5 / 17
マモルの実験観察その二
しおりを挟む
実証すること。マミちゃんは本当にタヌキが化けているのか? 念のため。
お弁当には、美味しそうなおかずが並んでいたが、マミちゃんがもともとタヌキなら、人間が食べないようなは虫類や昆虫も好きなのではないか(オエ!)。
ぼくは、小学校時代に遊んでいたおもちゃがしまってあるプラスチックの収納ケースをひっくり返し、目当てのものを見つけ、鞄にしまった。
翌日。マミちゃんとは一緒の班で掃除当番だ。 各自の役割を決め、掃除機がけ、モップがけ、黒板掃除、ゴミ捨てを淡々と済ませる。椅子を上げて後ろに寄せていた机を元の位置に戻す。その時、ぼくは、戻したマミちゃんの椅子にあるものを置いた。
掃除道具入れにモップを戻してマミちゃんが席に戻ってくる。帰り支度をして、机の中に忘れ物が無いか確かめようと椅子を引いた瞬間。
全長二十センチほどの鮮やかな、ミドリ色をしたトノサマガエルが座席に鎮座している。もちろん、おもちゃだ。
巨大なカエルとご対面したマミちゃんは、まん丸の目をさらに丸くし、「ふりゅん」と不思議な声を発したかと思うと、目を閉じてへたりこんでしまった。さらに悪いことに。背中のスカートの上あたりにシッポが生え、お団子に結んだ髪の毛がケモノミミに変わってしまった!
ぼくは思考停止状態になった後、パニックに陥った。
マズイマズイマズイ! トニカクドコカドコカドコカ? ホケンシツホケンシツホケンシツ!
デモ、ミミトシッポカクサナイト!
ほんの少しだけ冷静さを取り戻し、マミちゃんにぼくの屋外授業用の帽子を被せると、シッポを隠すように抱きかかえ、教室を走り出た。掃除当番のクラスメイトは何があったのか気づかなかったようだが、廊下に出たら次々と声をかけられる。
「どうした?」
「・・・多分貧血だと思う。」
「手伝うわよ。」
「大丈夫、保健室の先生いるはずだから。」
「いいな、お姫様抱っこ。」
「・・・」
心配そうに聞いてくる生徒や単なる野次馬でついてくる生徒を振り切り、廊下を進む。慎重に階段を降りると、脇にある保健室に駆け込んだ。
養護の高野先生は、事務机の前に座ってパソコンのキーボードを叩いていたが、女の子を抱きかかえて入ってきたぼくを見て、一瞬びっくりし、その女の子からシッポが生えているのを認めると、うなずいてぼくにベッドを指さした。
「こっち寝かせて。」
ぼくは慎重にマミちゃんを降ろし、ゆっくりと寝かせた。普通に息はしているようだ。
「何やったの?」
「ええと、カエルのおもちゃに驚くかと試しまして・・・」
「ほんと、男の子ってのは、どうしようもないわね。」
高野先生はうつむいて目頭を押さえたあと、マミちゃんの制服を少し緩め、呼吸や脈拍を調べ、ペットボトルの水を用意した。
「大丈夫。気を失っているだけ。もうすぐ目を覚ますわ。そしたらシッポも耳も引っ込むから。」
ぼくは少しだけホッとしたが、申し訳ない気持ちで胸が苦しいまんまだ。高野先生はつけ加える。
「タヌキって、びっくりすると気絶しちゃうんだから。気をつけてね。」
昨夜ネットで調べたら確かにそう書いてあった。 ぼくは恐る恐る聞いてみた。
「あの、高野先生は、マミちゃん、いや林田さんのこと、知っていたんですか?」
先生は軽く頷く。
「あまり詳しくは知らないけどね。教頭先生に言われてたの。いつか保健室に運ばれてくるかもしれないから、よろしくってね。前にもそういう生徒がいたみたい。」
その生徒も、ぼくみたいなのに驚かされたんだろうか。
「先生、本当にすみませんでした。ぼくのせいでご迷惑おかけしました。」
「私じゃなくて! 目が覚めたら、この子に謝まんなよ。今日は、保護者の方に迎えに来てもらうから。教室戻ってこの子の荷物、持ってきて。」
保健室を出ると、心配している生徒も野次馬もぼくに質問する。「ちょっとした弾みで驚いて、気を失ったけど、大丈夫。お家の人も迎えに来るので」と、教室に戻るまで、いや教室に入っても同じ説明を合計十回ほど繰り返した。
荷物を持って、保健室に引き返すと、マミちゃんはベッドの上に起き上がって、ペットボトルの水を飲んでいた。ぼくの姿を見つけると、「エヘヘ。」と笑った。
ぼくは何度もごめんと謝った。
「マミ、ごめんなさいね、お店の仕込みおの途中だったから。」
一時間ほどして、マミちゃんの保護者である叔母さんが保健室に入ってきた。そんなに慌てている様子はない。まずマミちゃんに声をかけたあと、高野先生に深々と頭を下げ、丁寧にお礼の言葉を述べた。
「懐かしいわね。この保健室。」
そう言って叔母さんは部屋の中を見まわし、ぼくと目が合った。ニヤッと笑い、声をかけてくる。
「あなたが町村君ね。真美瑠の叔母の川端 律です。」
「あの、このたびは、本当に申し訳ありませんでした。」
「高野先生から聞いたわ。ほんとうに男の子って、しょうもないわね。」
同じコメントを二人の大人から言われてしまった。「男の子」の名誉のために言っておくと、男の子がしょうもないのではなく、ぼくがしょうもないだけだ。
叔母さんの川端さんは、マミちゃんが歩いて帰れそうなのを確かめると、姪の鞄を持って二人並んでドアに向かった。この人、どこかで見かけたことがあるような。叔母さんは振り返り、ぼくに声をかけた。
「真美瑠がね、町村君のことよく話すのよ。これからもよろしくね。それから。この子はカエルも虫も大の苦手よ。覚えといてね。」
マミちゃんは、エヘヘと笑ってぼくに手を振った。
その夜、ぼくはマミちゃんの観察&反省文ノートにこう書いた。
マミちゃんは、びっくりして気絶したので、タヌキだと思う。でもタヌキの好物が苦手なので、普通のタヌキとはちょっと違う。
驚かせちゃって、本当にごめんなさい。
決して、たぶん、もうしません。
お弁当には、美味しそうなおかずが並んでいたが、マミちゃんがもともとタヌキなら、人間が食べないようなは虫類や昆虫も好きなのではないか(オエ!)。
ぼくは、小学校時代に遊んでいたおもちゃがしまってあるプラスチックの収納ケースをひっくり返し、目当てのものを見つけ、鞄にしまった。
翌日。マミちゃんとは一緒の班で掃除当番だ。 各自の役割を決め、掃除機がけ、モップがけ、黒板掃除、ゴミ捨てを淡々と済ませる。椅子を上げて後ろに寄せていた机を元の位置に戻す。その時、ぼくは、戻したマミちゃんの椅子にあるものを置いた。
掃除道具入れにモップを戻してマミちゃんが席に戻ってくる。帰り支度をして、机の中に忘れ物が無いか確かめようと椅子を引いた瞬間。
全長二十センチほどの鮮やかな、ミドリ色をしたトノサマガエルが座席に鎮座している。もちろん、おもちゃだ。
巨大なカエルとご対面したマミちゃんは、まん丸の目をさらに丸くし、「ふりゅん」と不思議な声を発したかと思うと、目を閉じてへたりこんでしまった。さらに悪いことに。背中のスカートの上あたりにシッポが生え、お団子に結んだ髪の毛がケモノミミに変わってしまった!
ぼくは思考停止状態になった後、パニックに陥った。
マズイマズイマズイ! トニカクドコカドコカドコカ? ホケンシツホケンシツホケンシツ!
デモ、ミミトシッポカクサナイト!
