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高2・春・男の子・前編
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…あの子に好きな男ができた。
A川という男子だ。
しかも、高校2年に学年が上がり、クラス替えが行われた結果、あの子とA川は同じクラスになり、僕は違うクラスになってしまった。
A川が今日の帰りにでも事故で死ねばいいのに。
うららかな春の日。
新しい1年のスタートにワクワクしているクラスメイト達の中、僕は1人絶望していた。
これからの1年に。
自分の人生に。
世界に。
深く絶望していた。
でも僕の心がどれだけ絶望していても世界は進む。
クラス初のホームルームが行われ、僕はいつの間にかクラスメイトによって1学期のクラス委員長にされていた。
真面目な生活態度も、時としてこんなデメリットを生むのだ。
ホームルームはどんどん進み、もう1人、女子のクラス委員長がB山さんに決まった。
B山さんは僕みたいな勉強だけの奴と違うタイプだ。
明るい性格で友達も多い。勉強だけじゃなくて運動もできる。たしか女子バスケ部のエース選手だったはず。
男子バスケ部で活躍しているA川と仲が良く―
「…!」
閃いた。
A川に誰か彼女ができれば、あの子がA川の彼女になってしまうなんて事態は起こらない。
B山さんは僕の救いの天使になってくれるかもしれない。
いや、なってもらう。
…そして、そのチャンスは予想以上に早く訪れた。
数日後の放課後。
僕とB山さんは先生に頼まれて、2人だけの教室でクラスメイトに配るプリントをホッチキスでとめていた。
無言で作業していた途中で、いきなりズバリと切り出す。
「ねえ、A川君とのデートってどこに行くの?」
「えっ?」
B山さんは驚いた顔をして手を止めた。
僕はキョトンとした表情を作ってB山さんを見て、続けた。
「いや、A川君とのデートってどういう所に行くのかなってちょっと気になって。2人は付き合ってるんだよね?」
B山さんの顔がカアッと赤くなった。
「いやいやいや!私、A川とデートした事なんか無いから!ってかそもそも、私あいつと付き合ってないから!」
手と首をブルブル振りながらA川との関係を全力で否定する。
僕はビックリした表情をした。
「えっ?A川君とB山さんは付き合ってるって聞いたんだけど、違うの?」
「違う違う違う!」
B山さんはさらに激しく首を振り、ポニーテールをバタバタ揺らしながら否定する。
でも、付き合っていると勘違いされてもまんざらでもなさそうだ。
よし。もう一押ししよう。
「へー…ウワサって当てにならないね」
「そうだよ!…何?変なウワサが流れてるの?」
よし、食いついてる。
僕は数秒無言で、記憶を探っているようなふりをした。
「そうだな…A川君は1年の頃からB山さんのことが好きだった、とか。
A川君の方から告白して2人は付き合うようになった、とか。
男子の間ではそんな風にウワサになってたんだけど、違ったんだね」
「違う違う!やだな、そんな話になってるの!?」
B山さんはオーバーに眉をしかめているけど、口は緩んでいる。
よし、とりあえずこんなものかな。
「B山さん、プリントあと少しで終わるから、あとは僕がやっとくよ。だからもう部活に行ってくれていいよ」
そして今の気分のままでA川と接触してきて。
お願いだから。
「え、でも…」
「大丈夫。僕は帰宅部だから」
「そう?」
うん、と僕がうなづくと、B山さんは教科書類が入ったカバンとスポーツバックを持って教室から出て行った。
…我ながらなかなかの演技力だったと思う。上手く行けばいいけど。
まあ、1学期の間はB山さんと話すことはちょくちょくあるだろうから、これからもB山さんがその気になるように仕向けていこう。
僕は残り少ないプリントに取り掛かった。
そして桜の花が散って葉の緑が鮮やかになったころ。
A川とB山さんは付き合い始めた。
結局、僕が色々吹き込んだのはあの1回だけになったけど、あれで充分だったようだ。
もしかしたら、僕が何もしなくてもあの2人はそのうち付き合っていたのかもしれない。
でも交際が始まるのを早めることはできたと思う。
良かった。
木の葉の鮮やかな緑色が眩しい。
見上げた空はどこまでも晴れ渡って明るい。
今の僕の気持ちをそのまま映しているようだ。
A川とB山さんの仲が上手く行って本当に良かった。
せっかく幼馴染の彼女と同じ学校に進学できたのに、彼女が他の男と付き合ったりしたら、と考えると体が冷える。
好きな相手が自分以外と恋人になったりしたら、常に体のどこかに針が刺さっているかのようなチクチクした気分か、もしくは、服のどこかに汚い大きなホコリが付いているかのようなモヤモヤした気分になるだろう。
それを阻止できたのだから、今、僕の世界は明るく、僕の世界は眩しく、僕の世界は暖かく、僕の世界は…
……
ハタと気づいた。
彼女は?
彼女の世界は?
彼女は今どんな気持ちだろう?
彼女は今、失恋したところだ。
今まさしく、チクチク、モヤモヤした気分を彼女は味わっているんじゃないか?
いや、A川なんて彼女にはふさわしくないから、失恋して正しいのだけど。
でも、彼女の失恋が正しいのと、彼女が失恋して悲しんでいる事は、別の問題じゃないか?
彼女が失恋して悲しんでいることは正しいことか?
彼女が悲しんでいることは良い事か?彼女の悲しみを放っておいて良いのか?
僕がなるべくいつでも彼女の傍にいたいのは、彼女に何かあった時、彼女を守る為じゃないのか?
その為に10年以上彼女についてきたんじゃないのか?
…いつもの放課後は、ただ彼女を後ろから見守っているだけだけど。
今日は彼女に話しかけよう。
A川という男子だ。
しかも、高校2年に学年が上がり、クラス替えが行われた結果、あの子とA川は同じクラスになり、僕は違うクラスになってしまった。
A川が今日の帰りにでも事故で死ねばいいのに。
うららかな春の日。
新しい1年のスタートにワクワクしているクラスメイト達の中、僕は1人絶望していた。
これからの1年に。
自分の人生に。
世界に。
深く絶望していた。
でも僕の心がどれだけ絶望していても世界は進む。
クラス初のホームルームが行われ、僕はいつの間にかクラスメイトによって1学期のクラス委員長にされていた。
真面目な生活態度も、時としてこんなデメリットを生むのだ。
ホームルームはどんどん進み、もう1人、女子のクラス委員長がB山さんに決まった。
B山さんは僕みたいな勉強だけの奴と違うタイプだ。
明るい性格で友達も多い。勉強だけじゃなくて運動もできる。たしか女子バスケ部のエース選手だったはず。
男子バスケ部で活躍しているA川と仲が良く―
「…!」
閃いた。
A川に誰か彼女ができれば、あの子がA川の彼女になってしまうなんて事態は起こらない。
B山さんは僕の救いの天使になってくれるかもしれない。
いや、なってもらう。
…そして、そのチャンスは予想以上に早く訪れた。
数日後の放課後。
僕とB山さんは先生に頼まれて、2人だけの教室でクラスメイトに配るプリントをホッチキスでとめていた。
無言で作業していた途中で、いきなりズバリと切り出す。
「ねえ、A川君とのデートってどこに行くの?」
「えっ?」
B山さんは驚いた顔をして手を止めた。
僕はキョトンとした表情を作ってB山さんを見て、続けた。
「いや、A川君とのデートってどういう所に行くのかなってちょっと気になって。2人は付き合ってるんだよね?」
B山さんの顔がカアッと赤くなった。
「いやいやいや!私、A川とデートした事なんか無いから!ってかそもそも、私あいつと付き合ってないから!」
手と首をブルブル振りながらA川との関係を全力で否定する。
僕はビックリした表情をした。
「えっ?A川君とB山さんは付き合ってるって聞いたんだけど、違うの?」
「違う違う違う!」
B山さんはさらに激しく首を振り、ポニーテールをバタバタ揺らしながら否定する。
でも、付き合っていると勘違いされてもまんざらでもなさそうだ。
よし。もう一押ししよう。
「へー…ウワサって当てにならないね」
「そうだよ!…何?変なウワサが流れてるの?」
よし、食いついてる。
僕は数秒無言で、記憶を探っているようなふりをした。
「そうだな…A川君は1年の頃からB山さんのことが好きだった、とか。
A川君の方から告白して2人は付き合うようになった、とか。
男子の間ではそんな風にウワサになってたんだけど、違ったんだね」
「違う違う!やだな、そんな話になってるの!?」
B山さんはオーバーに眉をしかめているけど、口は緩んでいる。
よし、とりあえずこんなものかな。
「B山さん、プリントあと少しで終わるから、あとは僕がやっとくよ。だからもう部活に行ってくれていいよ」
そして今の気分のままでA川と接触してきて。
お願いだから。
「え、でも…」
「大丈夫。僕は帰宅部だから」
「そう?」
うん、と僕がうなづくと、B山さんは教科書類が入ったカバンとスポーツバックを持って教室から出て行った。
…我ながらなかなかの演技力だったと思う。上手く行けばいいけど。
まあ、1学期の間はB山さんと話すことはちょくちょくあるだろうから、これからもB山さんがその気になるように仕向けていこう。
僕は残り少ないプリントに取り掛かった。
そして桜の花が散って葉の緑が鮮やかになったころ。
A川とB山さんは付き合い始めた。
結局、僕が色々吹き込んだのはあの1回だけになったけど、あれで充分だったようだ。
もしかしたら、僕が何もしなくてもあの2人はそのうち付き合っていたのかもしれない。
でも交際が始まるのを早めることはできたと思う。
良かった。
木の葉の鮮やかな緑色が眩しい。
見上げた空はどこまでも晴れ渡って明るい。
今の僕の気持ちをそのまま映しているようだ。
A川とB山さんの仲が上手く行って本当に良かった。
せっかく幼馴染の彼女と同じ学校に進学できたのに、彼女が他の男と付き合ったりしたら、と考えると体が冷える。
好きな相手が自分以外と恋人になったりしたら、常に体のどこかに針が刺さっているかのようなチクチクした気分か、もしくは、服のどこかに汚い大きなホコリが付いているかのようなモヤモヤした気分になるだろう。
それを阻止できたのだから、今、僕の世界は明るく、僕の世界は眩しく、僕の世界は暖かく、僕の世界は…
……
ハタと気づいた。
彼女は?
彼女の世界は?
彼女は今どんな気持ちだろう?
彼女は今、失恋したところだ。
今まさしく、チクチク、モヤモヤした気分を彼女は味わっているんじゃないか?
いや、A川なんて彼女にはふさわしくないから、失恋して正しいのだけど。
でも、彼女の失恋が正しいのと、彼女が失恋して悲しんでいる事は、別の問題じゃないか?
彼女が失恋して悲しんでいることは正しいことか?
彼女が悲しんでいることは良い事か?彼女の悲しみを放っておいて良いのか?
僕がなるべくいつでも彼女の傍にいたいのは、彼女に何かあった時、彼女を守る為じゃないのか?
その為に10年以上彼女についてきたんじゃないのか?
…いつもの放課後は、ただ彼女を後ろから見守っているだけだけど。
今日は彼女に話しかけよう。
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