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金曜日/僕達の秘密基地
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放課後。
僕と楽々浦さんは大通りを2人で歩いていた。
昨日、秘密基地のことを話すと、楽々浦さんは『ちょっと覗いてみたい』と言ってくれた。
もっとも、自習室という点ではなく、古い建物の中に入ってみたいという珍しいもの見たさの気持ちだったようだけど、そこはどうでもいい。
ついに彼女が僕の楽園に来てくれるんだ。
なんならずっといてくれたらいいのに。
いや、わざわざそんな閉じ込めるようなまねをする必要は無いかもしれない。
昨日は『僕と喋れなかったらつまらない』って言ってたし、水曜日には僕のこと『大好き』って言ってた。
わざわざ閉じ込めるまでもないかも。
それを今から確認する。
「…ねえ、楽々浦さん。昨日のことなんだけど」
「ん?」
実は、昨日の放課後、僕は楽々浦さんと話したくて、彼女を教室からつけていた。
だから昨日の件は、楽々浦さんが準備室に連れ込まれるところから見ていたし、話も一部始終聞いていた。
あの4人に腹は立つが、この際、昨日の件は最大限に利用させてもらおう。
「僕考えたんだけど、あの4人が言うことにも一理あったんじゃないかな?」
彼女は怪訝な顔をした。僕は続ける。
「だってさ、Y田君はサッカー部のエースで、身長も高くて顔もかっこいい。
僕だって、学年主席で、ハーフっぽい美少年。
そして、Y田君も僕も1番仲良くしてる女子は、君だ。
両方と仲良くしてたら、そりゃやっかまれるよ」
「…普通、自分で自分のこと美少年とか言うか?」
「事実だよ」
ゲンナリしたような目で言う彼女に僕はシレッと答える。
「でね、どちらか片方との交流を控えるっていうのは、君へのやっかみを減らすには良い方法だと思うんだよね」
「うん…」
楽々浦さんは真面目な顔でうなづく。
「ねえ、楽々浦さん。これからはY田君と話すの、控えた方が良いんじゃない?
昨日みたいなことがまたあったら嫌でしょ。
僕はこれでも君のこと心配してるんだよ?」
僕はニコリと微笑みかける。
『分かった』って言ってよ。
そしたら閉じ込めたりしないから。
火曜日に母親がまた浮気相手を家に連れ込んでたんだよ。
浮気相手の煙草の臭いが家の中に残ってて分かるんだよ。
お金はあるんだからホテル行けよ。
父親も仕事で遅くなるとか言ってたけど、外で女の人と会ってたに違いないんだよ。
浮気相手の香水の臭いがスーツから臭ってきて分かるんだよ。
両親のことはもうどうでも良い。
でも誰も僕のことを1番に気にかけてくれないのは耐えられないんだよ。
『分かった、Y田のことはこれから避ける』って言ってよ。
『釈氏とだけ仲良くする』って言ってよ。
「…嫌だよ」
「え」
「だって、別に悪いことをしてもされてもないのに、なんで仲の良い友達と距離取らなきゃなんないんだ。
男子と女子が仲良くしてるだけで、やいのやいの言う方がおかしいよ。
だいたい、そんなことしたらY田はきっと自分が何か悪いことしたのかもって思うよ。
Y田になんて説明すればいいんだよ」
「あぁ、そう」
そう、分かった。
僕はもう1度ニコリと微笑みかけた。
「本当にY田君と仲が良いんだね。じゃあ、他の方法を考えるよ」
うん、と楽々浦さんがうなづいたところで、目的地に着いた。
T商店街西通りに建つ、僕の曽祖父母が営んでいた園芸店。
今日もこのアーケードはさびれていて、今なんて、辺りに人1人すらいない。
「ここだよ」
「おー」
僕の秘密基地を見上げる彼女は楽しそうだ。
閉じ込めたら、彼女は変わってしまうだろうか。
僕に今までみたいに接してくれなくなるだろうか。
…そうなるだろうな。
この期に及んでも、まだ僕はどうしようか決めかねている。
でも。
赤茶色のサビが浮いた深緑色のシャッターに、鍵を差し込む。
―ギッ…ギッ…ギィ…ガッ…チャン
固い音を立てながら、ボロくて硬い鍵が開いた。
―ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!
金具が歪んでいるせいでスムーズに動かないシャッターを上げる。
今は、この硬い鍵が、スムーズに動かないシャッターが、頼もしい。
出入り口の開閉が困難なのが役立つこともあるんだな。
逃げられそうになっても、このシャッターが足止めしてくれる。
全ての窓も、鍵を針金で固定して開かないようにした。
窓のガラスを割れそうな物は全て隠した。
ロープも準備した。
僕の、いや、これからは僕達の秘密基地の入り口が開く。
終わり
僕と楽々浦さんは大通りを2人で歩いていた。
昨日、秘密基地のことを話すと、楽々浦さんは『ちょっと覗いてみたい』と言ってくれた。
もっとも、自習室という点ではなく、古い建物の中に入ってみたいという珍しいもの見たさの気持ちだったようだけど、そこはどうでもいい。
ついに彼女が僕の楽園に来てくれるんだ。
なんならずっといてくれたらいいのに。
いや、わざわざそんな閉じ込めるようなまねをする必要は無いかもしれない。
昨日は『僕と喋れなかったらつまらない』って言ってたし、水曜日には僕のこと『大好き』って言ってた。
わざわざ閉じ込めるまでもないかも。
それを今から確認する。
「…ねえ、楽々浦さん。昨日のことなんだけど」
「ん?」
実は、昨日の放課後、僕は楽々浦さんと話したくて、彼女を教室からつけていた。
だから昨日の件は、楽々浦さんが準備室に連れ込まれるところから見ていたし、話も一部始終聞いていた。
あの4人に腹は立つが、この際、昨日の件は最大限に利用させてもらおう。
「僕考えたんだけど、あの4人が言うことにも一理あったんじゃないかな?」
彼女は怪訝な顔をした。僕は続ける。
「だってさ、Y田君はサッカー部のエースで、身長も高くて顔もかっこいい。
僕だって、学年主席で、ハーフっぽい美少年。
そして、Y田君も僕も1番仲良くしてる女子は、君だ。
両方と仲良くしてたら、そりゃやっかまれるよ」
「…普通、自分で自分のこと美少年とか言うか?」
「事実だよ」
ゲンナリしたような目で言う彼女に僕はシレッと答える。
「でね、どちらか片方との交流を控えるっていうのは、君へのやっかみを減らすには良い方法だと思うんだよね」
「うん…」
楽々浦さんは真面目な顔でうなづく。
「ねえ、楽々浦さん。これからはY田君と話すの、控えた方が良いんじゃない?
昨日みたいなことがまたあったら嫌でしょ。
僕はこれでも君のこと心配してるんだよ?」
僕はニコリと微笑みかける。
『分かった』って言ってよ。
そしたら閉じ込めたりしないから。
火曜日に母親がまた浮気相手を家に連れ込んでたんだよ。
浮気相手の煙草の臭いが家の中に残ってて分かるんだよ。
お金はあるんだからホテル行けよ。
父親も仕事で遅くなるとか言ってたけど、外で女の人と会ってたに違いないんだよ。
浮気相手の香水の臭いがスーツから臭ってきて分かるんだよ。
両親のことはもうどうでも良い。
でも誰も僕のことを1番に気にかけてくれないのは耐えられないんだよ。
『分かった、Y田のことはこれから避ける』って言ってよ。
『釈氏とだけ仲良くする』って言ってよ。
「…嫌だよ」
「え」
「だって、別に悪いことをしてもされてもないのに、なんで仲の良い友達と距離取らなきゃなんないんだ。
男子と女子が仲良くしてるだけで、やいのやいの言う方がおかしいよ。
だいたい、そんなことしたらY田はきっと自分が何か悪いことしたのかもって思うよ。
Y田になんて説明すればいいんだよ」
「あぁ、そう」
そう、分かった。
僕はもう1度ニコリと微笑みかけた。
「本当にY田君と仲が良いんだね。じゃあ、他の方法を考えるよ」
うん、と楽々浦さんがうなづいたところで、目的地に着いた。
T商店街西通りに建つ、僕の曽祖父母が営んでいた園芸店。
今日もこのアーケードはさびれていて、今なんて、辺りに人1人すらいない。
「ここだよ」
「おー」
僕の秘密基地を見上げる彼女は楽しそうだ。
閉じ込めたら、彼女は変わってしまうだろうか。
僕に今までみたいに接してくれなくなるだろうか。
…そうなるだろうな。
この期に及んでも、まだ僕はどうしようか決めかねている。
でも。
赤茶色のサビが浮いた深緑色のシャッターに、鍵を差し込む。
―ギッ…ギッ…ギィ…ガッ…チャン
固い音を立てながら、ボロくて硬い鍵が開いた。
―ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!
金具が歪んでいるせいでスムーズに動かないシャッターを上げる。
今は、この硬い鍵が、スムーズに動かないシャッターが、頼もしい。
出入り口の開閉が困難なのが役立つこともあるんだな。
逃げられそうになっても、このシャッターが足止めしてくれる。
全ての窓も、鍵を針金で固定して開かないようにした。
窓のガラスを割れそうな物は全て隠した。
ロープも準備した。
僕の、いや、これからは僕達の秘密基地の入り口が開く。
終わり
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