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しおりを挟む一方の山口達。
世間的には『有名私立大学 サークル内 集団暴行事件』とされている。
「2018年7月14日
サークル内の飲み会で酔い潰れた女性(18歳)が同サークル内の1年生から4年生の計20人に集団で暴行を受けた。
夜中から早朝にかけて事件が発生したとされる。
翌朝、買い出しに行かされた被害女性はコンビニの店員(45歳・社員 / 17歳・アルバイト)らの通報により保護された。被害女性はすぐさま病院に運ばれ精密検査を受けている」
当時の新聞記事だ。
何社にも大きな見出しにされていた。
有名大学での事件だったからだろうか、20人もの集団暴行ともなれば良くも悪くも世間の注目を浴びる。
週刊誌では彼女の小中高時代のアルバムの写真が溜出していた。
山口らの顔写真も当然の如く流されていた。
山口の場合は父親が官僚という事もあり、加害者の中でも1番晒されていた。
主犯だからというのも大きかっただろう。
エリート家族の長男、甘やかされ結果
エリート官僚のクズ息子、父親にも横領疑惑?
クズ父親、クズ母親、クズ息子、残された娘もクズなのか?
山口には高校生の妹がいた。
山口と楓達が通っていた大学の附属高校だ。
彼女もまた、幼稚舎からこの学校に通っていた。
楓は勿論、大学から入った。
彼女の名前は山口雅緒。
雅緒は兄とは正反対の性格で、引っ込み思案で、おとしやかで心の優しい少女だった。
何故、兄妹で性格がこうも違うのか、
雅人は日本男児たるもの媚びるな、己を貫き通せ、負けるな。と、
雅緒は大和撫子とは、男性を立て、一歩引き、人に優しく、慎ましく、己を出すな。と。
二人の仲は悪くなかった。
兄を尊敬する妹と、妹を優しく見守る兄。
側から見ても良い兄妹だった。
山口雅人は性格はクソだが外見は整っていた。
キリッとした目鼻立ち。整った眉、小さな顔に小さな口。アイドル顔と言われていた。
街を歩けばスカウトに遭うのも当たり前。
そんな顔立ちだ。
山口雅緒は性格もおとしやかで、顔も儚げな美少女だ。
おとなしそうな顔、大きな目。筋のと通った鼻。
顔が小さくて、アヒル口。
黒髪ロングストレート。
如何にも女の子という感じの雰囲気を醸し出している。
彼女もまた、よくスカウトに遭っていた。
さすが兄妹というべきか、そっくりな鼻をしている。
その愛すべき妹も、山口の犯した事件により、苦しめられていた。
クラスではいじめられる様になった。
今までは父母の後ろ盾怖さと不良兄貴がいるという噂が手伝って、誰も手を出さなかった。
が、
今や、その父親は自殺。母親は意識不明の重体。兄貴は塀の中。
そんな状況で、誰も、何も、しない訳、ないじゃん?
誰かが言い始めた。
「私、山口サンって、本当は嫌いなの。ぶりっ子じゃん?」
「ね。裏で遊んでそう」
「兄貴とデキてたって話だぜ?」
「私は堕ろした事あるって聞いた」
「俺らとも遊んでよ」
あとはまぁ、そういう事だ。
流石に、強姦事件で捕まった兄の妹だ。
自分がその兄と同じになる訳にはいかない。
実際に手を出すバカはいなかった。
犯罪者の妹だから何しても良い。
そんな流れができてしまった。
いじめはエスカレートしていた。
最初の頃は庇ってくれる友人もいた。
あんたが悪い訳じゃないよ。
お父さんもお母さんもあんなになって、辛いよね。
しかし、週刊紙に撮られた1枚の写真。
たまたま、弁護士が家に入るタイミングを撮られた。
雅緒が周囲を訝しむ様子で招き入れていた。
それはそうだ。
週刊誌のパパラッチや、不審者、近所の目など、あらゆる視線に敏感になっていたのだから。
それが、良くなかった。
援助交際? 売春? パパ活?
両親と兄がいなくなり荒れる私生活!
新しいパパの素性は?!
など、など。
散々に書かれた。
家には雅緒1人なのだから。
怪しい要素は十分だった。
それを鵜呑みにしたのか、これ以上は関われないと見切りを付けたのか。
その友人らも離れていってしまった。
「どうしてよ」
雅緒は1人、病院から自宅への帰路を歩く。
舞にはああ言ったものの、猫を被って仲良くしてくれていた子。
素のままで接してくれていた子。
雅緒の客だった男たち。
パパ活のパパ。
皆んな、雅緒から離れて言った。
彼女が堕としてワンナイトした相手でさえ。
後ろからワンボックスカーが雅緒を抜き、止まる。
ドキ。
雅緒の鼓動が激しくなる。
さっきの、舞の言葉が脳内を過る。
『あたしが引き止めた、みたいになるじゃん。嫌よ。そんな、事件に巻き込まれた時にあたしが最期に会った人でした。みたいなの』
まさか、まさか、私も……
「ねぇ、彼女。ひま? 俺らと遊ばない? その制服、○×大附属でしょ? 頭良いお嬢様じゃーん!」
「え?」
「しかも、めっちゃ可愛い! 超タイプ! 彼氏いるの?」
この人達、私の事知らないの?
確かに、ニュースは勿論、新聞週刊誌は読まなそうな人種だ。
車内には5~6人の男がいた。
「クラブ行くんだけどどう? 会員制だから安心だよ。紹介してもらわないと入れないんだけど……今日は俺らがいるから大丈夫! どお? エンジョイしない????」
「でも……」
この場合、猫被りの方がウケがいいだろう。
「気分転換は大事だよ! なんか、ヤナ事あったんでしょ?」
そう。
嫌な事しかないの。最近は。
イライラする事ばかり。
「うん」
雅緒は静かに頷く。
「俺達と良い事しない?」
ギラギラした男たちはさらに誘いかける。
「良い事?」
雅緒は試しに聞き返す。
「そう。嫌な事が吹き飛ぶ遊びしない?」
友達もいなくなった。
お父さんは自殺。
お母さんはウチを忘れた。
お兄ちゃんは悪い事をして捕まった。
ウチの味方は誰もいない。
誰も私を助けてくれない。
舞チャンは何か違う。
ただ、興味があるだけだし、第1彼女はウチの事を嫌っているし。
あぁ、もう、色々どうでも良い。
彼らは本当に私の事を知らないみたいだし。
ウチの活動範囲だと、もう、誰も、相手にしてくれないし。
だったら、このまま彼らと遊ぶのも良いのかもしれない。
「良いよ。遊ぼう。お兄さん」
「いいね、いいね! しかも君、めっちゃ可愛いじゃん。こんな事、やらなそう! 逆に良い! 名前、なんての?」
無いと思うが名前で気付かれるかもしれない。
「ミヤビ」
雅緒がよく使う偽名。
SNSやその他アプリやサイトであだ名の入力を求められると雅緒の訓読みの"みやび"だ。
「へぇ、可愛いね。俺はアキラ。よろしく」
アキラに誘導され、車内へと乗り込む。
車内には派手目な男達がいた。
「本当だ可愛いー! 付属のお嬢様じゃん」
「いえ、そんな、、」
謙遜謙遜。
そんな事、ウチが1番分かってる。
「お嬢様がこんな事して良いの?」
うん。いつもヤッてる。
「うん。なんかもう、どうでも良くて。嫌な事ばっかりだし」
これは、事実。
「ははははっ! お嬢でそんなんなら、庶民で俺らみたいのが楽しいな? 俺ら毎日がエンジョイだもん」
いるいる。こういう、不思議な日本語を使う人。頭悪そうだよね。
「楽しそうで良いなぁ」
何も考えなくてよく良いな、
の方が近いかもしれない。
哀しそうな、羨ましそうな、切ない目で彼らを見つめてみる。
「大丈夫、大丈夫! ミヤビちゃんもこれからエンジョイだから!」
「うん」
頷く。
車は何処へ向かっているのか、雅緒はまだわからない。
「てゆか、まじミヤビちゃん可愛いね? 彼氏いんの?」
「いんだろ、こんだけ可愛いんだから」
「おいおい、ユウキ、彼氏いたらこんな人生に絶望した顔してねぇよ。な?」
アキラにそう問われる。
「あれ、もしかして、振られてそうなってた? 俺、地雷踏んだ? ごめんっ」
必死に謝るアキラ。
「そ、そんなんじゃないです。アキラさん。ユウキさん? もそんな、私なんかに彼氏だなんて、できた事ないですよ。彼氏いない歴=年齢ですもん」
猫被りの方が良いだろう。
こういう男達には、こっちの方がウケる。
「マ?」
ほらほら。ウケてるウケてる。
「じゃあ、俺、立候補しちゃおうかな」
「俺も俺も! ミヤビちゃんマジ可愛いし」
雅緒は悪い気がしなかった。
これが本当よ。さっきの舞チャンや周りの友達がおかしい。
お母さんもおかしい。
「ありがとう! 嬉しいっ」
素直だねぇ、車内の数人が笑う。
賑やかな車内。
雅緒のココロもこの瞬間は晴れていた。
こういうのが好きなんでしょ。
そう思いつつも、チヤホヤされるのは好きだ。
「そろそろ着くからね」
アキラが笑いかける。
「うん。楽しみ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
山口達に誘導されて着いたのは会員制のBerだった。
堕とした男達は所詮、同級生。
こんなところ連れて来ない。
客の男たちはホテルへ直行。
たまに、お洒落なレストランへ連れて行かれるくらい。
だから、少し、新鮮。
親に、行く場所、遊ぶ場所、付き合う友達、全て管理されていた雅緒。
あの子の親はシングルで風俗嬢らしいわ。娘も買春やパパ活してるって噂よ。関わっちゃダメ!
あの子の両親は2人ともまともな仕事じゃないらしいからダメ。
あの子は汚ならしいからダメ。
ダメ。ダメ。ダメ。
抑制されて、抑圧されて、規制されて、制限されて……
雅緒の人生は全て親が管理してきたと言っても過言ではない。
雅緒も、気に入られる様に、親が望む様に、そのレールの上を歩いてきた。
こうすると、お母さんが喜ぶ。
これをすると、お父さんが嬉しそう。
でも、本当にそれで良いの??
ある、一定の期間まで、そんな事1度も思わなかった。
ある時期から、雅緒は遊び始めた。
それから、暫くして、
お兄ちゃんが大学生の女の子に酷い事をして、
お父さんも実は悪い事をしていて、自殺。
お母さんはお兄ちゃんが犯罪者となりお父さんが帰らぬ人となったら私を残して死のうとした。
今は、病院に入院している。
挙句の果てにお見舞いに行けば忘れてる。
そして、不審者扱い。
もう、どうにでもなれ。
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