9 / 24
君と手にする明日は血の色
どうやら俺は人外のようです。
しおりを挟む――オルド視点。『話は戻らないし進みます』
「え? 俺って、肌が青いだけの人間じゃねえの?」
『違うとも。君はハーフだ。人間とヌファイレ族とのね』
「ヌファイレ族……?」
男がオウム返しに聞いてくるが、長い話なので今はパス。
『肌が青いのは、ヌファイレ族の遺伝さ。僕は母方の血が色濃く出てね、色だけじゃない。肌の硬度もヌファイレ族並さ』
剣の中から、僕はこの男と話しをしていた。
この男は、僕が半ば勝手に転生させた男だ。
名は……。
あれ……? 名は?
『そういえば、君の名前は?』
「それが、覚えてないんだ」
どうやら僕を――大剣をもつこの男は、自分の名前すら忘れてしまったらしい。
話によれば、生前の記憶はほとんど無いそうだ。
ふむ。
そういうことなら、僕が名づけてやっても良いだろう。
『フレイバーって名前はどうだい?』
「どんな意味があるんだ?」
『勇者』
「パスだ」
即答。
この男は、頑なに勇者になることを拒む。
もっとも、それが常識と呼ばれる範囲内であることは、僕にも分かっている。
勇者や英雄だなんて、本来、目指すべきものじゃない。
この男は、平和な世界からやってきた。
そんな世界でぬくぬくと育った彼からすれば、人間殺しは禁忌にあたる行為なのだろう。
あるいは、一族から追放も有り得たかもしれない。
だけど、殺さなければならない相手は、常識の範囲外にいる存在だ。
腐りかけの果実の如く、クソみたいな思考は、自身の身を滅ぼすばかりか、周りさえ蝕み、腐らせる。
甘ったれた良識は捨て、ただ己の信念にのみ従い、狂ったように戦う他に勝機はない。
そして、それをするのが勇者だ。
勇者とは、勇気に溢れる者でも、強き者でもない。
野蛮で、狂人的で、自己中心的で、かつ他者を思いやれる者でなければならない。
そして、この男にはその素質がある。【精神世界】で会話をした僕なら分かる。
この男は、生ぬるい世界の一般人としては性格異端者かもしれないが、僕にとって、この世界においては必要不可欠な存在に成りうる。
勇者としての素質を伸ばすこと、それが、僕に与えられた使命なのかもしれない。
『その大木を右に曲がって、しばらく歩いてくれ。……ちなみに、いま向いている方角が南だよ』
ゼニアへの行き方を指南しながら、僕たちの未来に思いを馳せる。
まずは儀式を乗り越えなければ……。
―――
「い……ぞ」
「お……、ルド」
「おい、付いたぞオルド!」
『えっ? あっ、ごめん! 考え事をしていたんだ』
男の声に、僕はハッとして我に帰った。
「ったく。オルドは案内役だろう?
しっかりしてくれないと、俺、秒で迷子になるぞ」
最初こそ喧嘩腰で、険悪だった僕たちの仲も、まあそれなりに柔らかい関係へと変わっていた。
僕としてもピリピリするのは疲れるから、こっちの方がありがたい。
もっとも、心のなかでは、まだ僕のことを嫌っているんだろうけどさ。
『本当にね』
当面の僕の使命は、この男を守ることだ。
僕の意識があるいま、ダメなら切り捨ててもいいけど、リスクは少ない方が良い。
なにより、この男には素質がある。
みすみす手放すことはしたくない。現状は最善の形だ。
『まずは道場に行こうか。まだ中には入っていないんだろう?』
「あ――。っと、ちょっと待って」
『ちょ! 道場は右だってば! 右折! おい!』
僕が声を荒らげても、体の支配権は彼のものだ。
僕の意識とは反対に、元・僕の体は左へと向かう。
自分の体が言うことを聞かないのは、なんだか奇妙な感覚だ。
すこし気持ちが悪い。
そうして僕たちの体と対峙したのは、ゼニアでも数少ない子どもを持つ女性、プラトニアだった。
どうやら、プラトニアと彼は面識があったらしい。
儀式の前なのに……。
危害を加えられる前に、逃げられればいんだが……。
「この前は、ご馳走をありがとうございました。食べられなくて残念でしたけど、お礼だけでもと思って!」
「い、いえ……。わ、私は……私は……っ。う、うぅううう、ぁぁぁあぁぁ……」
白昼、道のど真ん中、プラトニアは崩れ落ちるようにして泣き落ちた。
「え? あ、あの……!」
ふむ。どうやら既に、一悶着あったらしい。
それも分からず、僕の体を操る彼は、タジタジと焦りながら彼女を励ますのみだ。
まったく……。頼りがいがないなあ。女性の扱いが下手だ。
「おい!」
とそこに、プラトニアの夫が現れた。
「俺の妻を泣かしてんじゃねえ! 誰だお前――ってオルドか! クソッタレが!
責めるんなら俺を責めやがれ! 悪いのは全部俺だ!
その怒りも当然だとは思うが、妻はもう限界なんだ! どうか俺を――」
「ち、違うのあなた……! 違うの!」
なんだか面白そうな展開だ。
何があったのか、何がどう違うのか、たっぷりと説明して頂こう。
シャクリ混じりに、プラトニアは息を吐き出しながら言った。
「この人はね、お礼を言いにきてくださったの。皮肉のない、本当に純粋なお礼を……」
「…………お礼だと……? エルヴィ・ナハムを盛られて? お礼だと?」
「ええ」
『……は?』
恐れ入った。
ああ、もう恐れ入った。
僕が命を捨てて転生させて、この男は1日で死ぬ寸前だったらしい。
それも、エルヴィ・ナハムときた。
その摂取量に関わらず、少量でも体内に取り込めば体内で繁殖して宿主を殺す、粉末状のモンスターだ。その数は希少だと聞くが……。世も末だな。
プラトニアは、そんな女性ではなかったはずだが。
「オルド……いや、オルドさんよ。すまなかった。俺ぁてっきり、昨日の件で妻が咎められているもんだと思っちまったんだ。アンタ、まるで聖人だよ」
『毒を盛られてたこと、気づいてた?』
僕の質問に、彼は首をふる。
「え? ど、毒? まじで? ……まったく気づいてなかった……」
小声で返事を返す彼に、僕は苦笑するしかない。
「そうだ! おい、今日の昼飯にオルドさんを招待しよう!」
「でもあなた。儀式の前よ……。ネルフィが何て言うか……」
「ううむ……。いや、儀式の前とはいえ、こんなにも器のでっけぇお方だ。ぜひご招待したい。オルドさん、どうだろう? もちろん、毒見は俺がする。もう2度と、あんなマネはせん」
「ど、どうする?」
未来の英雄が、小声で僕に意見を求めてくる。
しかし、勇者に自主性が無いのも困る。
ここは突き放すべきか。
手を貸すのは、本当の危険になってからだ。
『自分で決めろよ』
「なんだよそれ……案内係のくせに……」
小声で不満を言ってから、彼は答える。
「はい。行かせて頂きます」
最も、こんなご時世だ。
1日に必要な食事さえ、しっかりと確保できない。
だからさ、本当に毒なしなら、食えるモンは食っとけよ。
僕たちは、体が資本なんだからさ。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる