神色の魔法使い

門永直樹

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孤児院の子供達 9

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翌朝、ねぼすけエルフを無理矢理起こして旅の準備を整え、孤児院のホールに出ていくと、シスターと子供達が並んでクレイグ達を出迎えてくれていた。


「シスター。それからみんな。世話になったね。本当にありがとう」

「もう行っちゃうんだね……。正直、とっても寂しいよ……」

「私とクレイグは冒険者だからなー。あちこち旅をするのは仕事みたいなもんさ」


ユリにそう言われてもバートとエマ、子供達の表情は曇っていた。

クレイグはバートとエマの頭の上にくしゃっと掌を乗せると言った。


「バート、エマ。これからはね、君達の時代だ。戦争でお父さんお母さんはいなくなったかもしれないが、この孤児院のみんなが家族だよ。みんなで助け合って行けば、きっと輝くような素敵な未来がやってくるよ」

「クレイグさん……うぇぇっ……!」


泣き出す子供達がクレイグとユリの元に集まってくる。
クレイグもユリも膝を付いて、震える小さな肩を順々に軽く抱き締めていく。


「さようなら……クレイグさん……」

「ユリさん……ありがとう……さようなら」

「クレイグさん、ユリちゃんさよなら……」

ユリは子供達を両脇に抱えると、スリスリと頭を寄せながら言った。


「旅の途中、近くに寄る事があれば必ずこの孤児院にも顔を出そう。その時は昨日のイノシシよりももっと美味しい……熊でも取りに行こう。なぁバート!」

「くく、く……熊は怖すぎるよユリさん……」


バートが慌てる様子にみんなが一斉に笑った。

窓から差し込んだ朝の陽の光に、子供達の頬に流れた涙と笑顔が輝いた。


「シスター、ありがとうございました」


クレイグが立ち上がりながらシスターに向き直って言った。


「クレイグさん、ユリさん。こちらこそありがとうございました。薬草、みんなで大切に育てますね」


クレイグは返事の代わりにニコリと笑うと、孤児院の外に出ていく。
孤児院の外には村長と村人が集まっていた。


「クレイグさん、もう旅立たれるんですか。本当にありがとうございました。何もお構いできなくて申し訳ありませんでした。うちの妻が焼いたパンです、良かったら持って行って下さい」

「こいつぁ、うちで作った干し肉だが持って行ってくれよ」

「遠慮なく頂きます。うちの食いしん坊も喜びます」


ユリの方をクレイグと村長がチラと見ると、真っ赤な顔をしたバートの頭を脇に抱えて、拳でグリグリしながらニシシと笑っている。


「ユリ、そろそろ行こうか。では皆さんお元気で」

「じゃあな!バート!エマ!みんなも元気で達者に暮らせよ!」


クレイグは深く頭を下げ、ユリは両手を大きく振りながら村の外へと歩いていく。


「クレイグさん!ユリさん!必ずまた会いに来てくれよ!」

「元気でね!ユリさん!クレイグさん!」

「イノシシありがとうな!元気でな!」


村人に手を振りながら村を離れていく。
子供達とシスターはクレイグ達が遠く小さく見えなくなるまでずっと手を振っていた。


少年少女から大人へと変わるこの時期、出会う大人の影響は少なからず大きい。


戦争が終わったばかりのこの時代、良い大人というものに出会う事の方が少ないというのに、クレイグとユリのような冒険者に出会えたのは、子供達にとってとても大きかったとシスターは思う。


「さぁ、みんなで二人の旅の無事を祈りましょう。それからまた薬草を取りに行きましょうか」

「はい。シスター」


青く輝く空に向かい、子供達とシスターは胸の前で手を組んで二人の旅の安全を祈った。

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