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第二部 自由国ダグラス
第九十話 クラウディウスの計画
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混血のなれの果てに勝ったロード達が最上階のネロの部屋へとたどり着くと、そこには既にアレスたちがいた。
アレスはメリナをベッドに寝かせて部屋の布をちぎって腕を固定したりして看病していた。
しかし、それ以上にロード達を驚かせたのがネロのコレクションである混血の剥ぎ取られた皮だ。
剥がされてから随分時間がった皮は薄暗く変色していたが、混血の証である漆黒の痣は色褪せることなく生きていたままのように輝いていた。
エルフリーデはそれらのコレクションの前に立つと言葉を失った。
「なんてこと……」
「ダメ―ッ!」
ロードは唖然としているエルフリーデの心情を察して、彼女の体に抱きついて注意を向けようとするが、コレクションに目を奪われてそれどころではない。
「これまで守ってきてあげたのに……、人生をかけて守って来たのに……」
エルフリーデは純血に対する憎悪が体全身を駆け抜けていった。
そして、ついにエルフリーデは体に引っ付いているロードを睨み付けると、顔を力いっぱい手ではたいた。
エルフリーデの行動にメリナとアレスは目を見開いて驚き、ロードは何で殴られたのか分からず、大きく赤く腫れた頬を手で押さえながら徐々に増してくる痛みに涙が出た。
そんなロードの体の服を掴んで覆いかぶさろうとするエルフリーデは、「最悪だ! 私は魔物を子を自分の子と認めていたのか!そんな自分が今では恥ずかしい!!」と言って痛めつけ始めた。
「やめろー!!」
アレスはエルフリーデを止めようと後ろから羽交い締めをして彼女の動きを奪った。
「放しなさい!! もう無理よ!私とアンタたちじゃ分かり合えっこないわ!! 私の同胞を殺しておいて何で平然と私の味方だと言える!?」
エルフリーデは全員に聞こえるように言った。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!! 俺たちの目標は組織を壊すことだ!俺たちの目的は同じはずだ、何故俺たちを遠ざける?」
「そんなこと言ったて……、そんなこと、、 分からない、何にも分からないわ!」
アレスはエルフリーデの力が抜けるにつれ、彼女の体が重くなってい地面に座らせた。
顔を両手で覆い涙を流しているのか、彼女の手は滲み出す涙が腕を伝って地面に落ちている。
自分でも分かっているはずなのに、自分でもロード達に罪はないと分かっているはずなのに……と感情がぐしゃぐしゃになって自分でも何が正しいのかもう分からなくなっていた。
そんなエルフリーデに、ベッドから傷ついたメリナが這い出してきては彼女の前に膝をついて頭を両手で抱きしめた。
「アナタの痛みは計り知れないでしょう、今私たちがアナタにどんなに責められようとも、私たちは混血であるアナタを憎しみ以上のぬくもりで迎え入れましょう。今アナタが悲劇的な運命に直面し誰かの助けを必要としているなら、私たちもアナタの助けを必要とするでしょう。今この場にいない全ての人間が何らかの苦痛に打ちひしがれていたら、苦痛を共にして前へ進める人間になりましょう」
メリナがそう言うと、エルフリーデはただ謝っていた。
そうして、後ろからアレスからネロは人間ではないと言われたエルフリーデは、アレスの方へと振り返った。
涙痕がくっきりと残っている彼女は、「どういうこと?」とアレスに尋ねた。
「ここに来る前の大きな部屋があったろ? あそこで俺たちは鎧の魔人と交戦したんだ。そこで、そいつからネロの正体はクラウディウスの娘だってことが分かってな」
「クラウディウスって確かカオスの第四遺子、どうしてそんな奴の子が人間界に?」
「カオスの第六遺子バサラを探していることが主な目的のようだが、このネロの目的は分からない。バサラを見つけるのが目的なら、こんなことしてる暇なんてないだろうに……」
アレスはこれまでのクラウディウスの子とネロの目的の相違点に疑問を感じていた。
今まであってきた子供たちは父クラウディウスの命令により行動していることが分かったが、神殿にいたパイロンたちはさておき、地上にいる子供たちはバサラ探しに躍起になっていた。
(それならネロが今までここで何をしていたんだ? 人と同じように生活していたのか?何のために?)
