カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第五十話 派遣

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 アレスが神器マルスを手に入れた翌日にロード達は特訓に励んでいた一方で、ゼインフォースの命により三人の隊長が勅使より命を授かっていた。
 一人目はアンドロメダ地方の隊長ノワールだ。
 「ほら見ろ俺が正しかったじゃないか! すぐに向かうぞ馬車を呼べ!」
 ノワールは勅使から王の命を受けると、すぐにエルマの町へ出発した。
 二人目はベテルギウス地方の隊長スクロースだ。
 「……相分かった、すぐに出発する」
 命令に従う意思を見せて勅使を帰らせると、重い足取りで馬車へと向かった。
 「どうやら私は用済みのようだ…」
 自身が派遣される理由を悟ったスクロースはこれ以上王に逆らうことはせずに潔く戦おうと決意した。
 三人目はアンタレス地方の隊長ウルフだ。
 「俺は行かない。そう王に伝えろ」
 王の命を受けないウルフに驚いた勅使はすぐさま何故なのか聞いた。
 「俺は別に戦うことを恐れているんじゃない。王は俺の意見をもう十年ほど無視している、だから俺も王の命令は受ける義理はない」
 「それですとあなたは反逆者として投獄されますよ、いいのですか?」
 「やって見ろよ今! 俺が求めているのは安息じゃない新たな我らの混血の王だ! 帰れ! 新たな王を見るまで俺は死ねない」
 勅使はウルフを脅したが、脅しも何のそのという態度で言い返した。
 ウルフを捕らえることなどできず、強硬な態度に臆した勅使はくたびれた様子で帰っていった。
 「おお我が王よ、どうして俺の言うことを聞いてくれないんだ!! あなたは俺たち混血の中で最強の存在、この国の絶対の守護者だというのに…」
 ウルフはゼインフォースが世継ぎを作らないのかが分からなかった。
 十年前、デオニクスから聞かされたゼインフォースと第七遺子ベルナドールの戦いの話、俗に言う『アルラウネ決戦』、その日からウルフはゼインフォースこそ国の守護者、世界の守護者として崇拝に近い尊敬の念を抱くようになった。
 王を慕い、彼のためなら死ぬ覚悟をもって忠臣として生きていたウルフだったが、たった一つ、世継ぎを未だに作ってないことだけを巡っては激しく対立していた。
 守護者としてゼインフォースが王として君臨していることが国の平和、世界の平和へ大きく貢献していることが重要と思っているウルフにとって、彼の死後、彼と同等もしくはそれに匹敵するほどの人物を王に据えないと、既存の秩序が壊れてしまうことに危機感を覚えていた。
 それゆえに、王の血と強さを引き継いだ世継ぎを作ることは平和への必要条件だった。
 「どうしたんだウルフそんなキモイ顔して」
 ウルフが王のことを思っていると、そこにいるはずのないマームが現れた。
 「お前が何でここにいる? ここはカペラじゃないぞ」
 「いいや俺はお前に用事があって来たんだ。お前、王にまた世継ぎを切望したそうだな、何故なんだ?」
 「あの強い王が世継ぎも残さず死ぬなんて許されないだろ? 世継ぎを作ることで人々は安心して生活していけるし、他国のお偉いさんも安心するだろ? そうすれば国同士の関係も良くなるしいいことだらけじゃないか」
 「ふざけるな!! 表面しか見えてないお前は私たちの屈辱が分かるのか!?」
 マームが突然怒りだしたことに驚いてマームのことをじっと見つめた。
 「何をそんなに怒っているんだ? 人々のためになることだぞ、俺たち兵士の本望じゃないか」
 「そう、お前は私たちの犠牲をどうにも思わないんだな。国のため、人々のため、、人の皮を被った偽善者が」
 そう言いながらマームはウルフの前に移動すると、魔法で頭を打ちぬいた。
 ウルフは不意を突かれて何も抵抗できずに即死した。
 「ああ… ごめんなさい私の同胞。でも、仕方ないのよ誰かがやらないと私たちはずっと道具のままなのよ」
 マームは涙を流しながら横たわったウルフの死体をいつまでも見続けていた。
 数日後、王宮ではウルフの命令違反と彼の死が伝えられた。
 「ウルフは消す手間が省けたから良いとして、ウルフの開けた穴はどうしましょう」
 アシュリーがゼインフォースに心配そうに尋ねた。
 「安心しろ、すでにメノウに出撃命令を出した。これで、大方俺と対立する隊長は消えるだろう」
 「でも、もし生き残ったらどうします? それに遺子の力を手に入れたロードを失うかもしれない危ない作戦ですよ、負けたら国どころか世界の存続さえ危ぶまれます」
 「安心しろ奴らは負けないさ、ただ多くの損害を被るだけさ」
 「分かりました」
 そう言ってアシュリーは下がった。
 (王はどうしてあんなにも楽観的なの? 何か考えがあるのかしら?)
 アシュリーはゼインフォースの自信に満ちた発言に疑問を持ちながらも、何か考えがあると王を信じることにした。
 
 一方その頃、ロード達は相も変わらず来たるべきカオスの遺子との決戦に備え特訓していた。
 ロードは魔神の腕を二本まで自在にコントロールできるようになったが、アレスとメリナは神器に何もかも持っていかれないように魔力をこめては放出する特訓を二人並んで行っていたが、一向に上手く扱える様子はなかった。
 「もう何だよコレ! 風呂屋じゃねえのに使えば使うほど搾り取られじゃねえか!」
 アレスは我慢して耐えていたがついに不満が爆発して神器マルスを地面に叩きつけた。
 「もう静かにしなさいよ! 気が散るじゃないの!」
 「でもよ、もう五日目だぞ。少しは良くなると思ってたのに、、 これじゃ時間の無駄だ、もっと別の方法考えようぜ」
 「自分で考えてなさいよ、私はまだこの方法を信じてるから」
 「いいぜ、お前は勝手にやってろよ。俺はもっと強くなる方法を探すからよ」
 そう言うと、アレスはマルスを持ってメリナから離れていった。
 「騒がしい男だわ。よし、あともうちょっと頑張ってみようかしら」
 メリナはアレスのことなんか考えないで自分自身の特訓にまた専念し始めた。
 すると、全員が特訓を開始してからずっとロードの傍にいたリードがメリナのところにやって来た。
 「おう進捗はどうだ? 少しは上手く使いこなせるようになったか?」
 「ダメねさっぱりよ、もう五日になるっていうのに… このままじゃ遺子が来るまでに間に合わないわ」
 メリナは手と首をかしげて何の成果も出てないことをリードに伝えると
 「お前たちのやり方が間違っているんだよ。神器はそもそも神が人を巨悪から守るために作ったものだ、それゆえ神器の所有者は人にとってまさに英雄、苦しみと混乱の解放者だったわけだ。そして、神器は人を選ぶんだ、お前が神器を選ぶんじゃない、神器が人を選ぶんだ」
 「それだったら、このカリグラは私を選んでないと言うつもり? これ以上、私が何をやっても無駄なことだって言いたいの?」
 「それは分からない。だが、お前が所有者として認められた時、お前は英雄になる」
 「英雄なんて興味ないわ、ただ私は強くなりたいだけよ。いいわ! それなら私が真の所有者だってことを分からせてあげる!」
 メリナはリードの話を聞いて、カリグラとの特訓にさらに根気よく行うことを決めた。
 その様子をリードが見ていると、ロードが大急ぎでこっちに向かって走ってきた。
 「特訓している間は離れちゃダメって言ったでしょ!! なんで見守ってくれないの!?」
 ロードは勝手にリードが持ち場を離れたことに顔を赤くして起こっていた。
 「ああごめんな、ちょっとメリナたちの様子が気になってな。そんなに怒るなよ」
 「約束したじゃん! 兄さんが守らないのがいけないんだよ!!」
 リードがなだめてもロードの怒りは収まりそうにない。
 「いい加減にしなさいロード! リードが困っているじゃない! ワガママもほどほどにしときなさい」
 メリナは特訓が上手く行っていないストレス相まって、言うことを聞かないロードに初めて怒ると、ロードはさらに顔を真っ赤にして涙声で言った。
 「だ、だってぇ僕悪くないもん、約束したんだもん、、 兄さんがいいよって言ったんだもん…」
 下を向いてゆっくりと喋るロードの頭をロイドの手が優しく撫でている。
 「兄さんが悪かったよごめんな、一緒に戻ろう… な?」
 「うん…」
 そうしてリードはロードと一緒に元居た場所に戻っていった。
 「少し言い過ぎたかしら…」
 メリナはロードの顔を見てなんともいたたまれない気持ちになった。
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