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序章 兵士への道
第六十二話 永遠の悪夢 メリナ編(過去編3)
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東にある王都リベリオンへ馬車を休ませながら走って二週間ほどが経ってようやく王都にあるクラリスの実家コンドール邸に到着した。
「ああ懐かしい… 不本意ではあったけど実家に戻ってこれたのは嬉しいわ」
門の前から見えている大きな館の前で久々の実家に懐かしさを感じていた。
だが何やら門番の様子がおかしい。
クラリスが帰って来てるというのに門番たちは慌ただしく動いて何かを確認していた。
メリナたちは門番たちの行動を不審に思ってると、門が開かれて立派な服を着た男性が出てきた。
「お兄様、わざわざお迎えありがとうございます」
出てきた男性はクラリスの兄メフィストであり、クラリスは兄に頭を下げてわざわざ出迎えに来たことに謝辞を述べた。
「久しぶりだな… だが、お前は屋敷には入れない。父上が決めたことだ今すぐ引き返せ」
メフィストの言葉を聞いてクラリスは唖然とした。
「ば、馬鹿言わないでよ! ここは私の家でもあるのよ、ここを頼れなかったら私たちはどこを頼ればいいのよ!?」
「お前は何でここに来たんだ? すべて失ったからだろう? カペラの一件で父上はご立腹だ。我が一族からカペラの領主を出すためにお前を嫁に出したのに、領地も継承できず家を追い出されたなんて一族の恥さらしめが! とっとと消えろ二度と帰って来るな」
そう言ってメフィストは従者が持っていた銀行手形を渡した。
「それくらいあれば当分は生きていけるだろ、平民としてな」
「ふざけるんじゃないわ! あの老いぼれをここに呼びなさいよ早く!」
クラリスは怒ってメフィストに突っかかっていったが、周りにいた護衛に阻まれた。
その間に門は閉じられてメフィストは振り返ることなく館へと帰っていった。
取り残されたメリナたちは呆然としていた。
そんな中、クラリスは自身の髪飾りを取ると投げ捨てた。
「こんな屈辱初めてよ!! なんて非情な人間なの? 娘より家が大事か!?孫より権力の方が大事なのか!? う、うう…ゴホンッゴホンッ」
大きな声で怒鳴ったクラリスは息が詰まって体を埋めて咳き込んだ」
「お母様!!」
メリナはクラリスに駆け寄って体をさすった。
「あ、ありがとうメリナ。でも、もうダメねすべて失ってしまったわ。これからどうやって生きていけばいいの?」
クラリスは村出身のロゼや兵士として過ごしてきたメリナとは違い、生まれきっての貴族であるため高等教育は受けているが、平民として生活していけるか不安でいっぱいだった。
「安心して下さい奥様、私が二人をお世話します。それに少しではありますけどお金は手に入ったのだからどこかの町で市民権をとってそこから考えましょう」
メフィストから手渡された銀行手形には三人分の市民権を得るためと三か月ほど生活していける資金が書かれていた。
「そうですよお母様どこか地方の田舎の町に移住してそこから一から始めましょう」
「ええ分かったわ。それじゃあ行きましょう」
そうして三人は馬車に乗ってコンドール邸を後にして、王都から右の方角にあるベテルギウス地方へと向かった。
数週間後、メリナたちはベテルギウス地方の田舎町コルトピに到着した。
三人はまず市役所に行ってお金を払って市民権を手に入れた後、不動産で家を借りた。
借りた家に移り住んだメリナたちは着ていた豪華なドレスを売って生活の足しにして、必要な家具などを買い入れてある程度の生活の準備を整えると、収入を得るための方法を話し始めた。
「どうします? ここでは一定の収入がないと市民権を剥奪されてしまいます。どうにかして仕事を探さないといけません。お嬢様はまだ小さいので奥様の面倒を見てあげてください、私が三人分の給料を稼ぎますから」
「それはダメよ、ゴホンッ、アナタ一人に押し付けるのは。私も仕事を探すから今から行きましょう」
クラリスは病気の体を無理やり起こして玄関に向かおうとしたが、足元がおぼついて倒れた。
「お母様(奥様)ッ!!」
二人は駆け寄ってクラリスの体を起き上がらせると、彼女はひどく咳き込んだ。
口を抑えた手は吐血で赤黒く変色していた。
「血が! お母様無理はなさらないで!!」
