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4・新しい術
塔での生活が始まって数日目の朝。
元々あった窓から差し込む朝日で目が覚めた。
作り直した新しいシーツのベットから起き上がり部屋の真ん中の床に手をつく。
そして塔全体に私の魔力を流し込む。
これで塔の壁の何ヶ所にも書いた魔法陣が反応して、石が移動し、塔全体の光取りの窓が開く仕組みだ。
身支度して、上下移動する石板に乗って1階に降りるとレザールがもう朝食の用意に取りかかっていた。
「おはよう」
「はよー」
彼が買ってきてくれたソーセージや、私が昨日作った野菜スープとパンを温め直してくれている。
こうしていると教会にいた頃を思い出す。
初めはレザールのことを怖がっていた他の子供達も、毎日みんなの食事を煮炊きして、寒い季節は暖めてくれるレザールに、だんだん歩み寄ってくれたっけ。
朝ご飯を食べたら、片付けやお洗濯を済ませ、その後は各々自由時間。
「ロシェ、今日は何して過ごすんだ?」
今日やることはもう決めてある。
「新しい術を考えるわ」
「えー…」
レザールが呆れ半分、がっかり半分の声を上げる。
「せっかく半月好きなことできるんだから、もっと楽しい事しろよ。俺と遊ぶとか、せめて持ってきた本を読むとか…」
あら、もしかしてレザールは私と遊びたかったのかしら。
だったら
「じゃあ、午後はそうするわ。でも午前は新しい術のことを考えさせて。
前から、そろそろ新しい術を取得したいと思ってたの」
魔力を持つものは、簡単な術なら、少し修行すれば使えるようになる。
でも、もっと修行すれば、より高度で強力な術を使えるようになるし、しっかりしたイメージを集中して思い浮かべることで、新しい術を作りだすこともできる。
私だって初めは防壁に地母神様の力を注ぐことしかできなかったけど、修行とイメージトレーニングによって、魔石への魔力注入や、頑丈な金庫製作ができるようになった。
ここしばらくは、防壁の仕事に加えて、ヴィペール王子が持ってくる魔石や金庫の仕事をこなすのに忙しくって、新しい術を考える時間が無かった。
せっかく時間ができたのだから、新たな術を取得したい。
「仕方ねぇなぁ…じゃあ俺も新しい術考えるよ。でも、午後は遊ぼうぜ」
「ええ」
レザールは、椅子の上で胡坐をかいて考えだした。
私も椅子に座って、机に紙とペンを用意して、術のことを考える。
コンセプト自体はすでに考えてある。
灯りになる石だ。
すでに魔力による灯りは開発されているけれど、庶民には高価なものだ。
より安く、より少ない魔力で、より明るくできる道具を石で作れないかしら。
そんな道具があれば、この塔での生活で、日が沈んでからの時間帯、レザールに面倒かけずに済んだ。
そう、灯りになる石があれば良いと思いついたのは、この塔で日没後レザールに面倒をかけすぎているからだ。
一応、ろうそくは彼が買ってきてくれているけれど、やっぱりレザールの炎の方が明るく使い勝手も良い。
レザール本人も私を気遣って、私に灯りが必要な時は、お願いする前に炎を出して暗がりを照らしてくれる。
いくら彼が炎魔法を得意としていても、さすがに大変だろう。
そんなことを考えていると
「なあロシェー、何か思いついたかー?」
考えが煮詰まったのか、それとも飽きたのか、レザールが声をかけてきた。
私は彼の質問に素直に答える。
「少しの魔力で明るくできる、灯りの石を考えてるよ」
私の答えを聞いて、レザールはムッと眉をひそめて、黒目だけの瞳で私をジロリと見つめた。
「なんでだよ。灯りなら俺がいるだろ」
「うん、でも、毎日何度も私の為に炎出すの面倒でしょ?だから―」
「面倒じゃない」
レザールは椅子から立ち上がり、大股で歩いて私に近付いた。
「ロシェの為に炎を出すのは面倒なんかじゃない。俺がお前の為にできる数少ない事だ。面倒臭いなんて思ってない」
怒ってるような、それでいて必死さも感じる口調で彼は言う。
面倒じゃないんだ…、なら、良いのかな…。
なら、遠慮なく
「じゃあ…他の人の為に灯りになる石は作るけど、もしそれが完成しても、レザールが私の灯りになってくれる?」
「!あ、あぁ、それなら良い」
険しかったレザールの表情が明るくなった。
…いくら幼馴染でも、私は彼に甘えすぎかもしれない。
でも、城での生活の中で唯一、心から安心できる相手だから、つい甘えてしまう。
聖女の仕事は大変だし、たまに殴ってくる王子と結婚しなくちゃいけないことになってるし。
…あ、でも王子との婚約は、幽閉の時に破棄されたんだっけ。
だったら―
私は目の目にいるレザールを見つめた。
「?…なんだよ?」
「あ、ううん、なんでも」
だったら―何よ?
