マミルとマモル(改稿版)

舟津湊

文字の大きさ
7 / 17

マミルと街のみんなのお気に入り

しおりを挟む
 ぼくが住んでいる、この私鉄滝見駅周辺は、飲食店はさほど多くない。その中でも、もしテレビ番組のインタビューで「滝見駅周辺のおすすめは?」と駅前広場で聞かれたら、十人中八人は「満月亭のヤキトリ」と答えると思う。
 まず、滝見駅の乗降客は、お店の換気口から吐き出される「香りの煙幕」にやられる。匂いに釣られてお店に寄ったものなら、リピート客になること間違いなしだ。ヤキトリのどれにも共通しているのは、炭火の香ばしい香りはもちろん、なんと言っても「外はカリッ、中はふわっ」とした食感だ。冷めても美味しい。お酒を飲める大人は、八席ほどのカウンターで、煮込みと炭火ヤキトリを堪能できるし、みんなで楽しく味わいたい家族は、テイクアウトも利用できる。我が家も月に一度、「満月亭のヤキトリ・フライデー」の日が定められている。家の手伝いをほとんどやらないで、母から厳しく指導されているぼくだけど、この日の買い物役は、自ら買って出る。
 十月の上旬ともなれば、さすがに猛暑の名残は消え、涼しい風が体を通り過ぎていく。目的地に近づくと、その風に香ばしい香りが混ざってくる。この香りを味わえるのが、買い物係の醍醐味だ。
 こじんまりとしたお店の側面に「お持ち帰り」と表示された小窓がある。その脇のインターホンのボタンを押す。お客さんの列ができている時もあるが、今日は空いていてラッキーだ。
「ハイ、ただ今おうかがいします。」という、今までここで聞いたことがない、いやどこかで聞いたことがあるような女性の声がスピーカーから流れた。
 すぐにお持ち帰り用の小窓が開けられ、濃紺の三角巾を頭に巻いた女の子の顔がピョコンと飛び出てきた。
「いらっしゃいま、あ!」「あ!」
 ほぼ同時に驚き、ぼくも声を上げる。マミちゃんだ。
 可愛い店員さんは、少し恥ずかしそうにしながら言葉をかけてくる。
「ここ、叔母さんのお店。私、ここの上の部屋に住んでるの。」
 マミちゃんは、顔を斜め上に向ける。この店舗の上は住居になっているようだ。叔母の川端さん、どこかで会ったことあるな、と思ったけど、そうか、このヤキトリ屋さんの店長だ。
「ぼく、ここによく買いに来るよ。でも会ったの、初めてだね。」
「うん、先月から住まわせてもらって、最近お店の手伝いを始めたの。」
「そうなんだ。こんな美味しいお店で働けるなんて、ちょっと羨ましいな。」
「うん! わたし、ここの鶏皮大好き! 特別に少し薄塩味にしてもらって、五本も食べちゃう。あ、あと満月亭オリジナルの、カレー味の鶏レバーも好き。レバー苦手だったけど、これ食べてから好きになったよ。」
 ぼくもレバー苦手なんだ、と話をしていると、お客さんがぼくの後ろに並んだ。
「あ。いけない! ご注文、何になさいますか?」
「えっと、全部塩で。ねぎまと、大判つくねと、手羽先と、ぼんじりと、椎茸、ピーマンと・・・それにカレー味の鶏レバーを三本ずつください。」
「ご注文、承りました。」
 代金を払い、お店の脇でしばし待つ。もう少しマミちゃんと話したかったけど、テイクアウトのお客さんが一人、また一人と増えて忙しそうなので、また今度にしよう。
「お待たせしました!」
 マミちゃんは、紙で包んだ商品をさらに薄手のレジ袋に入れてぼくに渡す。そしてマミちゃんはまたね、と小窓から顔を引っ込めた。かと思うと、もう一人の顔が飛び出してきた。
「よ! 町村少年。いつもご贔屓いただき、ありがとう。またのお越しをお待ちしてるよ。それから真美瑠のことも、よろしく!」
 叔母さんの声が大きかったので、テイクアウトの注文待ちの人々はぼくに注目し、「ヒューヒュー」と野次った。マミちゃんはお店の入り口に出てきて、エヘヘ、と笑って手を振ってくれた。
 マミちゃんのほっぺがピンク色でツルツルなのは、鶏皮の美肌効果のおかげかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...