カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第七十二話 平和への誓い

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  ザクレイに抱え込まれたロードは逃げる彼に、「どうして逃げるの!? アイツがママを殺したんだ!!」と言って呼び止めて、クラウディウスと戦うことを提案した。
 「馬鹿野郎! アイツの強さはマジでヤバィ!! 今の俺たちじゃ天地がひっくり返っても勝てん!!」
 ロードの提案を一蹴したザクレイは、さらに遠くへ逃げるためにギアを加速させた。
 
 ロード達が逃げ去った場所で、クラウディウスはただそれを眺めていた。
 「我らの兄弟よ、今お前を迎えに行くぞ」
 「万物創生ばんぶつそうせい
 クラウディウスが両手を合わせると、魔法陣が地面に現れ十人の魔人が創造された。
 十人の魔人はクラウディウスの前に跪いて、創造主たる父の指示を仰いだ。
 「行け! 我が子供たちよ! 町で生き残ってるものを全員殺せ! だが、子供と人間の女は殺すなよ」
 「はッ!」と指示を受け取った子供たちは逃げたロード達を追っていき、クラウディウスは魔界に帰り報告を待つことにした。
 
 メリナ、アレス、メノウ、ナルザスの四人はは一緒になって町から脱出しようと走っていた。
 「アレス、アナタの魔法でアイツを凍らせられないの?」
 「馬鹿言うな、あの気色悪いオーラをお前も感じただろ!? 無理だ、人間が勝てる相手じゃない」
 「お前たち、何か後ろからやって来てるぞー!!」
 ナルザスがそう叫んで、全員が後ろを振り向くと五人の魔人たちがすぐそばまでやって来ていた。
 「なんの、、オメガブラスト!」 
 アレスはオメガブラストを放って攻撃するが、一番前にいた魔人がそれを魔法で相殺させた。
 「嘘だろ……?」
 ディーンでさえ凍らせるほどの魔法を前にいる魔人たちはそれを簡単に相殺したことに全員が驚いていると、他の四人の魔神がアレスたちに攻撃を仕掛けた。
 「生命の樹せいめいのき」、「金剛城壁フォーシー・オール」、「漸氏雷撃ロゼ
 三人の魔法は魔人たちに向かって飛んでいくが、やはり彼女たちの魔法は前にいる魔人たちには効かなかった。
 そして、魔人たちは四人の体に雷魔法を使った。
 アレスたちは感電して体から黒い煙が出て地面に倒れた。
 魔人たちは四人の死亡を確認した後、他の生き残りを殺すために飛び去った。

 その頃、ロードとザクレイの場所には同じく五人の魔人と交戦していた。
 (やべえぞ、こいつら一体一体がカオスの遺子と同等の力を持っているのか?)
 交戦の末、ロードは既に気を失って倒れており、ザクレイはこの場をロードを連れて逃げ延びようと戦っていた。
 
 しかし、ザクレイは右腕がもがれて周りの魔人たちは笑いながら遊びのように瀕死のザクレイをいたぶっていた。
 (どうにかしてロードを守らねえと……)とロードの方をチラリと見た瞬間、大きな音と共にアレスたちを殺した残りの五人が現れた。
 「嘘だろ……」
 ザクレイはさらに目の前に現れた魔人たちを見て絶望し、戦意喪失して目から希望の光が消えた。
 散々いたぶった後、魔人たちは飽きたのかザクレイの顔を踏みつぶして殺した。
 そして、ロードをわきに抱えて連れ去ろうとした時、「おい、サディストのゴミ野郎、その子を放せ」と槍を持ったリードが現れた。
 「クヒヒヒッ」と引きつった笑いをする一人の魔人がリードの前に進んで殴りかかった。
 すると次の瞬間、リードがその魔人をデコピンで消し飛ばした。
 その様子を見た他の魔人たちは顔色を変え一斉にリードに襲いかかるが、リードは槍を軽く振るっただけでそのすべての魔人を一掃した。
 肉片が滴り落ちる中、ロードに近づいて体を持ち上げると、「まだ早かったなぁ、ロード。だが、いつかは倒せるようにならないとな~」と言ってから瓦礫を背にするように体を寝かせた。
 「さてと、世界万象の時計デウスエクスマキナ
 リードがそう言うと、大きな時計が描かれた魔法陣がリードの目の前に現れた。
 その時計は何重にも重なり、カチカチと音を立てながら正常に動いていた。
 「よかったちゃんと動くようだな… もうずいぶん使っていなかったから動くが心配だったが」
 「時よ! 時間を巻き戻せ!」
 リードが言葉を発すると、世界万象の時計デウスエクスマキナの針がいったん止まってから半時計周りに動きだした。
 