何か変なことを考えかけた。
「そうだ、レザールは新しい術、何か思いついたの?」
おかしな考えを頭から追い出すために話題を変える。
「あー…俺は…」
彼は少し間を置いてから
「新しい術はまた今度で良いから、今持ってる術を磨いた方が良いと思ってる。そっちを頑張るよ」
なんだかバツが悪そうだ。何か隠し事してるみたいな。
まあ、レザールはレザールで色々考えていることがあるんだろう。
その後、「1人で集中して考えたい」と、彼は踊り場の自室に戻り、私は1人で、1階のテーブルで灯りの石の作り方を考え続けた。
元々あった窓から差し込む朝日で目が覚めた。
作り直した新しいシーツのベットから起き上がり部屋の真ん中の床に手をつく。
そして塔全体に私の魔力を流し込む。
これで塔の壁の何ヶ所にも書いた魔法陣が反応して、石が移動し、塔全体の光取りの窓が開く仕組みだ。
身支度して、上下移動する石板に乗って1階に降りるとレザールがもう朝食の用意に取りかかっていた。
「おはよう」
「はよー」
彼が買ってきてくれたソーセージや、私が昨日作った野菜スープとパンを温め直してくれている。
こうしていると教会にいた頃を思い出す。
初めはレザールのことを怖がっていた他の子供達も、毎日みんなの食事を煮炊きして、寒い季節は暖めてくれるレザールに、だんだん歩み寄ってくれたっけ。
朝ご飯を食べたら、片付けやお洗濯を済ませ、その後は各々自由時間。
「ロシェ、今日は何して過ごすんだ?」
今日やることはもう決めてある。
「新しい術を考えるわ」
「えー…」
レザールが呆れ半分、がっかり半分の声を上げる。
「せっかく半月好きなことできるんだから、もっと楽しい事しろよ。俺と遊ぶとか、せめて持ってきた本を読むとか…」
あら、もしかしてレザールは私と遊びたかったのかしら。
だったら
「じゃあ、午後はそうするわ。でも午前は新しい術のことを考えさせて。
前から、そろそろ新しい術を取得したいと思ってたの」
魔力を持つものは、簡単な術なら、少し修行すれば使えるようになる。
でも、もっと修行すれば、より高度で強力な術を使えるようになるし、しっかりしたイメージを集中して思い浮かべることで、新しい術を作りだすこともできる。
私だって初めは防壁に地母神様の力を注ぐことしかできなかったけど、修行とイメージトレーニングによって、魔石への魔力注入や、頑丈な金庫製作ができるようになった。
ここしばらくは、防壁の仕事に加えて、ヴィペール王子が持ってくる魔石や金庫の仕事をこなすのに忙しくって、新しい術を考える時間が無かった。
せっかく時間ができたのだから、新たな術を取得したい。
「仕方ねぇなぁ…じゃあ俺も新しい術考えるよ。でも、午後は遊ぼうぜ」
「ええ」
レザールは、椅子の上で胡坐をかいて考えだした。
私も椅子に座って、机に紙とペンを用意して、術のことを考える。
コンセプト自体はすでに考えてある。
灯りになる石だ。
すでに魔力による灯りは開発されているけれど、庶民には高価なものだ。
より安く、より少ない魔力で、より明るくできる道具を石で作れないかしら。
そんな道具があれば、この塔での生活で、日が沈んでからの時間帯、レザールに面倒かけずに済んだ。
そう、灯りになる石があれば良いと思いついたのは、この塔で日没後レザールに面倒をかけすぎているからだ。
一応、ろうそくは彼が買ってきてくれているけれど、やっぱりレザールの炎の方が明るく使い勝手も良い。
レザール本人も私を気遣って、私に灯りが必要な時は、お願いする前に炎を出して暗がりを照らしてくれる。
いくら彼が炎魔法を得意としていても、さすがに大変だろう。
そんなことを考えていると
「なあロシェー、何か思いついたかー?」
考えが煮詰まったのか、それとも飽きたのか、レザールが声をかけてきた。
私は彼の質問に素直に答える。
「少しの魔力で明るくできる、灯りの石を考えてるよ」
私の答えを聞いて、レザールはムッと眉をひそめて、黒目だけの瞳で私をジロリと見つめた。
「なんでだよ。灯りなら俺がいるだろ」
「うん、でも、毎日何度も私の為に炎出すの面倒でしょ?だから―」
「面倒じゃない」
レザールは椅子から立ち上がり、大股で歩いて私に近付いた。
「ロシェの為に炎を出すのは面倒なんかじゃない。俺がお前の為にできる数少ない事だ。面倒臭いなんて思ってない」
怒ってるような、それでいて必死さも感じる口調で彼は言う。
面倒じゃないんだ…、なら、良いのかな…。
なら、遠慮なく
「じゃあ…他の人の為に灯りになる石は作るけど、もしそれが完成しても、レザールが私の灯りになってくれる?」
「!あ、あぁ、それなら良い」
険しかったレザールの表情が明るくなった。
…いくら幼馴染でも、私は彼に甘えすぎかもしれない。
でも、城での生活の中で唯一、心から安心できる相手だから、つい甘えてしまう。
聖女の仕事は大変だし、たまに殴ってくる王子と結婚しなくちゃいけないことになってるし。
…あ、でも王子との婚約は、幽閉の時に破棄されたんだっけ。
だったら―
私は目の目にいるレザールを見つめた。
「?…なんだよ?」
「あ、ううん、なんでも」
だったら―何よ?
何か変なことを考えかけた。
「そうだ、レザールは新しい術、何か思いついたの?」
おかしな考えを頭から追い出すために話題を変える。
「あー…俺は…」
彼は少し間を置いてから
「新しい術はまた今度で良いから、今持ってる術を磨いた方が良いと思ってる。そっちを頑張るよ」
なんだかバツが悪そうだ。何か隠し事してるみたいな。
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