アレスが疑問に思っていると、今まで丸まっていたロードがエルフリーデの頭にしがみついた。
「ママ……」
「ごめんなさいロード、痛かったでしょう? 顔を見せてちょうだい」
言われた通りにロードは顔をエルフリーデの前に持ってきて、その赤く腫れた右頬を彼女に見せた。
「こんなに赤くなって……、大丈夫だった?」
「大丈夫だよ!僕もう子供じゃないもん!こんなことでは泣かないよ!」
強がっているが、目に涙が溢れて今にも泣きだしそうになっていた。
そんなロードの頬にキスをすると、「はい、これで痛くなくなったよ。ママが魔法で治してあげたから」と言って彼の顔を頬でスリスリした。
されるがままになっているロードは、「そう言えば、兄さんたちとカルマは?」とアレスたちに尋ねた。
「カルマは死んだ。リード達はまだ来てないんじゃないか?」
「そうカルマは死んだんだ……」
少ししかたっていないロードだったが、悲しみはアレスたちと同様に大きかった。
「でも、リード達があんなパズルを解けないはずがないと思うんだけど…… アレスでも解けたんだから」
「そうだよ、学のない俺でも解けたんだからリード達がここにいないはずがない」
「でも、いないじゃなん」
部屋の中を隅々まで見渡してリードとギャバンがいないことが分かると、探しに行くかここにとどまるかの話をみんなでし始めた。
一方、リードとネロは互いに武器を取り出して向き合っていた。
「本当にやる気か? この俺と……」
「何を言っている、私が人間相手に負けるわけない」
そう言うと、ネロはリードに飛びかかり持っている斧を振るった。
頭上から振り下ろされる斧をリードは空間魔法を使い躱し、ネロの背後に現れて槍で突いた。
しかし、ネロは背後に盾を創造してリードの攻撃を防ぎ反撃してリードの腹を蹴ると、リードは後ろに飛びのいて何のダメージもないかのように服の汚れを払った。
二人は再び距離を開けて向かい合う。
「ここまで私と戦える人間がいるなんて最高だ」と嬉しさのあまり笑みをこぼした。
気持ちが悪いとリードは内心思いながらネロを見つめた。
「万物創生」
すると、ネロは不気味な笑みを浮かべながら魔法を唱えると、斧が紫色に光りだして地面からアレスたちが戦った鎧の魔人が三体這い出てきた。
「これは……」
「どうだ驚いたか!? これが父上の【創造】の力の一部、有形のものを無尽蔵に生み出す力だ。神に与えられた力を思い知るがいい!」
ネロの指示に従い、鎧の魔人はリードに襲いかかるが、リードは空間を開いて三人を闇の彼方に放り込んだ。
「なッ」
驚いているネロにリードは話しかけながら近づいて行く。
「まったくあのアホは…… 母上から与えられた力を他人に分け与えるなと神の書に記しておいたはずだが…… ところでお前はクラウディウスの目的を知っているか?」
先ほどの鎧の魔人に盾を創造した力、確かにクラウディウスの能力であることは事実であることに気づいた。ーが、弱い、クラウディウスの力とは比べられないほどの能力の差がある。
やはりそんなものかとネロをカス扱いしながらも、創造の力を他人に与えるなんてどういうつもりだとクラウディウスの考えていることをネロそっちのけで熟考していた。
「空間魔法、やはり一対一で戦ったことは正解だった。だが、所詮人間の魔法、父上の力の一部を与えられた私には通用しない」
リードの言葉を聞いて感化されたネロは斧を振り上げて、今度は自分から向かって行き斧を全力で振りおろした。
大きな音と高く舞い上がる砂ぼこり目にしながらもネロはある異変に気付いた。
「感触がない……?」
ネロは確かに自分が振り下ろした場所にリードが立っていたことは目で確認しており、今でもリードは移動していないことが雰囲気から読み取れた。
