カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第九話 寝坊と初任務

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  翌朝になり、メリナ・リード・ウェインの三人は初めての任務の詳細を確認するため、一階のソファに座っていた。
 今日の任務についてウェインが説明を始めようとしたが、ロードとアレスがいつまで経っても二階から降りてこない。
 まだ寝ているのだろうか、ウェインがしびれをきらして二階に行きロード達の部屋を開けると、そこにはベッドではなく床に折り重なるように寝ている二人の姿があった。
 「おい、お前らいつまで寝ているんだ! 今から任務に行くから、早く起きろッ!」
 ウェインは二人を叩き起こして下に降りて行った。
 二人が寝坊したせいで説明する時間がなくなったウェインは、目的地に向かう最中に説明することにした。
 「今日の任務はエルマから南の方角にあるカーラの湖で漁師が魔物に襲われたという報告があったので、カーラの湖にいる魔物を倒すことだ。
  今日はお前たちにとって初任務だが、魔人を倒したお前らなら余裕だろうな」
 「当たり前だろ、魔物なんて全員粉々だ」
 「ええ、でも初任務の日に寝坊するなんて、二人は何を考えているのかしら」
 「僕は悪くないよッ! アレスが寝ている僕を起こしたから寝坊しただけで…」
 「何だよ、お前だって昨日俺とあんなにも楽しそうに喋ってたじゃないか!
  お前も同罪だぞ、ロード」
 「それは、アレスが寝かせてくれなかったからだよッ!」
 「はいはい、そこまでだ。これからはこのような事がないようにな」
 二人の言い争いをウェインは優しくいさめた。

 そして、ロード達はカーラの湖にたどり着いた。
 カーラの湖は一つの町ほどの大きさで、湖のほとりには漁師が使うであろう船が並んでいる。
 いつもは朝早くから漁師がやってきては漁へ向かうらしいのだが、魔物の出現により今日は一人も漁師がいなかった。
 つまりは早く魔物を討伐して漁に出られるようにするのが、今日のロード達の任務である。
 「情報によると、魔物の数は三体。漁に出ていたら突然水中から襲われたらしい」
 「じゃあ手っ取り早く湖を凍らせるか。オメガ…」
 「ちょっと待て、アレス」
 湖のほとりに立って魔法を放とうとするアレスをリードが静止した。
 「何だよ、今から魔物を一網打尽にしてやろうと思ってたのに・
 「確かに、それなら一網打尽にできるな、湖の生物もろともな。
  漁師を魔物から守るのはいいが、仕事を無くさせたら元も子もないないだろ。
  それに、お前の魔法でこのバカでかい湖を凍らせることができるのか?」
 「うぅ~ 確かに。じゃあどうすればいいんだよ」
 「俺にいい考えがある」
 そう言ってリードは笑みを浮かべながらロードの方を見た。
 
 「兄さん~、これ怖いよ~ ていうか何で僕なの~?」
 ロードは一人で船に乗せられ、湖のほとりから10mほどみんなから離れた場所で漂っている。
 リードの考えは船にロードを囮としてのせ、魔物が現れたところをみんなで攻撃するという作戦だった。
 「魔物は弱い人間から襲うからな。
  ほらロード、兵士として人のために頑張れよ~   」
 「ハハハ ロード、兵士として根性見せろ~」
 「頑張ってね、ロード」
 みんなロードの方を見て、応援しながらもこの状況を楽しんでいた。
 魔物がかかるまでの間、ウェインはアレスに九尾の男の情報について話した。
 「アレス、九尾の魔人の情報だが、軍に問い合わせても情報がないと言われたよ」
 「そうか… 軍にも手掛かりはないのか…」
 「まあ、そう落ち込むな。この国には情報が無いってだけで他国にはあるかもしれないだろ?
  それに、兵士として任務を行っていれば、国外任務として派遣されることもある、そこにお前の目的の情報がある可能性だってある。
  だから、今は兵士として任務をこなしていけばいい」
 「そうだな」
 アレスの件が一段落落ち着いたところで、その時は突然訪れた。
 「ん? 何だろう…? この揺れは…」
 今まで落ち着いていた湖の水面がロードの乗っている船の周りだけ波打ち始め、ロードは不思議に思って水面を見つめた。
 すると、激しい揺れと共に三体の魔物が現れた。
 魔物が現れた衝撃で高い水しぶきと高い波ができ、ロードの乗っている船は今にでも転覆しそうだった。
 ロードは船から投げ出されないように必死に船体にしがみつき、大きな声で助けを呼んだ。
 「みんなー! 魔物がでたよッー!! 早く助けてッー!」
 陸にいたみんなが轟音と共に現れた魔物に対して魔法を放った。
 アレスとリードが放った魔法で二体は倒せたが、メリナが魔法を放った魔物はまだピンピンしており、怒った魔物がロードめがけて大きな口を開けて襲いかかった。
 「うわぁああああああー-!」
 しかし、あわや食べられそうになったロードをすんでのところでウェインが魔法で魔物を倒した。
 「ふええ~ 怖かったよ~」
 「ごめんなさい、ロード。私がちゃんと仕留められなかったせいで…」
 メリナは陸に戻ったロードを抱擁しながら、自分の失態のせいでロードを危険に冒してしまったことを謝罪した。 
 「まあまあ、ロードも無事だったことだしいいじゃないか。
  早く町に戻って休もうぜ」
 「いや、まだ任務は他にもいっぱいあるぞ。」
 「まだあるのか? ったく、他の兵士は何してんだよ」
 「エルマにいる兵士は全員合わせても20人ほどしかいない。
  ちなみに、エルマにいるこの国の兵士は俺たちだけだ。
  だから、それぞれのチームが手分けして、毎日多くの任務をこなす必要があるわけだ」
 「俺たちだけ? 上の奴らは何考えてんだよッ!」
 「まあ、軍には金と人員は慢性的に不足しているから、こんな田舎にコストを割きたくないんだろうな」
 「人の命より金かよ、マジで大丈夫か?」
 「俺たちが頑張ればいいだけのことだ。とにかく、次の任務に行くぞ」
 そうして、ロード達は次々と任務をこなしていき、すべての任務が終わったのは夕方だった。
 町に戻り軍の駐在所に任務達成の報告をし、明日の任務についての話を聞いた後、ロード達は宿舎のそれぞれの部屋に入って休んでいた。
 「マジで疲れたぁ~ 体中が痛ぇ」
 「僕も~ 今日はもう寝ようよ」
 「そうだな、明日もたくさん任務があるし…」
 思っていた以上に兵士としての仕事が大変だと二人は思った。
 初めての任務で疲れたロード達は、明日の任務に備えベッドに寝転がり、死んだように眠りに落ちた。
  
ロード達にとってキツイ新兵生活はまだまだこれからである。
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