カオスの遺子

浜口耕平

文字の大きさ
37 / 111
第一部 エルマの町

第三十五話 未来への不安

しおりを挟む
 クラウディウスの息子との戦いから一週間が過ぎた。
 ロード達の活躍によって最悪の危機は免れたが、エルマ周辺の町や村は壊滅し、コルカスらをはじめとした兵士の命も失われた。
 騒動の後、コルカス、リリエラ、ガロンの三人を失い残されたニトグリフとティルキアは、三人の死に意気消沈してすっかり宿舎に引きこもってしまった。
 それを見かねたザクレイによって、二人を国へ送り返そうとと準備をしていた。
 
 そして今日が二人が国に帰る日なので、ロード、アレス、メリナは二人を見送るためローデイルの宿舎を訪れた。
 三人が訪れた時、ちょうど二人が宿舎を去ろうとしているところだった。
 「おーい二人ともちょっと待ってぇ~
 ロードの声に気づいた二人は足を止めて駆け寄ってくるロード達の方を見た。
 「あらお見送り? うれしいわね……」
 「そうだよ。でもなんか二人とも元気ないね」
 すると、アレスがロードの足を軽く蹴った。
 「もう、何するの?」
 「バカ! お前状況を考えろ!」
 「いいのいいの。ロード、あなたは元気そうでいいわね…」
 「いつもこんな感じだよ。やっぱりコルカスたちが死んだのが悲しいの?」
 「三人の死は確かに悲しいけれど兵士である以上、人の死は隣り合わせよ。覚悟はできていたわ。
  だけど、三人が命と引き換えにしてみんなが必死に戦って勝利した相手がカオスの遺子じゃなかったのが悔しいわ。
  私は遺子と戦うためにこれまで頑張って来たけどあの戦いで、自信も夢も全部なくなってしまったわ。もう兵士として戦えるとは思えない、戦おうとすると恐怖で体が震えるのよ」
 ニトグリフの声は震えていた。
 「大丈夫だよ! 生きていれば夢は死なないって兄さんが言ってたから!!」
 「フフ… そうね諦めるにはまだ早いわよね」
 「ロード、メリナ、アレス… またどこかで会いましょう。さようなら」
 ニトグリフはロードの言葉を聞くと少し微笑んで最後の挨拶をし、ティルキアと一緒に宿舎から去っていった。
 「行っちゃった、、 なんだか寂しくなるなぁ」
 ロードは二人の後ろ姿が見えなくなると、この世からいなくなったみたいで悲しくなった。
 「何言ってんだロード、お前には俺たちがいるから寂しくはないだろ?」
 「そうよ、これからも私たちは一緒よ。決して離れたりはしないわ」
 「だよねだよね。よし! じゃあ、僕らも戻ってカオスの遺子にそなえよう!」
 メリナとアレスの言葉を聞いて元気になったロードは、リードが待つ宿舎へと走り出した。