ほんの少しだけ冷静さを取り戻し、マミちゃんにぼくの屋外授業用の帽子を被せると、シッポを隠すように抱きかかえ、教室を走り出た。掃除当番のクラスメイトは何があったのか気づかなかったようだが、廊下に出たら次々と声をかけられる。
「どうした?」
「・・・多分貧血だと思う。」
「手伝うわよ。」
「大丈夫、保健室の先生いるはずだから。」
「いいな、お姫様抱っこ。」
「・・・」
心配そうに聞いてくる生徒や単なる野次馬でついてくる生徒を振り切り、廊下を進む。慎重に階段を降りると、脇にある保健室に駆け込んだ。
養護の高野先生は、事務机の前に座ってパソコンのキーボードを叩いていたが、女の子を抱きかかえて入ってきたぼくを見て、一瞬びっくりし、その女の子からシッポが生えているのを認めると、うなずいてぼくにベッドを指さした。
「こっち寝かせて。」
ぼくは慎重にマミちゃんを降ろし、ゆっくりと寝かせた。普通に息はしているようだ。
「何やったの?」
「ええと、カエルのおもちゃに驚くかと試しまして・・・」
「ほんと、男の子ってのは、どうしようもないわね。」
高野先生はうつむいて目頭を押さえたあと、マミちゃんの制服を少し緩め、呼吸や脈拍を調べ、ペットボトルの水を用意した。
「大丈夫。気を失っているだけ。もうすぐ目を覚ますわ。そしたらシッポも耳も引っ込むから。」
ぼくは少しだけホッとしたが、申し訳ない気持ちで胸が苦しいまんまだ。高野先生はつけ加える。
「タヌキって、びっくりすると気絶しちゃうんだから。気をつけてね。」
昨夜ネットで調べたら確かにそう書いてあった。 ぼくは恐る恐る聞いてみた。
「あの、高野先生は、マミちゃん、いや林田さんのこと、知っていたんですか?」
先生は軽く頷く。
「あまり詳しくは知らないけどね。教頭先生に言われてたの。いつか保健室に運ばれてくるかもしれないから、よろしくってね。前にもそういう生徒がいたみたい。」
その生徒も、ぼくみたいなのに驚かされたんだろうか。
「先生、本当にすみませんでした。ぼくのせいでご迷惑おかけしました。」
「私じゃなくて! 目が覚めたら、この子に謝まんなよ。今日は、保護者の方に迎えに来てもらうから。教室戻ってこの子の荷物、持ってきて。」
保健室を出ると、心配している生徒も野次馬もぼくに質問する。「ちょっとした弾みで驚いて、気を失ったけど、大丈夫。お家の人も迎えに来るので」と、教室に戻るまで、いや教室に入っても同じ説明を合計十回ほど繰り返した。
荷物を持って、保健室に引き返すと、マミちゃんはベッドの上に起き上がって、ペットボトルの水を飲んでいた。ぼくの姿を見つけると、「エヘヘ。」と笑った。
ぼくは何度もごめんと謝った。
「マミ、ごめんなさいね、お店の仕込みおの途中だったから。」
一時間ほどして、マミちゃんの保護者である叔母さんが保健室に入ってきた。そんなに慌てている様子はない。まずマミちゃんに声をかけたあと、高野先生に深々と頭を下げ、丁寧にお礼の言葉を述べた。
「懐かしいわね。この保健室。」
そう言って叔母さんは部屋の中を見まわし、ぼくと目が合った。ニヤッと笑い、声をかけてくる。
「あなたが町村君ね。真美瑠の叔母の川端 律です。」
「あの、このたびは、本当に申し訳ありませんでした。」
「高野先生から聞いたわ。ほんとうに男の子って、しょうもないわね。」
同じコメントを二人の大人から言われてしまった。「男の子」の名誉のために言っておくと、男の子がしょうもないのではなく、ぼくがしょうもないだけだ。
叔母さんの川端さんは、マミちゃんが歩いて帰れそうなのを確かめると、姪の鞄を持って二人並んでドアに向かった。この人、どこかで見かけたことがあるような。叔母さんは振り返り、ぼくに声をかけた。
「真美瑠がね、町村君のことよく話すのよ。これからもよろしくね。それから。この子はカエルも虫も大の苦手よ。覚えといてね。」
マミちゃんは、エヘヘと笑ってぼくに手を振った。
その夜、ぼくはマミちゃんの観察&反省文ノートにこう書いた。
マミちゃんは、びっくりして気絶したので、タヌキだと思う。でもタヌキの好物が苦手なので、普通のタヌキとはちょっと違う。
驚かせちゃって、本当にごめんなさい。
決して、たぶん、もうしません。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている
甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。
実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。
偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。
けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。
不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。
真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、
少し切なくて甘い青春ラブコメ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
⏰毎日20:00に1話ずつ更新します。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる