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第一部 エルマの町
第二十一話 ダンタリオン地方隊長ザクレイ登場!
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一週間の休暇から一か月経って、ロード達は変わらず討伐任務に精を出していた。
変わったことがあるとすれば、討伐対象に魔人も含まれるようになったことだ。
そして、今日も任務を終えて宿舎に戻り、みんなで晩御飯を食べていた時にウェインが思い出したかのように唐突に話し始めた。
「あ、そうそう言い忘れていたが、明日このダンタリオン地方の隊長ザクレイがやって来るから明日の任務は討伐じゃなくて、隊長の歓迎会だ。食べ放題、飲み放題だぞ!」
その言葉を聞いて子供グループは歓声を上げた。
「しゃあー、兵士になって一番うれしいことだ。早く明日にならねえかな」
「うれしいわね♪ 最近はずーっと任務で忙しかったからね」
「ねえ兄さん、食べるのも飲むのもし放題ってことは、えーっとお菓子も、ジュースもなの?」
「そうだ」
「わーい、早く明日にならないかな~」
「まあまあそう興奮するなお前たち。歓迎会はなくなったり、どこかへ行ったりはしないんだからさ」
「「「はーい」」」
ウェインは興奮冷め止まないロード達を落ち着かせる。
「ああ、早く明日にならないかな~」
ベッドに入ったロードは、明日の歓迎会を楽しみにしながらも、ワクワクしてなかなか眠りにつけないロードだった。
翌日、ロード達はエルマの町中央にある基地の会場となる一室で、主役となるザクレイが時間になってもいないので、ザクレイなしで歓迎会を楽しんでいた。
各地方の隊長の役目は領主の護衛と町に所属する兵士の管理で、書類仕事と肉体労働で毎日仕事に追われ忙しい毎日を送っている。
歓迎会とあってか料理も会場も豪華となっており、招待された人の中には、コルカスをはじめとした各国の兵士の隊長や、テオなどの町の有力者も招待されていた。
「はあ~最高~、生きててよかったぁ~」
酒をグビッ!とあおっていると、テオが妻と共に話しかけてきた。
「おいアレス、こんな時間から酒か? ところで返済のめどはたったか?」
「いいだろ別に。それと今は金がないから、またすこしばかり貸してくれ」
「はぁ~またか。まあいいだろう、このパーティーが終わったら家まで取りに来い」
「ちょっと待ちなさい! それはダメよ!」
アレスたちが話していると、テオより一回り若く、美しい、そして豪華な衣装を身にまとった彼の妻が話しに割り込んできた。
「どちらさま?」
「妻のロクサーヌよ。アレスだっけ? あなた、私の旦那にお金を貸してもらってるらしいけど、返す気がないなら借りないでもらえる? 迷惑なのよ!」
「まあまあ、コイツは兵士なんだから少しは大目に見てやれよ」
「あなたは黙ってて!」
ロクサーヌの気迫に押されてごもってしまったテオを尻目に、ロクサーヌはアレスに続けて口撃する。
「乞食みたいにテオにたかって、、恥ずかしいと思わないの?」
(いや、ごもっともです)
心の中ではロクサーヌの言い分が正しいと思っているアレスだが、決してそれを表には出さない。
非を認めれば、追加の金を得られることができなくなるからだ。
「あなたどこ出身よ?」
「王国の北にある小さな村だ」
「村!? ハハハハハ! まあ確かに村出身ならお金がなくて当然か。じゃあなに? 貧しくて卑しいのに兵士になって金を稼ぎに来たの!? まったく村人ってのは、私たち市民と違って厚かましい奴らだわ!」
自信が村出身であることを馬鹿にされたのは我慢できるからいいとして、アレンなどの家族丸ごと馬鹿にされたことはアレスの頭の中で、理性の糸が切れた。
「しょうがないだろ。俺にはアンタみたいに立派な金庫を持ってないんだからさ~」
アレスはテオの方をチラリと見ながら、ひょうきんな態度で答える。
その言葉を聞いてロクサーヌは怒りを露にして、アレスに指を向けながら声を上げた。
「信じられない!口まで下品だなんて!! テオ! いくら兵士でもこんな奴に金をあげちゃだめよ!」
「まあ確かに、財布から金が減るのは痛いよなあ~?」
「なんですって!?」
「もうよせ、ロクサーヌ。じゃあ、またなアレス。また何かあれば俺に言え」
これ以上口論が続けば、せっかくの歓迎式が滅茶苦茶になってしまうことを危惧したテオは、ロクサーヌを強引にアレスと引き離させた。
「嫌な女だ、、」
気に入らないロクサーヌが姿を消すと、アレスは再び酒を口にした。
「わあ、どれにしようかな? こっちのイチゴの乗ったケーキにしようかな? それともこっちのチョコたっぷりのケーキにしようかな?」
ロードは目の前のテーブルに置かれているデザートの種類と量に圧倒され、どれを食べようか悩んでいた。
「それなら、私はこっちのチョコのケーキを取るから、ロードはイチゴのケーキを取って後で食べ比べしましょう」
「いいの? じゃあ、そうするね!」
ロードとメリナはそれぞれイチゴとチョコのケーキを取ると、ウェインとリードが一緒にいるテーブルに席をついた。
「兄さん、ウェイン見てみて。あっちにいっぱいケーキがあったんだけど多くて選べなかったから、メリナと取ってきたケーキを交換するんだ!」
「よかったな、ロード」
「ハハハ メリナはまるでロードの姉さんみたいだな?」
「私から見れば弟のようなものよ。ねえロード?」
「うん!」
メリナはロードに対して姉のような存在として、今では自他ともに知られており、ロードも面倒見がいいメリナは姉として慕う要素が多く、はたから見れば姉弟のように見えた。
ロードとメリナはケーキを最後の一口だけを残して食べると、お互いに食べ比べするため、初めにメリナがフォークでケーキをロードの口まで持っていこうとした。
「はい、あーん」
「あーん」
口を開けてチョコケーキを待ちわびるロードだったが、間にアレスが乱入しチョコケーキを一口で食べてしまった。
「「「「あ!?」」」」
「うーん、なかなかうまいじゃんコレ!」
突然のアレスの登場と行動に唖然とするロード達だったが、我に返ったロードがアレスの体を叩きながら文句を言った。
「もう! もう! それは僕のケーキなの! 勝手に食べちゃダメ!!」
「ごめーん、もう俺の腹ン中だわ! ハハハハハ!」
「ひぃ、、う、うう。うわあああん!」
「わあ、泣いちゃった!」
「コラ! アレス! チョコケーキを持ってきてロードに謝りなさい!!」
「はいはいわかったよ」
ロードを泣かしたのを見て、メリナは怒りながらアレスに強く言うと、アレスは了解してチョコケーキを取りに行った。
「よしよし、もう泣かないで。今あのアホが代わりのケーキを取りに行ってるから」
メリナはロードの体を自分の方寄せ、これ以上泣かないように頭を撫でて落ち着かせた。
しばらくして、ケーキを持ったアレスがやって来た。
「ほらロード、チョコケーキだ。その、、さっきは勝手に食べてすまなかった」
「ううんいいよ。じゃあ、コレ僕からのお礼として受け取ってよ」
ロードはアレスを許すと、メリナにあげるはずだったイチゴケーキが乗った皿をアレスの前へ突き出した。
「俺、イチゴ嫌いだからいらない」
「え??」
アレスの答えに、メリナは肘打ちと共に静かな声でアレスに言った。
「ここは嫌いでも受け取っておきなさい」
「でも、俺本当に嫌いだし…」
「いいから受け取りなさい」
渋々イチゴケーキの乗った皿を受け取ると、ロードは、「食べて感想を聞かせてほしいな」とアレスにお願いした。
「え、でも ぅぐ!」
「いいから食べなさい」
もう一度肘打ちを食らったアレスはロードの前で、いやいやながらもイチゴケーキを食べた。
「どう? 美味しい?」
「う、うん! うまい! 世界一うまいケーキだ!!」
アレスは引きつった笑顔でロードを悲しませないように大声でケーキを褒め称えた。
「えへへ~、良かった~ じゃあ、僕もチョコケーキ食べるね」
そうして、ようやくロードはチョコケーキを食べ始めることができた。
ロード達がケーキを食べている様子を保護者のように見守っていたリードとウェインだが、ザクレイの到着があまりにも遅いので、リードはウェインにそのことを問いかけた。
「なあ、その隊長さんはまだ来ないのか?」
「あ、ああ確かに遅いな、もしかしたら来ないかもしれないな」
「まったく誰のための歓迎会だよ。まあ、ロード達は食い物しか興味ないようだし、主役がいなくても問題ないか」
「それもそうか」
「「フハハハハハ!!」」
二人が談笑していると、会場の入り口辺りが騒がしくなってきた。
「どうやら来たようだな」
ウェインがそう言って入り口を見ると、人だかりができて当の本人は見えなかったが、しばらくすると、三十代半ばの筋骨隆々とした混血の男性がウェインたちに近づいてきた。
「お疲れ様です、ザクレイ隊長。どうでしたか、ここまでの道のりは?」
ウェインがザクレイに挨拶をすると、ザクレイは、「はぁー」とため息を一息ついて話し始めた。
「やってらんねーよマジで。ここまでくる馬車も揺れがひどくて吐きそうだったし、領主たちの護衛であっちこっち行ってるから、移動はもうこりごりだよ」
「とはいえ、フォースの命令だからしょうがないけどな」
「それはそれは… ご愁傷様です」
「だろ?」
ザクレイはロード達に目を向けると、「おおウェイン、お前にも部下がつくようになったのか? ふ~ん、なかなか面白そうな部下たちだな」と一人一人目を配りながら言った。
「でしょう、そんでもってこっちの隣のいるのがリードで、あっちのは右からメリナ、ロード、アレスです」
ウェインが一人ずつロード達を紹介すると、みんなはザクレイに対して軽く会釈したり、挨拶したりした。
「いやーアンタのおかげでこっちはただ酒を飲めるんだから感謝しかないよ。だから、これからは、毎日この町に来てくれよ。そしたら、俺も毎日朝から任務をさぼれるしな」
「アレス! 口に気をつけろ!!」
「別にいい… フフ、本当に面白い部下だな」
「そうですか…」
アレスの態度を見て不機嫌になるウェインだったが、ザクレイが気にしていなかったので、ウェインは引き下がった。
ザクレイはロード達を見ていたが、兵士の中に子供がいることに気になって仕方なかったので、ロードに問いかけた。
「君は混血なのか?」
「ううん違うよ」
「おおマジか、混血じゃないのにその年で兵士なのか!?」
「そうだよ。そんでもって、僕はカオスの遺子を倒すんだ!!」
カオスの遺子の単語を聞いて、ザクレイは顔をしかめた。
「あーカオスの遺子か~、う~んそれはやめとけ、お前じゃあ相手にならんぞ」
「でもやってみないと分かんないじゃん」
「いやいや無理無理。やらなくても分かるよ」
「戦えるって!!」
ザクレイの経験と自身の実力から、絶対にカオスの遺子には敵わないと確信していたが、ロードはカオスの遺子と戦うことは決して譲らなかった。
「なら、どのくらいやれるか見てやったらどうだ? そこで、この子が本当に役に立たないか判断すればいい」
リードはザクレイに、ロードを見てもらうついでに特訓してもらおうと考えて提案した。
「でもなあ、俺には用事があるし、、」
「用事って何なのよ?」
「フォースの命令で、この町に『魔力を吸い取る魔法』を使う兵士がいるから、そいつがカオスの遺子と戦えるか視察しに来たんだ」
「その魔法の使用者がそこにいるロードなのよ」
「驚いたなそれは。じゃあ、よし明日戦えるかどうか模擬戦でもして試してみるか」
「やったー!!」
そうして、ロードはカオスの遺子と戦う実力があるか確認するために、ザクレイと模擬戦をすることとなった。
変わったことがあるとすれば、討伐対象に魔人も含まれるようになったことだ。
そして、今日も任務を終えて宿舎に戻り、みんなで晩御飯を食べていた時にウェインが思い出したかのように唐突に話し始めた。
「あ、そうそう言い忘れていたが、明日このダンタリオン地方の隊長ザクレイがやって来るから明日の任務は討伐じゃなくて、隊長の歓迎会だ。食べ放題、飲み放題だぞ!」
その言葉を聞いて子供グループは歓声を上げた。
「しゃあー、兵士になって一番うれしいことだ。早く明日にならねえかな」
「うれしいわね♪ 最近はずーっと任務で忙しかったからね」
「ねえ兄さん、食べるのも飲むのもし放題ってことは、えーっとお菓子も、ジュースもなの?」
「そうだ」
「わーい、早く明日にならないかな~」
「まあまあそう興奮するなお前たち。歓迎会はなくなったり、どこかへ行ったりはしないんだからさ」
「「「はーい」」」
ウェインは興奮冷め止まないロード達を落ち着かせる。
「ああ、早く明日にならないかな~」
ベッドに入ったロードは、明日の歓迎会を楽しみにしながらも、ワクワクしてなかなか眠りにつけないロードだった。
翌日、ロード達はエルマの町中央にある基地の会場となる一室で、主役となるザクレイが時間になってもいないので、ザクレイなしで歓迎会を楽しんでいた。
各地方の隊長の役目は領主の護衛と町に所属する兵士の管理で、書類仕事と肉体労働で毎日仕事に追われ忙しい毎日を送っている。
歓迎会とあってか料理も会場も豪華となっており、招待された人の中には、コルカスをはじめとした各国の兵士の隊長や、テオなどの町の有力者も招待されていた。
「はあ~最高~、生きててよかったぁ~」
酒をグビッ!とあおっていると、テオが妻と共に話しかけてきた。
「おいアレス、こんな時間から酒か? ところで返済のめどはたったか?」
「いいだろ別に。それと今は金がないから、またすこしばかり貸してくれ」
「はぁ~またか。まあいいだろう、このパーティーが終わったら家まで取りに来い」
「ちょっと待ちなさい! それはダメよ!」
アレスたちが話していると、テオより一回り若く、美しい、そして豪華な衣装を身にまとった彼の妻が話しに割り込んできた。
「どちらさま?」
「妻のロクサーヌよ。アレスだっけ? あなた、私の旦那にお金を貸してもらってるらしいけど、返す気がないなら借りないでもらえる? 迷惑なのよ!」
「まあまあ、コイツは兵士なんだから少しは大目に見てやれよ」
「あなたは黙ってて!」
ロクサーヌの気迫に押されてごもってしまったテオを尻目に、ロクサーヌはアレスに続けて口撃する。
「乞食みたいにテオにたかって、、恥ずかしいと思わないの?」
(いや、ごもっともです)
心の中ではロクサーヌの言い分が正しいと思っているアレスだが、決してそれを表には出さない。
非を認めれば、追加の金を得られることができなくなるからだ。
「あなたどこ出身よ?」
「王国の北にある小さな村だ」
「村!? ハハハハハ! まあ確かに村出身ならお金がなくて当然か。じゃあなに? 貧しくて卑しいのに兵士になって金を稼ぎに来たの!? まったく村人ってのは、私たち市民と違って厚かましい奴らだわ!」
自信が村出身であることを馬鹿にされたのは我慢できるからいいとして、アレンなどの家族丸ごと馬鹿にされたことはアレスの頭の中で、理性の糸が切れた。
「しょうがないだろ。俺にはアンタみたいに立派な金庫を持ってないんだからさ~」
アレスはテオの方をチラリと見ながら、ひょうきんな態度で答える。
その言葉を聞いてロクサーヌは怒りを露にして、アレスに指を向けながら声を上げた。
「信じられない!口まで下品だなんて!! テオ! いくら兵士でもこんな奴に金をあげちゃだめよ!」
「まあ確かに、財布から金が減るのは痛いよなあ~?」
「なんですって!?」
「もうよせ、ロクサーヌ。じゃあ、またなアレス。また何かあれば俺に言え」
これ以上口論が続けば、せっかくの歓迎式が滅茶苦茶になってしまうことを危惧したテオは、ロクサーヌを強引にアレスと引き離させた。
「嫌な女だ、、」
気に入らないロクサーヌが姿を消すと、アレスは再び酒を口にした。
「わあ、どれにしようかな? こっちのイチゴの乗ったケーキにしようかな? それともこっちのチョコたっぷりのケーキにしようかな?」
ロードは目の前のテーブルに置かれているデザートの種類と量に圧倒され、どれを食べようか悩んでいた。
「それなら、私はこっちのチョコのケーキを取るから、ロードはイチゴのケーキを取って後で食べ比べしましょう」
「いいの? じゃあ、そうするね!」
ロードとメリナはそれぞれイチゴとチョコのケーキを取ると、ウェインとリードが一緒にいるテーブルに席をついた。
「兄さん、ウェイン見てみて。あっちにいっぱいケーキがあったんだけど多くて選べなかったから、メリナと取ってきたケーキを交換するんだ!」
「よかったな、ロード」
「ハハハ メリナはまるでロードの姉さんみたいだな?」
「私から見れば弟のようなものよ。ねえロード?」
「うん!」
メリナはロードに対して姉のような存在として、今では自他ともに知られており、ロードも面倒見がいいメリナは姉として慕う要素が多く、はたから見れば姉弟のように見えた。
ロードとメリナはケーキを最後の一口だけを残して食べると、お互いに食べ比べするため、初めにメリナがフォークでケーキをロードの口まで持っていこうとした。
「はい、あーん」
「あーん」
口を開けてチョコケーキを待ちわびるロードだったが、間にアレスが乱入しチョコケーキを一口で食べてしまった。
「「「「あ!?」」」」
「うーん、なかなかうまいじゃんコレ!」
突然のアレスの登場と行動に唖然とするロード達だったが、我に返ったロードがアレスの体を叩きながら文句を言った。
「もう! もう! それは僕のケーキなの! 勝手に食べちゃダメ!!」
「ごめーん、もう俺の腹ン中だわ! ハハハハハ!」
「ひぃ、、う、うう。うわあああん!」
「わあ、泣いちゃった!」
「コラ! アレス! チョコケーキを持ってきてロードに謝りなさい!!」
「はいはいわかったよ」
ロードを泣かしたのを見て、メリナは怒りながらアレスに強く言うと、アレスは了解してチョコケーキを取りに行った。
「よしよし、もう泣かないで。今あのアホが代わりのケーキを取りに行ってるから」
メリナはロードの体を自分の方寄せ、これ以上泣かないように頭を撫でて落ち着かせた。
しばらくして、ケーキを持ったアレスがやって来た。
「ほらロード、チョコケーキだ。その、、さっきは勝手に食べてすまなかった」
「ううんいいよ。じゃあ、コレ僕からのお礼として受け取ってよ」
ロードはアレスを許すと、メリナにあげるはずだったイチゴケーキが乗った皿をアレスの前へ突き出した。
「俺、イチゴ嫌いだからいらない」
「え??」
アレスの答えに、メリナは肘打ちと共に静かな声でアレスに言った。
「ここは嫌いでも受け取っておきなさい」
「でも、俺本当に嫌いだし…」
「いいから受け取りなさい」
渋々イチゴケーキの乗った皿を受け取ると、ロードは、「食べて感想を聞かせてほしいな」とアレスにお願いした。
「え、でも ぅぐ!」
「いいから食べなさい」