 一方その頃、ザクレイとウェインは町から離れていつもの魔物退治をしていた。
 「久しぶりですね。こうやって一緒に魔物退治に来るなんて」
 「そうだなぁ~ 八、九年ぶりぐらいか?」
 「そのくらいになりますか。相変わらずすごいですね、ただの魔物程度だったら普通に素手で殺せますもんね。俺いらくなっちゃいますよ~」
 「馬鹿野郎、お前がいなかったら誰が俺の世間話につきあうんだ?」
 「そうですね。あ、そう言えばローデイルの兵士だけでなく他の二カ国の兵士を町から撤退させたのですか?」
 「戦う気がない奴なんてこれから先に必要ねえ。 それなら別のとこへ移してやった方が人のためになる。それにあと数日でグレンとナルザスの二人が来るからそれまでの辛抱だ」
 「えッ!? あの二人が来るんすか? 俺ちょっと苦手なんすよ」
 「細かいこと気にすんなよ。それよりもお前さっきから口調がだんだん砕けてないか?」
 「細かいこと気にしないって言ったじゃないっすか!」
 「うるせえ文句言うな。俺はいいんだよ」
 ザクレイはウェインの頭をワシャワシャした。
 「冗談はさておきこれからどうするか…… ったくフォースも二人しか隊長をよこさないとかケチすぎだろ。ここは最低でも半分は来てもらわないとやってらんねえよ」
 ザクレイはため息をついてこれからの戦いに憂鬱な気分で迎えなければならなかった。
 「さあ? でも俺たちは上の命令には従う義務がありますからね」
 「クソー俺がいないところで勝手に決めやがってよ~、少しはこっちの身にもなってみろよ」
 「文句なんか言ったって何にも変わらないですよ。今はあの二人が来るのを待ちましょう」
 「それもそうだな。それじゃあ今日はここで帰るか、、、」
 ザクレイは帰ろうと町の方向に振り向くと動きを止めた。
 「どうしたんですか隊長? いきなり止まって、、あれ? こんなところに子供がいる。ちょっと聞いてみますね」
 ウェインは町の外に子供がいるのを不思議がってどうしたのかと尋ねるために子供に近づこうとすると、ザクレイが行かせないように服を掴んだ。
 「近づくな! あれがロイドだ!」
 「ふぇ!!? あんな子供が、、、」
 ロイドはエルマの町の方へ歩みを進めている。
 このままでは町に到着してしまうと危惧したザクレイは仕方なくロイドに近づいて目的を聞いた。
 「カオスの遺子がこんな世界に何の用だ?」
 「君はこの前会ったね。久しぶり」
 「何の用かと聞いてるんだ」
 「別に大したことじゃないよ。この先にある町で買い物をしようかなと思ってね」
 「町へ行くのか?」
 「そうだよ。何か問題でも?」
 「大ありだ、お前ら人外が俺たち人の町に入るんじゃねえ。とっとと魔界へ帰んな」
 「帰らないと言ったら?」
 ロイドの言葉にザクレイは魔力を高め始め、二人の魔力がぶつかり合って空間が歪んだようになり、両者は今にも剣を抜きそうだ。
 「わわっ! やばい離れないと」
 ウェインは両者の戦いに巻き込まれないように十分な距離を取った。
 「本当に戦うのかい? 神の子である僕と」
 「ここでやらねえといつ人々を守るんだ?」
 「そう、、 じゃあ手加減してあげるからかかっておいで」
 「なめんなよクソガキ!」
 ザクレイは魔力を開放して多次元魔装ダークアーマーでロイドに殴りかかる。
 「わあ はや~い」
 二人は激しい攻防を繰り広げるが、ザクレイの高速の攻撃もロイドは魔法で召喚した巨大な一本の魔神の腕だけですべて受けきる。
 「そんなものなの? こんなんじゃ遊びにもならないよ」
 「グッ」
 「隊長!」
 ガードの上からの攻撃だったが、ザクレイは堪えきれず大きく吹き飛ばされてしまった。
 「クソ、多次元魔装ダークアーマーの全力でもここまで差があるのか、、こうなったらあれを使うしか」
 「もう遊びは終わりなの?」
 ザクレイにゆっくりとロイドは近づいていく。
 「バカ言ってんじゃねえ。ここからが俺の本気、命を懸けたな」
 そうして、ザクレイは完全な多次元魔装ダークアーマーの上にさらに魔力を高めた。
 「一撃絶死ザ・デス
 ザクレイを身にまとっていた多次元魔装ダークアーマーが一転して赤と白を基調としたものに変わり、全身から赤い蒸気が噴き出している。
 「いいね! 下位、中位、上位、超位 四つの位、その中で膨大な魔力量を持って初めて使える超位魔法。だけど、それ以上に超位魔法に耐えれうる強靭な肉体を持たないとほんの数秒ほどで命を落とす諸刃の剣だ」
 「でも、、 早くしないと死んじゃうよ」
 「安心しろ。すぐに終わらせる」
 そう言うと、ザクレイは今までにないほどの速さでロイドに向かって行く。
 それでもなお平然としているロイドは向かってくるザクレイに合わせて攻撃をする。
 しかし、ザクレイは攻撃してくる魔神の腕をパンチ一発で粉々にした。
 「うわっ!!」
 さすがのロイドも驚いてもう一度、魔神の腕を召喚して防ごうとするが間に合わずにザクレイの連撃をストレートで顔に受けてしまった。
 「うおおおおおおおお!!」
 凄まじい衝撃と破裂音のような音と共にロイドは空中に大きく飛ばされた。
 だが、ロイドは直ぐに体制を立て直して吹き飛ばされた顔半分を瞬時に再生させた。
 「人間のくせにやるね。久しぶりに攻撃を食らったよ、まあダメージはないんだけどね」
 「そんな、、」
 ザクレイの超位魔法でさえも全然効いている様子がないロイドにウェインは唖然として立ちすくんだ。
 「おいウェイン、俺が負けたような素振りすんじゃねえ。戦いはまだまだこれからだ!」
 ザクレイは再び空中にいるロイドに向かって行ったが、、、
 「いや、もう遊びは終わりだよ」
 そう言うと、ロイドは、六つの魔神の腕をザクレイの周囲に召喚して一斉に攻撃を始めた。
 四方八方から凄まじい威力とスピードをもつ魔神の腕を数十発は凌いでいたが、一発を食らった瞬間、次々と攻撃を食らってたタコ殴りの状況になった。
 しばらくしてロイドが召喚を解くと、ボロボロになり息も絶え絶えとなったザクレイが姿を現して地面に落ちた。
 「隊長!!!」
 ウェインはザクレイのもとに駆け寄って安否を確認したところ、心臓がまだ動いており早めに治療すれば何とかなるケガで済んでいた。
 「息はある。早く治療しないと、、 あれロイドは!? まさかッ!?」
 ふとロイドに再び気をもどして辺りを見渡したが、もうすでにロイドの姿はいなくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

処理中です...