「お嬢様の言う通りです! 私が体に鞭を打って働きますので、どうかご安静に」
「あははは…… なんていう人生なんでしょう。貴族として生まれ育って家の格を落とさないように一生懸命父の言いつけを守って来たというのに、、 たった一か月で私の栄華は体と共に砕け散り、今ではこんな狭くて不衛生な部屋に閉じ込められてしまうなんて…」
悲しそうに語るクラリスに同情して二人は涙を流した。
「すべてを失った私にも神は大切な二人の娘を授けてくれたわ……」
「はい ……お母様、私はメリナと共に頑張りたいと思います。私たち三人が平和に暮らしていけるよう頑張りますので、お母様もどうか私たちを思って末永く生きてください」
「私も姉さんと共に働きますので、残りのお金で医者に診て貰ってください」
それを聞いてクラリスの顔から笑みがこぼれた。
「ダメよメリナ、あのお金はみんなのお金よ私一人に使うなんていけないわ。分かるのよ自分でも、この病気は治せそうにないって……」
「そんなこと言わないでください。どうか私の言うことを聞いてください」
「大丈夫よそんな顔しないで、私は病気には負けるつもりはないわ。それが運命だったとしてもね」
「……分かりました」
二人はクラリスをベッドに運ぶと家の外で誓いを立てた。
「私たち三人はこれから家族よ! 悩み事隠し事があったら家族に言って相談しましょう。いいメリナ? アナタはまだ小さいから仕事を見つけるのが大変だと思うけど、時間が空いたらお母様の世話をしてあげてね。私も手が空いたら手伝うから」
「ええ分かったわ。それじゃあ姉さん行きましょう」
そうして二人は仕事を探しに行った。
ロゼの仕事は早くに決まったが、メリナの仕事は齢が若いゆえになかなか決まらなかった。
三日経ってもメリナ尾仕事は見つからなかった。
途方に暮れた二人は小さな公園のベンチに座って新聞を読んでいた。
「あ~新聞て言うのは活字ばっかでつまらないですね~」
「新聞は読者に真実を伝えるのが仕事よ、書かれている内容が本当の事だったら活字ばっかでもいいじゃない」
「そうですかね~もっと読者に分かってもらえるように絵を描いてくれたっていいのに、、 あ! ちょっと見てくださいよコレ、あのハゲが何か言ってますよ!」
ロゼが新聞を読んでいるとカペラ地方に関する記事が目に入った。
しかし、そこに書かれている内容はメリナたちを中傷するような内容で三人にとって許容できるものではなく、それを見て怒ったロゼがメリナにもその内容を見せた。
書かれていた内容は、「一か月のカペラでの魔物たちによる相次ぐ襲撃により、市民や経済は壊滅的な状況に陥った。そんな悲劇の最中にカペラに暮らす市民たちにとって許せない出来事が起こった。新しく領主になった先代の弟であるナイン様によれば、『兄の妻と娘は危機的状況にある領民を見捨て、金銀財宝を持ち出してカペラから逃げ出した!』と仰り、市民たちの先代の妻であったクラリス様や娘のメリナ様への不満が高まっている」などとありもしない捏造の話だった。
「何よコレ……? 私たが逃げったってことになっているの? 呆れて声も出ないわ」
メリナは両足を体育座りの姿勢をすると、顔を埋めてか細い声で鳴き始めた。
そんなメリナをロゼは頭を撫でて落ち着かせようとした。
「ねえロゼ、もう私は家に戻れないのかな?」
「あんなとこなんか忘れて私たちは私達で頑張っていきましょう。ここを新しい家にしたらいいじゃないですか?」
「それもいいかもね、でも、カペラは私の故郷、帰るべき家なのよ。簡単には諦めれないわ」
「それなら、その日まで私がお仕えしますね」
「ええ頼むわ。それより私の仕事は…… は! 分かったわ私の仕事は新聞の販売よ! 路上で売ればいいのよ!」
メリナはすっと立ち上がってロゼの持っていた新聞を手で持ち上げた。
「そんな乞食みたいなことさせられません! お嬢様にみっともない真似は!」
「別にそんな事この際どうだっていいわ。それに、私みたいな子供だったら年寄りどもは憐れんで買ってくれるでしょうし、フフフ……」
メリナは不敵な笑みを浮かべた。
「はあー分かりました。それじゃあ今から直接雇ってもらうために交渉しに行きましょう。
「うん」
そうして二人は新聞屋に向かった。
交渉の結果、メリナは雇ってもらえることになった。
日に百部を売ることをノルマとして雇われたメリナは、最初の頃は数部ほどしか売れなかったが、徐々に売れるようになって三年たった頃には三百部ほど売れるほどの人気になっていた。
