マミルとマモル(改稿版)

舟津湊

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マミルと街のみんなのお気に入り

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 ぼくが住んでいる、この私鉄滝見駅周辺は、飲食店はさほど多くない。その中でも、もしテレビ番組のインタビューで「滝見駅周辺のおすすめは?」と駅前広場で聞かれたら、十人中八人は「満月亭のヤキトリ」と答えると思う。
 まず、滝見駅の乗降客は、お店の換気口から吐き出される「香りの煙幕」にやられる。匂いに釣られてお店に寄ったものなら、リピート客になること間違いなしだ。ヤキトリのどれにも共通しているのは、炭火の香ばしい香りはもちろん、なんと言っても「外はカリッ、中はふわっ」とした食感だ。冷めても美味しい。お酒を飲める大人は、八席ほどのカウンターで、煮込みと炭火ヤキトリを堪能できるし、みんなで楽しく味わいたい家族は、テイクアウトも利用できる。我が家も月に一度、「満月亭のヤキトリ・フライデー」の日が定められている。家の手伝いをほとんどやらないで、母から厳しく指導されているぼくだけど、この日の買い物役は、自ら買って出る。
 十月の上旬ともなれば、さすがに猛暑の名残は消え、涼しい風が体を通り過ぎていく。目的地に近づくと、その風に香ばしい香りが混ざってくる。この香りを味わえるのが、買い物係の醍醐味だ。
 こじんまりとしたお店の側面に「お持ち帰り」と表示された小窓がある。その脇のインターホンのボタンを押す。お客さんの列ができている時もあるが、今日は空いていてラッキーだ。
「ハイ、ただ今おうかがいします。」という、今までここで聞いたことがない、いやどこかで聞いたことがあるような女性の声がスピーカーから流れた。
 すぐにお持ち帰り用の小窓が開けられ、濃紺の三角巾を頭に巻いた女の子の顔がピョコンと飛び出てきた。
「いらっしゃいま、あ!」「あ!」
 ほぼ同時に驚き、ぼくも声を上げる。マミちゃんだ。
 可愛い店員さんは、少し恥ずかしそうにしながら言葉をかけてくる。
「ここ、叔母さんのお店。私、ここの上の部屋に住んでるの。」
 マミちゃんは、顔を斜め上に向ける。この店舗の上は住居になっているようだ。叔母の川端さん、どこかで会ったことあるな、と思ったけど、そうか、このヤキトリ屋さんの店長だ。
「ぼく、ここによく買いに来るよ。でも会ったの、初めてだね。」
「うん、先月から住まわせてもらって、最近お店の手伝いを始めたの。」
「そうなんだ。こんな美味しいお店で働けるなんて、ちょっと羨ましいな。」
「うん! わたし、ここの鶏皮大好き! 特別に少し薄塩味にしてもらって、五本も食べちゃう。あ、あと満月亭オリジナルの、カレー味の鶏レバーも好き。レバー苦手だったけど、これ食べてから好きになったよ。」
 ぼくもレバー苦手なんだ、と話をしていると、お客さんがぼくの後ろに並んだ。
「あ。いけない! ご注文、何になさいますか?」
「えっと、全部塩で。ねぎまと、大判つくねと、手羽先と、ぼんじりと、椎茸、ピーマンと・・・それにカレー味の鶏レバーを三本ずつください。」
「ご注文、承りました。」
 代金を払い、お店の脇でしばし待つ。もう少しマミちゃんと話したかったけど、テイクアウトのお客さんが一人、また一人と増えて忙しそうなので、また今度にしよう。
「お待たせしました!」
 マミちゃんは、紙で包んだ商品をさらに薄手のレジ袋に入れてぼくに渡す。そしてマミちゃんはまたね、と小窓から顔を引っ込めた。かと思うと、もう一人の顔が飛び出してきた。
「よ! 町村少年。いつもご贔屓いただき、ありがとう。またのお越しをお待ちしてるよ。それから真美瑠のことも、よろしく!」
 叔母さんの声が大きかったので、テイクアウトの注文待ちの人々はぼくに注目し、「ヒューヒュー」と野次った。マミちゃんはお店の入り口に出てきて、エヘヘ、と笑って手を振ってくれた。
 マミちゃんのほっぺがピンク色でツルツルなのは、鶏皮の美肌効果のおかげかもしれない。

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