もう一度肘打ちを食らったアレスはロードの前で、いやいやながらもイチゴケーキを食べた。
「どう? 美味しい?」
「う、うん! うまい! 世界一うまいケーキだ!!」
アレスは引きつった笑顔でロードを悲しませないように大声でケーキを褒め称えた。
「えへへ~、良かった~ じゃあ、僕もチョコケーキ食べるね」
そうして、ようやくロードはチョコケーキを食べ始めることができた。
ロード達がケーキを食べている様子を保護者のように見守っていたリードとウェインだが、ザクレイの到着があまりにも遅いので、リードはウェインにそのことを問いかけた。
「なあ、その隊長さんはまだ来ないのか?」
「あ、ああ確かに遅いな、もしかしたら来ないかもしれないな」
「まったく誰のための歓迎会だよ。まあ、ロード達は食い物しか興味ないようだし、主役がいなくても問題ないか」
「それもそうか」
「「フハハハハハ!!」」
二人が談笑していると、会場の入り口辺りが騒がしくなってきた。
「どうやら来たようだな」
ウェインがそう言って入り口を見ると、人だかりができて当の本人は見えなかったが、しばらくすると、三十代半ばの筋骨隆々とした混血の男性がウェインたちに近づいてきた。
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「とはいえ、フォースの命令だからしょうがないけどな」
「それはそれは… ご愁傷様です」
「だろ?」
ザクレイはロード達に目を向けると、「おおウェイン、お前にも部下がつくようになったのか? ふ~ん、なかなか面白そうな部下たちだな」と一人一人目を配りながら言った。
「でしょう、そんでもってこっちの隣のいるのがリードで、あっちのは右からメリナ、ロード、アレスです」
ウェインが一人ずつロード達を紹介すると、みんなはザクレイに対して軽く会釈したり、挨拶したりした。
「いやーアンタのおかげでこっちはただ酒を飲めるんだから感謝しかないよ。だから、これからは、毎日この町に来てくれよ。そしたら、俺も毎日朝から任務をさぼれるしな」
「アレス! 口に気をつけろ!!」
「別にいい… フフ、本当に面白い部下だな」
「そうですか…」
アレスの態度を見て不機嫌になるウェインだったが、ザクレイが気にしていなかったので、ウェインは引き下がった。
ザクレイはロード達を見ていたが、兵士の中に子供がいることに気になって仕方なかったので、ロードに問いかけた。
「君は混血なのか?」
「ううん違うよ」
「おおマジか、混血じゃないのにその年で兵士なのか!?」
「そうだよ。そんでもって、僕はカオスの遺子を倒すんだ!!」
カオスの遺子の単語を聞いて、ザクレイは顔をしかめた。
「あーカオスの遺子か~、う~んそれはやめとけ、お前じゃあ相手にならんぞ」
「でもやってみないと分かんないじゃん」
「いやいや無理無理。やらなくても分かるよ」
「戦えるって!!」
ザクレイの経験と自身の実力から、絶対にカオスの遺子には敵わないと確信していたが、ロードはカオスの遺子と戦うことは決して譲らなかった。
「なら、どのくらいやれるか見てやったらどうだ? そこで、この子が本当に役に立たないか判断すればいい」
リードはザクレイに、ロードを見てもらうついでに特訓してもらおうと考えて提案した。
「でもなあ、俺には用事があるし、、」
「用事って何なのよ?」
「フォースの命令で、この町に『魔力を吸い取る魔法』を使う兵士がいるから、そいつがカオスの遺子と戦えるか視察しに来たんだ」
「その魔法の使用者がそこにいるロードなのよ」
「驚いたなそれは。じゃあ、よし明日戦えるかどうか模擬戦でもして試してみるか」
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