お金の心配もなくなり三人は幸せな生活を送ってきたが、クラリスの病状を日に日に悪化して、今では食事も喉を通らないほどまで衰弱していた。
体はミイラのように細くなり目は大きく見開いて、死期が近いことは二人にもわかっていた。
それゆえに、二人は長い間仕事を休んでクラリスの面倒を見ていた。
「お母様、温かいスープですどうか一口でも飲んで下さい」
メリナはスプーンで温かいスープを口元まで運んであげたが、唇が震えるだけでスープをすべて壊してしまった。
クラリスは「フシュ―、フシュー」と息が上がってとても辛そうである。
「あ、ああ う、、あああ」とクラリスは声にならないうなり声を上げながら震える右手を前に差し出した。
差し出された手を二人が握って「メリナです分かります!? アナタの娘ですよ!」、「お母様ロゼです! どうか早く元気になってください!!」と語りかげるが、クラリスは二人の顔を見つめるだけでそれ以上の反応はない。
そうしてついにその時はやって来た。
クラリスは二人の手を強く握ると息を引き取った。
「お母様ああああああ!!」
メリナはクラリスの腹の上で泣いた。
ロゼも涙を流しながらメリナの肩を優しく支えている。
しばらく泣いた後、クラリスの遺体を町の墓地に埋葬した。
埋葬した後、二人はクラリスの墓石の前で花を手向けて三年間の生活を振り返っていた。
「二回目なのに、悲しいものは何回でも悲しいわね……」
「そうですね。でも、この三年間は最高の三年間でした。みんなで笑い、泣いて、遊んで…… これ以上のなく幸せな生活でした」
「そう私も、、 もう一回最初からやり直したいわ」
墓地は二人だけがいて、そよ風が供えた花をなびかせていた。
少しの沈黙が続いたあとメリナが立ち上がって、決意を二人の前で言った。
「私は必ずカペラの領主としてあの家に帰る!! 不幸な母上を追い込んだあの家を私は取り戻す! それが私の願い、私の進む道なんだ!!」
それを聞いたロゼは目を見開いてメリナを見つめていた。
「普通の方法では私は領主になれない…… だから、私は領主となって勲章を得る! 領民を魔物たちから守る強い領主となって私はカペラに帰る! ロゼ、アナタは先にカペラに行って情報を集めておいて、いつか必ず会いに行くから」
「……分かりました。それではここを誓いの場所としましょう!」
「ええ、また必ず会いましょう!!」
二人は抱き合って別れを告げるとそれぞれの道を歩いて行った。
「ああ懐かしい… 不本意ではあったけど実家に戻ってこれたのは嬉しいわ」
門の前から見えている大きな館の前で久々の実家に懐かしさを感じていた。
だが何やら門番の様子がおかしい。
クラリスが帰って来てるというのに門番たちは慌ただしく動いて何かを確認していた。
メリナたちは門番たちの行動を不審に思ってると、門が開かれて立派な服を着た男性が出てきた。
「お兄様、わざわざお迎えありがとうございます」
出てきた男性はクラリスの兄メフィストであり、クラリスは兄に頭を下げてわざわざ出迎えに来たことに謝辞を述べた。
「久しぶりだな… だが、お前は屋敷には入れない。父上が決めたことだ今すぐ引き返せ」
メフィストの言葉を聞いてクラリスは唖然とした。
「ば、馬鹿言わないでよ! ここは私の家でもあるのよ、ここを頼れなかったら私たちはどこを頼ればいいのよ!?」
「お前は何でここに来たんだ? すべて失ったからだろう? カペラの一件で父上はご立腹だ。我が一族からカペラの領主を出すためにお前を嫁に出したのに、領地も継承できず家を追い出されたなんて一族の恥さらしめが! とっとと消えろ二度と帰って来るな」
そう言ってメフィストは従者が持っていた銀行手形を渡した。
「それくらいあれば当分は生きていけるだろ、平民としてな」
「ふざけるんじゃないわ! あの老いぼれをここに呼びなさいよ早く!」
クラリスは怒ってメフィストに突っかかっていったが、周りにいた護衛に阻まれた。
その間に門は閉じられてメフィストは振り返ることなく館へと帰っていった。
取り残されたメリナたちは呆然としていた。
そんな中、クラリスは自身の髪飾りを取ると投げ捨てた。
「こんな屈辱初めてよ!! なんて非情な人間なの? 娘より家が大事か!?孫より権力の方が大事なのか!? う、うう…ゴホンッゴホンッ」
大きな声で怒鳴ったクラリスは息が詰まって体を埋めて咳き込んだ」
「お母様!!」
メリナはクラリスに駆け寄って体をさすった。
「あ、ありがとうメリナ。でも、もうダメねすべて失ってしまったわ。これからどうやって生きていけばいいの?」
クラリスは村出身のロゼや兵士として過ごしてきたメリナとは違い、生まれきっての貴族であるため高等教育は受けているが、平民として生活していけるか不安でいっぱいだった。
「安心して下さい奥様、私が二人をお世話します。それに少しではありますけどお金は手に入ったのだからどこかの町で市民権をとってそこから考えましょう」
メフィストから手渡された銀行手形には三人分の市民権を得るためと三か月ほど生活していける資金が書かれていた。
「そうですよお母様どこか地方の田舎の町に移住してそこから一から始めましょう」
「ええ分かったわ。それじゃあ行きましょう」
そうして三人は馬車に乗ってコンドール邸を後にして、王都から右の方角にあるベテルギウス地方へと向かった。
数週間後、メリナたちはベテルギウス地方の田舎町コルトピに到着した。
三人はまず市役所に行ってお金を払って市民権を手に入れた後、不動産で家を借りた。
借りた家に移り住んだメリナたちは着ていた豪華なドレスを売って生活の足しにして、必要な家具などを買い入れてある程度の生活の準備を整えると、収入を得るための方法を話し始めた。
「どうします? ここでは一定の収入がないと市民権を剥奪されてしまいます。どうにかして仕事を探さないといけません。お嬢様はまだ小さいので奥様の面倒を見てあげてください、私が三人分の給料を稼ぎますから」
「それはダメよ、ゴホンッ、アナタ一人に押し付けるのは。私も仕事を探すから今から行きましょう」
クラリスは病気の体を無理やり起こして玄関に向かおうとしたが、足元がおぼついて倒れた。
「お母様(奥様)ッ!!」
二人は駆け寄ってクラリスの体を起き上がらせると、彼女はひどく咳き込んだ。
口を抑えた手は吐血で赤黒く変色していた。
「血が! お母様無理はなさらないで!!」
「お嬢様の言う通りです! 私が体に鞭を打って働きますので、どうかご安静に」
「あははは…… なんていう人生なんでしょう。貴族として生まれ育って家の格を落とさないように一生懸命父の言いつけを守って来たというのに、、 たった一か月で私の栄華は体と共に砕け散り、今ではこんな狭くて不衛生な部屋に閉じ込められてしまうなんて…」
悲しそうに語るクラリスに同情して二人は涙を流した。
「すべてを失った私にも神は大切な二人の娘を授けてくれたわ……」
「はい ……お母様、私はメリナと共に頑張りたいと思います。私たち三人が平和に暮らしていけるよう頑張りますので、お母様もどうか私たちを思って末永く生きてください」
「私も姉さんと共に働きますので、残りのお金で医者に診て貰ってください」
それを聞いてクラリスの顔から笑みがこぼれた。
「ダメよメリナ、あのお金はみんなのお金よ私一人に使うなんていけないわ。分かるのよ自分でも、この病気は治せそうにないって……」
「そんなこと言わないでください。どうか私の言うことを聞いてください」
「大丈夫よそんな顔しないで、私は病気には負けるつもりはないわ。それが運命だったとしてもね」
「……分かりました」
二人はクラリスをベッドに運ぶと家の外で誓いを立てた。
「私たち三人はこれから家族よ! 悩み事隠し事があったら家族に言って相談しましょう。いいメリナ? アナタはまだ小さいから仕事を見つけるのが大変だと思うけど、時間が空いたらお母様の世話をしてあげてね。私も手が空いたら手伝うから」
「ええ分かったわ。それじゃあ姉さん行きましょう」
そうして二人は仕事を探しに行った。
ロゼの仕事は早くに決まったが、メリナの仕事は齢が若いゆえになかなか決まらなかった。
三日経ってもメリナ尾仕事は見つからなかった。
途方に暮れた二人は小さな公園のベンチに座って新聞を読んでいた。
「あ~新聞て言うのは活字ばっかでつまらないですね~」
「新聞は読者に真実を伝えるのが仕事よ、書かれている内容が本当の事だったら活字ばっかでもいいじゃない」
「そうですかね~もっと読者に分かってもらえるように絵を描いてくれたっていいのに、、 あ! ちょっと見てくださいよコレ、あのハゲが何か言ってますよ!」
ロゼが新聞を読んでいるとカペラ地方に関する記事が目に入った。
しかし、そこに書かれている内容はメリナたちを中傷するような内容で三人にとって許容できるものではなく、それを見て怒ったロゼがメリナにもその内容を見せた。
書かれていた内容は、「一か月のカペラでの魔物たちによる相次ぐ襲撃により、市民や経済は壊滅的な状況に陥った。そんな悲劇の最中にカペラに暮らす市民たちにとって許せない出来事が起こった。新しく領主になった先代の弟であるナイン様によれば、『兄の妻と娘は危機的状況にある領民を見捨て、金銀財宝を持ち出してカペラから逃げ出した!』と仰り、市民たちの先代の妻であったクラリス様や娘のメリナ様への不満が高まっている」などとありもしない捏造の話だった。
「何よコレ……? 私たが逃げったってことになっているの? 呆れて声も出ないわ」
メリナは両足を体育座りの姿勢をすると、顔を埋めてか細い声で鳴き始めた。
そんなメリナをロゼは頭を撫でて落ち着かせようとした。
「ねえロゼ、もう私は家に戻れないのかな?」
「あんなとこなんか忘れて私たちは私達で頑張っていきましょう。ここを新しい家にしたらいいじゃないですか?」
「それもいいかもね、でも、カペラは私の故郷、帰るべき家なのよ。簡単には諦めれないわ」
「それなら、その日まで私がお仕えしますね」
「ええ頼むわ。それより私の仕事は…… は! 分かったわ私の仕事は新聞の販売よ! 路上で売ればいいのよ!」
メリナはすっと立ち上がってロゼの持っていた新聞を手で持ち上げた。
「そんな乞食みたいなことさせられません! お嬢様にみっともない真似は!」
「別にそんな事この際どうだっていいわ。それに、私みたいな子供だったら年寄りどもは憐れんで買ってくれるでしょうし、フフフ……」
メリナは不敵な笑みを浮かべた。
「はあー分かりました。それじゃあ今から直接雇ってもらうために交渉しに行きましょう。
「うん」
そうして二人は新聞屋に向かった。
交渉の結果、メリナは雇ってもらえることになった。
日に百部を売ることをノルマとして雇われたメリナは、最初の頃は数部ほどしか売れなかったが、徐々に売れるようになって三年たった頃には三百部ほど売れるほどの人気になっていた。
お金の心配もなくなり三人は幸せな生活を送ってきたが、クラリスの病状を日に日に悪化して、今では食事も喉を通らないほどまで衰弱していた。
体はミイラのように細くなり目は大きく見開いて、死期が近いことは二人にもわかっていた。
それゆえに、二人は長い間仕事を休んでクラリスの面倒を見ていた。
「お母様、温かいスープですどうか一口でも飲んで下さい」
メリナはスプーンで温かいスープを口元まで運んであげたが、唇が震えるだけでスープをすべて壊してしまった。
クラリスは「フシュ―、フシュー」と息が上がってとても辛そうである。
「あ、ああ う、、あああ」とクラリスは声にならないうなり声を上げながら震える右手を前に差し出した。
差し出された手を二人が握って「メリナです分かります!? アナタの娘ですよ!」、「お母様ロゼです! どうか早く元気になってください!!」と語りかげるが、クラリスは二人の顔を見つめるだけでそれ以上の反応はない。
そうしてついにその時はやって来た。
クラリスは二人の手を強く握ると息を引き取った。
「お母様ああああああ!!」
メリナはクラリスの腹の上で泣いた。
ロゼも涙を流しながらメリナの肩を優しく支えている。
しばらく泣いた後、クラリスの遺体を町の墓地に埋葬した。
埋葬した後、二人はクラリスの墓石の前で花を手向けて三年間の生活を振り返っていた。
「二回目なのに、悲しいものは何回でも悲しいわね……」
「そうですね。でも、この三年間は最高の三年間でした。みんなで笑い、泣いて、遊んで…… これ以上のなく幸せな生活でした」
「そう私も、、 もう一回最初からやり直したいわ」
墓地は二人だけがいて、そよ風が供えた花をなびかせていた。
少しの沈黙が続いたあとメリナが立ち上がって、決意を二人の前で言った。
「私は必ずカペラの領主としてあの家に帰る!! 不幸な母上を追い込んだあの家を私は取り戻す! それが私の願い、私の進む道なんだ!!」
それを聞いたロゼは目を見開いてメリナを見つめていた。
「普通の方法では私は領主になれない…… だから、私は領主となって勲章を得る! 領民を魔物たちから守る強い領主となって私はカペラに帰る! ロゼ、アナタは先にカペラに行って情報を集めておいて、いつか必ず会いに行くから」
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