馬鹿な、そんなことはありえないと何度もリードがいるであろう場所に魔力をこめた斧で何度も振りおろし、周辺の景色を一変させるほどの攻撃を加えるが、やはり地面に当たる感触しかない。
絶え間ない攻撃の後、疲れたネロは息を巻きながら、前一面に広がる粉塵を魔法で払いのけた。
「う、、そ……」
ネロが唖然とした顔で見つめる先には、自分が振り下ろした斧がリードの体をすり抜けるようにして地面に刺さっている光景だった。
それに、リードは目に見えないほどではないが、宙に浮いていた。
何が起こったのか分からないネロは斧を捨ててリードから距離を取り、新たに作り出したナイフをリードに向かって投げつけた。
だが、ナイフはリードの体をすり抜けて奥にある岩に突き刺さった。
「残念だったな俺の実体はこの次元にはない。今の俺には誰も干渉できない」
そう言うと、リードはネロに向かってゆっくり歩き始めた。
「来るなぁあ!!」
ネロはリードに向かって魔法を放ったり武器を投げつけたりするが、すべてすり抜けてリードを止めることはできない。
絶体絶命になりながらもネロは空間を開いて元の世界に戻ろうとするが、リードの空間魔法の方が異次元なほど強力なのですぐ捕まえられ地面に叩きつけられた
「ぐあああああ」と悲鳴を上げるネロの腹に足をのせ、さらに時間魔法で動かないようにネロの体の時間を奪って質問を始めた。
「クラウディウスの目的とは何だ? 今のアイツの目的はバサラの解放のはずだが」
「聞いたとしても無駄だ。この国は間もなく崩壊する! 父上はこの国の制度に付け込んで内部から国を壊そうと二百年も前からゆっくりと準備してきた。たとえ他の遺子が父上を止めようとも、崩壊は止められない!」
「アイツも変わらんなぁー、まあ俺もこの国を救おうなどと思ったことはないが…… クラウディウスの出現は許容できないな」
リードは懐かしそうにしみじみとした感情に浸っていると、「一体お前は誰なんだ?」とネロが尋ねると、リードの両目がカオスの紋様である漆黒の太陽に変化した。
「あ、あなた様は……」
「俺はカオスの第二遺子、不滅のアリスター。空間、次元、時間を司る原初の遺子のうちの一人だ」
リードの正体が父よりも順位が高い遺子だと分かると、ネロはこの場を何とか切り抜けようとしてアリスターに命乞いをはかった。
「叔父上、これまでの数々の非礼をどうか許していただけないでしょうか? まだ父上に託された仕事が残っていますので」
しかし、アリスターは耳を貸さずに、彼の神器、神槍カオスえを突き上げた。
「お待ちください叔父上!私はアナタの姪なのですよ!? 本気で私を殺すつもりですか?」
必死に命乞いをするネロにアリスターは、「お前は母上に創られた存在じゃないだろう? 母上によって世界が創造された時、人間や魔物、大地や草木に至るまで様々な物が創られたが、お前たちクラウディウスの子や混血は後から偶発的に創られたものだ。お前たちを母上の世界の一部とは俺は認めていない、世界に不要なゴミと同じだ」と言ってそのまま神槍カオスをネロにぶつけた。
ネロの始末が終わると、すぐさま空間を開いてギャバンの所へ向かった。
「ようリード、そっちはもう終わったのか?」
ギャバンはリードと同じような空間に閉じ込められていたが、いつもの赤い目に戻ったリードが迎えに来たことを笑顔で歓迎した。
「戻ろう、ロード達の場所へ」
そう言ってリードはギャバンを連れてロード達がいる元の世界に帰っていった。
アレスはメリナをベッドに寝かせて部屋の布をちぎって腕を固定したりして看病していた。
しかし、それ以上にロード達を驚かせたのがネロのコレクションである混血の剥ぎ取られた皮だ。
剥がされてから随分時間がった皮は薄暗く変色していたが、混血の証である漆黒の痣は色褪せることなく生きていたままのように輝いていた。
