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後編
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今日は週末で、イツメンでの飲みの日。いつもの居酒屋に行くと思っていたら、指定されたのは別の店。
珍しいなと思いながら最寄り駅で翠と待ち合わせて店に入ると、友人2人もやってきて飲み会が始まった。
「いやぁ、ようやく別の店が選べるようになったなー」
運ばれてきた料理を食べていると、友人の1人が酒を煽りながらニヤニヤと笑う。もう1人の友人もニヤニヤとした笑みを浮かべている。隣に座る翠を見ると、そうだね、と微笑んでいた。
「ようやくって?」
あの店が好きだから選んでいたんじゃないかと続けると、友人2人はぷはっと吹き出す。俺だけわかっていないみたいでちょっとイラッとして、ジト目で友人たちを見ながら酒を飲む。
友人の1人はまだニヤけながら翠を一瞥すると、口元を緩ませながら話し出す。
「いや実はさ、あの店がいいって言ってたの翠なんだよ。で、その理由が味とかじゃなくて……くくっ」
「おれらと明良の乗る電車の駅が別れるからって理由なんだぜ」
「……え……?」
2人の言葉に俺はぴたっと固まる。たしかにあの店は2つの駅の間に位置していて、それぞれ別の路線が走っている。友人2人と俺は乗る路線が別れていたから、店の前で解散していた。
それと翠がどう関係しているのかわからない。
「え、それが翠とどう関係あるんだ……?」
「鈍いなー明良は。お前と2人で帰りたかったからだよ。なー、翠?」
「は……え……?」
困惑したまままた翠を見上げると、にっこりと微笑んで頷いた。
「そういうこと」
「え、えぇ……? 待って、え……?」
あの店で集まり始めたのがいつだったのか正確には覚えていないけど、1年以上は前のはず。友人たちや翠が言ったことがホントならば、つまりそれって……。
「いや、でも……最初は、そんな意図なかったよな……?」
「ううん。僕が最初から明良と2人きりになりたくてあのお店にしてもらってたんだよね」
「そーそ。あの店以外禁止って言ってたもんなあ」
期待する気持ちを否定するために呟いた言葉に翠と友人が返してくる。思えばたしかに、翠はタクシーで帰っていたからどっちの駅から帰ってもいいはず。
俺は頬が熱くなるのを感じながら俯いた。
「んで、めでたくお前らが付き合うようになったから、ようやく別の店を選べるようになったってわけだ」
「長すぎるっての。一生あの店かと思ったぜ」
2人のはやし立てる声に、さらに身体が羞恥で熱くなっていく。
(……ってか、2人に報告するか迷ってたのに……)
翠と付き合い始めたことを2人に今日報告するかどうか1人で悶々と悩んでいたのに、当たり前のように彼らは知っていた。
頭にハテナマークをたくさん浮かべながら俺はまた翠に視線を向け、口を開く。
「翠が言ったのか……?」
「ううん。言ってはないよ」
「え、じゃあなんで……?」
羞恥で震える声で呟くと、友人2人が楽しげに笑った。
「言われてねーけどお前らの空気感でわかったわ。この前の飲みで上手くいったんだなーって」
「飲み……?」
なんのことだと聞き返すと、もう1人の友人がまたニヤつき出す。
「この前の、おれら2人が断ったやつあるだろ」
「ああ、あったけど」
「あれ実はな……翠が事前に連絡してきたんだぜ。翠と2人で飲むからおれらは断れって」
「……うっそ」
俺が反射的に答えると、嘘じゃないと言って友人がスマホを見せてきた。表示されているトークアプリのメッセージを読む。メッセージを送り合っているのは、翠と友人2人。
『これからグループで飲みに誘うけど、きみたちは断ってね』
『なんで?』
『明良と2人で行きたいから』
『おっ、ついにやるのか』
友人2人からのやったれ、いけいけ、みたいな内容のスタンプで締めくくられたトーク画面を食い入るように見つめたあと、俺は両手で顔を覆った。
「……帰りたい」
なんかもうめちゃくちゃ恥ずかしくて反射的に呟くと、友人たちの楽しげな笑い声が耳に届く。
「明良クン今日はどっちの家に帰るのかなー?」
「えーそんなん決まってるよなー?」
「……くっそムカつく……」
少しだけ指を開いて、ニヤニヤと笑う友人たちを指の隙間から睨む。机の下で2人の足を蹴ってやろうとしたとき、翠に優しく肩を抱かれた。
「ふふ、今日はとりあえず僕の家かな。でもそのうち……どっちの、なんて言わなくてもよくなるもんね?」
「いや、え……ちょ……っ!」
翠の言葉に、また友人たちが楽しげに笑い出す。
「新居には呼んでくれよー?」
「引越祝いなにがいいか考えといてくれ」
そんな友人たちの言葉を聞き流し、俺は羞恥で涙目になりながら翠を睨みつける。翠はふわりと微笑み俺を見つめ返す。
「……そんな話、俺、聞いてない」
「あはは、そうだったね。じゃあ帰ったらじっくり話そうね」
