転生した世界は滅びていました。えっ、これを救えって……?

改札口を盾にUターンしてください。

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君と手にする明日は血の色

降参したいんですけど白旗ってどこですか。

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 なにコレ。やばい。
 なんでこんな急展開になってんの?
 なんで俺刺されてんの?

「逃げたいんですけど……オルド、もう降参していい? もう俺、頑張ったよね?」

『ダメ。ここで逃げたら死ぬしかない。戦い方は、僕が教える。まずは避けろ。無様でも良い、逃げ回れ』
 足が震える。刺された右肩がズキズキと疼く。

「う、わ……ぅあ」
 パニックで頭が働かない。
 大剣を手放して逃げようとするが、手が離せない。
 その事でさらにパニクって、とにかくシンゴラに近寄ってほしくない心理でか、咄嗟に両手が前に出た。

 ブォン! という風切り音と共に、左手に釣られた大剣がシンゴラの頬を斬った。
 俺の偶然の反撃をかわそうとしたのだろう、体勢を崩したシンゴラの攻撃が、代わりに空を切る。

『良いじゃないか! その調子で反撃しろ! ……と、言いたいところだが』
 シンゴラの一瞬の隙。
 俺は慌てて立ち上がり、剣を構える。
『やめとけ。まずは逃げろ。敵の剣速に慣れるんだ』

「お、おっけー……!」

 と言っても、シンゴラの攻撃は決して遅くはない。
 見てから避けるなんてことはできないので、俺はとにかく間を開けて逃げ回る。
 もはや背中を見せての敵前逃亡。ほとんど追いかけっこだ。
 だが、追いかけっこには自信がある。
 伊達に、数百年もお花畑で自我を保っていたわけではない。

『いい感じだ』
「そりゃ、どうも!」
 シンゴラの攻撃をかわし続けて、およそ5分が経った。
「往生際の悪い!」

 敵を背後に、俺は相変わらず走り回っている。
 正々堂々と戦うなんて不可能だ。怖すぎる。

『どう? そろそろ慣れてきた?』
「慣れるか!」
『ふむ。返事を返すだけの余裕は出てきたかな? それじゃあ、足を止めて向き合ってみよう』
 あん? 何言ってんだコイツ。俺を殺す気か?

『君も分かるだろうけど、逃げるだけじゃ勝てない。僕らは、勝たなきゃいけないんだ。
 負けないことが目標じゃあないんだよ』
「理屈は分かるが拒否する! 俺には無理だ!」

 オルドが体を鍛えてくれていたからだろう。
 走りながら喋っても、息が切れることはい。
 前世では考えられないスタミナだ。

『そっか。じゃあさ、やる気がないなら、もういっそのこと死になよ。生き残る気がないなら、この世界にとっても害悪でしかない。……でも、そうじゃないだろう? 死にたくないから逃げてるんだろ? 生きたいから必死にあがいてるんでしょ? だったら戦いなよ。時間が経つほど不利になる。勝機は今しかないんだよ』

 確かに、オルドの言うとおりかもしれない。よくわからないけど。
 でも、なんとなく頭では分かっている。
 このままじゃダメだ。
 でも、どうしようもなく怖いんだ。

「……だけど、そうも言ってられないのも分かるんだよな」

 俺の背後では、走りながら筋肉ダルマが木刀を振り回している。しかも的確に。
 本当に怖いけど、逃げ出したいけど……俺は、走るのをやめた。
 クルリと振り返り、両手で剣を構える。

「お、教えてくれるって、言ったよな……。頼む、剣なんか、触ったこともないんだ」
 俺はまだ、死にたくない。殺されるだなんて、まっぴらごめんだ。

 緊張で、言葉が震える。体がふらつく。心臓がバクバクいってる。
 だけど不思議と、心は高ぶっていた。

 現実離れしている現状に、まだ理解が追いついていないからかもしれない。

『……よし、いいだろう。教えてあげる。まずは敵のリーチを知るんだ。
 間合いの取り方、足の動かし方、威圧のかけ方。自分と相手の動きを知るんだ』

 シンゴラの鋭い眼光を直視しながら、ただ向き合う。
 このままじゃ負ける。

 だから知りたい。
 勝つ方法を、情報を、勝利への手がかりが知りたい。
 そのためにはオルドに教えてもらうしかない。
 時間が必要だ。

「……それで、具体的にはどうしたら良い?」
『もう1度、逃げろ。ただし今度は、背を向けるな。剣の軌道が分からなければ、僕が教えてあげるから』

「……何をブツブツと言っている……。その程度で、よく儀式に出るなどと言ったものだ。
 我らへの侮辱だ。恥ずかしくはないのか?」

「悪いけど、まだブツブツは続くぜ。……オルド、頼む。軌道なんか分からない」
『よしきた。剣の軌道は僕が見ておく。君はヤツの足だけに意識を向けてくれ。避ける方向は、僕が指示する』
「終わりだ!」

 シンゴラが叫び、木刀を振るう。
 素人目でも分かるような綺麗な初動だった。さすがに洗練されている。木刀は、あっと言う間にすぐそこだ。
 やべえ、足なんか見てる余裕ねえ……!

『右だ!』
 俺は咄嗟に右に飛び退いた。ほとんど跳躍に近い形だ。
 直後、左方では重たそうな風切り音がなっていた。
『つぎが来るぞ! 集中しろっ!』

 シンゴラの足元を観る。左足が前で、右足が後ろだ。
 ヤツはスリスリと滑るようにして近づいてくる。距離は2メートル弱ってところか。
 まだ遠い。攻撃はこないはずだ。
『しゃがめ!』

 が、オルドが叫んだ。ビクリとして、指示通りその場にしゃがみこむ。
 すると振るわれたシンゴラの木刀が、俺の浮いた髪の毛をサッと撫でていった。

「……この距離で当たるのかよ……」
『突きだよ。シンゴラは強い。油断はしないでくれ』

 再び足元を観る。
 正しい間合いは分からない。
 だけど、2メートル離れていても攻撃が届くことが分かった。

『後ろに退け!』

 それから、数分が経った。
 オルドのおかげで一撃も食らってはいないものの、足元を観ても、シンゴラの動きは読めない。
 分からない。さっぱりだ! くそ!

 俺には、そういった才能がないのかもしれない。
 そんな風に思いながら、オルドの指示通りに攻撃を避ける。
『……収穫はゼロか?』
「おう!」

『元気が良くて大変よろしい! なら、次はヤツの体を見ろ。ステップ2だ。
 腕の関節、手首の向き、体の向き、足の向き、それらを統合してヤツの攻撃を予測しろ。斬撃の軌道が分からないとか言ってたけど、たぶん君は木刀を見ていたんだろう? そうじゃなくて、体を観て、予測するんだ』

 視線をあげて、シンゴラの体全体を見る。
 中段の構えからヤツの腕がわずかに上がり、手首が上を向く。
『首への突きだ! 悠長に構えてんな! 木刀でも死ぬぞ!』
「くっ!」

 オルドの予測したとおり、次の攻撃は突きだった。
 ボッという音と共に、シンゴラの木刀が、目の前で急に肥大化する。
 ダメだ、避けれない!

『叩き落せ!』
 オルドがそう叫ぶよりも早く、俺は恐怖で目をつむり、反射的にシンゴラの木刀めがけて大剣を動かしていた。
 確かな手応えが手に伝わったのと、乾いた木の破壊音は、ほぼ同じだったと思う。

「……んぐっ!?」
 シンゴラが呻く。

『うぉっ!?』
 オルドが驚く。

「…………えっ」
 そして俺も驚いた。

 目を開けて見れば、シンゴラの木刀が真っ二つになっていた。どうやら俺が切ったらしい。
 静まり返る道場。
 ヤジも拍手も喝采もなく、やがて木刀の半身が落ち、カランと音を鳴らした。

『君、アレを切るのかよ……。いや、君のっていうより、この魔剣か? ははっ。……すご』
 オルド以外、誰も喋らない。動かない。

『おい、君まで何を呆けてるんだ。早くシンゴラの首元に剣を当てて、勝ちを宣言しろ!』
「お、おう!」

 左手に密着したまま動かない大剣を、俺はシンゴラの首元近くに持ち上げる。
 プルプルと小刻みに震える大剣を、シンゴラの首に合わせる。
 何かの手違いで本当に切れたら困るので、あくまで首元の近くだ。
「俺の、勝ちだ!」
 そして高らかに、そう宣言した。

 直立不動のシンゴラは、まだ、何が起きたか理解できていないようだった。
 綺麗に両断され短くなった木刀を、今でも両手で、しっかりと握り締めている。
 だが、現状を理解できている者もいた。老師だ。

イロウリの鱗を染み込ませた木刀を斬るとはの……。確かに、勝負あったようじゃな」
 老師がウォッホンと大きな咳払いをした。

「オルド・レインチェンバーよ。お主を、儀式の第6に任命する! 精進せよ!」
『ご期待に応えられるよう、全力を尽くします』
「………………」

「…………うぉ、うぉっほん……」
『おい!』
「…………あっ、俺か。……ウウン。ご期待に応えられるよう、全力を尽くします」

「うむ。期待しておるぞ。さあ、選別の決は終いじゃ! ほれほれ! 何をしておる!
 稽古に励まぬかッ! 決戦の日は近いぞ!」

 老師の言葉でハッと我に帰った稽古生がいっせいに立ち上がり、それぞれ稽古を再開する。
 だが、どうやらあまり集中はできていないらしい。

 チラチラと俺を見てくる者が多いこと多いこと。
 ヤジこそ飛ばされないが、ムズがゆくなってくる。

『ほら、僕たちも行くよ。あまり長居はできないんだからさ』
「お、おう」
 俺たちは最後まで視線を浴び続けながら、道場をあとにした。
『ま。でも』

 道場を出るとき、オルドがポソリと呟いた。
『……ちょっとは、スカッとしたかな』
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