エルフリーデはそれらのコレクションの前に立つと言葉を失った。
「なんてこと……」
「ダメ―ッ!」
ロードは唖然としているエルフリーデの心情を察して、彼女の体に抱きついて注意を向けようとするが、コレクションに目を奪われてそれどころではない。
「これまで守ってきてあげたのに……、人生をかけて守って来たのに……」
エルフリーデは純血に対する憎悪が体全身を駆け抜けていった。
そして、ついにエルフリーデは体に引っ付いているロードを睨み付けると、顔を力いっぱい手ではたいた。
エルフリーデの行動にメリナとアレスは目を見開いて驚き、ロードは何で殴られたのか分からず、大きく赤く腫れた頬を手で押さえながら徐々に増してくる痛みに涙が出た。
そんなロードの体の服を掴んで覆いかぶさろうとするエルフリーデは、「最悪だ! 私は魔物を子を自分の子と認めていたのか!そんな自分が今では恥ずかしい!!」と言って痛めつけ始めた。
「やめろー!!」
アレスはエルフリーデを止めようと後ろから羽交い締めをして彼女の動きを奪った。
「放しなさい!! もう無理よ!私とアンタたちじゃ分かり合えっこないわ!! 私の同胞を殺しておいて何で平然と私の味方だと言える!?」
エルフリーデは全員に聞こえるように言った。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!! 俺たちの目標は組織を壊すことだ!俺たちの目的は同じはずだ、何故俺たちを遠ざける?」
「そんなこと言ったて……、そんなこと、、 分からない、何にも分からないわ!」
アレスはエルフリーデの力が抜けるにつれ、彼女の体が重くなってい地面に座らせた。
顔を両手で覆い涙を流しているのか、彼女の手は滲み出す涙が腕を伝って地面に落ちている。
自分でも分かっているはずなのに、自分でもロード達に罪はないと分かっているはずなのに……と感情がぐしゃぐしゃになって自分でも何が正しいのかもう分からなくなっていた。
そんなエルフリーデに、ベッドから傷ついたメリナが這い出してきては彼女の前に膝をついて頭を両手で抱きしめた。
「アナタの痛みは計り知れないでしょう、今私たちがアナタにどんなに責められようとも、私たちは混血であるアナタを憎しみ以上のぬくもりで迎え入れましょう。今アナタが悲劇的な運命に直面し誰かの助けを必要としているなら、私たちもアナタの助けを必要とするでしょう。今この場にいない全ての人間が何らかの苦痛に打ちひしがれていたら、苦痛を共にして前へ進める人間になりましょう」
メリナがそう言うと、エルフリーデはただ謝っていた。
そうして、後ろからアレスからネロは人間ではないと言われたエルフリーデは、アレスの方へと振り返った。
涙痕がくっきりと残っている彼女は、「どういうこと?」とアレスに尋ねた。
「ここに来る前の大きな部屋があったろ? あそこで俺たちは鎧の魔人と交戦したんだ。そこで、そいつからネロの正体はクラウディウスの娘だってことが分かってな」
「クラウディウスって確かカオスの第四遺子、どうしてそんな奴の子が人間界に?」
「カオスの第六遺子バサラを探していることが主な目的のようだが、このネロの目的は分からない。バサラを見つけるのが目的なら、こんなことしてる暇なんてないだろうに……」
アレスはこれまでのクラウディウスの子とネロの目的の相違点に疑問を感じていた。
今まであってきた子供たちは父クラウディウスの命令により行動していることが分かったが、神殿にいたパイロンたちはさておき、地上にいる子供たちはバサラ探しに躍起になっていた。
(それならネロが今までここで何をしていたんだ? 人と同じように生活していたのか?何のために?)
アレスが疑問に思っていると、今まで丸まっていたロードがエルフリーデの頭にしがみついた。
「ママ……」
「ごめんなさいロード、痛かったでしょう? 顔を見せてちょうだい」
言われた通りにロードは顔をエルフリーデの前に持ってきて、その赤く腫れた右頬を彼女に見せた。
「こんなに赤くなって……、大丈夫だった?」
「大丈夫だよ!僕もう子供じゃないもん!こんなことでは泣かないよ!」
強がっているが、目に涙が溢れて今にも泣きだしそうになっていた。
そんなロードの頬にキスをすると、「はい、これで痛くなくなったよ。ママが魔法で治してあげたから」と言って彼の顔を頬でスリスリした。
されるがままになっているロードは、「そう言えば、兄さんたちとカルマは?」とアレスたちに尋ねた。
「カルマは死んだ。リード達はまだ来てないんじゃないか?」
「そうカルマは死んだんだ……」
少ししかたっていないロードだったが、悲しみはアレスたちと同様に大きかった。
「でも、リード達があんなパズルを解けないはずがないと思うんだけど…… アレスでも解けたんだから」
「そうだよ、学のない俺でも解けたんだからリード達がここにいないはずがない」
「でも、いないじゃなん」
部屋の中を隅々まで見渡してリードとギャバンがいないことが分かると、探しに行くかここにとどまるかの話をみんなでし始めた。
一方、リードとネロは互いに武器を取り出して向き合っていた。
「本当にやる気か? この俺と……」
「何を言っている、私が人間相手に負けるわけない」
そう言うと、ネロはリードに飛びかかり持っている斧を振るった。
頭上から振り下ろされる斧をリードは空間魔法を使い躱し、ネロの背後に現れて槍で突いた。
しかし、ネロは背後に盾を創造してリードの攻撃を防ぎ反撃してリードの腹を蹴ると、リードは後ろに飛びのいて何のダメージもないかのように服の汚れを払った。
二人は再び距離を開けて向かい合う。
「ここまで私と戦える人間がいるなんて最高だ」と嬉しさのあまり笑みをこぼした。
気持ちが悪いとリードは内心思いながらネロを見つめた。
「万物創生」
すると、ネロは不気味な笑みを浮かべながら魔法を唱えると、斧が紫色に光りだして地面からアレスたちが戦った鎧の魔人が三体這い出てきた。
「これは……」
「どうだ驚いたか!? これが父上の【創造】の力の一部、有形のものを無尽蔵に生み出す力だ。神に与えられた力を思い知るがいい!」
ネロの指示に従い、鎧の魔人はリードに襲いかかるが、リードは空間を開いて三人を闇の彼方に放り込んだ。
「なッ」
驚いているネロにリードは話しかけながら近づいて行く。
「まったくあのアホは…… 母上から与えられた力を他人に分け与えるなと神の書に記しておいたはずだが…… ところでお前はクラウディウスの目的を知っているか?」
先ほどの鎧の魔人に盾を創造した力、確かにクラウディウスの能力であることは事実であることに気づいた。ーが、弱い、クラウディウスの力とは比べられないほどの能力の差がある。
やはりそんなものかとネロをカス扱いしながらも、創造の力を他人に与えるなんてどういうつもりだとクラウディウスの考えていることをネロそっちのけで熟考していた。
「空間魔法、やはり一対一で戦ったことは正解だった。だが、所詮人間の魔法、父上の力の一部を与えられた私には通用しない」
リードの言葉を聞いて感化されたネロは斧を振り上げて、今度は自分から向かって行き斧を全力で振りおろした。
大きな音と高く舞い上がる砂ぼこり目にしながらもネロはある異変に気付いた。
「感触がない……?」
ネロは確かに自分が振り下ろした場所にリードが立っていたことは目で確認しており、今でもリードは移動していないことが雰囲気から読み取れた。
馬鹿な、そんなことはありえないと何度もリードがいるであろう場所に魔力をこめた斧で何度も振りおろし、周辺の景色を一変させるほどの攻撃を加えるが、やはり地面に当たる感触しかない。
絶え間ない攻撃の後、疲れたネロは息を巻きながら、前一面に広がる粉塵を魔法で払いのけた。
「う、、そ……」
ネロが唖然とした顔で見つめる先には、自分が振り下ろした斧がリードの体をすり抜けるようにして地面に刺さっている光景だった。
それに、リードは目に見えないほどではないが、宙に浮いていた。
何が起こったのか分からないネロは斧を捨ててリードから距離を取り、新たに作り出したナイフをリードに向かって投げつけた。
だが、ナイフはリードの体をすり抜けて奥にある岩に突き刺さった。
「残念だったな俺の実体はこの次元にはない。今の俺には誰も干渉できない」
そう言うと、リードはネロに向かってゆっくり歩き始めた。
「来るなぁあ!!」
ネロはリードに向かって魔法を放ったり武器を投げつけたりするが、すべてすり抜けてリードを止めることはできない。
絶体絶命になりながらもネロは空間を開いて元の世界に戻ろうとするが、リードの空間魔法の方が異次元なほど強力なのですぐ捕まえられ地面に叩きつけられた
「ぐあああああ」と悲鳴を上げるネロの腹に足をのせ、さらに時間魔法で動かないようにネロの体の時間を奪って質問を始めた。
「クラウディウスの目的とは何だ? 今のアイツの目的はバサラの解放のはずだが」
「聞いたとしても無駄だ。この国は間もなく崩壊する! 父上はこの国の制度に付け込んで内部から国を壊そうと二百年も前からゆっくりと準備してきた。たとえ他の遺子が父上を止めようとも、崩壊は止められない!」
「アイツも変わらんなぁー、まあ俺もこの国を救おうなどと思ったことはないが…… クラウディウスの出現は許容できないな」
リードは懐かしそうにしみじみとした感情に浸っていると、「一体お前は誰なんだ?」とネロが尋ねると、リードの両目がカオスの紋様である漆黒の太陽に変化した。
「あ、あなた様は……」
「俺はカオスの第二遺子、不滅のアリスター。空間、次元、時間を司る原初の遺子のうちの一人だ」
リードの正体が父よりも順位が高い遺子だと分かると、ネロはこの場を何とか切り抜けようとしてアリスターに命乞いをはかった。
「叔父上、これまでの数々の非礼をどうか許していただけないでしょうか? まだ父上に託された仕事が残っていますので」
しかし、アリスターは耳を貸さずに、彼の神器、神槍カオスえを突き上げた。
「お待ちください叔父上!私はアナタの姪なのですよ!? 本気で私を殺すつもりですか?」
必死に命乞いをするネロにアリスターは、「お前は母上に創られた存在じゃないだろう? 母上によって世界が創造された時、人間や魔物、大地や草木に至るまで様々な物が創られたが、お前たちクラウディウスの子や混血は後から偶発的に創られたものだ。お前たちを母上の世界の一部とは俺は認めていない、世界に不要なゴミと同じだ」と言ってそのまま神槍カオスをネロにぶつけた。
ネロの始末が終わると、すぐさま空間を開いてギャバンの所へ向かった。
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ギャバンはリードと同じような空間に閉じ込められていたが、いつもの赤い目に戻ったリードが迎えに来たことを笑顔で歓迎した。
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