とびきり甘く、幸せそうに笑いかけてくる翠。そんな風に笑いかけられたらもうなにも言えなくて。
翠のことが好きだという気持ちで胸がいっぱいになりながら、俺はこくんと頷いた。
了
珍しいなと思いながら最寄り駅で翠と待ち合わせて店に入ると、友人2人もやってきて飲み会が始まった。
「いやぁ、ようやく別の店が選べるようになったなー」
運ばれてきた料理を食べていると、友人の1人が酒を煽りながらニヤニヤと笑う。もう1人の友人もニヤニヤとした笑みを浮かべている。隣に座る翠を見ると、そうだね、と微笑んでいた。
「ようやくって?」
あの店が好きだから選んでいたんじゃないかと続けると、友人2人はぷはっと吹き出す。俺だけわかっていないみたいでちょっとイラッとして、ジト目で友人たちを見ながら酒を飲む。
友人の1人はまだニヤけながら翠を一瞥すると、口元を緩ませながら話し出す。
「いや実はさ、あの店がいいって言ってたの翠なんだよ。で、その理由が味とかじゃなくて……くくっ」
「おれらと明良の乗る電車の駅が別れるからって理由なんだぜ」
「……え……?」
2人の言葉に俺はぴたっと固まる。たしかにあの店は2つの駅の間に位置していて、それぞれ別の路線が走っている。友人2人と俺は乗る路線が別れていたから、店の前で解散していた。
それと翠がどう関係しているのかわからない。
「え、それが翠とどう関係あるんだ……?」
「鈍いなー明良は。お前と2人で帰りたかったからだよ。なー、翠?」
「は……え……?」
困惑したまままた翠を見上げると、にっこりと微笑んで頷いた。
「そういうこと」
「え、えぇ……? 待って、え……?」
あの店で集まり始めたのがいつだったのか正確には覚えていないけど、1年以上は前のはず。友人たちや翠が言ったことがホントならば、つまりそれって……。
「いや、でも……最初は、そんな意図なかったよな……?」
「ううん。僕が最初から明良と2人きりになりたくてあのお店にしてもらってたんだよね」
「そーそ。あの店以外禁止って言ってたもんなあ」
期待する気持ちを否定するために呟いた言葉に翠と友人が返してくる。思えばたしかに、翠はタクシーで帰っていたからどっちの駅から帰ってもいいはず。
俺は頬が熱くなるのを感じながら俯いた。
「んで、めでたくお前らが付き合うようになったから、ようやく別の店を選べるようになったってわけだ」
「長すぎるっての。一生あの店かと思ったぜ」
2人のはやし立てる声に、さらに身体が羞恥で熱くなっていく。
(……ってか、2人に報告するか迷ってたのに……)
翠と付き合い始めたことを2人に今日報告するかどうか1人で悶々と悩んでいたのに、当たり前のように彼らは知っていた。
頭にハテナマークをたくさん浮かべながら俺はまた翠に視線を向け、口を開く。
「翠が言ったのか……?」
「ううん。言ってはないよ」
「え、じゃあなんで……?」
羞恥で震える声で呟くと、友人2人が楽しげに笑った。
「言われてねーけどお前らの空気感でわかったわ。この前の飲みで上手くいったんだなーって」
「飲み……?」
なんのことだと聞き返すと、もう1人の友人がまたニヤつき出す。
「この前の、おれら2人が断ったやつあるだろ」
「ああ、あったけど」
「あれ実はな……翠が事前に連絡してきたんだぜ。翠と2人で飲むからおれらは断れって」
「……うっそ」
俺が反射的に答えると、嘘じゃないと言って友人がスマホを見せてきた。表示されているトークアプリのメッセージを読む。メッセージを送り合っているのは、翠と友人2人。
『これからグループで飲みに誘うけど、きみたちは断ってね』
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友人2人からのやったれ、いけいけ、みたいな内容のスタンプで締めくくられたトーク画面を食い入るように見つめたあと、俺は両手で顔を覆った。
「……帰りたい」
なんかもうめちゃくちゃ恥ずかしくて反射的に呟くと、友人たちの楽しげな笑い声が耳に届く。
「明良クン今日はどっちの家に帰るのかなー?」
「えーそんなん決まってるよなー?」
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少しだけ指を開いて、ニヤニヤと笑う友人たちを指の隙間から睨む。机の下で2人の足を蹴ってやろうとしたとき、翠に優しく肩を抱かれた。
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「……そんな話、俺、聞いてない」
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とびきり甘く、幸せそうに笑いかけてくる翠。そんな風に笑いかけられたらもうなにも言えなくて。
翠のことが好きだという気持ちで胸がいっぱいになりながら、俺はこくんと頷いた。
了
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