カオスの遺子

浜口耕平

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第二部 自由国ダグラス

第八十九話 マゾとサドと苦労人

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  アレスたち三人は、ロード達より早いスピードで最上階へと駆け上がっていく。
 そして、最上階手前の大きな扉のたどり着いた。
 「ここね、最上階へと至る最後の部屋は」
 「でけえなぁ、どんな構造してんだ?この家は」
 三人はロード達がたどり着く前に部屋にたどり着きスタスタと階段へと向かって行く。
 呆気ない、三人の思いは同じだった。
 侵入者を迎え撃つための城にしては、身の危険が迫るほどの罠や守衛がどこにも見当たらない。
 まあ、そっちの方が何の危機感もなく前に進めるからと楽観的になっている三人の前に、地面から影と共に漆黒の鎧を全身に身けた人の形をした何者かが現れた。
 三人はその様相を気味悪がって一歩身を引くと、それに対してアレスは先頭に立ってマルスを構えた。
 「おい誰だお前は?」
 アレスが呼びかけるが鎧の人物からは何の返事ない。
 「話せねえのか? それとも、ただシャイなだけか?」
 「馬鹿! そんなわけないでしょ! こんな時にふざけないで、早く片付けて!」
 「はいはい分かりましたよ」
 アレスは大聖剣グレートソードを使いその冷気の蒸気に溢れた剣を鎧の敵に向かって振りおろそうとした時、そいつは目にもとまらぬ速さで動きだした。
 三人はその速度に反応することができず、真っ先にカルマに向かって突っ込み化け物じみた怪力で、彼の体を引き裂いた。
 続いてその敵はメリナに狙いをすませ右手で彼女の体を掴もうと襲いかかる。
 メリナはもうダメだと屈んで目を閉じた、そしてその右腕がメリナに触れようとした瞬間、アレスが間に入って腕をマルスで受け止めた。
 「ぐぐぐ、、」
 必死に抑え込むアレスだが、敵の拳の力が強すぎてメリナともども吹き飛ばされた。
 「いててて、鎧の魔人が」
 アレスは上半身を起こして自身を吹き飛ばした鎧の魔人を遠めに見た。
 一歩一歩、ゆっくりと近づいてくるそいつの次の攻撃に備えてぐったりと沈んだ下半身も上げよと足に力を入れる。
 「お願いどいて……」
 力なくか細い声が真下から聞こえてきてアレスは目をやると、そこにはアレスの下敷きになっているメリナの姿があった。
 「うおッ! ごめんメリナ、全く気付かなかった」
 急いで体を横にずらして肩をかしてメリナの体を起こさせた、だが、「ああ、ヤバい体中が痛い……」と言って気を失った。
 「メリナぁ!!」
 ぐったりとしたメリナを抱えて近づいてくる鎧の魔人を警戒しながらも彼女の状態を見た。
 (飛ばされた時、俺のクッション代わりになったのか……)
 アレスはメリナの体を地面に寝かせて、カルマの死体のほうに目をやる。
 「すまないカルマ、お前を連れだせなくて……」
 覚悟を決めたアレスは、鎧の魔人を睨み付けマルスを構える。
 「さあこい!この脳筋野郎! お前のやらしい体ごと凍らせてやるぜ!!」
 「ックックック…… お前一人で何ができる?俺の力も受け止めれねえ奴が、ネロ様に勝てると思ってるのか?」
 「何だよ喋れるのか、一人相手にしか恥ずかしくて声をかけれないのかい?」
 「そうじゃないさ、お前とサシでやるこの時を待っていたんだ!!」
 そう言うと、鎧の魔人は一瞬でアレスとの間合いを詰める。
 下手に出た鎧の魔人が拳をアレスの顎めがけて突き上げて顔を砕こうとする。
 しかし、アレスは上半身をそらして間一髪よけると、鎧の魔人の足を蹴り上げて態勢を崩そうとするが、鎧に覆われた足はびくともしないばかりか、アレス自身の方がダメージを負ってしまった。
 「かてええええ!」
 痛みで距離を取り蹴った右足を抑えた。
 肉弾戦では勝てないと悟ったアレスは、マルスの力を開放して英雄返りをした。
 英雄返りをあいたアレスの影響で、部屋は赤い冷気に覆われ彼を中心にして部屋全体が凍り始め、鎧の魔人も生身がむき出しになっている部分が凍結した。
 「いい魔力だ。その武器、神器か? 神器は父上によって人間の手に渡らないよう神殿に封じられたはずだが?」
 「どうだっていいだろうそんなこと、早く決着をつけようぜ。さもないとメリナが凍死しちまうからな」
 「そうだな、今はどうでもいいな。楽しもうこの戦いを!!」
 鎧の魔人は再びアレスへ突進する。だが、アレスに近づくにつれ冷たい魔力の冷気で体が凍り、動きが鈍くなる。
 それを狙ってアレスは鎧の魔人との距離を詰め左手を突き出してオメガブラストを放つ。
 動きがぎこちなくなった鎧の魔人の体を赤く凍らせた、しかし、鎧の魔人はそんな魔法効いていないかのように氷を突き破り、アレスの間合いに入り左足を追った。
 「ぐあああああ!」
 悲鳴を上げて崩れるアレスの体を鎧の魔人は蹴飛ばして上から右足で踏みつける。
 「優柔不断だなお前も。英雄の力を使えるからって油断したか? それともただ単にお前がアホなだけか」
 「おえッ! うるせえな、こっちも最近は強い敵と戦ってなかったからな」
 「言い訳か? 見苦しいぞ?」
 「そんなことないさ」
 そう言うと、アレスは踏みつけている右足を両手でがっしりと掴んだ。
 「直触りの俺の魔法はどんな奴でも一瞬でバラバラになる」
 「き、貴様!」
 「オメガブラスト」
 鎧の魔人は掴んでいるアレスを早く殺そうと右の体重をかけて踏みつぶそうとするが、それより早くアレスは魔法を放ち、その鉄壁の体を氷解させた。
 バラバラに崩れ落ちる鎧の魔人の死体を確認してから英雄返りの状態を解きメリナに近寄る。
 メリナの体は冷たくヒンヤリとしていたが、脈がはっきりと確認できると体を揺すって目を覚まさせようとした。
 何回か体を揺すっていると、メリナはゆっくりと目を開け、その緑に輝く目でアレスを見つめた。
 「アレス……?」
 「そうだ俺だ! 全部終わったぞ、もうあの変なのはいねえ」
 それを聞くとメリナは、「はぁ~」とため息をついて地面に寝転んだ。
 「どうしたんだメリナ? まだ寝る時間じゃないぞ」
 「動けないのよ。アレス、私を抱いて最上階まで運んでくれる?」
 「ちぇ、しょうがないな。ほら、乗れ」
 アレスはメリナに背中に乗るように屈むが、「動けないって言ってるでしょ! 私の体をちゃんと大事にしてよ!」と言って動こうとしない。
 「分かったよ、あとで文句言うなよ」
 アレスはお姫様抱っこでメリナを抱きかかえると、最上階へと足を向けた。
 「ねえアレス、どう私の抱き心地は?」
 「どっちの話だ?」
 「ウフフ、どっちでもかまないわ」
 「そうか、その話はまた今度な。今は最上階へと向かわないとな」
 「そう… なら楽しみにしてるわ」
 そうして、三人は最上階へと上がっていく、カルマの血がついた彼のブレスレットと共に。
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