カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第七十一話 戦いの幕引きと大団円

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 タルタロスへの幽閉が決まると、大きな音がして審議場の地面が赤黒い靄のようなものになった。
 そして、その靄から無数の手が伸びてロードにまとわりつくと、ロードを引きずり込もうとすごい力で引っ張っている。
 「うわああああ!! 助けてぇええー!!」
 泣き叫ぼうが誰の助けも来ないロードは、徐々に体が靄の中へ消えていく。
 下半身がすべて靄の中に引きずり込まれてもうダメかと思ったその矢先――
 石柱の鎖がすべて断ち切られ石柱が崩壊して地面に崩れこんだと思うと、ロードを大きな男性の腕が空間を開いて現れてロードを救出した。
 それを見た四人は逃しまいと、ロードがいる場所に全員で混沌の波動カオスブレイクを放った。
 覚醒していないとはいえ、四人同時、しかも上位遺子が三人もおり、彼女たちが放った混沌の波動カオスブレイクは大審議場の半分を吹き飛ばし、勢いがとどまることなく進んで遠くに大きな光と共に轟音と衝撃が魔界を風靡した。
 逃したと一早く気づいたラフィーネはすぐにそこに近づいて、絶たれた鎖を手で拾い上げた。
 「お姉さま、どうかしましたか?」
 ウェスタシアたちが後に続いてラフィーネに近寄った。
 「みんな見て」
 「これは…」とラフィーネが手に持った鎖をみんなが見た。
 「これは本来、バサラを拘束するために私が作った鎖で、簡単には破れないようになっているんだけど……」
 「そうですね、バサラが断ち切れないとすると、一体誰が……?」
 クラウディウスがそう言うと、ラフィーネは続けざまにディーンに命令をした。
 「ディーン、今すぐロードをここに連れ戻してきなさい!!」
 「分かりました!」
 神のみぞ知るゴッドノウズ
 ラフィーネの命を受けて、ディーンは覚醒した後、現世へと戻っていった。
 その場で切れた鎖を考察しているラフィーネとウェスタシアを尻目に、クラウディウスは自身の家に帰りながらあることを思いついた。
 
 現世では、元の世界へと戻ったロードはリードにクラウディウスに蹴られたところを治してもらっていた。
 ディーンに引きずりこまれた世界からリードが救い出したことで、みんなの心がもとに戻った。
 「やっぱり自分の体が一番いいわ~ 最高よ!」
 メノウは元の体に戻った嬉しさで自身の体を腕で触りながら、戻ったことを実感していた。
 他のみんなも元の体に戻って、力を十分に発揮できるようになった。
 そんな中、一人で魔界に誘拐されてひどい目に遭ったロードは目を擦りながら泣いていた。
 「うぇえええん! 怖かったよ~!!」
 「よしよし、怖かったでしゅね~」とスクロースがロードの顔を自分の顔付近に寄せて優しく撫でると、ロードも甘えるように顔をスクロースの体に埋めた。
 スクロースのことをよく知っている隊長たちは、スクロースが言った「でしゅね~」の言葉と普段のギャップから男性陣は吹き出しそうになり、メノウはそんなスクロースを後ろから抱きしめていた。
 「なあ、ロードを連れ戻したはいいが、追ってきたらどうするんだ?」
 「あ…」と完全に大団円モードに入っていた全員は、ロードを無理やり奪還したことの報復のことをすっかり忘れていた。
 それに気づいたアレスの言葉によって、治療に専念している二人以外は次の襲来に備えて、ふたりずつ三つのチームに分けて辺りの警戒を始めた。
 ザクレイとナルザスは、家の屋根に上って荒野になった町を眺めていた。
 「なあザック、アレスのあの強さは何だ? 混血ではないのに、今では俺たちの魔力量を遥かに上回っているぞ」
 「それは、アイツが持っている神器によるものだ」
 「へえー、じゃあ俺たちも神器を持てばあれ以上に強くなれるのかー」
 「いいや、そうとはいかない。俺も最初はそう思ってメリナが持っている神器を持ってみたんだが、持ってみた瞬間に全身に強烈な刺激が走って、とても使えそうになかったよ。後でわかったことだが、混血は神器を使えないらしい」
 「マジか~、だったら俺たちはもう強くなれないってことか…… 正直、普通の人間が俺たち混血を魔法で勝ると思ってなかったよ、、」
 ナルザスは自身の成長限界とアレスの急激な成長とを比べて、自分にはこれ以上成長が見込めないだろうと思って肩を落とした。
 「今度生きていたらフォースに聞いてみよう。たとえ遺子であっても、俺たちの王より強い生物を見たことがねえからな」
 「そうか、その手があったな。今度の会議までは絶対に生き残らないとな!」
 「ああ、、、 ……ッ!?」
 二人が話していると、空に特異点が現れた。
 「来たか…!」
 身構える二人の視線の先から、覚醒状態のディーンが姿を現した。
 ディーンはザクレイたちに気が付くと一瞬で距離を詰めてきて、持っている剣で二人を攻撃した。 
 二人はそれぞれの超位魔法を使ってこれをしのぐと、ディーンの神眼に向かって拳を叩きこんだ。
 「やったか?」とナルザスはディーンの方を見るが、彼はケロッとしている様子で二人の体を余分に生やした腕で捕まえた。
 「どうやって俺の神眼の影響から逃れたのかは知らないが、まあいい、もう一度お前たちを俺の眼で操ってやる」 
 ディーンは神眼で二人に向けて完全支配エクリプスアイを実行した。しかし――
 「なッ!? どういうことだ? 俺の神眼が通じない……だと?」
 ディーンは起きている状況に困惑した。
 確かに今起こっている状況は、先ほどまでのロードとアレスには神眼が通じないこととは違い、この二人には効くはずだった。
 しかし、今のように二人が神眼の影響を受けていないということは、ロードによって大きく魔力を奪い取られたことによる力の低下によるものだろう。
 そのことに何故か気づいてないディーンだが、神眼の力が効かないことで弱っていることを察した二人は、すぐに腕から脱出を図ると、未だに困惑しているディーンに全力の攻撃を食らわせた。
 戦いの轟音に気づいた他のみんなも続々とディーンたちの元へと集まってきた。
 「デュアルショック!」
 「なんの…… ぐぐぐぐ、ぐあああ!」
 スクロースはディーンの再生を止めるために魔法を放って遠くの方まで吹き飛ばした。
 細い体から放たれるスクロースの魔法は衝撃波の壁となって、迎え撃つディーンの体を正面から押しつぶした。
 凄まじい勢いで吹き飛ばされたディーンは、自身の力や再生速度が著しく低下していることにようやく気がついて魔界へと逃げようとしたが、そうはいかなかった。
 「金剛城壁フォーシー・カット!」
 ディーンが逃げようとする中、メノウは魔法で生成した本物のようなダイヤモンドを神眼の前に持っていくと、結晶構造を変えて屈折率を変え、極限まで反射率を高めたダイヤモンドは太陽の光を吸収して中で何億回も反射させて一点に放出した。
 「め、めがあああああ!!」 
 神眼に一点に注がれた太陽光はディーンの視界を一時的に奪うだけではなく、仲間たちがディーンに近づく大きな隙を与えた。
 「オメガブラストオオ!!!」
 その隙をついてアレスがディーンの体を凍らせると、そこに魔法陣を両手に展開したロードが現れた。
 「行けええええロードオオオォ!!!」
 みんながロードの攻撃が当たるようにディーンの再生を遅らせて援護したことで、ロードはディーンの魔核を直接掴むと魔力を吸い込み始めた。
 「グオオオオオ!!」
 ディーンは必死に抵抗するが、それよりも早くロードの魔力が吸い取ってだんだん体の形が保てなくなっていった。
 そうして、すべての魔力を吸いとると、そこには覚醒状態が切れたディーンが横たわっていた。
 「ば、馬鹿な! 俺が人間如きに負けるなんて…… これが母上の意思なのか……?」
 そう最後の言葉を残すと、ディーンの体は砂となって消え去った。
 それを見たロード達は互いに歓声をあげ、勝利を喜んだ。
 しかし、そんな中でロード一人は助けられなかった市民たちを惜しんで落ち込んでいると、そこにスクロースが現れ、ロードを優しく抱擁した。
 「そんな悲しい顔しないで、私も悲しくなっちゃうわ…」
 ロードはスクロースの胸の中で思っていることを全てぶちまけた。
 「で、でも、僕は兵士なのにみんなを守れなかった! 僕がもっとしっかりしていれば、みんな死ななくてよかったのに!! それに、僕は、僕は、、!」
 「よしよし、辛いことはママに全部吐き出しなさい、ちゃんと私がママが聞いてあげるから」
 スクロースは優しい言葉をロードに投げかけると、ロードは安心して溜まっていた涙を全て彼女の胸の中で出し切る勢いで泣き始めた。
 「あらあら、こんなに泣いてたら川になってしまうわ」
 「ああ、今からお前たちの血の川ができるな」
 泣いているロード以外の全員があまりにも邪悪な雰囲気と魔力を感じて声がした方を恐る恐る見た。
 そこには、セミの仮面を被ったクラウディウスがスクロースの真後ろに立っていた。
 「デュア……」
 スクロースは急いで攻撃しようとしたが、その前にクラウディウスの腕が彼女の胸を貫いた。
 「ガ……」
 「ま、ママ……?」
 ロードは崩れ落ちるスクロースの体を揺すって声をかけるが、彼女の瞳から徐々に光がなくなっていくのをまじかに見ていた。
 「ママああ!!」
 スクロースの体を抱きしめて泣き叫ぶロードをザクレイが抱え込むと、全員が一目散にクラウディウスから逃げた。
 クラウディウスの得体の知れない恐ろしさの前に、みんなの意見は合致していた。
 コイツとは戦ったらダメだ、戦いにすらならないだろうと――
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