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君と手にする明日は血の色
命より重いものなんて数えるほどある。
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「負けたら、殺される……?」
『そうだよ。ちなみに、候補者になるには剣長……シンゴラさんに勝たないといけないし、この世に生を受けてから17年以下じゃないといけない。この世界の現状においては、なかなかに難しいんだよ、候補者になるのは』
「……だからネルフィは俺に怒りをぶつけてたのか……。命を取り合う関係……。
それなのに俺は、あんな軽口を……」
『別に良いんじゃないかい? むしろ、僕としては協定に逆らってまで、候補者に成りうる君を殺そうとしたプラトニアの方に問題があると思うけどね。いると思ってたんだよ、自分の子どもが殺されるのは見たくない、自分の子どもと一緒にいたい。そんな親心から、他人の子どもを殺そうと平気で考える異常者が。だけどそんなことをしたら、術の代償がなくなって、術そのものが発動できなくなる――って、おい、何をしているんだい?』
気づけば俺は、今しがた出たばかりのネルフィの家をノックしていた。
コンコンコン、コンコンコンと軽めに数度叩くと、案の定、ドアを開けて出てきたのはネルフィだった。
「……何の用?」
「えーと、その、なんていうか…………ごめん!」
「……なんで謝るの?」
「無神経だった。ただ、それを謝りにきたんだ」
「…………」
ネルフィは訝しんでいるようだった。
俺が何を企んでいるのか、その考えを見抜こうとでもしているのだろう。
眉根をきゅっと引き締め、目を細めて俺を睨む。
「……、……そう」
やがて俺が何も企ててないと分かったのか、それとも考えるだけ無駄だと悟ったのか、ネルフィはそれだけ答えて、こう続けた。
「あなたは、何のために候補者になったの?」
『…………何のために、だってよ?』
オルドも問いかけてくる。
「なんのためって、そりゃ、死にたくないから……かな」
実際には何が何だか分からないまま、オルドの言われた通りに動いていたら、いつの間にか候補者になっていたんだけど。でも、そう。シンゴラさんに刃を向けたのは、死にたくないからだった。
「父親を殺すためじゃないの?」
『そうだよ』
オルドが答えるが、勿論その声は届かない。
「……実のところ、よく分からないんだ」
人を殺すのは悪いことだ。それは、そうだろう。
だけど、この変な儀式のせいで、俺が生き残るには、他の人を殺さなきゃいけないらしい。
儀式から逃げるにしても、どこへ逃げたらいい?
俺1人で生き続けられるのか? いいや、きっと無理だ。
だからといって、他人を殺さないという信条のために、自分が殺されるのを黙認できるほど、俺は聖人君子にはなれない。死ぬのがこわい。殺すのも怖い。
逃げ場がないんだ。どこにも。
いっそのこと、逃げないことも手なんじゃないかと思えてくる。
ここは地球じゃない。生まれ育った故郷でもない。
異世界には異世界の許されたルールがあり、それが殺人というだけだ。
だけど殺した人の人生を背負って生きられるほど、俺は、強くもない。
「よく分からないって……あんた、よくそんな薄っぺらな想いで、候補者なんかになれたわね」
「そうなんだよ。だから困ってるんだ」
「……ま、死にたくないっていう理由でも良いんじゃない? クソみたいだけど。少なくとも、他の候補者よりかは遥かにマシで、健全だわ」
「……君は? 他の候補者は、どんな理由で戦っているんだ?」
俺の質問に、ネルフィはハァっとため息をついた。
「私は勿論、世界を変えるため。第1候補のユズラは、単に強いヤツと戦いたいから。第2候補のリーは、過去に行って女を侍らせたいから。第3候補のアルポロンは私と同じ志を持っているけど、弱いからダメね。アイツに未来は託せない。第4候補のヒューザは、もう壊れてしまっている。過去に行っても何もせず、世界は同じ道を辿るでしょうね」
1度言葉を切って、また続ける。
「要するに、世直ししようと考えてる強者は私だけ。……アナタにも、同じ志を持って欲しいと思うのだけどね」
その力強い視線に、思わず顔をそむける。
「……俺に、そんな覚悟は」
「まあ私、負ける気なんて毛頭ないから。アンタがどんな覚悟を決め込もうが関係ないわね」
「……ああ」
「それじゃあね」
そうして最後に一方的な挨拶を残して、ネルフィは家の中へと戻っていった。
そのドアを見つめながら、オルドに問う。
「なあ、殺人って、そんなに軽いもんなのか?」
『…………そうだね』
一瞬遅れて、答えが返ってくる。
『この世界では……いま、現在での世界では、確かに軽いものだよ』
「……そうか」
『うん』
「俺、死にたくねえよ。だけどそれって、他の人を殺さなきゃなんだよな」
『殺すか殺されるか。そうだね、その通りだよ。でも安心していい。相手も君のことを殺そうとやってくる。迎え撃てばいいだけだ。そんな風に考えてごらん。じゃないと、精神がもたない。思い込め、誤魔化せ。そのうち、慣れてくるから』
「難しいよ、それ……」
オルドの助言に苦笑してから、俺はネルフィの家を後にした。
『そうだよ。ちなみに、候補者になるには剣長……シンゴラさんに勝たないといけないし、この世に生を受けてから17年以下じゃないといけない。この世界の現状においては、なかなかに難しいんだよ、候補者になるのは』
「……だからネルフィは俺に怒りをぶつけてたのか……。命を取り合う関係……。
それなのに俺は、あんな軽口を……」
『別に良いんじゃないかい? むしろ、僕としては協定に逆らってまで、候補者に成りうる君を殺そうとしたプラトニアの方に問題があると思うけどね。いると思ってたんだよ、自分の子どもが殺されるのは見たくない、自分の子どもと一緒にいたい。そんな親心から、他人の子どもを殺そうと平気で考える異常者が。だけどそんなことをしたら、術の代償がなくなって、術そのものが発動できなくなる――って、おい、何をしているんだい?』
気づけば俺は、今しがた出たばかりのネルフィの家をノックしていた。
コンコンコン、コンコンコンと軽めに数度叩くと、案の定、ドアを開けて出てきたのはネルフィだった。
「……何の用?」
「えーと、その、なんていうか…………ごめん!」
「……なんで謝るの?」
「無神経だった。ただ、それを謝りにきたんだ」
「…………」
ネルフィは訝しんでいるようだった。
俺が何を企んでいるのか、その考えを見抜こうとでもしているのだろう。
眉根をきゅっと引き締め、目を細めて俺を睨む。
「……、……そう」
やがて俺が何も企ててないと分かったのか、それとも考えるだけ無駄だと悟ったのか、ネルフィはそれだけ答えて、こう続けた。
「あなたは、何のために候補者になったの?」
『…………何のために、だってよ?』
オルドも問いかけてくる。
「なんのためって、そりゃ、死にたくないから……かな」
実際には何が何だか分からないまま、オルドの言われた通りに動いていたら、いつの間にか候補者になっていたんだけど。でも、そう。シンゴラさんに刃を向けたのは、死にたくないからだった。
「父親を殺すためじゃないの?」
『そうだよ』
オルドが答えるが、勿論その声は届かない。
「……実のところ、よく分からないんだ」
人を殺すのは悪いことだ。それは、そうだろう。
だけど、この変な儀式のせいで、俺が生き残るには、他の人を殺さなきゃいけないらしい。
儀式から逃げるにしても、どこへ逃げたらいい?
俺1人で生き続けられるのか? いいや、きっと無理だ。
だからといって、他人を殺さないという信条のために、自分が殺されるのを黙認できるほど、俺は聖人君子にはなれない。死ぬのがこわい。殺すのも怖い。
逃げ場がないんだ。どこにも。
いっそのこと、逃げないことも手なんじゃないかと思えてくる。
ここは地球じゃない。生まれ育った故郷でもない。
異世界には異世界の許されたルールがあり、それが殺人というだけだ。
だけど殺した人の人生を背負って生きられるほど、俺は、強くもない。
「よく分からないって……あんた、よくそんな薄っぺらな想いで、候補者なんかになれたわね」
「そうなんだよ。だから困ってるんだ」
「……ま、死にたくないっていう理由でも良いんじゃない? クソみたいだけど。少なくとも、他の候補者よりかは遥かにマシで、健全だわ」
「……君は? 他の候補者は、どんな理由で戦っているんだ?」
俺の質問に、ネルフィはハァっとため息をついた。
「私は勿論、世界を変えるため。第1候補のユズラは、単に強いヤツと戦いたいから。第2候補のリーは、過去に行って女を侍らせたいから。第3候補のアルポロンは私と同じ志を持っているけど、弱いからダメね。アイツに未来は託せない。第4候補のヒューザは、もう壊れてしまっている。過去に行っても何もせず、世界は同じ道を辿るでしょうね」
1度言葉を切って、また続ける。
「要するに、世直ししようと考えてる強者は私だけ。……アナタにも、同じ志を持って欲しいと思うのだけどね」
その力強い視線に、思わず顔をそむける。
「……俺に、そんな覚悟は」
「まあ私、負ける気なんて毛頭ないから。アンタがどんな覚悟を決め込もうが関係ないわね」
「……ああ」
「それじゃあね」
そうして最後に一方的な挨拶を残して、ネルフィは家の中へと戻っていった。
そのドアを見つめながら、オルドに問う。
「なあ、殺人って、そんなに軽いもんなのか?」
『…………そうだね』
一瞬遅れて、答えが返ってくる。
『この世界では……いま、現在での世界では、確かに軽いものだよ』
「……そうか」
『うん』
「俺、死にたくねえよ。だけどそれって、他の人を殺さなきゃなんだよな」
『殺すか殺されるか。そうだね、その通りだよ。でも安心していい。相手も君のことを殺そうとやってくる。迎え撃てばいいだけだ。そんな風に考えてごらん。じゃないと、精神がもたない。思い込め、誤魔化せ。そのうち、慣れてくるから』
「難しいよ、それ……」
オルドの助言に苦笑してから、俺はネルフィの家を後にした。
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