 数日後、ロードは毛布が積まれた簡易なベッドの上で目を覚ました。
 「うぅ… 頭が痛い、、」
 「そうだ、戦かいは、ディーンとの戦いは?」
 記憶が曖昧なのか、ロードは情報を集めるために走り出した。
 すると、肉片を台車に積んでいるアレスの姿が見えて、何をしているか聞いた。
 「死体を片付けているんだよ、もう三日目になるが多くてかなわないよ」
 「町のみんなはどうしたの?」
 「死んだよ、スクロースもな」
 「うわああん!!」とまたロードは泣き出した。
 「泣いてなんかいないで、お前も死体を埋めるのを手伝ってくれよ」
 そう言うと、アレスは手袋とマスクを手渡した。
 そこから二日間、涙をぐっとこらえて、かつて人間だった肉片をかき集めては集団墓地に埋葬していた。
 すべての埋葬が終わり、ザクレイたち隊長はことの次第をゼインフォースへ伝えるために王都リベリオンへ帰っていき、ロードは集団墓地の前で両膝をついて市民たちの死を悔やんでいた。
 「ああ…僕が、僕がもっと早く起きていればこんな事にはならなかったのに……」
 そんな泣いているロードをメリナとアレスがあやしていた。
 「ロード落ち着いて、、」
 「そうだロード……」と二人は何か明るい言葉でロードを励まそうとしたが、悲劇が大きすぎて掛けるべきふさわしい言葉が出てこなかった。
 そうして、ただロードをあやしている二人たちの後ろにリードが現れた。
 「いつまで泣いているんだ? 時は過ぎ去った、前を見ろ」
 「ちょっとリード! そんな言葉はないじゃない!!」
 「泣いたって死人が帰ってくるわけでもないぞ。それに、次の遺子が来てもそこで泣いているつもりか?」
 リードが厳しい言葉をロードに投げかけていると、ロードがリードの方に振り向いた。
 「だ、だって、悲しくて、やりきれなくて、悔しくて涙が止まらないんだよ!」
 「甘ったれるな! 今、世界は危機に瀕しているんだ! 戦え! お前が人々守るためにすることは何だ? そこで泣いていることか!? 違うだろ!?お前のやるべきことは立ち上がって戦うことだ!!」
 それでもなおロードは泣いていたが、リードに言われて立ち上がった。
 「そうだ、僕は戦わないといけないんだ。たとえ、それがどんな相手でも……」
 「僕はここで誓うよ!! カオスの遺子をすべて倒して平和な世界を創る!!」
 「私も一緒に戦うわ!」
 「俺もだ」
 メリナとアレスの二人もロードに賛同したことで、リードは剣を魔法で取り出すと地面に突き刺した。
 「ここが俺たちの誓いの場だ。この誓いは世界の平和を実現させる始まりの地だ、この剣に手をかざして誓いの証としよう」
 リードがそう言うと、三人は突き刺した剣に手をかざして誓いの言葉を立てた。
 「僕たちは平和のために戦おう! たとえそれが耐え難い悲劇に見舞われようとも、僕たちの歩みを止めることは誰にもできない!」
 ロードが宣誓すると、みんなその言葉に同意して固く手を結んで固く誓いあった。
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