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しおりを挟むとにかく今日は体調が優れないので、真っ直ぐ家に帰ることにする。保健室の先生には医療機関への受診を勧められた。図書室も出禁になり、耀士がいては勉強に集中できない。もはや高校に留まる理由がない。
身支度を整えようとしたら、耀士も一緒に帰ると言って聞かない。
二葉が申し訳ないからと断ったが、耀士は耀士で部活禁止だから家に帰って自主練しようと思っていたと食い下がられ、保健室の先生にも「送ってもらいなさい」と言われ、断るに断れず渋々承諾した。
クラスに私物は一切置いていないので、保健室から真っ直ぐ昇降口へ向かう。
放課後の校舎の人影はまばらだ。グラウンドや体育館で部活に励む生徒ばかりだからだ。ちなみに来週から始まるテスト勉強週間で部活動ができなくなると、もっと校舎はまばらになる。みんな遊びに行くからだ。
駅までの道のりは二葉の足で十分くらい。背の低い住宅や店が点々と続く。歩道は二人で歩いても余裕があるほどに広く、空がよく見える。駅までは平坦な一本道だ。
誰かとこの道を歩くのは初めてで戸惑う。話を切り出すのは耀士だ。滑らかな話題の切り出しかたは、人と話し慣れている人のそれで、自分との差に距離を感じる。
「二葉くんって、部活動はやってないの?」
「やってない。受験勉強に集中したいし」
「仲間はいないの? 一人だと寂しくない?」
「全然寂しくないし仲間なんかいないよ。いるわけないじゃん。一高だよ?」
「耳が痛いな……」
耀士は困ったように笑う。
一緒に歩きながら視線や仕草で二葉の体調を気遣ってくれているのが分かる。そこまで弱くないとむっとするが、目の前で倒れた前科があるのでなにも言えない。
「じゃあ塾には友だちがいるのか?」
通ってるんだよな? と探るように言われた。
塾。二葉はマスクの中でため息を吐いた。
「通ってない。行きたいけど親に止められてる。体弱いから。高校に慣れて体の調子が安定しないと駄目だって」
健康だったら今頃こんな高校でこんな悩みなんて抱えていなかったのかもしれないと思うとまたため息が零れそうだ。
「……塾に行けば、仲間がいたりするのかな」
友だちとはいかないまでも、同じ志を持つ人はたくさんいるに違いない。しかし受験は結局個人戦だ。同志だからこそのギスギスがあるかもしれない。そういうのが面倒だし、対人関係で大痛手を負って心身を消耗したくない。結局一人が一番いい。
何気なく言った言葉だったのに、耀士は安心したように笑った。
「なんだ、やっぱり寂しいんだ」
そう言われて驚いたのは二葉だ。
耳まで顔が熱くなる。
「寂しくないって」
そっぽを向いてぶっきらぼうに言い放つと、耀士が笑った気配がした。
「塾行くために体を強くするなら運動が一番だよ! キャッチボールやってみないか?」
野球の話になると会話の熱量が二倍くらいになる。これ以上会話を続けると本当にキャッチボールをさせられてしまいそうだ。「考えておくね」と適当にごまかした。
電車の中も人はまばらで、座席はがら空きだった。二葉が座ると耀士は当然のように二葉の隣に座ってくる。
二葉のような知り合いにも届かない関係の人間との距離感がこれほどとは驚きだ。
でも、だからこそ、倒れた二葉を保健室まで連れて行ってくれたのかもしれない。そう言えばお礼を言っていない。
「あのさ、倒れた時、助けてくれてありがと。あと、板書も……」
「あれくらいなんてことない。そもそも二葉くんが倒れたのって俺のせいだしさ」
耀士は笑顔を曇らせ、申し訳無さそうに眉を顰める。
「徠斗に言われた。しつこいって。全く自覚がなかったんだ。本当にごめん」
来栖に二葉の分のノートを取ってほしいとお願いした時に言われたらしい。ということは、これは来栖が取ったノートなのか。
理路整然と書かれた文字列は無機的で読みやすい。来栖はこんな字を書くのか。
それに耀士の口から来栖の名前が出てくるとは思わなかった。あの来栖が頼みを聞いてくれる関係とは驚きだ。
「来栖くんと知り合い、なの?」
「中学一緒なんだ。あいつ、バスケ部のPGでさ。すげえ頑張ってるよ。部活帰りとかたまに話す。意外か?」
「いや……想像が……できないし……二人とも全然違うタイプだし……」
「そうか? わりと話が合うんだ。俺、二葉くんとも絶対仲良くなれると思う」
首を傾げて適当にごまかした。
仲良くはなれないと思う。期末考査が終わったらこの関係も終わりだ。そのうち不気味な人だ、不快だと、耀士は離れていくだろう。
コミュニケーション能力が欠如している自覚はあるし、諦めている。
耀士が二葉と話す時、息を吸うようにやっていることの大半が二葉には難しい。
「そういえば、耀士くんの家はどこなの?」
気づけば駅を降りて、二葉の家まで五十メートルもない。かなりローカルな場所になったが、耀士が帰る素振りはない。案外ご近所さんなのだろうかと思って恐る恐る尋ねたら、あっけらかんとした答えが返ってくる。
「俺、徒歩通学だから! 家は学校から走って十分くらいのところにある」
「え?」と二葉がこぼすと、「え?」と耀士も首を傾げている。
「もう家に着いたのか?」
「え、うん、ここだけど……」
玄関前で立ち止まって指を差す。耀士が「佐藤」の表札を見て納得したように笑った。
「そっか! 無事に帰れて良かったな! じゃあ俺も帰るよ」
また明日、と何事もなく去ろうとする耀士を「待ってよ!」とつい引き止めてしまった。
「な、なんでここまでついてきたの? そんなに家近いなら別に、途中まででよかったのに」
言ってくれてもいいのに、と焦燥感と後悔でいっぱいな二葉とは裏腹に、耀士は涼しい顔をしている。
「え? いやだって、心配だし。俺と別れた後にまた倒れたら大変だろ?」
「平気だよ! というか僕たち、別に、そこまでの仲じゃないよね?」
これほど心配されるような筋合いはどこにも見つからなくて困惑する。困惑しているのは耀士も一緒で、頭に疑問符が浮かんでいる。
「なんで? 友だちだろ?」
「は?」
「テスト終わったらキャッチボールする約束しただろ? 友だちだ!」
「してない!」
照れ隠しと捉えられたのか、必死な二葉と比べて耀士は軽く笑うだけだ。
うかうかしていると耀士が駆け出す。
「じゃあな、また明日学校で!」
ものすごい速さで遠のいていく耀士を、二葉は呆然と見送った。
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