎ? みたいな、あれあれ、某大泥棒の恋人? のハーレ乗りこなしてるナイスバディのお姉さんみたいな。
特に恋愛感情はないけど、ドキッとする。

「愛ちゃん、今日の服、イケてるね」

「店長、目が犯罪者。アウト。ダメ、絶対」

「キモい。アウト。死ね」

「ふたりとも、俺、店長! 店長! 上司!」

「愛さん、セクハラだけでなく、モラハラも追加してしましたよ」

「愛ちゃんたち、訴訟する? 良い弁護士紹介するよ?」

ヒカルさんも乗ってきた。
結構、悪ノリするんだ、この人。

「ちょ、ヒカルさんまで! ひどい! 本部に言ってやる! 部下がいじめてきます! って、報告してやる!」

「無駄よ無駄。あたし、最優秀バイト賞獲ったから。店長よりあたしの話を信じるから」

そうやった、この人、めっさ優秀なバイトやったんやん。
社員やらないかとか、本社でメニュー開発? 経営側? やらない? とか、言われてたらしい。

でも、なんか、自由が欲しいとか、縛られたくないとかなんとか、かんとかかんとかで、全て蹴散らして、断ってるらしい。

「そうでした。助かってます。愛ちゃんのお陰で、当店は常に売り上げトップ。日本一になった事も何度か、ありがとうございます。助かってます」

やはり、この店舗は力関係がおかしい。

「俺、着替えてきますね」

さっさといかないと、いつまで経っても、抜けららんもんな。

「早く来いよ~! ケン!」

「ういっす」

男の着替えなんて秒だ。
愛さんも女の子しては早い気がするが、いつも、完璧。なんなら、髪型までビシッと整えてくる。
バイト中は長い髪をポニーテールっての? 高いポジションで一つに束ねてる。

上がるとその長い髪を解放し、サラッサラなストレートがあらわれる。

こんな、煙やタバコやら酒やら、惣菜の香りがついてるのになんであんなに艶やかでサラサラなのか? 
俺は、ベットベトだぞ? 女の子ってなんか良い物質出てるのか?

「戻ったス」

「おそーい!」

「え? ちょっぱやで着替えてきたんすけど?!」

「別にー? ケンのビールも飲んじゃうからいーもーん!」

「は! それはダメっす! 店長ー! 俺も良いっすか?」

「1杯ねー!」

「あざす」

サバーに大ジョッキ! を当てて注ぐ。
サイズの指定はされてないもんね!

それを片手に、バイトに来る前に買ってきた新商品のポテチを反対の手に持ち、みんなの元へ向かう。

「あ! こいつ、大ジョッキ持ってる! ずるい!」

愛さんが俺を指差す。
いや、あんた、中ジョッキ、3杯あげてるじゃん!

「なんだと!? それだけじゃない! こいつ、反対の手には今日発売のポテチ持ってやがる! よこせ!」

今度は店長が言った。
よこせって! 店長がバイトに集るな!!!

「まぁまぁ、それ、おいしよね。すき焼き味」

まさかの、ヒカルさんはもう、召し上がってる!

「「開けろ、開けろ」」

店長と、愛さんが集る。
なんだかんだで、この2人は相性? 息? ピッタリだよね。

「うす。良いっすよこれ、集られると思って、おふたりの分は買ってありますよ」

もう1度、バックヤードに戻り、エコバッグからポテチを取り出して、2人に渡す。
残りひとつ、残っていたのをヒカルさんに渡す。

「ん? 俺は良いいよ。食べたから。これは、タケルくんが食べる用に買ったんじゃないの?」

「いや、なんか、同僚に渡して、お客さんに渡さないのもどうなのかなって……」

「律儀だねぇ」

「つか、ヒカルさん紳士! 集ってこない! つーか、当たり前か! これ! あんた達見習って下さいやがれ」

「口が悪いぞ、下っ端!」

「そーだそーだ」

なんなんだ、このふたり。

「まぁまぁ、それより、例のは進展アリ? ナシ?」

「ない! なんとか条例結んだってのを永遠にやってる」

愛さんが携帯を眺めながら言った。

「まぁ、俺らは今のところ飛んでないし、なんとかなんべ」

店長がふわぁーと大欠伸をして、伸びる。

「お互い、飛んだら連絡ね。急にいなくなったらビビるから」

という、ヒカルさんの連絡先を聞く。
店長と愛さんは知ってるから大丈夫。

愛さんもヒカルさんの連絡先は知らないらしく、交換してた。

愛さんはよく、ナンパされてる。
まぁ、スタイル良くて可愛いし、愛想も良いから当たり前か。
言い寄られて困ってる時は俺かアイツが彼氏のフリをさせられたりする。

そういう客は男に興味ないからどっちがどっちなんて、分からない、愛さんと付き合ってる、いけ好かない男、くらいにしか思ってないから、次来た時に~とか、客同士で~とか、そういう心配はない。

俺らは覚えてるからたまにお互いにおい! お前がこの前彼氏のフリした客に悪態つかれたとかなんとか軽く蹴り合う事はある。

俺は、年に1回、酔っ払いにかっこいいやーん! おねーさんとつきあうー? みたいな、変なのに会う事はある。

それは、奴も同じ。

でも、愛さんみたいになる事はない。

だから、お客さんと連絡先交換なんて激レアって感じ。

まぁ、彼は無害そうだからね。
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