カオスの遺子

浜口耕平

文字の大きさ
53 / 111
第一部 エルマの町

第五十一話 アレスとマルス

しおりを挟む
 五日間の特訓で何の成果を得られなかったアレスは、メリナと離れて誰も来ない場所にやって来ていた。
 「クソ! クソ! 何だよこんなんじゃ使いもんになんねえじゃねえか!」
 アレスはマルスの取っ手を両手で握ると、転がっている石を打ってイライラを解消させていた。
 片っ端に打ち続けて気が少し収まると、今度は地面に腰を下ろしてマルスをまじまじと眺めどうしたものかと思い悩んでいた。
 (はあ~ メリナの前ではあんなこと言ったけど放蕩はは何にも考えがないんだよな~)
 「てかこれって神器じゃん!! 売ったらどれくらいの金になるんだ!?」
 「よし売ろう!!」
 そう思った瞬間、アレスは立ち上がってエルマの町へ帰っていった。
 「これで俺も億万長者だ。エニグマを殺したらリベリオンに家を買おう、いや他の国に住むってのも手だな。ああ! 楽しくなってきたー!」
 帰る道中、アレスは買取金額を想像して何を買おうかと心を躍らせ、自身でも心臓の鼓動が高まっていることが分かるほどだった。
 「おいやめろ! 俺を売るんじゃねえ!!」
 「な、なんだ… どっから聞こえてくるんだ?」
 頭の中へ直接語りかけるような声が聞こえてきてアレスは混乱し周りを見渡したが、当然誰もいない。
 「こっちこっち! お前が持ってる槍を見ろ!」
 言われた通りに持っているマルスの方を見ると、「ようやく見たか、これからよろしくな俺」
 「うおおおおお!!」
 槍のマルスが喋ってことに驚いてアレスは思いっきりマルスを放り投げた。
 「おい何すんだよ! 俺はお前、お前は俺の正統な所有者なんだぞ! こんな扱いはあんまりだ!」
 「こっちだって嫌だよ! 喋る呪われた武器なんてまっぴらごめんだ!!」
 「言ったなこの野郎、俺は由緒正しき神に創られた原初の存在の内の一人だぞ。もっと俺を尊敬しろおお!!」
 マルスはそう言いながら、どういう原理かは分からないがアレスの元へと戻っていった。
 嫌々マルスを手に取ったアレスだが、マルスは意気揚々とアレスに話しかける。
 「もう何千年もお前を待っていたんだよ~! ほら早く俺を使っていつもの魔法を見せてくれ!」
 「ちぇ分かったよ、それじゃあ、、 オメガブラスト!」
 気は乗らないが、放っておくといつまでもうるさいと思ったので構えて自身が使う最高の魔法を放った。
 「ふう~、これで満足か?」
 「ん~? 違うなお前の魔法はこんなもんじゃなかったはずだ。俺の使い方を忘れてしまったのか?」
 「あのな一回もまともに使えたことがないのに知ってるわけないだろ。それに、さっきから誰と勘違いてるか知らないけど、俺はお前のことなんか知らない」
 「……そうか、、 なら俺は時が来てすべてを思い出すまで何も言うまい。だから、俺が教えてやる、かつてのお前の魔法をよお」
 「本当か? その魔法はカオスの遺子にも対抗できるのか!?」
 アレスはそれを聞いて感情を抑えきれずマルスに迫ったが、彼の反応は先ほどとは打って変わってイマイチだった。
 「またお前は奴らと戦うのか、、奴らは不死身だぞ、人間が勝てるはずがない。俺はもうお前に死んでほしくないんだ」
 「勝てるさ、いやもう勝った! 遺子を殺したらこの世界は良くなるって信じている泣き虫がいるんだ。弱虫で、我儘で、何をやるにも誰かの助けを貰わないと何もできないちっぽけな子供が人のため、世界のために頑張っているんだ、。俺もあいつの仲間としてこれからも戦っていきたいんだ!! だから、俺に魔法を教えてくれ!!」
 マルスに向かってアレスは頭を下げて指導してもらえるようお願いした。
 アレスはロードの頑張っている姿を見て、仲間として少しでも助けになるために少しでも強くならなければいけないという思いが強くなっていった。
 「よし分かった。やはりお前は俺だ。いいだろう俺がとっておきの魔法を教えてやる!」
 「マジか! ありがとうな!!」
 「だけど覚悟しろよ、俺の教え方は過激だぞ」
 「望むところだ! 強くなれるんだったら何でもやってやるよ!!」
 こうして、マルスによるアレスの個人レッスンが始まった。

 「やっぱりダメね…… 私は所有者として認められてないのかしら?」
 ロード達が去って一人で特訓を再開してから数時間後、メリナは日々実践している魔力コントロールを応用して自身の魔力をカリグラと同調させることで、一体化を図ろうとしたが全然上手く行かない。
 思い悩んでいると、耳をつんざくような轟音と共にアレスが現れた。
 「よぉメリナ、どうだ少しは上手く行ったか?」
 「いいえ、でもそっちは上手く行ったようね、、 見たらわかるわ、前よりずっとに強くなってるわ」
 「フフ、そうだろ? これで俺も遺子と戦えるぜ」
 神器に認められたアレスを見て、メリナは悔しさと羨む感情が互いに交差していた。
 「ねえ教えて! どうやって神器に認められたの!?」
 「石を打って、誰かに売ろうとしたら認められた」
 「はい? え? 意味が分からないわ」
 アレスとマルスの成り行きを聞いていて、言っている言葉は分かるが、言っている意味が分からず頭の中は疑問符で満ち溢れていた。
 「安心しろ俺も分からない。何で選ばれたんだろうな~?」
 「「ハハハハハハハハ!!」」
 二人は思わず吹き出してしまった。
 「アンタ本当にそんな感じで選ばれたの? あーおかしい、こんなにも笑ったのは久しぶりよ!」
 「俺もだ。今日は楽しいな」
 メリナは涙を浮かべるほど爆笑しており、アレスはそんなに笑うメリナを見て嬉しくなった。
 「ヒューヒュー! アツいね二人とも! 下の方もアツくなってきたか!?」
 マルスがアレスとメリナをからかう言葉をアレスに投げかけると、アレスはマルスを地面に何度も叩きつけた。
 「いきなりどうしたの!?」
 「いやなんでもない、そっとしておいてくれ」
 「やめろ! ただの冗談だろ!? マジにしないでくれよ」
 「うるさい! そもそも痛覚なんてお前にないだろ?」
 「ないけど、、 心が痛むんだ。お前も考えてみてくれ、抵抗もしない物を一方的にぶつなんてひどいとは思わないか?」
 道徳心を問われアレスは手を止めた。
 「そうだな悪かったなマルス」
 「おお分かってくれたか!! さすがは俺だ」
 二人が問答しているところをメリナは外野から見ていた。
 「アンタ誰と喋ってるの? まさか独り言じゃないでしょうね」
 マルスの言葉はアレスにしか聞こえない、外から見れば独りで槍に話しかけている変質者に見えた。
 「コイツの声は俺にしか聞こえないんだよ」
 「へえ~所有者になったらそんなこともできるのね。ねえマルスは私のことをどう思ってるの?」
 「早く俺と結婚して○○〇に早く×××して、○○○○○○○○~!!」
 マルスはメリナを舐めまわすように見てから、アレスにすごい勢いで肉欲に満ちた下品な言葉を叫んだ。
 「なんて言ってるの?」
 「メリナに隷属していつまでも弄んで欲しいって言ってるぞ」
 「そう言うのは結ばれた者同士が同意のもとで成り立つと思うの。私はまだそんな人がいないから、アナタの言う通りにはいかないの」
 「そう言うだろうと思ったぜ。それじゃあさっさとロード達のところに行こうか」
 「ええ」
 マルスは何か喚いていたが、アレスは無視してメリナとロード達が特訓している場所に向かおうとした。
 その時―
 「なあ人間、ここいらで叔父上が死んだと報告があったんだが何か知らないか?」
 二人の間に突然、男が現れた。
 とっさに反応して攻撃をする二人だったが、男は黒い液体となって地面に零れ落ちて攻撃を回避すると、メリナの背後に現れてメリナを黒く流体している体でメリナを拘束した。
 「メリナ!」
 アレスは拘束されたメリナを救い出そうと魔法を放とうとすると、、
 「動くな! 一歩でも動いたらコイツの体を殺す」
 メリナを人質に取られたアレスは男に言うがままに何もできなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

いじめられっ子、朝起きたら異世界に転移していました。~理不尽な命令をされてしまいましたがそれによって良い出会いを得られました!?~

四季
恋愛
いじめられっ子のメグミは朝起きたら異世界に転移していました。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...